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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
プロへの遠い道ー修行は続く
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メールで相談されても・・

 セリナちゃんからのメールは、件名で俺を落ち込ませた。


 件名;不合格 だ。


 コンバトはやはり難しかった。最近は、アメリカのジュリアード音楽院もレベルが高いけど、コンバトは別格かもしれない。


 気落ちしてるだろうと思ったけど、メールでは、”不合格、私の実力不足”と、淡々としたものだった。問題はその後の話かもしれない。


 なんでも、セリナちゃん、不合格とわかった日に、コンバトのジュヌビエーヌ客員教授から、弟子にならないかと、誘いを受けて迷ってるのだそうだ。”どうしたらいい?カイト”ってメールで相談されてもな。詳しい事情がわからないし。


 セリナちゃんは、教授に弟子入りし、そこでコンクール入賞を目指し勉強したいんだそうだ。俺と似たような立場になるってことか。俺の影響を受けたんかな。


”セリナちゃんがパリにいる事になるかも”それだけで、俺の中で、ドイツに残留したいという気分が盛り上がった。


 ピアノの事は詳しくないので、ジュヌビエーヌ教授の事は、まったく知らないのだけど、どんな人なんだろう?初対面で弟子にしたいと思うほど、セリナちゃんのピアノを評価したって事なのだろう。


 俺は、森岡先生にクラウスを紹介してもらった。留学は学校に編入したり、俺のように個人的に弟子入りと、いろいろ方法はある。


 1月にミュンヘンについて、まず、部屋の掃除から始まったのには、驚いたっけ。あれから1年、俺はホームシックでウツになる事もなく、遊びすぎることもなく。ただ、クラウス師匠のプライベートに深くかかわる事になったが。


 弟子といっても、どういう形になるのか、明日、セリナちゃんに聞いてみよう。



 もう一つのメールは、水野氏からだった。7月の終わりにS響が音楽教室をするそうだ。それにエキストラ奏者として出席の可否を、訊いていた。


 もちろん、即、OKのメールを送った。


 北海道の最北端・稚内で、中高生を集めての音楽教室だそうだ。S響のこの地域音楽活動は、俺も知ってる。

北海道の小中高生を対象に、馴染みの曲を演奏したり、場合によっては、セミナーとかも開くそうだ。


 ドイツでは、クラリスと共演した演奏会以外、目立った活動が出来なかった。もちろん、コンクールで忙しかったというのもあるけど。


”さすがドイツ仕込み” なあんって、言われ・・・・まあそれはないか。合奏だし目立たないように、他の奏者と合わせるのに精神を集中しないと。ふふふ。


 クラウスに報告するには、夜は10時もすんでたんで、明日にする事に。で、ここで俺は冷静になった。その日までお金が残ってるだろうか・・・旅費だけは残しておかないと。夏に帰り、そのまま日本に残る事になるかもしれない。


 腕組みして考えてると、ノックの音。ドアを開けると、クラウスが、話したい事があるとコーヒーを二つ持ち立っていた。


**** **** **** **** **** **


 「私はつくづく、日本の女性がわからなくなったよ。そりゃ、実際の日本人女性が、私の好きな日本時代劇の女性像とは、まったく違うのはわかる。でも香澄の場合、ガラっと性格が変わった。結婚前は素直で可愛かったのに」


 イスに頬づえをつき、大きなため息をつくクラウス。


 思ううに、香澄さんも、裕福な家庭で育ち、なんらかの理由で日本の家続とは断絶してる。多分、逃げる様にしてドイツに留学。チェリストとしての道を歩む前に、クラウスと結婚。ってとこなんだろうと思う。


「さあ、ただ、子供連れで駆け落ちしたくらいだから、香澄さんは息子と離れたくなかった。フェリックスも学齢になったんで、彼女は手続きに戻って来た。離婚調停の時に親権で揉めても、息子と暮らすためには、強気になれるんだな。それくらいかな、俺にわかるのは」


 ”息子を思うなら”と、クラウスは言いかけて、ムスっと黙ってしまった。


 多分、さっき、言い争いになったのだろう。香澄さんが仕事で忙く、フェリックスに目が届かない事があるようだから。


 でも、育児は父母が平等に行うものという考えが、ドイツでは強いと聞いてる。クラウスは演奏旅行などで育児を担当できない日も多いはずだ。もしかして、香澄さんが駆け落ちするまで、育児は彼女が一人でやってたのかもしれない。


 クラウスは育児にまったく参加してなかったのなら、強くも言えないだろう。



 それにしても、音楽話じゃないけど、人生勉強にはなった。結構、振り回されたよな、二人の問題には。子守も任されたりしたけど、フェリックスは可愛いし、勉強を教えながら自分も学ぶ事が出来た。感謝してくらいだ。


「息子のために、香澄とやり直したいとは、思った事もあるが・・」

「あの~、オケの福利厚生で、フェリックスの事を相談したらどうかな。働きながら子育てしてる団員もいると思うし」


 え?って顔をして、渋い顔になったクラウス。プライベートな事を、あまり仕事場で知られたくないのかも。


 ついでの話題のように、俺がS響のエキストラに呼ばれた事を報告。もちろん、喜んでくれた。で、”明日から猛特訓。”なんて、言い残してった。



 次の日、セリナちゃんにメールしていろいろ聞いてみたけど、やっぱり、俺としては首をかしげる話しだった。






 


 


 




 



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