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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
プロへの遠い道ー修行は続く
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音楽室にて

 犬猿の仲の2人が同時に帰宅とは。

 

 セリナちゃんと早々に音楽室に退避しよう。


 2人は、今日のフェリックスについて説明をきくと”なぜすぐに連絡しなかたんだ!!”と、同時に非難された。



 とんだとばっちり。もしフェリックスが大怪我とか、倒れたとかなら、学校もなんとしても、オケの事務局に連絡したろうに。


 俺には情報量多すぎの一日。クラウスと香澄さんは、案の定、口論が始まってる。俺はセリナちゃんと一緒に、音楽室に逃げた。喧嘩に巻き込まれるのは勘弁だ。

**************************


「師匠の家に下宿って、予想以上に大変だったのね」

「うんまあ、でも俺は音楽室が使えるし。他に部屋を借りて、練習しやすい。さしがに家事は最低限でやってるけど、苦にならない。フェリックスと話したり遊んだりするのは、こっちも大歓迎かな。ドイツ語も一緒に勉強したしたから、一番のお得な点だったかな。ははは」


 セリナちゃんは、コロコロと笑いながら、さっそくピアノの蓋をあけ、音階練習してる。俺も練習やらんきゃ。


「ピアノの本場なのに、日本製なのね。このピアノ。でも、弾けてうれしい。ここ数日、ピアノに触ってなかったし。」


 笑ったり泣いたりと、セリナちゃんは飛行場では不安定だったけど、ここにきてピアノを弾き、やっと通常モードになったよう。いや今は、日本にいた時の彼女より、どこかのびやかで自由な印象だ。


 俺の方は、セリナちゃんには、どう映ってるだろう?音楽外の事でいろいろあったから、所帯疲れとみえたらいやだな。


「今日はいろいろあって少し疲れたね。癒しの曲はどう?ドビュッシーの”月の光”。多分、どこかで聞いた事あるとおもうけど」もちろん俺は拍手で答えた。


 曲がはじまると、”ああこれは”と、すぐわかった。シンセサイザー演奏のをCDで、聞いた事ある。


 ロマンチックな曲だけど、甘々じゃない。目をつぶると、夜の校庭にいるような、木の葉が風でさわつく音が聞こえるような。


 俺の心が静まっていくのがわかる。気分がフラットになった。


 曲が終わって、目をあけると、ビックリ。

 なんと横に香澄さんが座ってた。しかも泣いてるし。慌てて、どうしたか聞いたけど。


「カイト。学校でいろいろ言われたでしょ。でも、もう駄目なのよ。栄養のあるものと思って準備してても、フェリックスは食べないし。今日だって、リサイクル用にと、脇によけてあった服をわざと着て”これがいい”と言い張る。息子が何を考えてるんだかわからない母親なんて、失格ね」


 香澄さんの本当の姿は、思ったより弱いんだ。口論してる時のクラウスは”俺が正義だ”みたいな圧がある。それに対抗するには今まで、虚勢をはるしかなかったのかもしれない。

 

「負の愛情表現かしら・・」

セリナちゃんが自信なさげに、香澄さんに声をかけてきた。


「負の愛情表現って?」

「かまって、優しくしてほしくて、わざと反抗的な態度をとる事・・だったかな。学校で少し習っただけだけど」


 それは少しわかるかも。香澄さんは、仕事で忙しくて、フェリックスと一緒にいる時間が少ないだろうし。


 俺が香澄さんに、少し婉曲した表現がを考えてる時、香澄さんが、みすかしたようにやさぐれた。


「どうせ私が仕事に時間をとられすぎ、とか言うんでしょ?でも、カイト、私だってフェリックスの事を考えての事なのよ。もちろん、クラウスには養育費を充分すぎるくらい貰ってる。でも、不安なの。だからなるべく節約して貯蓄にまわしてる。クラウスだって再婚する事があるだろうし、養育費を払えなくなる時が来る可能性大よ。もちろん、クラウスは払おうとするでしょう。でも私は、彼には、新しい家庭をもったなら、負担になりたくない。」


 もしかして、負い目かな?自分が子供連れで男と家出した事についての。


 俺には解決策はわからないけど、食事についてはわかる事がある。


「すみません、香澄さん。俺、人生の経験値高くなくて、どうしたらいいかなんて、わかりません。ただ、食事は、フェリックスは、なるべく香澄さんと一緒、もしくは大人数で食べるといいかもしれない。実は今日のフェリックスは時間かかったけど、食事は残さず食べた。」


 食事時の様子をセリナちゃんと二人で説明した。


 もしかして、香澄さんに”そんな時間はないの”とか、言われるかもだけど、彼女はフェリックスの様子を聞いて、嬉しそうに聞いてた。



 香澄さんは帰り、俺とセリナちゃんは心底疲れて、セリナちゃんは2階の客間で、俺は自室で寝た。


 ちょっといい雰囲気になりかけたんだけどな・・・





 

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