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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
プロへの遠い道ー修行は続く
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日本へ向かう

日本についたカイトとオケ一行。思わぬアクシデントでカイトは大忙しになります。

 俺は、東京に向かう機内にいる。今更ながら、オケのスケジュール表を手に、上映されてる映画をボンヤリ見てる。


 フェリックスが一緒に行きたいと、グズったのは想定内。クラウスが、香澄さんと一緒にフェリックスを連れて行こうと本気で考えてたのには、びっくりした。もちろん、香澄さんからは、即、却下されたけれど。


 オケの日本公演は、札幌、東京、大阪の順番で演奏会とセミナーを行う。俺の働きどころは、そのセミナーでの補助と、細々とした手伝い。英語は話せる人は多いけど、日本語は話せる人はいない。もちろん、通訳の人はつくようだけど、主に事務方の打ち合わせのためだとか。


 クラウスはだめだ。普通の日本語は殆ど話せない。


 いや、彼の日本語は”あいや、待たれよ”という調子なんだ。それじゃ爆笑されるだけ。日本にいる間は、彼の日本語は封印だ。


 27日にミュンヘンをたち、東京につくのは28日の午後遅くだ。飛行時間は約13時間だけど、時差の関係でそうなる。札幌に着くのは夜になる。



 オケの海外公演は、普通は音楽事務所が企画する。音楽事務所は自治体・大使館・CD屋・航空会社などのスポンサーを集め費用を捻出。チケットを売りさばくために宣伝もしてくれる。集客の具合にかかわらず、オケには出演料が払われる。まあ、いってみれば、オケはゲスト扱い。今回の音楽事務所は、”ムジカ・ユアラ”という事務所だ。主にヨーロッパの楽団を日本に招聘してる.




 俺が大学のオケにいた時は、演奏会の企画・広告から会計まで、全て自分たちでやらなければいけなかった。いい経験にはなったけど、大変だった。プログラムの広告のスポンサー様を探しては、平身低頭でお願いする。チケットノルマは当然のようにあり。演奏会のチラシ、ポスターを貼るのに、またお願いに頭を下げる。


 オケの裏仕事イコール、ほぼ営業マンだったな。


*** *** *** *** *** ***


 成田に着いた時には、季節外れの温かさだとか。冬に慣れた俺には蒸し暑いくらいだ。そういえば東京ってこうだったよなと今更に思い出す。


 大所帯で行くので、全員、同じ便というわけにはいかず、ミュンヘンから札幌への直行便のグループと、俺の入ってる”東京で乗換”グループに分かれてた。千歳空港の到着ロビーを出た時、あれ?っと不思議だった。先に到着する直行グループは、貸し切りバスに乗り、先にホテルに行ってるはずだった。


 なのに所在なげに、全員、ボーっと立ち尽くしてる。


「どうしたんでしょうか?時間にすると、もうとっくに札幌のホテルにチェックインしてるはずですよね」


 オケの事務局で今回の担当者のゼルダさんは、少し不安そうに外を眺めて、直行便グループの中に入って行った。


「なんだか、道路で事故があったようなんだが、バスがスベったとか転んだとかいう連絡があったそうだ。よくわからんが」


 ゼルダさんは、首をかしげながら、俺に助けを求めてきた。


「凍結路面で、スリップして横転したとかかもしれません。冬は事故が多いので。事故で渋滞してるか通行止めにでもなったか・・」


 バス乗り場までいくと、そこには多くの人がたまっていた。雪まつり見物の観光客もいれば、スキー客も多いし、ビジネスマンらしき人も。


 そのビジネスマンらしき人に声をかけ、事情を訊いてみた。イヤな予感ほど当たる。千歳札幌間で、多重衝突事故が起き、道路が全面閉鎖になってるそうだ。彼はレンタカーを予約してたらしいのだが、キャンセルしてJRで、札幌に向かうつもりと、苦笑してる。


 オケの方の責任者・事務局のゼルダさんの携帯が、振動する。ゼルダさんは日本語は無理なんで、俺がかわりにとると、音楽事務所・”ムジカ・ユアラ”からだった。


 曰く”迎えのバスが高速道路で多重衝突に巻き込まれたので、札幌へはJRで各自、向かってほしい”との事・・・


 俺はその言葉で頭が一瞬フリーズした。総勢、80名ほどの団員と関係者、予定ではバスがホテルまで送ってくれるという事だったのに。


 ゼルダさんに慌てて、その事を伝え彼も瞬間フリーズの後、スマホを俺からとりあげると、マシンガントーク(無論ドイツ語)でがなり立てた。


 俺が慌てて、もう一度、交渉するのだけど、代替えのバスは用意出来ないとの事。丁度、雪まつりの時期で、空きがなく、バスも運転手も再手配出来ないと謝る。


 交渉の余地はなかった。札幌までは、JRで行くしかない。音楽事務所の責任者は、榊さんという男性だった。お互い自己紹介して、彼とは札幌駅で落ち合う事になった。


 簡単に事情を説明して、JRの乗り場まで先導した。俺はツアコンじゃないんだけど、千歳空港ならわかるし。



 全員が同じ列車に乗るのは無理。で、落ち合う場所を決めた。南口の地上部分に大きな石のモニュメントがある。それを目印にと、伝えた。


 3週間弱の旅行だから、みな大荷物だ。ガラガラと大型のスーツケースをひき、リュックを背負い、ポーチもあり。もちろん、俺もそうだけど、いざとなれば実家に放置するけど。


** *** *** *** *** ***


 札幌駅の一か所に外人ばかり集まると、さぞや目立った事だろう。こっちは、それどこじゃない。


 揃ったかなと思ったけれど、大違いだった。


「カイト、ビオラのユンデンさんとベースのリンさんが、途中で降りてしまいました。」

「そうそう、パーカスのパートも全員いない。」


 小学校の遠足か!!


 ゼルダさんが慌てて、電話しまくってる。 

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