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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
プロへの遠い道ー修行は続く
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皆で宴会

本番が終わった後、高校時代の親友とあいプチ同窓会。そこにオケのメンバーが加わることになった。

 俺とリンさん、居残り決定。


 ところでプロオケのメンバーは、公演で旅慣れてる人ばかりだし、リンさんも退院すれば、一人で帰国か大阪で合流は出来るだろう。


 ただ、本人は自主退院する気満々。今日も”ドイツでは、長くは入院しないもんだ”と、主治医にくってかかってた。やっぱ、”見張り”が必要だな。


 俺はどっちにしても、東京には寄る事になってる。音大の師匠、森岡先生と会うつもりだ。師匠ばかりじゃなく、校長や理事長も俺と話したいとか。・・ヤヴァイ。俺、お土産類はまったく買ってきてないぞ。


 ホール前ロビーでは、ソリストの辻綾子さんのCD販売もあり、コンサートが終わっても、売り場には人が多く残っていた。ただ撤収時間なのだろう。オケのメンバーやゼルダさんたちは


 

 高校の時からの親友柿本と宇野が、俺を見つけ、手を上げて合図をくれた。あらかじめ約束しておいたんだ。二人とも忙しいから、ドタキャンもあるかと思ったけど。



「よう、海人、ひさしぶり。」

「まったくお前は、スマホくらい持てって。」


 懐かしい声に、タイムスリップした気分になる。思えば、高校の時は忙しかったけれど、進路については悩まなかったな。とにかく、トランペットを吹きまくる。それだけだった。


 ホールを出たのは、もう夜の10時少し前だった。柿本の後輩がバイトしてるという居酒屋へ向かう。3人で話しながら歩く。自分でわかるほどウキウキしてる。メチャ寒いかったけど。北極の寒気団が来てるって、マジなんだ。


 居酒屋につくと、店の前で柿本の後輩君が、チラシ配りをしてた。


 2階の個室に通された。個室の隣は大部屋だけれど、ガランとしてる。なんでも柿本後輩君によると、20人ほどの予約をドタキャンされたそうだ。しかも事前の連絡なしで、仕入れた食材が余るとかで、経営にかかわるのだとか。


 で、慌ててセールのチラシ配りか。今更って感じがしないでもない。ここは、ホールには近いけど繁華街からは、若干はずれてる。どこまで効果があるか・・・。


 3人でとりあえずビールで乾杯。話題はつきなかった。高校の先生の事、クラスメートの事、それぞれの大学での笑い話。俺のドイツでの体験談は、たいしておもしろくもないだろうと思ったけれど、二人とも、”冬でも晴れれば公園で外遊びするドイツ人”に驚き、夏のマヨルカ島のバカンスをうらやましがってる。マヨルカでは、コンクール受験者という立場を心の隅においやり、南の乾いた空気と島の風景で気分が楽になったんだっけ。


 ドイツでの生活も楽しい。ただ今のような時間、日本語で旧友と話すうち、肩の力が抜けるというか、ホっとする自分がわかった。今、トランペットを吹いたら、ご機嫌B♭で何時間もいけそう。


 やっぱり、日本に帰ってきたほうがいいのだろうか。


*** *** *** *** *** *** ***

 話しが少し途切れた時、スマホが鳴った。といっても俺のスマホじゃない。公演をマネジメントしてる音楽事務所のものだ。到着時のトラブルで、俺が事務所の榊さんから持たされた。オケ関係者と連絡を取り合うとき便利ではあったけど。


 メールはホルンのシュワルツさんからだった。”夕食に出された食事では、物足りないし、本番終わったから打ち上げしたい。どこかいい処を紹介してほしい”とあった。


 大学の時のアマオケでは有志もしくは、宴会係の仕事だったっけな。


 メールをやり取りしてて、この居酒屋で即席だけど打ち上げ会をする事にして、店の責任者にも了解をとった。料理はともかく、ビールが足りなくなるかも。なにせドイツ人は一晩で2㍑飲むのだそうだから。




「カイト、助かった。なんだか物足りなくてな。日本って昼食はあまり食べないし。」

シュワルツさんは、ビールに満足そうにしてる。総勢11人の宴会が始まった。


「昼食は、まあ、仕事によるようですけど、食事休憩で1時間取れる人は、恵まれてるほうですね。急いで食べるから、量も少ないのかも。それよりシュワルツさん、管楽器のメンバー中心に8人ですが、これから増えそうですか?」


「声をかけたのは、これだけだ。あとは、なんだか明日のセミナーの事で話しあいが長引いてるみたいだ。セミナーで各セクションの代表者が参加してる。だから、ほらトランペットトップのクラウスもいないだろ?ウチらのトップも話し合い中かも」


 話しあいって、もう夜の10時をとっくに過ぎてる。話し合いからそのまま、飲み会になったのか、疲れてそのまま帰って寝たかだ。


 

 広間の戸を開け、大賑わいで、俺ら3人は、英語(俺はドイツ語)を駆使して注文したり話したり、脳みそをかなり使ったかも。忙しくて楽しくて。ドイツ人って、いかめしい印象があったけど、お酒の席では陽気でお祭り騒ぎする姿しか見てない。


 

「ところでカイト、いつ札幌をたつんだ?」

「明日はセミナーがあるから、明後日の朝一番の飛行機で東京へ向かう」

「明後日か・・・・」


 その答えに柿本と宇野が、腕組みをして渋い顔をした。


「あのな、カイト。明日の夜から明後日の朝にかけて、荒れそうなんだ。吹雪きだろうって」


 それはまずい。事務所の榊さんは知ってるだろうけど、最悪の場合っていうのを、想定してるかな。一応、ゼルダさんには、言っておくけど。


*** *** *** *** *** *** ***


 翌日、セミナーが始まる前、指導にあたるトップが集まり、いろいろ話してる。


 クラウスにセミナーについてもめた事を聞いた。ウチのセミナーでは、事前の審査もなく、申し込み順、定員になり次第締め切り、という形。だからいろんな人が集まってくるのだそうだ。それを、午前中は基礎練習中心。午後は、受講者でアンサンブルの練習をするかどうかで、意見があわなかったとか。


 練習曲のほうは、それぞれのセクションで用意。日本で人数分コピーするという、泥縄式だ。

 

 受付の準備をしてる榊さんに声をかけた。


「榊さん、今日の夜から吹雪になるそうですよ。飛行機、決行になるかも」

「あああ、それ天気予報でやってた。そういう時はJRで函館まで行き、そこから新幹線で移動かな」


 そのJRも止まるって事、考えた事あるかな?


 悪い予感ほどよくあたる。そうならなければ、いいけれど。



 

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