表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
19/147

誤解をまねく言葉

 香織ちゃんの、”伴奏させてください”のお願いに、

俺は、”忙しいから” とお断りした。


 セリナちゃんは、俺の伴奏をして、レベルアップしたんだ?

それは噂でも、うれしい。それにしても香織ちゃんの気持ちがわからんな。

セリナちゃんに指摘された事、ちゃんとわかったのかな。

”上達するためのパワースポット” のように思われるのは困る。


 練習室にさっさと向かう俺に、香織ちゃんは、”お願いします”と、

あきらめずについてくる。

この子には、ハッキリ言ったほうがいいか。


「伴奏なんて、あなたには無理よ。岡本香織さん。時間の無駄。」


 ひぇ~~キツイお言葉が聞こえた。俺は何も言ってません。

香織ちゃんの後ろに、先生とおぼしき女性が言ったのだ。


「康子先生・・」

香織ちゃんは、呆然としてる。あれだけハッキリ言われたら、ショックだよな。


 康子先生は、見た目40代後半?年齢不詳だ。

若いころは華やかな美女であったろう、日本人離れした顔立ち。それに似合う、派手目な服装。

ホンワカ系の栄浦先生とは、人種が違うように思えるくらい違う。


「でも、セリナ先輩だって、新藤先輩の伴奏をするようになってから、

すごく上手くなったって評判ですし、私も伴奏して指導うけたいです・・」


 俺は、セリナちゃんに一言も指導なんかしてないぞ!!

曲の事で、話しあう事はあったけど、それだけだ。


「香織さん、あなたに出した課題の進み具合はどうですか?バッハの平均律1集からもう一度、

さらいなおしですよ」


 香織ちゃんは、悔しそうに、何も言わずに教室棟のほうへ行った。

本当は、その課題について、文句がありそうな顔だったけど。

廊下で講師と言い合いは、さすがに避けたのだろう。


 俺は、気をとりなおして、練習室に入ったら、康子先生もついてきた。

「新藤君。ちょっといいかしら」


 よくない!は俺の練習がしたい。でも、”ダメです”とも言えなかった。

こういう処が、俺の弱い処なんだよな。


 康子先生は、パイプ椅子に座ると足を組んで

「まず、岡本香織さん。何があったの?」


”傲岸不遜”って言葉がピッタリの先生に、この間の事を説明した。

”そんな暗い顔で、この華やかな曲は弾けないわよ”とかなんとか、香織ちゃんに言い、彼女が悩んでいて、セリナちゃんも入れた数人で話した事だ。


 康子先生は合点が言ったようだ。ため息をつき、

「困ったちゃんなのよ。あの子。自分の好きな曲には熱心だけど、そうじゃないと、投げやり。

彼女が好きという曲を弾いてても、暗いのよ。弾いてて、脱力が出来てないから、

苦しいだと思う。それなのに、技術的に無理のある曲とか持ってくるから、私もキレちゃって。 

音楽的な解釈がどうとか、ってレベルじゃなく、ちゃんと譜読みも出来てない。

困った事に、本人、”出来てない自覚”がない。

このままじゃ、試験は通らないかもしれないのに、本人、わかってるのかしら」


 なんだ、いい先生じゃん。生徒の事を考えての言葉だったんだ。


でも、今の言葉、ちゃんとわかりやすく香織ちゃんに、言ってないかも。

きっと、”ちゃんとしてきたの?これじゃ試験に落ちるわね”

ぐらいに、はしょってるかもしれない。

例も、わかりやすいとは言えないし。

康子先生の言葉はセリナちゃんが、解説してくれたけれど。


「あの~ちょっと生意気なんですけど、康子先生、さっき

俺に言った事、岡本さん本人には、だいぶ省略して、言ったんじゃないでしょうか。

すみません。偉そうで。

桜井セリナさんが、説明してましたけど。香織ちゃんのさっきの調子じゃ、先生の気持ち、わかってないと思います。」


 康子先生の迫力に負けそうだけど、これ以上、ピアノ科の問題がこじれ、放っておくのも後味悪い。

先生は、僕の言葉にしばらく考えてから


「・・・そういえば、確かに半分、エキサイトしてたから。

どうもレッスンでの悪い私のクセなのよね。ちゃんと弾けてないのに、

”私のどこが悪いですか?”みたいな顔されると、キレちゃって・・

ところで、セリナちゃんの事。ちょっとホっとしたわ。

あなたの前の伴奏者だった小百合ちゃんとセリナちゃんは、私の教え子の中でも、センスのいい子達で期待してたのよ。でも、セリナちゃん、ピアノの音が、鬼にとりつかれたように、トゲトゲしい音になってしまって。しばらくして、彼女、1年休学しちゃって。私が原因じゃないかって、気にはしてるけど」


 なるほど、おそらく、先生は”鬼のような顔”とかなんとか言ったんだ。

それを気にして、俺に聞いてきたのかもしれない。康子先生に、セリナちゃんに、どんな事を言ったのか聞いてみたら、”具体的にあまり覚えてない”との事。口が悪くて、言いっぱなしなんだ。


 いくらレッスンとはいえ、”鬼のような顔”とかいわれたら、

女子にはショックだろうな。だからといって、それだけで1年の休学にまで追い込まれるとは、

思えないけど。


「あ、ちょうど、この間きいたセリナちゃんのショパンの曲、聞きますか?・・」


まあ、録音じゃ生よりは音は落ちるけど、今のセリナちゃんの雰囲気が、伝わるといいな。

康子先生は、今は彼女の先生じゃないけどさ。


 康子先生は、セリナちゃんのショパンの”バラード3番”を、

じっくり聞いてるようだ。


「コーヒー、くれる?新藤君。」俺に命令が下った・・・。

俺は、管楽器専攻の院生なんだけど、康子先生のマネージャー?うっかりすると、

下僕のように使われそうだ。用心用心。


それでも、インスタントのコーヒーを出すと

”まずいわね”と文句を言いながらも飲んだ。


「これが、今のセリナの演奏なのね。岡本さんが新藤君に固執するのわかる。

セリナ、彼女本来の音に戻って、さらにレベルアップしてる。」


 言いたい事だけ言って、康子先生は出て行った。


 その日、帰るなり、健人に、はやしたてられた。


「先輩って、熟女も守備範囲なんですね。へへ。見ちゃいましたよ。

練習室でデートしてましたね。



 おのれ、健人、見てたのなら、お前も康子先生に説明すれっつうの。話しの半分は、お前が持ち込んだ、ピアノ科女子の問題だぞ。


 俺は、健人に康子先生との話しを、説明。”今後、この手の相談はお断りだ”と念を押した。

健人は、シュンとしてたけど、実際、俺はピアノに関してはソナチネくらいしか弾けない初級者だ。相談を受けても、答えられない事が殆ど。この間は、セリナちゃんがいてくれたから。

 

 ピアノ科は、男子も女子も先生も、早とちりで、オシの強いタイプが多いのか?







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ