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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
12/147

師匠たちのデュオ

明日は合同レッスンっていう前の晩。

俺は寝苦しくて、ベッドで寝がえりばかりうっていた。

生粋道産子の俺は、もう5年目になっても、このジメジメ蒸し暑いってのに

慣れてない。エアコンつけるか迷ったけど、節約のためと我慢した。

練習で疲れてるのに、頭だけ冴えてるんだ。いっそ、寝ないか?

と迷ううちに、寝たらしい。”本番で楽器を忘れる”という悪夢を見た。



レッスン日。小雨。

楽器には最悪のコンディション。

俺は、楽器。楽譜、そのほか、必要な小物類を執拗にチェックして、出かけた。

忘れ物はなかった。ただ、財布を忘れた。お昼抜きの残念な日になるな。


予約してあるレッスン室は、少し広くて、湿度も温度も快適。

今、午後12時半、レッスン室が、30分だけあいてたので、

頼み込んで、借りたのだ。ここで寝泊まりしたら 最高だろうな。

楽器は吹き放題。快適な気温。


1時からのレッスンに備え、俺はウォームアップと基礎練習を始める。

俺の場合、ウォームアップは、ストレッチから。

体、全体の血のめぐりをよくして、筋肉をやわらかくほぐす。


あと、ブレス。深く息が吸えるように、曲をふくまねをしながら、ブレスをとる。

トランペットを始めた時からおなじみの、マウスピースでの練習、

同じ音を伸ばすロングトーンに、音階、タンギング。

結局、基礎練習すら予定分は、出来なかった。


5分前に、セリナちゃんが、慌てて入ってきた。

彼女は彼女で、練習してたそうだ。

「ごめん。ギリギリまで練習してて。もし、ジョリヴェの曲をやることになっても

一応、通せるくらいまでは、なんとか・・」

今日は、フランセの「ソナチネ」が練習課題だけど、ついでにジョリヴェも

って事は、十分、考えられるから。


体育教師のような森岡先生と、いかにも”お母さん”って体型の栄浦先生が

入って来た。さっそく、僕らはフランセのソナチネの1楽章を演奏始めた。

レッスン前、二人で一回、通したけど、自信がないのが演奏にでたようだ。


「カイト君、最初の出だし、確かにテンポは気持ちはやめだけど、

もっとダイナミクスつけて。その音じゃ表情がない」


さっそくのダメだしで、曲がストップ。

先生の模範演奏は、ロマンチックだった。それにフレージングが長い。

まねてみる。おっと、ピアノと少しタイミングが・・


「そこは、休符をしっかりとるし、気持ちも変える。」

「ピアノは、そこは、心の中でトランペットの

旋律を弾いてるつもりで。二人の気持ちをあわせて」


最初の8小節でつまづいた。

セリナちゃんの方をみると、すこし、唇をかんでくやしそうだ。

そう、前に合わせた時は、二人、ピッタリだったんだけど。

今、出来ないという事は、本番でも出来ない、もっと何度も練習が必要って事だ。


セリナちゃん、顔が暗い。俺は、セリナちゃんの方をむいて、大げさに深呼吸

してみる。ラジオ体操のように、振りをつけて。

彼女、最初、ポカンとしたけど、次から、笑いながら、参加。


で、今度は、1楽章は、ズレる箇所もなく、なんとか通った。

うん、ホっとした。問題は多い、二人とも、2人の先生がたから、山のように指示がでた。

次回のレッスンまで、個人練習、とあわせで、特訓だな。


次、2楽章を演奏。


ここは、ミュートをつかう楽章。

”あ!、高音、飛び出た””あっと、ちょっと歌いすぎた””あ!、音が短かった”

前半だけで、これだけミスったので、後半は確実に正確に演奏した。

終わって、俺は先生の顔をみれなかった。やっぱり・・



「この楽章は、比較的、自由に歌える所だけどね。まあ、カイト君が、

演奏中、失敗したって思った所が、克服する箇所。

他、簡単に出来た所ほど練習をしないと、本番でコケる可能性大だから。

それに、後半、旋律がピアノにうつって、ペットのほうが、音階やらアルペジオやら

テクニカルになるけど、だからといって、練習曲のように、演奏するのは、論外」


はい・・はい。すみません、ふがいない弟子で。

それにしても、俺って”失敗しました”って顔に もろに出るんだ。

本番で”失敗顔”した事・・・あるかもしれない。

冷や汗が出て来た。


「後半はピアノが旋律を弾く所は、もっとペットは音量を、落としたほうが

いい気がしますが」

「いえ、栄浦先生、ここは、テクニックをいかに音楽的に聴かせるか

勝負所ですから、もっと出してもいいくらいで」

と、森岡先生が実際に音を出す。

栄浦先生は、セリエちゃんと交代して、伴奏を始める。

とまっては、打ち合わせ、またとまっては修正しの繰り返し。


その会話は、とっても役にたつもので、楽譜を見ながら二人ともチェックをいれていく。

森岡先生と、栄浦先生のデュオの練習になってしまった。


録音中してるから、後でもう一度チェックだね と話して

二人の演奏や、音の合わせ方を聞いた。


あっというまに1時間たち、お二人とも、”しまった”って顔で

「悪い、ほら、辻岡君も日コンに出るし、俺も練習しないとね。

腕がにぶるし」


辻岡、新しい前歯になれてきたかな。

”お酒は飲むのはやめたほうがいい。

ウーロン茶で、なんちゃって酔っ払い でもしてればいいべ”

そんな俺の忠告を どこまで聞いてくれるか。。


「辻岡君、練習できるようになりましたか?」

「いまいちだね。歯が入っても、慣れるまで時間かかるかもしれない」


可哀想だけど、自業自得というか・・

彼は、数日前にコンパで飲みすぎて転んだのだ。

コンクールのプレッシャーがもう来たのか、

それとも、振られたか、多分、後者だ。


レッスン(半分、見学)が終わり、僕は、森岡先生からチケットを渡された。


「これ、チケットね。俺の同期で、今は東フィルにいるペット奏者。

今度、金管アンサンブル+ソロのコンサートがある。

行ってくるといい。

いろいろ煮詰まってるみたいだけど、そういう時こそ、他の人の演奏を聴くのが大事。

今日のおわびで、1割引きにしておくから」


当然ながら、タダじゃない。3000円の1割引きでも2700円。

まあ、仕方ない。聞いて最大限、勉強してくるか。

日付は、あっと今週の土曜日。セリナちゃんを誘ってみるかな。

俺は2枚もらい、ついでに、”演奏会のご祝儀で、これ渡しておいてくれ”と

ワイン2本、持たされた。


先に出てたセリナちゃんが、外で待っていた。


「あの、これよかったら、ピアノのコンサートだけど一緒にどうかなって・・

先輩のコンサートなんだけど、フランス物があるから、参考になるかなって」

日付は、都合のいいことに、今週の日曜日だった。


結局、週末はコンサート三昧だ。

本当は、俺はコンサートのあと、ファミレスで食事して とか”デートコース”

も、考えてたんだけど。。。多分、音楽三昧でそういう雰囲気じゃなくなるかもしれない。


大学の廊下で、二人で顔を見合わせて苦笑いした、

そして二人でため息をついた。


不運にも、昼抜きの俺の腹が、ギュルギュルギュル~ と盛大になった。

セリナちゃんに大受け。まあいいか。笑いは、健康にいいっていうし・・


事情を話すと、セリナちゃんは、学食でラーメンを おごってくれた。

ありがとう、感謝、女神さま。


お腹が鳴ったとき、実は俺は、”お金と練習時間の算段”

という、実にシリアスな事を考えてたんだけど、

俺の体の中では”空腹”が優先したらしい。

そのとき、セリナちゃんも同じことを考えてたと、後で知った。


お金(主に出費)と練習時間は、今のところ、反比例に近いんだよな。





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