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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
プロへの遠い道ー修行は続く
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高飛車先生と、可愛い先生。

今回は、悩める留学生の相談にのることに・・

 Bonjour 海人。

 悩み事の事、森岡先生から聞きましたよ。ドイツもしくはヨーロッパでプロとして生計をたてるか。そっちでも不可能じゃあないけれど、日本よりさらに茨の道になるかしらね。ヨーロッパはクラッシック音楽の本場、確かに需要は桁違いに多いのだけどね。現地の楽器愛好アマチュア、プロオケ、ソリストも、多く活躍してるのよ。その中に割って入って活躍できる人脈と覚悟と自信がないと無理ね。


 ところで、こっちは大変よ。芹奈がね、もう寝る暇もないくらい忙しくて。もちろん、コンヴァトの試験のための勉強もピアノも、私を中心に鬼コーチ陣に恵まれて、彼女、充実してるわ。


 問題はフランス語。試験に受かっても、フランス語検定に合格しなければ、渡航できないのよね。予想以上に芹奈が苦戦してるの。小百合は在学中にフランス語を専攻してたんで問題なかったのだけど。


 もちろん、私も若い時(ちょっと前よ)は、フランス語を勉強したのよ。何せ、ショパンはパリでデビューしたんだし。でも忘れてしまったわ。忘却とは忘れ去る事なりね。


 芹奈の試験は来年の2月だけど、それまではネガティヴな発言は遠慮して頂戴。芹奈の伴奏で、あなたの音はランクアップ出来たのだから、恩返しの意味でもね。


 2月の試験に彼女が受かった後は、フランス語でメールでもしてあげて。きっと海人のフランス語なら、芹奈も嬉しいだろうから。


青少年は、元気に悩んでください。

 チャオ 海斗      

               海人の心の指導者・康子

**** *** *** *** **** ***


 ”はぁ??”。康子先生のメールを読んでの俺の疑問だ。


 俺がいるのはドイツなんですけど。まだそのドイツ語もギリギリなんすけど。


 まさか、この俺に”フランス語を勉強しろ”と...


 確かに日本音楽コンクールで、セリナちゃんの伴奏で”二人でせっせと曲を仕上げた”結果、俺のトランペットの音色・テクニックは、グーンと伸びたのは事実だろう。森岡先生からも褒められた。


 セリナちゃんのためを思えば、フランス語の文章ぐらい...無理無理。俺が就職でも決まって安定してたら、出来るかも、いや、無理か。


 さすがに、俺も最初の”ボンジュール”ぐらいは読めたけど。大体、言語体系が違うんだよな。ドイツ語と英語は親戚みたいなもんだけど、フランス語・イタリア語は違うんだ。


 夜中の1時もまわった。セリナちゃんの試験が2月だ。俺はクラウス師匠にくっついて日本にいるかもしれない。実はセリナちゃんが試験が終わった時にでも、会いに行くつもりでいたけど、無理かもしれない。どこまでもすれ違いの俺たちか?


 ベッドの中でグルグル考えながら寝た。悪夢を見た。セリナちゃんと必死に追いつき、彼女がふりむくと、康子先生の顔という処で目が覚めた。せめて夢でも一目会いたかったのに、セリナちゃんにだ。


*** *** *** ****** ***


 次の日、俺は杉本哲太にメールした。彼は西洋の城マニアがこうじて、ミュンヘン大学で、西洋の城について勉強してるくらいだ。当然、フランスの城の事も勉強してるだろうし、フランス語が出来るだろう。何か勉強のコツみたいのは、あるかもしれないと思ったのと、ひさびさの息抜きがしたかったから。


 


 哲太とは、土曜日の夕方に会う事になったけど、ちょっとおまけがついた。


 香澄さんとクラウスからフェリックスの世話を頼まれたんだ。土曜日だし学校はないから、クラウスが帰ってくるまで一緒にいる事になる。


 二人とも仕事が重なった時、エドの奥さんにシッターをお願いしてた。いつものシッターさんは都合が悪いとか。ところが今週末、エド一家は旅行するそうだ。


”ごめんなさいね、海人。エドも、ベルリンのコンクールで入賞したあなたの伴奏をしたでしょ。おかげ様で名前が売れて、最近、仕事で忙しくなってね。子供達をあまり構ってあげられなかったの。子供達の不満が爆発してね、で週末、家族旅行するのよ”


 土曜の朝、一番にエドの奥さんから、電話があった。いやべつに、彼女が謝る必要なんかない。それにエドが音楽家として忙しいのは、喜ばしい事だ。家族旅行か。奥さんは、なんだか嬉しそうな声だった。でも、この冬の季節にどこへいくんだろう。


 フェリックスは夏にマヨルカ島に行ったきりだ。そう考えると少し可哀想な気がした。


 当日、クラウスと一緒にフェリックスを迎えに行き、クラウスはそのまま出勤(なんでも、オケのゲネプロとフロイデの打ち合わせだとか)、俺はフェリックスを家に連れてくる事になった。


「本当に申し訳ない。フロイデのほうは、もう公演の最終打ち合わせだし。クリスマス前は稼ぎ時だし。」


 朝食に、クラウスはフランスパンより硬い、ドイツパンをかじりながら、身支度してた。俺も彼も今日は少し寝坊気味で、朝食はパスかな。


 クラウスのは、さすがに心の半分以上は仕事のようだ。フロイデの仕事がなかったら、少しかは余裕があったろう。でも、フェリックス養育のためだからと、頑張って稼いでいる。香澄さんも”なんとか仕事で自立したい”と、週末、バイトで泊まりありの仕事をいれたようだ。


 皮肉なもんだ。みんなフェリックスの事を考えてるのに、結局、仕事で彼のそばにいる事が出来ない。


 ドイツ人ってもっと子供優先かと思ってたし、日本人の母親って、子供ベッタリだと思ってた。


「エドは家族旅行だって。クラウスもたまにはフェリックスつれて、実家に顔見せにいったら?」


「実家はもう兄の代になってるし、父は随分前に天国にいったきりだ。母はケルンの○▽★にいるから、今度、連れて行くかな。心が半分天国なんで、行っても、私が誰だかわかるかどうかさ。」


 ○▽★は聞き取れなかったけど、多分、老人ホームかなにかだろう。


*** *** *** *** *** ***

 大学近くの”クロイツェル”というカフェ(正確にはパン屋だけど、イートインがある)で待ち合わせ。


 哲太のほうにも大学生らしき日本人男子の連れがいた。メールでは何も言ってなかったんだけどな。


「やあ、オハ。これが、俺の師匠の息子の、フェリックス。小学校1年。ちょっといろいろあって、今日、一日遊び相手兼勉強友達になった。」



 フェリックスにはイスもテーブルが高く苦労してる。手助けするかと思ったけど、見てて可愛いいので放っておいた。それにこういうのも、いい経験かもしれないし。フェリックスは、こういう処が珍しいらしくて、店内をキョロキョロ見てる。


席についた後、自己紹介をしあった。


「こんにちは、フェリックス君、僕は杉本哲太。ヨーロッパの城の歴史とか勉強してる。テツタってよんで。それからこちらは、綾瀬 亮真、うちの大学でバイオリンを勉強してる。リョウ でいいよな」


 リョウマは、日本人にしては背が高くて痩せてた。ドイツ語で自己紹介したけど、フェリックスのほうが流暢に話せてた。


 前に紹介された歩夢ちゃんには、ふりまわされたけど、結果、ミュンヘン美術館巡りが出来て有意義だった。そういえば、彼女は元気をとりもどしたろうか?恋人のいる哲太に片思いして失恋したし、ここでの生活にも馴染まずに帰った。


「突然、悪いな。カイトの事、ちょっとSNSで出したんだ。友人が、ベルリンのコンクールで3位入賞したって。したら日本人の音楽コース留学生の間で話題になってね。是非、紹介してほしいと、頼まれたんだ。おい!リョウ。お前、自分から少し話せよ。日本語でいいんだぞ。」


 ちょっと内気でおとなしそうな彼は、草食男子だな。大学オケでも、弦楽器やってる男子は、そういうタイプが多かった。なんだか、まだ黙ってる、うん?何か考えてるっぽいか


「ごめんなさい、私は、問題3つ抱えてます。1つ。ドイツ語が上手くならない。2つ。ミュンヘンの店での会話に恐怖を感じます。3つ。ベルリンでのコンクールに出る。でも様子がわからない。日本、経験がない。」


 懸命にドイツ語で話してる。しゃべり方に、フェリックスが目を見張った。”僕のほうが上手く話せる”とか思ってるのかな。


「ええと、フェリックスには後で説明するね。日本語でわかりやすく。まず、2つ目。こっちのスーパー、役所、その他、係員の人が怒ってるように見えるのは、誤解です。何かでもたついたりしたら、機嫌が悪くなるかもしれないけど、”慣れてないんだ”と開き直ってればいい。大体、スマイル0円の日本のほうが、変わってるかもな。


 悩みの3つ目は、バイオリン部門の事はわからないです。俺の出たコンクールの様子なら少し話せる。日本でのコンクールの参加経験がないのは、問題はない。ただとまどうと思う。予備審査でDVDを要求する所もあるし。但し、細かい事は、リョウの先生の指示をもらうほうがいい。俺もクラウス師匠に一応は聞いてみたからな。」


 で、コンクールの事以外は、俺より滞在期間の長い哲太先輩のほうが、適任じゃないか。なんでだ?


「ああ、ごめんごめん。カイトってさ、ここに来て間もないのに、ドイツ語上手いし、日本人にありがちなオドオドしたとこもないからさ、何か秘訣があるのかなと・・」


 俺の不信の視線を哲太は、敏感に感じ取ったようだ。”空気読めるやつ”なんだな。


「秘訣なんかないさ。しいていえば、フェリックス君と一緒に勉強したおかげかな。あと、俺には後がないから。」


 そう、もう就職活動の前哨戦のコンクールは、とりあえずは終わったんだ。


 哲太が、フェリックスに小声でドイツ語で訳した。途端に、フェリックスは、吹きだして、笑い出した。


「ほら、食べてる最中に笑うから、こぼれたじゃないか」


 フェリックスは、チーズ・レタスにあとソウセージをはさんだサンドを食べてたので、大惨事になった、ったく。俺がこぼれた食べかすやらをとりながら、口の周りを、ティッシュで拭った。


「カイトは、僕の母さんみたい。」

「あのなー」

「フェリックス君、日本人の男子は、大抵は子供に優しいんだ。」


 哲太が、プっと笑いをこらえてフォローしてくれた。


 昼食後、公園を歩きながら、彼の”城研究の旅の話”を少しきいたり、世間話したり。1時間も話しただろうか、哲太はスマホを見て”あ、ごめん。急な用が出来ちゃった”と帰った。


 哲太の話しはおもしろかった。旅行での”出会った変な人特集”とか、失敗談とか日本語とドイツ語を混ぜながらだから、フェリックスもリョウも上手く話しに参加する事が出来た。フェリックスに”また、話しを訊きたい”とねだられるくらいだ。俺がいる間なら、そのくらいは出来るかな。


 哲太は、城マニアでそっち方面の研究者より、何か他の才能がある気がする。


 あ、しまった。彼にフランス語の事、訊くのスッカリ忘れた。


 

 リョウにフェリックスをまかせ、いや逆か。フェリックスにリョウをまかせた。彼はリョウにいろんな質問をしてた。フェリックスは、まだ小学校1年生だ。流暢なドイツ語で、”好きな果物はなんですか?”なんて、訊いて、リョウが必死に答えてる。


 傍から見ると、漫才で不思議なやり取りだろうな。




 


 

更新は2週に1度。ノロクてすみません。

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