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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
21/147

コンクールに出ないって?

「先輩、おはようございます。噂で聞いたんすけど、桜井セリナ先輩、コンクールに出ないってそうですね。何かあったんですか?先輩」


 俺は、健人が何を言ってるのか、一瞬、わからなかった。


「日コンに出ない?って、それはない。1次予選の課題曲は、シューマンにしたって、俺は聞いてるし」

 健人の話しを頭から否定しても、”もしかして、俺が伴奏を頼んだから、自分のコンクールはあきらめたのか?”なんて、考えが頭に浮かぶ。


 タイミングよく、今日はセリナちゃんとの練習をいれてある。

でも俺は、少しでも早く本当の事が知りたくて、彼女にメールした。返信はしばらくしてから。

”ごめん、今、手が離せない”とだけ。


 俺って馬鹿?この間、打ち合わせた時、今日のお互いのスケジュール、確認したじゃん。

セリナちゃんとの合わせ練習は 午後1時。午前中は、俺は、ビッチリ個人練習だ。


 練習中は、集中していた(つもりだ)。休憩の時間、俺が2年生の時に出た日コンや、小百合ちゃんの事を思いかえしていた。

確かに小百合ちゃんには、練習や試験の時の伴奏をお願いした。

でも、コンクールの時は、栄浦先生が、プロのピアノ伴奏の人をお願いしてくれた。

今回は、栄浦先生の紹介でセリナちゃんが、伴奏してくれる事になった。

俺は当然のように、コンクールの曲の練習の伴奏と、本番も、お願いしちゃったけど、

栄浦先生は、単に”練習の伴奏”として、俺に紹介してくれただけじゃなかったのか?


 俺は、とんでもない勘違いをやらかしたんじゃなかろうか。

考えてみれば、伴奏も当然、練習が必要で、自分のコンクールの曲もあわせて練習って、無理

じゃないか。ちょっと考えればわかるはずなのに。


 いや、それより、セリナちゃんは、本当にコンクールに出ないのか。

そこの所を、聞いて見ない事には、グダグダ考えてもしかたないか。

ー・-・-・--・-・-・-・--・-・--・-・-・-・--・-・-・


 セリナちゃんと、合わせ練習に入る前に思い切って、聞いて見た。

ハッキリしないと、集中できないし。


 セリナちゃんは、とくに落ち込んでるわけでもなく、淡々と話してくれた。


「そこまで話しが広がってるんだ。大した事じゃないと思うんだけどね。実をいうと参加申し込み締め切りまで迷ってた。でも、ちょっと思う事があって、今回は見送ったの。」


 さすがに、驚いた。シュウーマンのアベック変奏曲を練習してると、この間、聞いたんだけど、その時、迷いながらも練習してたのかな。


「この間、課題曲練習中って言ってたからさ・・」

「ええ、練習した。他の課題曲も練習した。ブラームスの パガニーニの主題による変奏曲 もね。

コンクールに出なくても、自分の曲のレパートりーが増えたし」


 そう言いながら、セリナちゃんはハイドンとテレマンのトランペット協奏曲の伴奏譜を、開いてチェックしながら、ピアノ伴奏のスタンバイをした。

俺としては、その”ちょっと思う事”が、すごく気になってる。


 セリナちゃんの伴奏が始まる。前よりレベルアップしたというか、音が多彩だった。

トランペット協奏曲に限らず、協奏曲は規模の差こそあれ、伴奏はオーケストラだ。

いろんな楽器のオケの部分を、予選ではピアノの伴奏になる。


 セリナちゃんは、オーケストラの音を意識して、練習したのだろう。

前に合わせた時と異なる、彼女の”意志”みたいなのが、演奏から感じられた。

 

 こういう音が伴奏だと、俺もノっちゃうんだよな。なんていうか、ワクワクする。

彼女のコンクールちゃんの事はちょっと、頭の中で蓋をしておいて、練習に熱中した。

正直、バロックの曲は、簡単だと思ったのは最初だけで、練習すれば、するほど、曲の深みにはまっていく。単純で調和がとれているからこそ、難しい。


 繰り返したり、演奏のちょっとしたニュアンスを変えたりしながら、40分。

休憩をいれて、俺は水を飲みながら、エリナちゃんにさりげに聞いた。



「さっきのセリナちゃんの、”ちょっと思う事”って、差支えなかったら、聞かせてほしいな。

俺のコンクールの伴奏が重荷になってるかもって、少し気にかかってたんだ。ほら、ジョリベのコンツェルティーノの伴奏は、面倒な箇所も多いそうだし・・」


ちょっと小さめな声で、ニコっと笑いながら。

もしかしたら、顔がひきつっていたかもしれないけど。


「あ、ごめんなさい。全然、違うのよ。これは、私自身の問題。

そりゃ、伴奏はプレッシャーかかるもんだけどね。でも、いろいろ考えたのは、主に自分のピアノの演奏にたいする取り組み方の問題かな。最初から話すと長くなる。ところで、もう夏休みだし、休み中は、うちの家に練習に来ない?カイト。」


 もちろん、行くともさ。

その後、制限時間まで合わせ練習をして、夏休みの練習の日程を決めた。

 

 

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