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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
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地獄の一日目

「テクニカルな面ばかりに、とらわれてますね」


 セミナーの個人レッスンで、石田先生から、最初にかけられた言葉だ。

ジョリベの曲の最後まで演奏した俺は、少し緊張した。頑張りすぎたかもしれない。


 もう一度、最初から演奏。ピアノが最初に入って、トランペットのソロの部分でとめられた。

ここは、導入部でもあるし、確かに工夫がたりなかったかも。


「このソロの部分、もっと音色・音色を細かくもかえて、雰囲気を変えなければいけない。

”言葉にならない思いを、トランペットで一人語りしてる”つもりで。さっきのでは、ちょっと平板すぎるな。もっと神経を使って」


 で、俺はこの後、そこだけ、何度も練習させられた。


 後、最後、テンポアップして盛り上がっる終盤は、”もっと軽い音で”の注意。

苦手にしていたPPでのトリプルタンギングは、”音を揃えて”と。トリプルタンギングは、同じ音でPPで、ぶっ続け練習。”均一でかつ小さな音でトリプルタンギング”は、さすがに、疲れた。45分、+延長5分。気になった箇所をピックアップ。できるまで基礎練をいれながら、先生が納得するまで、練習。さすがに疲れた。


 ありがとうございました。と、礼をしてチラっと石田先生を見ると、平然としてる。

手本の音を演奏してくれたのだから、先生もお疲れかと思ったんだけどな。


 先生は、セミナー生のファイルをチェックしながら

「新藤君、さすがにパワーあるね。そこでなんだけど、3日目の午後からの公開レッスンに出て下さい。曲は、テレマンのトランペット協奏曲、時間は30分くらいかな。って事でよろしく」


 はぁ?確かスケジュール表では、3日目の午前中に個人レッスンが終了。午後は、楽器なしで、講師とセミナー生の間で、ディスカッション ってなっていたはず。それに、テレマンって、セミナーの案内や注意事項に、一文字ものってなかった。確かにコンクールの2次の課題曲ではあるけど。


 頭をかしげつつ、午後4時からの、冴木君の個人レッスンを見学すべく、もう一度、部屋に入る。冴木君は、今、ウォームアップの最中。具合よくなったのかな。顔色は少しだけ回復してるけど、


 石田先生は、ジョリベの曲、担当。冴木君も、一回通の演奏した。

ふm、なんというか、ミュートの中間部のテンポの遅い処が、独創的というか、”歌いすぎだろう”って感じだ。その後のテンポアップの所が、弱い。曲の意図が出てないような気がする。俺も偉そうに批判だけは、出来るんだよな。

俺が苦労したトリプルタンギングは、冴木君は俺よりダメダメだった。


 演奏が終わると、やっぱり体調は戻ってないらしく、ヘナっとなってる。顔も真っ青だ。

石田先生は、腕組みをして考えてる。これ以上、彼に演奏させたら、マジぶったおれるんじゃないかな。でも、先生は鬼だった・・・


「冴木君、体調管理も奏者として大事な事だ。ひどく緊張してるようだけど、少しは落ち着いたろう。この精神的にも体力的にもハードなこの曲を、最後まで演奏できたんだ。今、最後まで演奏出来た事で、進歩してる。さて、立って演奏出来るね」


 先生の言葉は、魔法の言葉。この一言で、ヘナヘナとしてた冴木君が、ヘタっとしながらも笑顔で立ちあがり、演奏準備に入った。そして、石田先生は、冴木君のレッスンに入った。ダブルタンギングは、基礎が出来るまで徹底して練習。最後のテンポアップする前で、時間がきた。


「腹が減ってはなんとやらだ。今日は、もう帰って休みなさい。」

冴木君が、先生にコソっと声をかけられてる。

部屋を出て行くとき、彼の後ろ姿を見かけたが、フラフラしてるし、時々、休んでしゃがみこんでる。レッスンは、やっぱりキツかったのかも。

俺は、後、二つ個人レッスンを見学するつもりだった。ただ、冴木君、ほうっておいたら、旅館にたどり着くまえに、ぶっ倒れそうだ。同室のよしみ、俺は送っていくことにした。




「冴木君、体調、大丈夫かい?旅館までは、歩いて15分だけど、一緒に帰ろう」

彼は、歩いてもフラついている。(かといって、”つきそい”は、断られそうだが)


「もう、帰るのですか?そっか。新藤先輩、結構、出来たんですね。僕はこの後、見学にはいります。帰れって言われたけど、旅館でも落ち着かないし。聞いてるだけなら、楽だし」


 いや、そんな青い顔で言われても、余計心配じゃないか。”あの時、俺が送っていったら”と後悔したくない。おせっかいかもしれないけれど、冴木君を部屋で休ませよう。


「講師の先生の指示は、守るべきだ。明日まで疲れを残さない。だろ?俺のレッスン、休んでて見る事できなかったろ?録音してあるし、注意点された事も教えるから。あまり出来がよくないけど」

まあ、冴木君に説明しながら、今日のレッスンの反省点とよく演奏できた所をふりかえるのも、

貴重な勉強になるか。二人で、俺のレッスンを振り返り楽譜を見直すのもいい。思えば、俺も、結構、ぶっ続けで何度も同じフレーズの練習で、結構、きつかったな。


「今日は冴木君、体調が悪くて、残念だったね。個人レッスンは、後、2回あるし頑張るべ」

そう、彼のジョリベの演奏は、残念な演奏だった。体調悪い事を差し引いても、まだ、読み込み不足のようだ。


「僕、もうダメダメなんです。食欲もないし不眠気味。だから彼女にふられたんです。師匠に”北の大自然のなかで、勉強をかねて静養してこい”と言われ、今回、参加しましたけど、やっぱりダメでした。」

そう言って冴木君は、ダンゴ虫のように、体を丸めて黙ってしまった。


 これは、冴木は、音楽の事でウツになってる?それとも彼女にふられたからか?



 




 

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