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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
プロへの遠い道ー修行は続く
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香澄さんへの訪問者

 コート姿のサラリーマン風の男性がいる。クラウスに何の用だろうか?もちろん、俺をスカウトする人、なんて事は100㌫ない。


 俺は無視して門に手をかけた。件の男性は助かったとばかりに、小走りで、そばに来た。いろんな意味でヘンな奴でない事を祈る。


「すみません、お尋ねしますが、ここはクラウス・シェーン・バッハさんのお宅でしょうか?住宅番号だとここなのですが。」


「クラウス師匠は、今、演奏会のため日本に滞在中です。御用でしたら、ヘラクレスザールにあるオーケストラの事務局に問い合わせてはどうでしょう?」


 彼は日本人だった。日本人ならと、俺は少しホっとした。彼もそうみたいだった。が、クラウスは留守だ。


 師匠の仕事関係者のなのだろう。事務局を紹介すればいいな。


 男性はその必要はないとばかりに、名刺をさしだして、自己紹介をはじめた。


「すみません、名乗りもせずに。私はシェーンバッハ氏の妻・香澄の兄の冷泉俊哉といいます。ドイツには仕事で来ました。妹がここに住んでると聞いて来たのでが。」


 ああそっか。香澄さん、日本の家族とは断絶状態だと、前に言ってたっけ。香澄さんの親族については、ロンドンに伯母が住んでいて、その伯母だけは頼りにしてる くらい事しか俺は知らない。


 冷泉さんも、香澄さんが離婚して、よそで暮らしてるとは、知らないんだ。


「俺・・私は、クラウス師匠の処に弟子入りしてる新藤海人といいます。香澄さんは、ここにはいませんよ。」


「えええ、そんな~。じゃあ香澄はどこにいるんだい?」


 そう、グイっとせまられてもな。困り顔で眉が八の字になってる冷泉さん。目はドングリ眼でパグ犬に似てる。見ると、髪の毛が天パでモコモコしてる。あんまり香澄さんに似てないような・・・


 香澄さんは、日本の家族には住所を知らせてない。俺が勝手に答えられるはずないじゃないか。ましてや実の兄にすら離婚の事実を伝えてない。ウカツに俺が話せない事、わかって下さい。


「ちょっとここで待って下さい。携帯を持ってきます。」


 さすがに、彼が”イギリス人のジョンポール”じゃないのは確かだけど、この人は香澄さんのストーカーで、兄だと嘘をいってる可能性もなくもない。残念だけど名刺だけでは、信用できない。携帯で彼の写真とって、後は連絡先をきいて香澄さんにメールする事にしよう。


 あわてて室内に入り、明かりをつけ携帯を探す。家の中は冷え切っていた。完全に暖房を切ってるんだ。明日の夕食の事を真っ先はと考えた俺。体が温まる鍋が一番なんだけどな。さすがにこっちでは、材料を集めるのが大変か。


*** *** *** *** *** *** ***


 返信で、冷泉さんストーカー説はなくなった。本当に香澄さんの兄だったんだ。


”ありがとう、カイト。私は3人兄妹で、俊哉兄はすぐ上の兄様。気が弱くて、長兄の雅哉兄と父の言いなり。まあパシリね。で、明日、ホテルで会うんだけど、同席してくれない?

頼みます。よろしくよろしく”


 香澄さんからの返信。よろしくっていわれてもな。明日はいろいろ予定があったんだけど。水野さんから指摘された”宣伝用HP”の作成とか、荷物の整理とか。


 でもま、フェリックスに、お土産を買ってきたので、丁度いいか。明日、香澄さんに会ったら渡そう。


 

 冷泉俊哉さんが滞在してるホテルは、駅の近く。ビジネスホテルのような感じだろうか。


 香澄さんだけじゃなくフェリックスも来ていた。フェリックスは学校を休んできたのだろう。


 フェリックスは、俺を見つけると飛びついて来た。直接、お土産を渡すと、大喜びで包みをやぶり開けた。



「カイト兄ちゃん、お土産ありがとう。」

 お土産は地下鉄車両モデルのミニカー。片手で持ち上げ、空中を走らせるように、ホテルのロビーを飛び回ってる。

で香澄さんに怒られた。


「お土産にしては、小さくてごめんな。俺はビンボーだし」

「僕、こういうの好きなんだ。マリオとかのゲームも嫌いじゃないんだけど・・・」


 ”目に悪い”というので、禁止されてるのかな?フェリックスが飛びついてきたので、ハグしたんだけど、相変わらずヤセッポチな気がするんだけど。


「来てくれてありがとうカイト。実はね、子供の時、私と俊哉兄を可愛がってくれた曽祖父が、”どうしても会いたい”って、ダダをこねてるのよ。もう100歳近いから、こっちに来るのは無理だろうし。で、俊哉兄が、この子を動画で取り、母に送る事になったの。


 そういえば、クラウス宛に”孫を返してくだされ”って日本語で書かれた手紙があった。あの時は返すもなにも、香澄さん親子は行方不明状態だったんだ。


 日本に住んでる伯父、という事でフェリックスは、懲りずに大はしゃぎしてる。俊哉さんが撮影、フェリックスと香澄さんは、曽祖父に直接話してるように、リラックスしてる。香澄さんはロンドンの伯母さん、曽祖父には、心を開いてるのだろうか。俊哉兄さんとも、悪くない関係に思えた。


 その後、俊哉さんが香澄さんに、嵐のように質問責め。フェリックスに”ねえ、今なんて言ったの?”とか聞かれ俺が適当に省略して通訳した。どうしてミュンヘンに住む事になったかとか、フェリックスに関する質問は、子供にはシビアすぎる。知らなくていい事は教えなかった。


 俺はフェリックスを強引に外に出た


 香澄さんからお願いメールが来たからだ。

”フェリックスをここから連れて出して。今日、私が帰るまで面倒を見て下さい。シッター代出します。よろしくよろしく”と。


 


 で、フェリックスと一緒に、駅に列車を見に行ったり、後、俺の買い物(当分の食料品)につきあわせた。そんな体験も彼には新鮮だったのか、楽しかったらしい。必要のないものまでカゴに入れるのには参ったけど。結局、フェリックスには、自分の食べたかったお菓子を買ってあげた。


*** *** *** *** *** ***


 香澄さんと待ち合わせて、一緒に帰った。お昼を一緒にというので、香澄さん宅で簡単な昼食。


 サンドイッチを作りながら、香澄さんはフェリックスがハシャグのと裏腹に、少し落ち込んでるように見えた。


 やっぱ、喧嘩でもしたんだろうか、もしくは説教されたとか。


 


 楽器が演奏出来ない日が続くなんて、俺なら我慢できないな。


 俺が、日本に帰った場合、東京にいれば少しは仕事が入るだろう、でも練習時間は少なくなる。実家に戻れば練習時間は確保できるけど、トランペット奏者としての仕事は、ほぼないだろうな。せいぜい、東京とかに出張するくらいか。


 


 


 




 




 


 

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