↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
プロへの遠い道ー修行は続く
PR
126/147

セリナちゃんに会えたのだけど・・・

やっとセリナちゃんに会えたと思ったら、意外な人物から、痛い処をつかれ・・・

 いよいよ、セリナちゃんがパリに来る。俺はICE(高速鉄道)の往復切符を買い、宿泊は小百合ちゃんの紹介で、彼女の談志友達の部屋に一泊させてもらえる予定だ。


 正直、とてもありがたい。往復の切符は、1等車で往復2万弱(本当は全席自由席の2等車にするつもりだったけど、クラウスに、席の争奪合戦がすごいと、おどされた)


 時間が信じられない事に、03:30発、10:25着だ。いやもっと遅い時間と思ったけれど、セリナちゃんが15:30に空港に着く予定なので、余裕を見た。(これもクラウスからのアドバイスだ)



 そんな相談の最中、フェリックスが”一緒に行く”と大騒ぎ。さすがに今回は無理といってなだめたけど。


*** *** *** *** *** ***


 パリでは、ルーブル美術館とか見ておいた方がいい。わかってる。音楽以外の芸術にふれる事も大事だ。でも何せフランス語の字は、俺にただの模様にしか見えない。パリ北駅で列車を降りた後、すぐバスで空港に向かった。


 超はやめに来て正解だった。シャルル・ド・ゴール空港は、まるで一つの街のように広い。


 遠くまで広がる滑走路、到着ロビーから見るだけだけど、飛行機が絶え間なく、離発着してる。待機中も多い。巨大なトンボが、羽を休めてるようだ。


 5階の到着ロビーをウロウロ。34番出口で小百合ちゃんと待ち合わせなんだけど、ちょっと不安げな横顔の彼女を見つけた。


「小百合ちゃん、久しぶり。このゲートでいいんんだね」


「海人!! もう、嬉しい。やっぱり一人じゃ心細いものだものね。」


 ハグすべき所なのだろうけど、俺は彼女の手を固く握った。友情の握手・・・。それにしても、小百合ちゃんは相変わらず可愛い。つぶらな瞳に白い肌、身長は160あるかないかくらい。髪はシニオンで団子にしてある。さすがミス桜が丘大学。恰好は日本にいた時よりラフで、ダウンにジーンズ姿だった。


「不安そうな顔をしてたけど、俺がパリで迷子になると思ってたかな?ははは。ならいよ。駅から空港に直行したからね」


「違うわよ。心配してたのは、その事じゃないの。セリナの乗った飛行機の到着が遅れるそうよ」


 あわてて、電光掲示板をみたけれど、数が多くて、やっと見つけたら、やはり deray(遅延)だった。どういう理由かはわからないけど。


 フランス語で、何かアナウンスされてる。それを聞いて小百合ちゃんが、ため息をついた。俺は英語でのアナウンスで、なんとか聞き取る。”東京成田空港、除雪のため4時間遅れて、離陸”


 4時間か。今からだと到着するのは夜の7時か。きっとくたびれてるだろう、セリナちゃん。


「除雪のために、4時間も遅れるなんて、北国育ちの海人には、大笑いでしょ」

「まあ、北海道は除雪体制が整ってるから、少しの雪なら心配ないし、第一、空港自体も、それほど大きなものじゃない」


 ロビーでコーヒーを飲みながら、小百合ちゃんの”コンクール武勇伝”と俺の”やらかしちゃった話し”で盛り上がった。


「去年の秋のコンクールで、私、裾を踏んでしまってね。ちょっとドレスがゴージャスすぎたわ」


「あっは、転ばなくてよかったじゃん。さすがの俺も”ドレスの裾を踏む”事にはないな。本戦の時、蝶ネクタイが曲がってたってくらいか。」


 若い女性のコンテスタントで、ピアノと弦楽器奏者は、本番で肌の露出度が大きい。もちろん、アピールも少しはあるのだろう。ただ、バイオリン弾きのリョウの事を思い出した。


”演奏の時、肩が出てると楽なんだよ。バイオリンは特にね。肩、腕を使うから”


”え?女装して演奏したとか?”

”するわけないじゃん。ランニングで練習したりするし”


 小百合ちゃんにその事で大笑いした。彼女のドレスアップは半端ない。裾を少し持ち上げて登場するくらいだ。これは、彼女が派手好きというのじゃなく、ドレスアップする事で、心が別人になるのだそうだ。”私は一流の演奏家。これはリサイタル”。緊張を逆手に利用するそうだ。


 日本語で会話するのが楽しくて、あっというまに4時間すぎた。こうなんていうか、小百合ちゃんといると、気の合う友達といるようで、くつろげるんだよな。セリナちゃんといるときもくつろげるけど、反面、緊張する時もある。いい処を見せたいって思うからだな。


「あ、きたきた。セリナちゃん、こっちこっち」


 俺たち二人は、手を上げて振ったので、向こうも気がついた。セリナちゃんは、年配男性と二人連れ。隣は誰かな?


「小百合ちゃん、久しぶりだね。ウチのセリナが世話をかけてしまう事になり申し訳ない。どうか一つ、よろしくお願いします。」


 中年の男性(うちの親父より少し若いくらいかな)は、丁寧に頭を下げた。で、俺の事はガン無視のようだ。


「とんでもない。私も楽しみだったんですよ。パリにきて1年以上たったけれど、日本人の友達もそう多くないですし」


「よろしく、小百合ちゃん。私、まだフランス語は、ヒアリングが特に苦手、試験が思いやられる」


 セリナちゃんが、小百合ちゃとハグし、そして俺にもと思った時、セリナちゃんの父らしき(顔が似てる)おじさんに邪魔された。


「セリナ、この青年を紹介してくれないかい?」


 ニコニコしてるけど目が笑ってないよ。視線が痛いくらいだ。


「あ、お父さん。彼は新藤海人君。ホラ、私が一昨年、日コンで伴奏をした人。彼、日コンのトランペット部門で、3位入賞したのよ。海人、これ、私の父ね。仕事でパリに用事があるとかで、一緒のフライトになったの」


 俺はガラにもなく緊張してしまった。単なる自己紹介をしただけなのに。思うに、男性が結婚相手の父親に挨拶する時って、これの数十倍の気力が必要だと実感した。俺たちはまだまだそんな段階ですらないけれど。


「君が、あの海人君か。なにせ私も仕事で家を留守にする事が多くてね。家内の話しだと、セリナがピアノを再開したくらいの時期に、娘に伴奏を頼んだ人だったね」


 確かにそうだけど、もっと正確にいうなら、伴奏者を紹介されたというか、勝手に決められたというか。


 セリナ父の微妙な言い回しが、チクチクと心にさわる。


「4時間も待たせたお詫びに、三ツ星フランス料理店でごちそうしよう。ちゃんと正装して入る店で。海人君、君は背広とネクタイはあるかい?」


 持ってくるはずない。1泊だしジーンズにセーター、ダウンジャケットのラフなスタイルだ。だいたい演奏会にでるわけでも聞きに行くわけでもない。そんな高級レストランに入るお金の余裕がないから、予定すらしてない。当然、首を横にふるしかない。


「ああそれなら、私のを貸そう。もう一着、持ってきてる。」


 場違いなレストランでの食事をおごってもらうのもいやだし、そのために背広を着るのも、なんだかミジメだ。


 背広といえば、ウチの親父の背広は、量販店から買い、背広は春秋で2着、冬は1着。それと喪服の計4着。どれも、くたびれてるのが、俺でもわかる。セリナ父の背広は、いかにも高そうなものだった。


 自分でも機嫌が悪くなったのがわかる。心が狭いな。きっと金持ちに対してのヤッカミなんだろうな。


 セリナちゃんにも小百合ちゃんにも、俺の機嫌はまるわかりのようだ。二人の顔色が変わった。あーあ、俺ってすぐ顔に出る方だったのかな。


「お父さん、無駄遣いしない。私は疲れたから、夜はどこかのハンバーグ店で簡単に」

「私のアパルトメントの近くに居酒屋があるから、そこへ行きませんか?」


 娘のいうことには、逆らえないなと苦笑いするセリナ父。俺を見るときだけは、目が笑ってないのは相変わらずだ。

*** *** *** *** *** *** **


 でも結局、セリナ父のパリでいきつけの日本料理屋に行く事になった。普段、俺はこういう店に入らない。どうしてって値段がはるからだ。材料の調達に手間がかかるのだろうけど。


 ひさびさの日本料理は、素材がいいせいか、とてもおいしかった。反面、俺は自分の所持金で足りるかどうかとても心配になってきた。


 小部屋を一つ借りての会食で、女子二人がお手洗いへいくのに席を外した。セリナ父がここぞとばかりに話しかけて来た。


「海人君は、大学に留学してるわけじゃないんだね。」

「はい、ミュンヘンで師匠の処にいます。そこでドイツ国内で開かれた国際コンクールに出るのが、最初の目的でした。もちろん、レッスンも受けてます。」


 いきなり、痛い処をつかれた。この人、娘の事を何も知らないふりをして、ある程度わかってるんじゃないか?それで俺の事も調べたとかか?わかっていて聞かれてる気がする。


「コンクールか。それは大変だね。遊ぶ暇もないくらい頑張らないと。で、将来的には日本に帰るのかい?」


「いえ、今、悩んでる最中です。こちらで勉強しながら、地道に活動出来ないかと、検討してるところで・・・」


 正直、セリナちゃんの顔を見たとたん、ヨーロッパに残りたいと思った。国は違うけど、列車で7時間弱でつく。それに音楽会もチケットも安いし、レベルも高い。気候のせいか、こっちに来てからの自分の音は段違いに良くなった。


「そうだな。こちらの音楽のレベルは高い。底辺が広いからなんだろうな。それと歴史かな。でも悪い事はいわない。はやく日本に帰ったほうがいい。コンクールは、終わったのだろう?」


 この人は、善意で言ってくれてるのだろうか?さっき、”私は音楽界の事は知らなくて”なんて言ってたけど、嘘だった。


 それに、エントリーしたコンクールが終わったのを、なぜ知ってる?セリナちゃんが話したとは思えないし。あ!メールか。盗み見みされたのかもしれない。証拠はないけど。


「なんでも、こちらでは音楽家の給料が安いそうだよ。需要と供給のバランスだね。需要が多くても供給がそれ以上に多いんだそうだ。で、残念ながら、ヨーロッパでは、まだ”白人優位主義”の気風が消えてない。例えば、どこかで演奏家が必要になる時、やはり白人を優先するだろうね。能力が僅差であれば」


 俺は一言も言い返せない。それが事実だから。そして、ヨーロッパの人達がアっと驚くような演奏を出来る自分じゃないのもわかってる。


 コップにビールがつがれていたけど、俺は水を飲んで、席を立つ俺の背中に追い打ちの言葉がきた。


「セリナはこれからが勝負時だ。娘をあまり振り回さないでくれないか。君の人生相談にのる余裕は娘にはないのだよ」


 決まりだ。セリナちゃんのPCで俺からのメールを見たんだ。卑劣だな。


 俺は、彼が席を少し外したスキに、その店を飛び出した。会計は自分の分だけ払い、お財布はすっからかんになった。


 夜のパリを歩くのは、なんとも心元なかったけど、パリ北駅へはたどり着けた。ドイツへの最終便はもう間に合わなかったので、ここで夜明かしをする事に決めた。イスにすわりこみため息をつくと、ドっと落ち込んだ。セリナ父に言い返しできなかった府外のない自分に、腹がたった。


 ヨーロッパ一番のラッパ吹きになる。

 迷わずに、ここで勉強を続ける と。


 メール着信の振動がした。小百合ちゃんからだ。


 


 



 


 

更新、遅くなり大変、申し訳ないです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。