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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
プロへの遠い道ー修行は続く
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実家に帰る

 水野さんと別れた後、いろいろ考えてみた。

彼は、積極的な自己アピールで、人脈を作る。そして今回の演奏会でのゴタゴタも、言葉通り彼にとっては、貴重な勉強の機会で、知り合いを増やす場でもあったのだそうだ。


 彼に俺の弱点をズバっと言われ、アイタタタって感じだ。


”新藤海人”を、ネットで検索かけたんだ。君、HP、作ってないんだね。せっかく日コン3位なのに。ドイツでのコンクールも何個か入賞したんだろ?そういう経歴や演奏会経験は、最低でもHPで宣伝しないともったいないよ。自分から情報発信して売り込みかけないと。コンクールに向けての練習で忙しかったのかもしれないけど、フェイスブックと大学HP内での紹介文だけでは、仕事の依頼どころか、その存在すらわかってもらえないよ”


 確かに自分個人のHPは持ってない。大学に入った時に、作りなさいと先生に言われたが、どうも”そこまでするほどでも””気恥ずかしいし面倒”と尻込みしてた。


 俺は、大学生の時はフェイスブックとラインで十分だったんだ。それにドイツに行ってからは、コンクールの準備に追われ、フェイスブックですら、月に2,3度発信すればいいほう。(それはドイツ語だし)


 自分を売り込むか・・・。もちろん、オーディションの話しがあれば、世界中、飛んでいく。でも、オーディションあがあるという噂すら耳に入ってこない。(俺の情報収集不足か)


 ヨーロッパでチャンスをもぎとるべく、供給過多の地元の演奏者たちと、しのぎをけずるのは厳しそうだ。日本でなんとかバイトで食いつないで、売り込みをする(どうすればいいか)。そのほうが現実的なんだろうか?その路線でいくと俺は、フリーターより貧乏になるかも。(バイトしても練習時間の確保は必須。一日最低5時間な)


 そんな事をウダウダ考えるうちに、眠ちゃったようだ。


*** *** *** *** *** *** 


 朝、窓の外をみると、”ああ、やっぱり”と、ため息が出た。強風に雪があおわれ、見渡す限り白一色の景色になっていた。ホワイトアウト?まじか・・。


「カイト。札幌はこんなひどい吹雪になるんだ。ミュンヘンではめったに吹雪はないけどな。」

「少なくても、飛行機は1日中欠航のようだよ。さっきTVに情報がでてた」


”じゃあ、今日はノンビリ出来るんだ”なんてアクビをしながら彼がベッドにもどりかけるのを、慌ててとめた。


 わかってるのかな。搭乗予定の便は今日の午後1時なんだけど、予報では吹雪は一日続くんだよな。で、全便欠航だし。でも、だからといってそのまま今のホテルに今日も泊まれるとは限らないだ。


 朝食時に、ゼルダさんと榊さんが揃って、俺を待っていた。


「カイト君、札幌ってこんな事がよくあるのかい?。千歳空港は今日の発着の便をすべて欠航。JRも運休してる」


「今日中に雪がやめばいいんですけど、予報では明日の昼ぐらいまでは雪の予報なんですよ」


 ゼルダさんは、”私達は極寒の地に軟禁された”なんて、芝居のように身振りをつけ嘆いてる。現実逃避してるな。もちろん、最悪、東京公演に間に合わなかったとしても、アタフタするのは、バイエルンオケの日本公演を企画した音楽事務所のほうだろうけど。


「大丈夫ですよ。公演の日までには、間に合うと思います。空港の除雪は仕事が速いですから」


 *** *** *** *** *** **


 2月1日は、結局、セミナーのため居残った全員が、ホテルにそのまま連泊出来た。


 飛行機もJRもバスも運休では、移動できず、ホテル宿泊の予約客もキャンセルするしかなかったということなんだ。高速道路ですら通行止めだし。


 札幌は陸の孤島状態。台風なみの低気圧が雪と風をひきつれ居座ってるからだ。


 俺はといえば、天気予報や交通情報をゼルダさんに伝えるくらいが仕事といえば仕事。


 飛行機の予約については、榊さんが手続きして2日の昼頃の便をとることが出来た。4日リハ5日本番なんで、間に合うだろう。


 ホテルも2日の朝にはチェックアウト。俺は、この後、リンさんが退院するまで札幌に残る。ちょっとした里帰りになるかな。


 2日の昼の便で、予約は出来た。でもまさか、朝には止んでいたのに、昼になって又、猛吹雪になるとは思わなかった。天気予報も、精度がよくなったって聞くけど、例外もあるようで・・


 2日の便も欠航。3日の昼の便に振り替えてもらった。事務局の榊さんは、ホテルを取るのに奮闘してくれた。


 俺は札幌郊外の実家に、里帰りのように戻った。


*** *** *** *** *** ***

「まあまあ、海人ったら、連絡くれたと思えば、”これから帰る”って突然だし、何かあった?」


 驚いてて、少し心配げな母さんに、俺は反省。もちろん、仕事で帰国する事は伝えてあるけど、札幌でのスケジュールはタイトなので、家に帰っても顔をみせる程度、顔さえだせないかもと、伝えていたから。


 これまでの事を、説明。最終的にベース奏者のリンさんが退院するまでは、札幌にいる事を説明した。


「プリペイドでも携帯を持てば良かったんだろうけど、少しでも出費を減らしたいのと、ドイツで使ってる携帯は、日本で使うと国際電話になるから。ああそれと、明日は千歳空港で見送りに出かけるから。それと、折を見て東京へ行く。森岡先生に挨拶しないと。学長からも呼び出しかかってるし。」


 これからの予定を、ズラズラと並べて行くと、結局、リンさんの退院がいつになるかわからないので、詳しい予定が建てられないって、今更、気づいた。


「リンさんという方には申し訳ないけど、そのおかげで海人が家でゆっくりできるし。そうそう、ドイツの人なら病院の食事とかは、口にあわないでしょう。母さん、なにか作るわね。」


「5日前に高熱で倒れたばかりだから、まだ食事にクレームをつけるほど元気じゃないんだ。」


 郊外のうちの家は、4LDK。ドイツのクラウスの自宅に比べれば、部屋の広さ自体が格段に狭い。それでも、俺の練習のためミニ音楽室も作ってもらったし、やっぱ我が家は落ち着く。


 2階の自分の部屋に荷物をもって上がり、荷ほどきをする。”洗濯ものがあったら出しなさい”って、母さんの声が聞こえた。そして俺は実家へのお土産を取り出し、洗濯物とトランペットを持って、下に降りた。練習しないと。ラッパを吹きたい。


 居間におりると、妹の亜由子が帰ってきてた。予備校帰りらしい真由子は、俺を大きな目でねめつけ、無言で2階の自分の部屋に直行。


 愛想がいいほうじゃないけど、なんだか機嫌悪そ。母さんが”コーヒーいれるわよ”の声も、無視した。


「亜由子、後、1週間で試験なのよ。前期日程とだから。きっと、予備校の自習室で勉強してたんだと思うけど、母さん、亜由の健康が心配だわ」


 うわ!真由子不機嫌台風の真っただ中に、帰ってきてしまった。


 


 


 


 

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