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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
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金管アンサンブル演奏会


俺は、セリナちゃんに、魅かれてるのかもしれない。

彼女を誹謗中傷するやつは、許せない。

彼女と音楽以外のいろんな話しをしたい。一緒に旅もしたい。

時々みせる寂しい笑顔。俺はそんな顔をさせないよう、守ってやりたい。


これって、恋ってやつだろう?

トランペット一筋野郎の俺には、こんな気持ちになったのは、初めてだ。


で、今日、”付き合って下さい”って、ってどうやって告白しようかと

考えてる。


演奏会当日、セリナちゃんは約束の時間に、15分ほど遅刻した

「ごめん、練習に熱中してしまって。今、練習してるシューマンの

アベック変奏曲、やればやるほど、迷路にはまった感じで。

やっぱり、シューマンって、難しかった。」


日コンの一次予選の課題曲で、選んだそうだけど、シューマンか。



夕暮れの公園は、涼しい風がふいて、俺は汗がひいていく。

オレンジ色に染まった風景。絶好のタイミングだったのに。


で、二人で話した事といえば、シューマンのオーケストレーションについてとか、

音楽の話しに夢中になり、告白できずに終わった。


ただ、あの時点で、

”付き合って下さい”

 ”なんの演奏会かしら?”

で、会話が終わる可能性大。(泣)


ホールに入ろうとしたところ、電話がかかってきた。

見知らぬ番号だ。

ホールに入ったら、即・電源切るつもりだったのに。


「もしもし」

「カイト先生、俺、塚田っす。塚田洋介、先生にトランペット指導してもらった」


俺のTEL番、メル番は、あの時、指導した生徒には教えていない。

智春先輩、俺の”絶対無理”の返信を無視したな。

それにして、塚田君のお父さんじゃなくて、本人から連絡くるとは。


「俺、親父と喧嘩して、家出てきました。ここで、先生と親父が待ち合わせするの

聞いてたから、先に話しておきたいと思って。

親父は、音楽は社会に不要と思ってるくらい、理解なくて。」


塚田君の声が せっぱつまってる。ひょっとして”家出”?

聞くと、父親とまだ喧嘩の最中なんだそうで。



「いい機会だから、お父さんとよく話し合ってみたら?

音楽の事なら、できる限りはアドバイスできるし」

本当は、親子喧嘩の仲裁っぽい事なんか、まっぴらだけど、

ほうっても置けない。ヘタにガチ家出されたら大変だ。


「親父とは、顔を合わせるのも嫌だ。トランペット買ってくれ って頼んだら、

いきなり怒りだして、”遊んでるヒマがあるなら勉強すれ”とか。

部活に入るなら体育系の部活にしろとか もうわけわかんないし」


吹奏楽部は、十分、体育系部活なんだけどな・・

とりあえず、本人を説得して自宅に帰してから、俺は父親に会うことになるか。

ちょっとどころか、かなり面倒。

恨みますよ。智春先輩。



大丈夫ってセリナちゃんに聞かれたので、”大丈夫でないかも。ちょっと予想外”

と、塚田親子のトラブルについて、説明した。


「つまり、その父親って、頭から息子の進路希望に過干渉してるわけね」

ごく普通に分析してるっぽいセリナちゃん。

父親との話しは長引きそうだ。演奏会後の二人で夕食って考えてたんだけど、

無理だな。残念。明日の演奏会に、望をかけよう。


ー・-・-・-・--・-・-・--・-・-・-・--・-・-・-・-

演奏会が始まった。

プログラムは3部構成。

1部は、トランペット、ホルン、トロンボーンのそれぞれのソロ演奏。

2部は、ぐっとクラッシックに、金管8重演奏で、

フランス・ルエンサンス舞曲集とヴィヴァルディのバイオリン協奏曲の編曲版。


途中、休憩15分をはさみ、

3部は、楽器紹介などのトークをしながら、アニソンや童謡、ポップな曲

でまとめてある。


金管楽器の演奏会は、あまり聴く機会がなかったであろうセリナちゃんは、

熱心にプログラムを熟読してる。


ふとプログラムから頭をあげると、

「あの、この演奏会って、東フィルへの応援をよびかけるものなんですね。

今回の収益は、東フィルへの運営基金にまわされるそうよ」

え?ああそうだ。思い出した。


今、東京のプロのオーケストラの運営は厳しいんだ。

東フィルも、解散危機の一歩手前らしい。


俺たちは、夢見るような時間を過ごした。と、思いたい。

セリナちゃんは、一部で演奏されたホルンの曲で「亡き王女のためのパヴァーヌ」に

感激してた。


「もともとは、ピアノ曲なのに、ピアノよりもホルンの音のほうが、曲にあってる。

素敵だけど、ちょっと悔しいかな」


俺はもちろん、トランペットのソロ演奏。

ヒンデミットという近代の作曲家の曲だけど、明快でわかりやすい。

(かといって、易しいわけじゃないのは、十分承知。俺もさんざん苦労して

仕上げた曲だ。)


8重奏は、ちょっと古楽っぽい舞曲と、ヴィヴァルディ。

ヴィバルディの曲は、弦楽とソロバイオリンの曲だそうだけど、その弦楽を金管に、

ソロバイオリンの部分は、トランペットが担当だ。

俺が入っていた、学生の金管アンサンブルでは、やった事のない曲だった。



楽しい時間も終わり、俺はセリナちゃんと話しながら、最後に席を立った。

塚田父が、遅い俺に、短気を起こして帰ってるかもしれない。


そんな都合のいい事は起きないもんだよな・・

てか、最悪の事態を考えてると、そうなるみたいだ。


俺は、塚田親子の喧嘩に鉢合わせた。

見なかったふりして、帰るかな・・・そうもいかないか・・








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