ニュルンベルクへ行く・・・カイト、子守をする。
スネたフェリックスのため、クリスマスで有名なニュルンベルグへ行く事になったカイト・・
「仕事なら仕方ないっていう処ないけど、オケのほうは、予定表だと24日にオケの演奏会は、はいってなかったはずだけど、クラウス」
2階の部屋に閉じこもってしまったフェリックス。クラウスは、すぐなだめに行ったが、見事にフラれ、うなだれて階段を降りてきた。
「オケはクリスマスは小休暇ものかな。実際、勤務でも休みをとる団員が多い。24日は、金管アンサンブル”フロイデ”の方の初仕事。
どっかの大会社のアホ幹部が、クリスマスチャリティーパーティーを開くそうだ。その余興に出る。俺が受けた話しじゃなくて、ホルンのフランクが、頼み込まれたらしい。ギャラを貰う仕事としては初めてなので、デビューとしては丁度いいんだが。フェリックスの事を思うと、代わりの奏者を頼むしかないのか・・」
その会社って日本の会社かも。何せクリスマスは、皆、パリピになるからな。俺も大学時代はさんざん友達と騒ぎまくった。実際は、恋人がいない者のバカ騒ぎだったが。
「”そういうの辞めたほうがいい”って...言うまでもないか。わかった。だめもとでフェリックスに俺が話してみる。俺がクラウスの代わりじゃ、彼も不満だろうけどさ。フェリックスのために”フロイデ”を立ち上げたって処も、説明するけど、いいかな?」
「香澄のためということに、しておいてくれ。ところでカイトは、クリスマスには帰らないんだ」
「当たり前。どうせオケの日本公演の時に、実家には顔だせるし。」
クラウスは香澄さんの生活を、少しでも多く援助するためにも”フロイデ”金管アンサンブルを立ち上げたんだし。そうすれば、彼女にも仕事で余裕が出来、フェリックスと過ごす時間が増えるだろう。
で、今、フェリックスと話し合い中。部屋の中に入れてくれただけで、大成功だ。
ベッドでふて寝してるそばに腰かけ、話しを切だそうとすると、先手を取られた。
「ねえ、やっぱりサンタさんっていないの?」
顔だけこっちに向け、訊いてきた。いやいや、その質問に答えるの、父親か母親の役目だから。
「何か欲しいものがあるのかな。サンタに手紙を書くって方法もあるよ。」
確か、フィンランドのどこかに、手紙を受け付けてくれる所があったはず。ちゃんと返事もくれるとか。で、手紙は事前に両親が見て、欲しい物を知っておく。
「サンタさんに、お願いをきいてほしかったんだ。オモチャとかゲームとかはいらない」
彼の願いがなんとなく想像つく。でもそれは、俺には、かなえる事は出来ないし、それが出来ない理由を説明するのさえ難しい。
「サンタも忙しく、全世界を飛び回ってるからな。出来ない事もあるかもな。」
「やっぱり、サンタはいないんだ。ジョン・ポールの言う通りだ。僕は、パパとママと3人でいたいだけなんだ。フリードのとこは、いつも仕事以外の時は、一緒にいるのに。」
ああやっぱりな。予想通りだ。フェリックスの少しスネた顔。やっぱ。うらやましいのだろうか。
子煩悩で家庭円満なエドの処と比べるのもクラウスには可哀想。確か、ドイツは離婚率が高いはずだから、フェリックスのような家族のパターンもよくあるはずなんだけど。
「フェリックス、居間にツリーがあるだろ?まだ飾りつけしてないの。これから、パパと一緒に飾りつけするのは、どう?」
アドベントカレンダーを買った時に、クリスマスツリーとオーナメントも一応揃えた。ここまで言っても、まだご機嫌が戻らない。
「そうだ、今度の日曜日、ニュルンベルグへ行こうか?あそこのクリスマス市は有名なんだそうだ。で、フェリックスの好きな物を買ってくる。ってのは?」
そこで、やっとベッドに腰かける俺の横に来て、話しにのってきた。
「その街って、どこにあるの?列車に乗っていくの?」
「ほらここ。ミュンヘンからだと、列車で1時間ちょっと。その間、我慢できるかな?」
慌てて地図を取り出して、指をさして教える。やっぱりフェリックスは、”お出かけ”したかったのかもしれない。
「もちろん。僕、列車に乗るの大好きなんだ。こっちに来てからは、夏にマヨルカに行った時だけだけだったけど。」
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香澄さんにさっそく連絡したけれど二人で行って欲しいとの事。
”クリスマスはツアーにガイドとして、ニュルンベルクに入る予定なの。本当なら一緒に行きたい所だけれど、午後から、あいにく打ち合わせが入っていて。ごめんね。よろしく”
との事だ。少なくとも、24日のイヴは俺とフェリックスの二人だけという事になる。
朝、クラウスがフェリックスを迎えに行き、駅まで送ってくれた。クラウスのほうは、今日は本番で、やはり、一緒にいけない。日程はいろいろ考えたのだけれど、クラウスが2回続けて週末に仕事なので、しかたがない。クラウスは未練たらたらで、俺に写真(息子の)を撮ってくるように頼み、二人分の列車の切符を買ってくれた。
朝一番の特急に乗り込んだのだけど、フェリックスは、とっても上機嫌。この間”3人で暮らしたいとサンタにお願いできるか”とか言ってたのが、信じられないくらいハイテンションだ。
「この列車ね、ドイツで一番、スピードが出るんだって。フリードの友達に教えてもらった。
席に座り、足をブラブラさせながら、俺に”物知りだろう”と、得意げに披露する。
「世界一有名なクリスマス市があるし玩具博物館もある。クリスマス期間限定のメリーゴーランドもあるし、寒いけどきっと楽しいと思うよ」
”博物館”には、彼は興味なさそうだ。おもちゃの博物館といっても、昔のおもちゃだから、遊べるわけじゃないようで、案外、子供にはおもしろくないかもしれない。
本当にアっという間にニュルンベルク駅に着き、フェリックスは、ここでは他の列車や時刻表、駅のあらゆるものを長めては、楽しそうにしてる。何がいいんだか。ひょっとして”鉄っちゃん”か?ま、子供は電車が大好きだというし。
駅の地下街を抜けると、城壁があり、そこに街の入り口にがあった。中世からの都市で、旧市街は城壁に囲まれてるそうだ。先の大戦でかなり破壊されたそうだ。
で、職人広場に向かって歩いてるんだけど、本当に物語にでてくるような、中世の街並み。戦後、街並みを復元して今は、アクセとか小物とか売ってるんだとか。
本当は、カイザーブルグ城まで行き、ガイドツアーに参加。その後、クリスマス市で買い物をするつもりだったんだけど。DB博物館(ドイツ鉄道博物館)の事をフェリックスに話すと、”絶対に行く”と、先だって歩き出したんで、そっちを優先。
駅から真っ直ぐ北へ向かい川を越えると、中央広場にはクリスマス市場、すこし先の丘の上には城。DB博物館は駅から出て西に歩くと、見つける事が出来た。
博物館は、入場料大人6ユーロ、子供はその半額。入り口でチケットを買ってるうちに、フェリックスは走り出した。
ちょっと待てっての。
鉄道博物館だけあって、蒸気機関車などの昔の列車が陳列してあった。すごい迫力。俺からすると、何がおもしろいってとこだけど、フェリックスは残らず見て歩いた。模型の電車が走るジオラマを楽しんだり、列車の操縦シュミレーションのコーナーに、どっぷりはまってた。日曜という事で人も多いので、何度も出来なかったのが残念そうだ。
日本にあったよな。確か”電車でなんとか”ってゲームソフト。今度、調べてみるか。
博物館を出たのは丁度、昼で、晴れてるとはいえ、気温は10度を超えてないだろう。フェリックスは、はしゃいだので、汗をかいただろう。冷えないように一旦、どこかで休憩した。
カフェで、この地特産のソーセージ、ブルートブルストホイスレを、パンにはさんで(野菜も入れて)いただいた。このソーセージは、普通のソーセージより短い。日本のウィンナーのようなもの。っていうか、普通のソーセージが長すぎ。
持ち帰りでこのソーセージを買い、他の店でレープクーヘンという、ケーキというよりクッキーに近いお菓子をお土産に二つ買った。
クリスマス市についた時には、フェリックスは、もう疲れてた。朝からアゲアゲで騒いでたからな。
「疲れてるようだから、早めに帰ろうか?列車の時間まで駅で休んでてもいいし」
「いい、大丈夫。クリスマスのメリーゴーランドに乗ってから」
結局、メリーゴーランドに乗った後、フェリックスは疲れて、俺は彼を背負って駅まで向かった。
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香澄さんが、予定外の仕事が入ったとかで、俺は、エドの家にお邪魔した。そのうち香澄さんから連絡がくるだろうと思ってた。
ニュルンベルクで買ったレープクーヘンを、エリザベトさんにお土産とし、
「すみません、急にお邪魔してしまって。本当は香澄さんの処へ直帰するつもりだったのですが、なんだか仕事が急に入ったとかで」
「いいのよ、カイト。少し耳に入れておきたい事もあったし、シッター代は、このお土産のケーキで。
香澄さんの事なんだけど、彼女、仕事で夜、遅くなる事が多いらしいの。私がシッターをしてもいいんだけど、さすがに夜10時を過ぎる事になると、ちょっとこっちも無理でね。で、ここだけの話しなんだけど、香澄さん、夜のシッターを頼んでなかったりするらしい。一度、泣き声でフェリックスから夜に電話がかかってきたりして、あせった。どうもシッター代を節約してるみたいで。私、心配なのよ。フェリックスがどうも食事をちゃんととってないんじゃないかって処もね。」
確かにこれはクラウスに知ったら、火山の噴火のように怒るだろう。フェリックスの養育をめぐり、裁判沙汰って事になるかも。そういえば、彼を背負った時、手足が細く思ったより軽かったので、オヤっとは思った。ただ俺も子供の平均身長とかそういうのわからないし。
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香澄さんが、フェリックスを迎えにきたので、ちょっと一言、フェリックスの今日の様子とか最近の生活とか入れて、話すつもりでいた。
二人を家まで送ろうとしたけれど、エドに止められ、その間に二人は帰ってしまった。香澄さんのアパートは、この近くにあるんで、そう心配はないけど。
彼女に訊いてみたかったんだ。夜に6歳の子供を一人で留守番させるのは、さすがにまずいだろう。今日だって、もう9時近い。
「悪いなカイト、本当は香澄さんを問い詰めるつもりだったんだろう?」
「まあね。いくら治安がよくても、10歳前の子供を夜一人で留守番させるのはよくない。シッター代が足りないなら、クラウスに請求すればいいんだ。」
クラウスに知れると、大もめになる。その前になんとかしたかったんだけど。
「ウチの奥さん、もう何度か、香澄さんに注意したんだ。それでも、夜遅くまで子供に留守番させる。彼女も意固地になってるというか、”自分一人でも生活できます”ってクラウスに見せたいのかもしれん。どっちにせよ、この件は、俺がクラウスに話すよ。今までの事いろいろとな。フリードから聞いた、学校でのフェリックスのついての話しもあるし。」
「エドが話してくれるなら、そのほうが。でもエリザベトさんが直接クラウスに話すと、大噴火する可能性大だから」
俺は、所詮、半人前の若造だ。こういう人間関係は俺の手に余るってことか。
「わかってる。それよりカイト、自分の事はどうなんだ?このままでいくと、あの二人にフェリックス同様、ふりまわされるぞ。それなら思い切って日本に帰ったほうが、音楽に集中できるんじゃないか」
エドの問いかけに、俺は答える事が出来なかった。確かに彼の言う通りかもしれない。
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