大迷惑電話
3月になった。セリナちゃんと、まだ連絡とれない。パリではセリナちゃん、使い捨ての携帯だった。もう期限切れで、メールも届いてないかもしれない。もちろん電話もつながらない。
セリナちゃんの自宅のPCにもメール入れた。返信はなし。日本には帰ってないのかな。
さすがの俺も心配になった。もちろん、彼女に嫌われてメールを無視されてるって場合もあるけど。
最後の頼みの綱は、小百合ちゃん。3月初めに、前にデンマークのコンクールに出ると聞いてたので、メールするのも悩んだんだ。コンクール出場への激賞という事で、さりげなく聞いてみた。
”ああ、セリナなら、私が出国する際に別れた。好きなだけ私の部屋にいてって言ったんだけどね、「この際だから観光して帰る」って。コンバト落ちた後だし、私も、心配ではあったのだけど・・・”
小百合ちゃんの返信をよんで、血の気が引いた。小百合ちゃんの部屋を出て、もう3日たつじゃないか。
普通に観光してるのだったらいいのだけど・・・
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セリナちゃんの事が気にかかるけど、今は仕事だ。夜にクラウスに相談してみよう。
その電話は、俺はオケの事務局での作業中に、かかってきた。マナーモードにし忘れてて、呼び出し音が鳴った時、まじあせった。
慌てて廊下で携帯を見ると、見知らぬ番号だ。
「もしもし、あのどちら様でしょうか?」
「カイト君。確か苗字は新藤だったか。私はセリナの父親の
桜井雅夫です。そういえば、あの時は君は途中でいなくなったな。」
うわ~~。ガチャ切したい。けど、話しもしたい。セリナちゃんについて話さないと。まあ、父親といえど、娘のメールを盗み見する人だ、逆に何か知ってるかも。
「そっちにセリナがいるな!人の娘になんて事をするんだ!」
セリナ父は、大声で詰め寄ってきた。はぁ~~?だ。
何?その決めつけは。俺は連絡すら取れてないのに。
「なんの事ですか?俺が居場所を知りたい位です。彼女とメールでの連絡すら出来ないでるのに。」
「嘘をつくな!!じゃあ、セリナはどこにいるというんだ」
いきなり嘘つき呼ばわりされて腹も立った。でも、少しこらえて電話を切るのを我慢。父親が、海外に来てる娘の居場所を知らない。連絡もとれない。それってすごくマズイんじゃないか。もしかして警察案件?・・・いやいやいや。
「あの、本当にこっちには来てないです。内弟子の件、メールしてから、返信ありません。俺も心配してるんです。」
小百合ちゃんが出国した時は、まだセリナちゃんはパリにいた。って事だけセリナ父に言った。
向こうは一瞬静かになって、またがなりだした。
「やっぱり君の処にいるんだろう。正直に言いたまえ」
「だから、知らないし、今、どこにいるかすら、わかりません。日本に帰ったのかもしれません。俺には連絡はないですけど」
「・・・それは、何度も確かめたんだ・・・。予定では今日、日本に帰って来るはずだった。空港で待っていたが、予定の便では帰ってこなかった」
セリナ父の口調が、突然、暗くなった。俺が最後の頼みだったのか。
何かわかったら、すぐ連絡しますと言って電話を切った。俺は、どうすればいいんだ?ひょっとして日本に帰国済みで、父親とはすれ違いとか?健人に連絡してみるか。家に帰らず、友達の処にいるって事もあるかもだし。
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事務所に戻る前に、又、電話がかかってきた。またセリナ父からか・・・。
「もしもし、カイト?ごめんね、急に電話しちゃって。ね、で今、空港にいるの、迎えに来てくれると嬉しいんだけど。」
は?空港?ってパリ? びっくりした俺に、セリナちゃんは、”ミュンヘンの空港よ。カイトにどうしても会いたくて、日本への便をキャンセルしちゃった”
とびあがるほど嬉しい言葉を聞いたのに、俺は素直に喜べなかった。彼女は、キャンセルしてまで会いにくるほど、無計画でない。
待ち合わせの場所を決め、電話を切り、すばやく行動。事務局に事情を説明、早退しすぐにセリナ父に電話をかけた。運よくというか運悪くというか、話し中だったので、急いで空港に向かった。
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空港の待ち合わせ場所へ行くと、セリナちゃんが荷物を横に置き、俺に手を振っていた。駆け寄ると、彼女からいきなりのハグ!でも、俺は”嬉しい”より”よかった”の気持ち。
「ごめんね。急に来ちゃって、どうしてもカイトに会いたくて、いろいろ話しもしたくて。」
セリナちゃん、嬉しそうにハシャいでるけど、どこかへんなんだ。オシャベリが止まらない彼女に相槌をうちながら、少しして気が付いた。彼女の目が暗いんだ。もしかして相談事があるのか。
セリナちゃんを優しくハグしかえして、スマホを渡した。
「本当は今日はもう日本にいる予定だったんだろ?お父さんが心配して俺の処に電話をよこしたよ。会いに来てくれたのはとてもうれしいよ。いろいろ市内の名所とか案内したいな。でも、その前にお父さんに電話!すっごい心配してて、今にも警察に駆け込みそうな様子だったよ」
そういった瞬間、彼女の顔から笑顔が消えた。いや、もともとこっちの”深刻そうな顔が、今の彼女なんだろう。
荷物を預かり、セリナちゃんはちょっと離れた所で、電話してる。マナー上、聞こえないところに俺はいるけど、彼女が時々、涙ぐみながら何かを必死に訴えてるのは、わかった。
セリナちゃんから、”父が話したいって・・”と。スマホをパスされた時には、そのままどっかに投げてしまいたかった。
俺はあの人、苦手だし嫌いなんだから。
「新藤君、セリナからいろいろ経緯は、聞いた。疑って悪かった。申訳ないのだが、これから出発する東京行の便を探して、セリナをのせてやってくれないか」
さっきの怒鳴り声は、どこへいったかぐらいの、シンミリした口調だ。
最終便とかあるだろうけど、3月という時期を考えると満席の場合もあるし、なにより情緒不安定そうなセリナちゃんを、このまま帰す方が不安。で、決死の覚悟で明日の午後一番の便うを提案。なんとか認めて貰った。連絡は俺のスマホでという事で。
セリナちゃんに経過を説明して、チケットの予約をとる事に。午後一の便は満席だったけど、夕方の便を取る事が出来た。
ホっとしたとこで、セリナちゃんから、またハグされたというか、泣きついて来た。
「ごめんなさいカイト。迷惑かけて。でも私、日本に帰りたくない。」
大泣きする彼女に、俺は困った。俺が力になれるだろうか。




