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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
プロへの遠い道ー修行は続く
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クラウスの悩み、俺の迷い

日本への海外公演を前に、クラウスは何事かを思い悩んでるようです。心配するカイトですが・・

 徹夜だったせいか、ミュンヘンに戻る列車で、俺は爆睡した。


 夕食の支度を支度をしなければ。昨日も今日も買い物にいってないので、この間の土曜日にまとめ買いした食品で、なんとかするしかない。部屋の暖房を入れ、まずデイバッグを開けて、俺はやっと思い出した。底には、ニュルンベルグで買った、セリナちゃんへのクリスマスのプレゼントが残ってた。


 あーあ、なんてこったい。


 パリに向かうは列車の中で、セリナちゃんに渡した時を、あれこれ想像して楽しんでたのに。雪害で飛行機の到着が大幅に遅れた。気をもんでる処に、セリナちゃん父の登場。それから怒涛の展開で、すっかり忘れたんだ。


 郵便で明日にでも送ろうか。


 その日の夜は、野菜スープ(インスタント)パスタ(ペペロンチーノ)と手抜き夕食になった。クラウスから不平が出そうだけど、なんだか考え事をしてるようで、上の空で食べてる。今なら彼の嫌いな焼き魚を出しても、気が付かないかもしれない。


「クラウス、なんだか浮かない顔のようだけど、具合でも悪い?」


「あ、いや。ああそうだ。森岡からメールをもらってな。日本に行った時に会う。カイトも挨拶で大学に顔をだすんだろう?」


 森岡先生とクラウスは友達で、その関係で俺は住み込み弟子のような事をさせてもらってるし。きっと森岡先生がクラウスに、”うちの不肖の生徒が世話になってます”とかなんとか、言うんだろう。


 食事が終わって、クラウスはテーブルに頬づえをついてボーっとしてるようにも見えるし、何か考え事をしてるようでもある。つくづくその横顔を眺めると、ホリの深い西欧人の特徴が際だっている。ただ今日は妙に真剣な顔をしてるせいなのか、近寄りがたいオーラ全開だ。


 何を考えてるのか・・。3週間近く、家を留守にするので、それが不安で何か方法はないかと、考えてるのかもしれない。俺もフェリックスの事は、少し気にかかる。何せ香澄さんは仕事中心で(そうでないと生活が成り立たない)、夜も留守がちだったりするから。


「クラウス、フェリックスの事が心配なのはよくわかるけど、大丈夫。エリザベトさんもついてる。どうしても心配っていうなら、俺がこっちに残っててもいいし。」


「はぁ?ああそれは駄目だ。森岡からカイトにもメールがきてるはずだ。大学に顔を出さないと。それに今回はカイトにとっては仕事だ。正式な通訳は頼んである。ただ本番の翌日にあるセミナーでは、カイトの補助がいる。」


 日本では札幌・大阪・東京の順で演奏会がある。そして本番の翌日、団員が講師になり、中高生・一般を対象にしたセミナーを開く。(それがここのオケの慣例なのだそうだ)まあ、そういう処でなら、俺でも役に立つ事があるだろう。


 食後のコーヒー(俺がいれた)を飲みながら、まだ思案にふけってるクラウス。一昨日は別段、変わったところもなく普通だったんだけど。


 何か他の悩み事でもあるのかも。子供もいるいい大人で、職場ではパートのトップだ。職場内でのトラブルは日常茶飯事だろう。大学のアマオケにいた時も、恋愛関係のもつれや、意見の対立から不和になったりと、いろいろあった。


 社会人でプロだから何も問題は起きないっていうのは、ありえないんであって・・・


「おやすみなさい。クラウス。ビール飲んで寝るから」


 冷蔵庫をあけビール缶を二つ取り、一つをクラウスの前に置いた。


 部屋の中はそう暖かくはしてない。ビールで冷えるかもだけど、ホットワインはパス。ってかワインは昨日、さんざん飲んだし、わかすのも面倒。


 クラウスは、顔をあげ俺を見る。何か言いたそうな目なんだけどな。何も言わず顔をそむけ、ビールのプルトップをあける。


 ひょっとして、今日の夕食、ひどすぎてガッカリしたとか?


「今日の夕食は、手抜きでごめん。ちょっと疲れてて。明日はもっとちゃんとするから」


 クラウスは、ブっと飲んでるビールを吹き、笑った。


「いやいや、おいしかったから。パスタ。簡単なら私にも作り方教えてほしいくらいだ。」


「それならよかった。じゃあ、お休みなさい」

「寝る前に基礎練習だけでもしとけ。ビールだなんてカイトにしては珍しい。飲む前に練習だ練習」


 そんなクラウスは、いつもの彼だが、音楽室に行くとき、振り返ると、やはり何か考え事をしてた。ちょっと深刻な悩みなのかもしれない。明日、ダイレクトに聞いてみよう。



 トランペットの練習をしたから疲れが増した、とかはない。むしろ部屋に帰って、森岡先生からのメールを読んでから、どっと疲れが出た。


 新藤海人 君へ


 海人君がコンクールや演奏会と、頑張ってますね。活躍の様子がこちらにも伝わっています。君のおかげで、桜丘音大のトランペット専攻志願者が、大幅に増えました。学長も今年は無理でも来年度は定員を、若干ふやす事も考えてるそうです。


 君もドイツでの生活に馴染んでるだろうと思う。2月にオケと一緒に日本に来るそうだね。東京に来た時は、大学に来て下さい。”大学のHPに君の写真をプロフィール、インタビュー記事をのせる”と、事務の広報担当がいきまいていてね。きっと在校生からも質問攻めにあうぞ。私も君と話しがしたい。ドイツの話しもいろいろ聞きたいしね。




 そのほか、康子先生の話しとか、同期の辻岡の話しとか続いていた。


 なんだか大学に行くと、パンダ扱いされそうだ。


 メールといえば、クラウスも森岡先生とメールをやり取りしてるけど、何か言われたのだろうか。


 *** *** *** *** *** ***


 結局、何も聞き出せないままだ。渡航のための準備に忙しくかったし、あわただしいまま出国した。


 珍しく、父さんからメールがあった。なんでも札幌は最強の寒波が来てるらしく、天候の事を心配していた。言われてみれば、北海道の1月から2月初旬は、天気が変わりやすく、温度差も大きい。


 なんだかイヤな予感がした。


 

 


 


 


 


 

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