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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
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夏のセミナー始まる

 俺は北海道のH町のトランペット・セミナーへ参加するべく、東京から飛行機で直行した。

このセミナーは定員が25人。2泊3日の中で、1時間の個人授業を3回うける事ができる。そのほか、ウォームアップの研究や講座など、盛りだくさんの内容だ。


 宿泊費・受講料込みで5万円は、安いほうだと思うが、正直、俺には厳しい金額だった。(割のいいバイトで稼いで貯金したけど、両親からも少し、援助してもらった。)

ちなみに、セミナー終了後、知床観光ツァーがオプションで用意されてる

もちろん、このオプションには俺は参加しないけど。余計なお金も時間も使いたくない。


 空港で、H町行のバスに乗る。はぁ~。ここからだと30分ってとこか。春には、芝桜TV中継がでるほど賑わうけれど、今は静かな田舎町だ。バスには、セミナー参加者らしき学生が数人、乗っている。

 

 セミナーは明日から。宿泊先のH町の地元の小さな旅館に直行。部屋は相部屋。

H町と聞いた時から、宿泊施設は、だいたい予想はできた。小さな町だし。

部屋は、3人で一部屋。同室となるのは、芸大2年の福井大輔、K音大4年の冴木 涼。二人とも日コンにエントリーしてる。


 夕食は、参加者全員が、食堂で一緒とった。そこでわかったのだけど、参加者で北海道出身は俺だけ。最初は静かだった夕食会も、だんだん打ち解けて、話しがはずんできた。音楽の事、楽器の事、大学の事、話題も尽きなかった。日コンエントリー者は、13人。そのせいか、会食の間は、緊張感は、あまりなかった。


 セミナーは明日からなので、前泊ということになる。予定表では、最終日に交流会があるので、それに参加するなら後泊。別途に宿泊料金を払わないといけない。9時に始まって、セミナーの終わるのは午後5時、このH町に来るには、前泊は必須だ。


 それでもこの時は、セミナーが、ハードなものになるとは、思いもよらなかったけど。


 このセミナーへの参加は、森岡先生が勧めたから。

 ”カイト君、君、実家は札幌だったよね。じゃあ電車で行けるH町のセミナーに参加するのは、どうだい?参加資格者は、音大生・院生、または卒業生で30歳未満対象だから、セミナーのレベルも高いと思うよ。人気のセミナーだから、早い者勝ち。”


”先生、H町へは、札幌から車で5時間。JRでも6時間はかかります。しかも、特急止まらないんので、もっとかかります”と、ツッコミをいれ、地図を見せた。残念なことに、先生はピンときてないようだった。こっちでの距離感と、北海道では、まったく違うのだ。


 セミナーは、先生の”早い者勝ち”というので、申し込み開始と同時に申し込んだ。確かに人気のセミナーのようだ。ただ、北海道観光してレッスンも受けられるという・・地の果ての知床の、観光をオプションにつけているのが、人気の要因の一つじゃないかな。


ー・-・-・--・-・-・-・-・--・-・-・--・-・-・-・-・-・-

 長ったらしい町長の”お話し”の後、いよいよセミナーがはじまった。

1日目の午前は、基礎とウォームアップの研究。講師の先生4人が、セミナー参加者25人の周りを、それぞれ軽く指示したり、手本をみせたりと、基礎とはいえ、勉強になる。

講師の先生方は、それぞれ交響楽団・吹奏楽団のトランペット奏者で、ソロやアンサンブル活動もされてる、第一線にいる。俺の”将来の理想”を実現してる先生方だ。


 9時に始まったウォームアップは、1時間ごとに10分休みながら。実際、最初は、楽器を持たずに体操したり、構えかたの練習だったり。”構え方なんてそんな基礎・・”と、乗り気でないセミナー生も多い中、進むうちに、自分で気づかない姿勢の乱れやクセを、指摘される。もちろん、俺も少しか注意された。


 疲れた、お腹すいたと思う頃、昼休憩に入った。昼は弁当とお茶が支給された。

「これだけじゃ、足りない」と、文句をいうセミナー生もいたし、セミナーの事務局の福井さんに、追加の弁当を懇願するものもいた。事務局では下っ端らしい福井さんは、30代で、このセミナー生のお願いには、コンビニでおにぎりやパンを調達する という形で答えた。


 管楽器奏者は、演奏前に満腹だと、普通、調子が出ない。かといって空腹だと、途中でバテる。俺の場合は、もう少し食べたい って処でやめるのが、調度いい。

”足りない”と言っていたセミナー生には、ちゃんと理由がある。


 午後からは、個人レッスンが始まる。45分レッスン、15分休憩で、終わるのは午後7時まで。”足りない”といっていたセミナー生は、その最後のレッスンに当たってるそうだ。

他の人が個人レッスンを受けてる間、残り、21人の生徒は、別室で個人練習するか、他の受講生の個人レッスンを見学する事になる。


 レッスンでの課題曲は、例年、セミナー生からの教えてほしい曲のアンケートをとる。

今年は、日コンでトランペットがあるせいか、課題曲の希望が多かったようで、それぞれ、

ジョリベのコンッルティーノ、フランセのソナチネ、ハイドンのトランペット協奏曲、ブロフのポストカード、この4つの曲を4人の講師が1曲づつ担当する。


 俺は、4曲、全部、教わりたいけれど、個人レッスンは3回。今回は、フランセの曲はあきらめた。時間をみはからって、フランセの個人レッスンを見学しよう。


 一日目は、俺は、午後3時から。担当の講師はG交響楽団の石田先生。曲はジョリベだ。ジョリベの曲のレッスンが、遅い時間でなくてよかった。あの曲は、本当に心身のエネルギーがいるだ。俺の後に石田先生のレッスンを受けるのは、同室の冴木君だ。

冴木君は、前日から緊張気味なのか、夕食もあまりたべず、ムッツリしていたっけ。

 

個人レッスンが始まった。最初は、沖芸3年の女子だった。レッスンを受けてるのは1楽章。

悪いけど、ちょっとテクニックが出来てない。いろいろ注意を受けてる。そして、難しいフレーズの攻略法とか、教わってた。これは、ためになる。俺はICコーダで録音しつつ、指導の要点をメモしていった。


 真剣に個人レッスンを聞いてる僕の横には、冴木君がいた。やはり顔色が悪い。

声をかけたけれど、”大丈夫”との返事。全然、大丈夫じゃない声だった。

案の定、見学途中、慌てて部屋を出て行った。かなり具合悪そうだ。


 俺は 石田先生に断って部屋を出て、冴木君を追った。やっぱり、トイレで吐いてた。


「大丈夫か?今、係の人呼んでくるから。そこのソファーで横になって」

冴木君は、顔色も悪いし、フラついてる。

「いい、大丈夫。人はよばないで。少し横になったら戻るから。」

「予定表だと、冴木君、俺のあと、4時からレッスンだろう?間にあうかい?」

俺も薄情だよな。レッスン優先しちゃうあたり。


「僕、昼食、あまり食べなかったから、そのせい。きっとエネルギー不足だよ」

力なく笑ってごまかす冴木君だけど、朝食もあまり食べてないのを、俺は見ていた。

本人が、大丈夫と言ってるし、俺は、スポーツドリンクを渡した。レッスン後に飲もうと思ってたものだけど。


「あの、新藤さん、僕がちょこっと具合悪いことは、先生には言わないでくれますか?レッスンで手加減されたりするのは、いやだから」

俺が言わなくても、冴木君のレッスンが始まれば、先生は生徒の体調なんか、すぐわかるとおもうけれど、一応、”わかった”と返事した。


 レッスンの部屋に戻ったのは、2時50分。見学のセミナー生はいなくて、石田先生だけが、イスに座って、休憩してた・・というよりバテてた。

一応、冴木君にお願いされたので、嘘の言い訳をして、俺も3時になるまで部屋から出ようとした。


「冴木君、お腹が痛くなって、トイレにいったら、オナラでただけだったって?はははは。

新藤海人君は、楽しいウソをつくね。冴木君は、具合悪いのだろう?顔をみればわかる。」


「あは、バレバレでしたか・・冴木君、自分の体調の事は言わないでくれって。」

「なんだ、私が手加減するとても思ったかな。悪いけど、ギリギリまで叩き込むから。何せコンクール前だしな」


 ギリギリまでって、俺にも適用されるんですよね。

先生。俺は少々の事じゃヘタレません。くるなら来い望むところだって、胸をはって言いたい。

ただ、ジョリベはまだ、自分でも完全でないと思ってるから、メンタルもつかな。



 


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