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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
18/147

ピアノの演奏会

健人は、俺とセリナちゃんについてきて、

結局、演奏会のチラシ入れを手伝う事となった。


 健人は、セリナちゃんに話しかけようとしてる。

でも、残念だったな。チラシ入れは忙しい流れ作業なんだよ。

プログラムの中に、他の演奏会の広告チラシを入れるだけだけど、

悠長に話すヒマなんかないんだ。


 演奏会は、2人姉妹のピアニストのジョイントコンサートだった。

前半は、サティ「ジムノペティ」フォーレ「主題と変奏」ドビュッシー「版画」

後半は、ラヴェル「水の戯れ」「夜のガスパール」


 俺は、ピアノ曲は疎いので、曲を聴いて、トランペットで、演奏できそうな箇所を、

探したりしてみたり、オケバージョンに編曲とか、考えていた。

ジムノペティは、ジャズにアレンジしたのを聞いた事があった。

今度、ジャズの世界を目指してる友達に聞いてみよう。


 セリナちゃんは、もう真剣に聞いてるのか、何を納得そたような顔をしたり、

首をかしげたり。音楽というより、勉強だな。

まあ、俺も昨夜はそうだったけど。


 前半の曲は、わりとわかりやすい曲が多かった。

「版画」では、曲の題名がついてるので、”雨の庭”という曲とかは、

”雨の庭”を想像して、曲を聴いたので楽しかったし。


 前半が終わり、休憩は15分間。俺はロビーでコーヒーを飲もうと、セリナちゃんを

誘ったけど、まだ、前半に演奏された曲の中で迷ってでもいるように、返事は上の空だった。

そういえば、小百合ちゃんも、こんな様子の時があったな。



 後半は、奏者が代わった。

「水の戯れ」は、なるほどと思ったけど、どちらかというと、ガラス細工のような

キラキラした感じがした。

「夜のガスパール」には、その作曲のもとになった詩があるそうで、曲を演奏する前に、

フランス語でその詩が朗読され、ステージ横のテロップに日本語訳が、映し出されてる。

詩というより、散文というのだろうか。フランス語はもちろん、日本語でも

俺のような”無粋なやつ”には、むいてないかもしれない。


 斜め前の席には、ちゃっかり健人もいた。

いつもの陽気さはなく、真剣そのものだった。


 俺はといえば・・・後半の曲は難しくて、頭がついていけなかった。

3曲でなる「夜のガスパール」は、どれも音が多すぎて流れがよくわからない。


特に3曲目の”スカルボ”は、気味悪い出だしといい、音が、極端にとんだり、

”この曲は難しい”と俺にもわかるくらいだった。


後でセリナちゃんに聞いてみると

”ラヴェルのスカルボは、ピアノ曲の中で最も難しい部類にはいる曲”

なのだそうだ。


ー・-・-・-・--・-・-・-・-・--・-・--・-・-・-・

 演奏会終了後、セリナちゃんを夕食に誘ったら、お邪魔虫・健人がついてきた。

まったく。お前は誘ってないっつうの。自分の分は自分で払えよ。


 3人でファミレスでの夕食。

演奏会の話しで、健人とセリナちゃんが、盛り上がってる。

健人は、演奏会で演奏された曲の楽譜まで、持ってきていた。


楽譜を広げ、二人で、ここはこうだった、とか、ここは、こう弾くんだとか、

学校でなく、ここ、ファミレスでミニミニ研究会開催中だ。

長時間滞在で、従業員の視線が痛かった。

ちょっと他人のフリをしたい気分。


ー・-・-・-・--・-・-・-・-・--・-・-・-・--・-

 やれやれの週末だった。演奏会は、よかった。

でも、トラブル、相談事で目がまわった。疲れてグッタリだ。

家で寝る前にメールチェックしたら、智春先輩からメールがきてた。


”塚田君から、楽典を教えて下さいってきたけど、無理だよね。

もう間に合わないし。でも、一応、先生を紹介すべき?

誰か、いい先生知らない”


って、先輩~~。楽典の先生くらい自分で探そうよ。教師だろう。

俺、コンクールの曲、まだ読み込み足りないのに・・


 朝、一番に塚田さんからメール。

”やはり、息子は音大に行かせません。”ときた。

先輩に、”塚田親子が意見が一致するまで、いろいろと待ったほうがいい”

と、返信した。


無視できないんだな。俺の性格上。スルーって手もあるけど、

人間関係良好なままでいたいん。ある意味臆病なのかもしれない。


 学校の練習室に行く途中、事務室の前で、女子に呼び止められた。

えっと、確か、香織ちゃんだったっけ?康子先生にイジメられてるとかの。

何か、イヤな予感。


「新藤先輩。私に一度、先輩の演奏の伴奏させて下さい。お願いします」

「はぁ??」


なんでそうなるのか、わからないうち、頭を深々さげられちゃったよ。

あれから、女子3人でどんな話しになったのか。


「どうして、俺のトランペットの伴奏をしたいんだい?」


「あの、新藤先輩、あの小百合先輩に伴奏してもらってたんですよね。

セリナ先輩も、新藤先輩の伴奏をするようになって、大幅にレベルアップしたというし、

今、私、ちょっと伸び悩んでるから。

新藤先輩の伴奏をすれば、上手く停滞から抜けられるんじゃないかと思って。」


どこをどうしたら、その結論になる?この子の思考回路は、俺には謎だ。


スランプは自分で克服するしかないのに。






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