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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
プロへの遠い道ー修行は続く
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リョウと会い、少し反省する俺

リョウの話しを訊き、少し自分をふりかえるカイトです

 あれから、俺は何度かリョウからメールをもらった。ほとんどが、彼の愚痴とお悩み相談だ。



 留学生でも、ノイローゼになって帰国する学生も多い。反対に、留学生活中、勉強もせずに日本人仲間だけで遊び歩く学生もいるそうだ。


 ほどほどってのがいいんだろうな。俺は運よくというか運悪くというか、そういう日本人の仲間には出会わなかったのが、語学習得には良かったのかもしれない。


 愚痴メールに飽き飽きした俺は、比較的、今はヒマ(1月に日本公演にオマケ要員でついていくまで)なので、もう一度、彼に会いに行った。前と同じくクロイツェルでランチしながらだ。


 この間、初めて会ったときよりかは、リョウは明るい顔でフェリックスがいないのを残念そうにしてた。


 とりあえず、彼には、何かサークル活動があれば入るように勧めた。”時間がない”とか”練習の時間を減らしたくない”とか、言って来た。”まあ、無理と思ったら辞めればいいから、とりあえずやってみるのがいい”って突き放したけど。我ながら、無難だよな。コレっていう解決策がない。引っ込み思案の人に、急にアグレッシブになれというのは、無理な話だし。


 11月のミュンヘンは、紅葉も終わりかけで、かといって雪もないので中途半端なかんじだ。店では二人ともパンのソーセージをはさんだのと、コーヒーで済ませる。今日は土曜日、この店は大学生ご用達のようで、他の席にも何人か話しをしてる人がいたし、パンだけ買っていく学生もいた。


 俺も大学生の時はそうだったのだろう。大学の周辺だけ、時間が止まってるような気がする。そこで学生たちはノンビリする事も出来る。隔絶された世界だ。



 リョウが自分の事を話しだした。(この間、会った時はフェリックスと遊ぶのに夢中になってしまったし)


「僕は、本当は日本の音大で学びたかったんだ。もともと英語とか得意でないし。でも両親が”プロの演奏家になるなら、はじめからヨーロッパで勉強したほうがいい”って。実技だけなら言葉はなんとかなるんだけどね」


 こちらの音大で、つまりドイツ語で音楽史、作曲法、アナライズ、からラテン語まで勉強する事になる。音大でも俺は実技以外の授業は、特に歴史の授業は睡眠薬のようだった。


「リョウは、抵抗しなかったか?ドイツ語で勉強するの無理無理って。」


「うちは両親とも音楽家で、年中、演奏旅行だなんだ。家にいない事が多い、っていうか、日本にいないんだ。僕は祖母に育ててもらったようなもの。両親とも強引で、僕の進路についても、口をはさむ余地がなかった。それに僕も音大で勉強したかったし。」


「で?将来は、プロの演奏家になる?」


 ”まさか”って顔で首をふった。それならなぜ・・ああそっか。スポンサーの両親の意向だもんな。


「でも、一つだけいい勉強になったよ。世界は広いって。皆、すごいんだ。音色が素晴らしかったり、高度テクニックを持っていたり。思うんだけど、こちらの演奏者は個性が強い感じがする。自己主張が強いというか、自分の音楽を曲げないね。」


 目をクリクリさせて話してる。純粋に音楽・バイオリンを追求してるんだろうな。いやいや、俺が不純ってわけじゃないけど、コンクール用に練習した時間は、当然の事ながら、”優勝”めざしてるわけで・・・


 リョウには、フェリックスをまた連れて来ると約束させられた。彼は、そんなに子供が好きなら、保育士めざしたらどうだ?ってくらい。


 家までの道々、歩きながら少しだけ反省した。楽器を演奏するだけの”音楽屋”になるのは、避けたい。リョウにエラソウに説教したけど、俺も軌道修正するべきか?


 最近の俺はもちろん練習はかかさない。就職活動の準備として、こまめにネットで情報収集しやり。直接、オケに売り込みに行くつもりでいた。(それはクラウスにとめられたけど。時機が悪いって。クリスマス前の忙しい時期に行って、心象を悪くするかもしれないから、もう少し待てと。)


 実際に、街はクリスマス一色になってきた。外は賑やかに飾り付けられ、専用の市がたった。


 夕方、そこで一緒に買い物をしてた時、クラウスがなにやらクリスマス用品の店の前で、腕組みして考えてる。気が早いな。まだクリスマスまで4週間もあるのに。


「クラウス、早く帰らないと暗くなる」

「カイト、アドベントカレンダーをフェリックスに買うのだけど、どれがいいと思う?これは、ドアが小さいけれど、奥行きがある。こっちはミニカーが入る大きさだけど、全体が大きすぎだ。」



 俺の頭は、またも疑問符で一杯になった。布で出来たクリスマスまでの4週間だけのカレンダー。なんだかカレンダーにしては、随分、中途半端な。


「そのカレンダーは、クリスマスで終わりって?」

「ああ、カイトはアドベントカレンダーの事は知らないんだ。日本は仏教の国だものな。これは、子供がクリスマスを楽しみに待てるように作られたものなんだ。ほら、ここにキャンディとか小さなオモチャとか入れる事が出来る。クリスマスまで1日に一個。クリスマスまで子供が楽しみにしてるものなんだ。」


 ほーほー。日本にもお正月の歌で”もういくつ寝るとお正月”とあったけど。


「日本には、クリスマスにそういうイベントはないな。24日にケーキ食べて、プレゼント貰って終わり。ツリーも飾るけどね。」


「それは夢がないね。子供が少しかわいそうかな」


 プレゼント貰えるだけで、十分幸せと思うけど、反論はやめておく。面倒だし。カレンダーでフェリックスが喜ぶならそれが一番。


「そうだ、クラウスに一つ、言っておかないと。この間、大学にいる友達と会ったんだけど、一緒にいたフェリックスがとても喜んで、はしゃいでた。思うに、あの子は寂しいんじゃないかな。最近、クラウスも香澄さんも仕事で忙しいだろ?」


 俺の言葉は、ズバっとクラウスの心に刺さったようだ。彼の顔からスっと表情が消え、そしてだんだん、眉の間にシワをよせて、難しい顔になった。俺はやらかしたか?


「はぁ~。俺も駄目な父親だな。香澄も何をやってるんだ。ありがとうカイト、本来なら言われる前に、私か香澄が気が付くべき事柄だ。」


 だよね。それに家族問題に踏み込みすぎたかも。でもな~もうガッチリ巻き込まれてるけど。


 


 

更新は日、月の深夜午前1時~2時

カメ更新ですみません。

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