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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
プロへの遠い道ー修行は続く
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天才と話す

リハーサル中、海人はある青年と出会います。

 あくる日の29日金曜日。午後からホールでリハーサルをする予定。俺はとりあえず、仕事なしのはずだったけど、午前中は、”雪祭りが見たい”という団員達のつきそい。


 ヨッパライアドルフは、昨夜の人種差別の言葉の件で、しきりに謝ってくれた。ただ、”アジア圏の演奏家はリズムが云々”は、訂正はなかった。俺もあえて聞かなかった。地雷を踏みそうだし、彼の主張も少し当たってる部分もある。日本のオケの演奏する曲のリズムが重くなりがちだ。



 雪祭りのつきそいは、そう難しい事じゃなかったけど、とにかく寒かった。最高気温マイナス10度って、信じられねえ。札幌でも数十年ぶりの寒さだとか。祭り見物に出たメンバーも、早々に地下街に移動して買い物三昧になってしまった。俺や買い物に興味のないメンバーは、早々に退散した。


 *** *** *** *** *** ***


 プログラムの中のブラームス「バイオリン協奏曲」から、リハーサルが始まる。リハを始める前、座席の位置や照明を決めたりと、オケのステージマネージャーさんと、ホールの係の人達が、テープ目印をつけたり照明の検討をしたりと、大忙しだった。


 最初、今回のバイオリン協奏曲のソリスト・辻綾子さんと指揮者に、舞台袖からでてきてもらい、位置を微調整。ソリストも指揮者も、右手の袖からファーストバイオリンとセコントバイオリンの間から登場する。ソリストの立ち位置も決めた。


 それ以外の曲は、当然、椅子をずらして間を広げる事になる。


 協奏曲の合わせが始まった。1楽章を通しでのあわせ。


 さすがバイエルンオケ、さすが若手注目度NO1のソロバイオリニスト・・なんだけどな。俺は少し違和感を感じた。オケはソリストをたて、ソリストも破綻がない。


 1楽章が終わった後、ソリストと指揮者が何か打ち合わせしてる。辻さんは、ドイツ語がぺらぺらのようだ。通訳補助の出番もなので、観客席で見学。


 彼女の熱烈なファンだという俺の友人のリョウマ。(彼はミュンヘン大でバイオリンを学んでいる)彼が辻さんのHPやら情報やらを、喜々として教えてくれた。彼女は芸大卒業する前に、ベルリンに留学。その後、コンクールにエントリー。どれも優秀な成績をゲットしたけど、白眉は、エリザベト音楽コンクールで2位になった事だそうだ。香澄さんが、まったく手も足も届かなかったコンクールだ。


 その後、ベルリンを拠点に活躍。新進気鋭の若手バイオリニストで、しかも美人。。。俺はセリナちゃんの方が好きだ、もちろん。ただ辻さんのほうが色気があるというか、オーラがあるような、ひきつけられるんだ。


 

 ブラームスのバイオリン協奏曲は、俺でも知ってる名曲で、ある面、難曲かもしれない。シンフォニーのような作りの協奏曲は、3楽章からなり、1楽章が曲の半分をしめる。


 リハは、その1楽章で座礁したまま。


「オケの音が、おおげさなんだよな。」


 後ろからボソっとした声が聞こえた。振り返ると、その男性は、スコアに没頭してる。俺と同じくらいの年かな。


 あれ?どこかで見たような、誰だったっけ?・・まあいいいか。


 指揮者とソリストの話しあいは続いてる。指揮者はスコアを持ち出して、ソリストはところどころ演奏しながら。オケのほうは、休憩に入った。


 休憩用のコーヒーを飲みに、団員が何人か立って行った。


 俺もと腰をあげかけると丁度、ゼルダさんがやってきた。


「やあ、カイト君。後ろの男性は君の友人かね?」


 え? いやいや、見覚えがある気がするだけで、知らない人。と答える前に先をこされてしまった。


「はい、水野竜樹ミズノリュージュといいます。カイト君をロビーで待ってたんですけど、退屈で。すみません無断で入って」


 そのミズノリュージュの名前で思い出した。今朝の新聞に

”最年少でS響の指揮者に就任”という記事があった。


 でも、いくらなんでも、彼とはこれが初対面でもちろん待ち合わせなんかしてない。


 オケのリハーサルを有料で公開する場合もあるけれど、普通は、非公開だ。そりゃ、当然だろうな。無料なら本番じゃなくリハやゲネプロを聞きにくる人も出て来る。


 ここで水野さんを、”知らない人です”と言う事も考えたけど、4月からS響指揮者という彼の話しが聞きたかったので、友達という事にしておいた。もちろん、音楽関係者に顔を売るって下心もあり。この世界、実力とコネがないと、生きていけないから。


** *** *** *** *** *** **

「僕は新藤海人。オケのトランペットのトップ、クラウスの内弟子のような形で、ドイツで修行中です。向こうにいたほうがコンクールも出やすいって事もあるので」


 ホールを出て、ロビーの中にある喫茶室でコーヒを飲む事に。友人という設定になったので、そこで一応自己紹介。水野さんは、俺より年上だ(新聞の記事から察すると)


「海人君、申し訳なかったです。話しを合わせてくれてありがとう。本来ならリハは部外者は入れないですよね」


「そうですね。揉めるのもイヤなので、話しをあわせましたが・・・・」

「すみません、もちろん録音もしてないです」


 聞きにくい疑問に、先に答えてくれた。こっちに来る前に、リョウに”協奏曲のところだけでいいから、リハの様子が知りたいから録音して”って泣きつかれた。もちろん、断ったけど。


 水野竜樹氏は、芸大の指揮科をトップで卒業、その後、アマオケやセミプロのオケを客演してる。留学経験はなしで、コンクールの戦績もなしだ。


 新聞記事からの情報だけど、水野氏には、どちらの経験もなく、若干26歳で、指揮者として抜擢ってすごい。もしかしてお金を払って指揮するとか?スポンサーになる条件だったとかと、疑ってしまうほどだ。


「そんなに不思議かい?若いのに指揮者に抜擢されたのが。

まあ、指揮者といっても、地方公演や学校などへの出張演奏とかを、振らせてもらうだけ。定期演奏会はまだまだおよびじゃないよ」


 俺より細身で、細面で優美な顔立ちの水野氏は、体に似合わず、喫茶室でサンドイッチを豪快に食べてる。



「S響リハなら遠慮なく見れますよね。しかもマエストロのリハでも」


 サンドイッチもコーヒーも二人前お腹にいれて、やっと落ち着いたらしく、大きくため息をつく。


「なにしろ僕には留学経験がない。そりゃ国内で指揮者としてアマオケとか振らせてもらったけどね。もちろん、学生時代はマスタークラスで、巨匠の振るヨーロッパのオケのリハの見学もさせてもらったし、練習で実際に振らせてもらったりした。それでも、僕自身、時間があれば、こうして見学したりする。弦楽四重奏などのアンサンブル演奏会のリハも、機会があれば、見学してきた。」


 そう誇らし気に語る水野さん。やはコンクールに入賞しても、就職の事で迷いのある俺には、目がキラキラしていて、話しぶりにも自信が満ちあふれてる。


「明日の本番は聞きにくるつもりだけど、海人君は舞台袖できくのかい?」


 無論そのつもりと、コップの水を飲み干したところで、スマホがなった。


”ベースのリンさんが倒れた。”





 



 

 

ほぼ1ッか月もあけてしまいました(謝)

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