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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
プロへの遠い道ー修行は続く
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妹の進路。俺の将来

カイト、ひさびさの里帰り

 つくづく、タイミングが悪すぎ。真由子は”声をかけるな”という顔で、朝一番で、出かけてしまった。自宅じゃなく図書館で勉強するんだそうだ。父さんも、機嫌が悪いっぽい。

*** *** *** *** *** 


 昼間は練習づけ。基礎練習をみっちり。夕方は母さんと、夕食のカレーを作った。その時、ズバっと聞いてみた。


「母さん、父さんと喧嘩中とか?」


 母さんは、ニンジンをむく手がとまる。


「亜由子の進路の事で、家族で大喧嘩したのよ。あの子とも仲たがいのまま。どう仲直りしたらいいのか、母さん、困ってるのよ。カイト、何かいい解決法はないかしら?」


 妹の性格からいって、母さんと喧嘩してそれに父さんが仲裁に入って余計こじらせてってとこか。母さんは、亜由子に少し厳しいと俺には思える。俺が高校生の時、よく二人は口論してたし。


「で、喧嘩の原因は?」

「亜由子がね。H大の医学部を受けるの。カイトの友達にいたでしょ?医学部に入った子。勉強、大変みたいだって、あんた言ってたじゃない。医者って給料もいいけど、大変な仕事だって、この間、新聞にのってたわ。連続36時間勤務とか。それじゃ体を壊してしまう。だから最初、反対したのよ。」


 


 それから延々と母さんの話し(愚痴)は続いた。


”音大に行っても、簡単にプロの演奏会に慣れるわけじゃないって聞いた。資格もとれないのに、就職に困ると思う。兄さんはフリーターになる確率が高いよ。兄貴は好きな大学に行ったのに、私はダメなの?”


 「亜由子がそう言いはり、結局、父さんもしぶしぶ認めたの。ところで、カイト。ホントのとこ、どうなの?就職のほうは・・」


 まずい、矛先がこっちに向いて来た。詳しく今の俺の状況を話すと、余計な心配をされそうだ。だいたい、プロの演奏家って、どこからがプロなのか。俺はとりあえず演奏だけで生計を音楽だけで立ててない。まだプロじゃない。就職って言われても、オケのオーディションはあまりないしな・・


「まあ、それに関して、俺も鋭意努力中だから。今回はリンさんが退院したら、一緒にドイツに帰る予定。」


 自分でも迷ってる事もある。今、口をだされると、正直、いたたまれない。お金を出してもらっても、今の処、収入は0だから。


*** *** **** *** *** ***


 沈黙のカレータイムが始まった。


 皆が黙々とカレーを食べる。話しをすると、そのまま家族バトルロイヤルがはじまりそう。


 亜由子には悪いけど、妹の進路には口をださないようにしよう。女子2人の反撃が怖い。どちらに味方してもだ。


 カレーお替りするかどうか迷ってるとき、ピリピリピリと携帯音がした。


 母さんのだった。電話の話しが終わると、バタバタ慌てだした。


「なんかあったの?」

「ああ、海人。この間の学校のテストで、英語のテストを作った教師がポカをしたのよ。もう信じられない。全問正解すると120点だったなんて。配点ミス。もう一度、点数をつけ直さないと。これから仕事するから」


 台所が俺が片づけておくからと、母さんに声をかけると同時に、ラッキーとばかりに亜由子が2階の自分の部屋に上がって行った。


 ご馳走様くらい言っていけよ。ったく。


 夕食の後片付けくらい、どってことない。ささっと終わらせ、練習室へ行こうとすると、父から止められた。


「海人、悪いんだが、亜由子が試験、終わるまで、家の中でラッパを吹くのは、我慢してくれないか?あの部屋は、完全防音ってわけじゃなくて、家の中だと少し音がもれる。今、亜由子は、神経質になってるから。すまんな」


 H大の試験は前期で今年は21日と、母さんが言ってた。もうすぐだ。俺は家では練習不可の日が多くなるな。


 コーヒーでも飲んで今夜はボヤっとしてようか。ドリップにお湯を落とす。明日は楽器店や図書館で、楽譜とか音楽の本をあさるかな。フェリックスにお土産を買っておかないと。


 コーヒーの香りがリビングまで届き、父さんから”海人、私にもコーヒー”とリクエストがかかった。


「海人は、向こうで女子力があがったな。」


 父さんに微妙にうれしくない評価をいただいた。


「ところで海人。これからどうするんだ?」


 父さんには、ビザの有効期限1年半は、ドイツにいるつもりだと、言ってあった。期限はあと半年ある。ビザを更新してドイツにいようか迷ってるんだけど。


「学費の支払いの期限の事もある。亜由子の学費もかかるだろうから、早めに決めてほしいんだが」


 父さんの顔、眉間にシワが寄ってる。ああ、お金の問題があるよな。亜由子、予備校に行ってるそうだし、国立とはいえ、医学部に受かったら、学費も高いはずだ。


 俺は院生1年の冬に渡欧のため、休学届をだしてある。が、復学する気はもちろんない。演奏者の世界では”~院卒”っていうより、~国際コンクール優勝 とかのほうが、よっぽど、有利につかえる。



「学費を出してもらったんだけど、ここまできたら復学しない。そのままプロの道を目指す。」


 父さんの顔は、”はぁ?何言ってるんだコイツ”になった。だよな。辞めるんなら、最初から渡欧すべきだったなと、思ってるんだろうな。


 俺は1,2年生の時、浮かれてた。音大の生活を楽しんでた。もちろん、トランペットの練習は必死で頑張ったけど、何か足りないと3年になって少し感じた。まったく、気づくのが遅いと、自分にツッコミ入れたい。


 院生になり、セリナちゃんと出会い、日コンにむけての練習で苦労するうちに、俺は少しだけ何かを抜け出た気がした。院生になった事に後悔はしてない。コンクールでは100点満点のところ、120点とる勢いでないと通用しない。


 そんな俺は、あの1年で段違いにレベルが上がった(はず)だから森岡先生が、留学先の師匠としてクラウスを紹介してくれたんだ。4年生の時の俺では、あの話しはこなかっただろう。


 もちろん、大学卒業して、そのまま国際コンクールに挑戦するのもあるんだろうけど、4年生の時の実力では予選通過がやっとだったろうか。だから、院生でたあの1年間はいろんな意味で、俺には必要だった。無駄じゃない。


 コーヒー飲みながら、父さんにそう説明しようとしたけど”4年で駄目なら諦めるべきだったんじゃないか”とか、言われそうなんでそこは黙ってた。俺はヘタレだったんだ。



「俺はプロの演奏家を目指す。これからどうなろうと自分の生活は自分でなんとかするから、仕送りとかいらない。母さんから融資してもらった渡欧費用の400万は、少しづつ返す。」


 なんとかすると自分で言いながら、不安になってきた。俺って生活していけるかな?オケのエキストラだけじゃ無理だし、スタジオ録音とかこなしても、しれてる。ドイツでの生活だと、もっと大変だろう。どこで暮らそうとも、貯金がなくなる前に、定期的な収入を得る算段をつけないといけない。


「母さんのお金は返さなくていい。それとデイトレイドは禁止にした。まったくの素人が株取引に手をだすもんじゃない。」


 母さんと父さんの喧嘩の原因の一つがそれか・・


「大学院を中退するのか!と怒りたいとこだが、海人の学費が必要なくなるので、正直、少しホっとしてる、すまん。やっぱり亜由子にも好きな大学に行かせたいしな。ウチの家計は苦しいんだ」


 父さん、母さん、ごめん。俺の大学の学費は、学資保険じゃ間に合わなくて、奨学金を借りてなんとかしたんだ。返済もしないといけない。


 やっぱり最後は、お金の問題になるのか?


 


 




 


 




 


 

 



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