俺の進路相談
ミュンヘンの自宅に戻ったカイト。師匠のクラウスから日本公演の話しをされます。
思ったより昼をゆっくりとったので、今度もあわてて列車に乗るハメになった。3時間とちょっと。
この間、ベルリンから帰ってくるときは、ひたすら寝ていたけど、今回は、満腹すぎ胃もたれしてる。そのせいか、”乗り物酔い”っぽい。頭が痛いんだ。いや、乗り物酔いで頭痛は起きないべ。思考力0だな、今の俺。
列車の窓から11月の冷たい空気が少し入ってくる気がする。俺は、エルンストさんからのアドバイス。プロの演奏者に話しを聞く事について、どういう方法があるか考えてみた。
学生時代にどんな勉強・就職活動をしたか?とか、コンクールについてどう思うか?ぶっちゃけ、今の収入で満足してるかとか・・・だめだな。内容がプライベートすぎる。俺はミュンヘンに、そこまでの質問を出来るほど懇意にしてるプロ演奏家はいない。
せいぜい、音楽雑誌に出てる、インタビュー記事を読むくらいか。
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ミュンヘンについて、俺はホームで生あくびをしながら、背伸びをした。ボヤっとしてたのか、後ろから来た人がぶつかった。”すみません”と言われたが、ホームで立ち止まってる俺も悪かった。ので、同じく”すみません”と返す。
さて、気持ちを切り変えないと。これからの進路については、頭の中で2時間ほど封印しよう。今夜の夕食のメニューについて、頭を働かせないと。
フランクフルトで食べた”シュペッツェル”という惣菜に挑戦する事にした。モチみたいなものに、炒めたタマネギとチーズがかかってるものだ。
あのモチみたいなものは、”イモ餅”かな?確かジャガイモに、粉を合わせてつぶし、餅のようにするんだっけ?実家ではたまに母さんが作ってくれた。まあいいか。わからなければ、ゆでたジャガイモにタマネギ&チーズをかけてもOKだよな。
スーパーに入ると、なんか賑やかな感じがした。少しづつクリスマスの準備用品が出てる。日本でもそうだったかもしれない。まだ11月のはじめだけど。
クラウスはクリスマス前、11月から年明けまで、コンサートが多く入ってるって、前に言ってた。後で予定を確認しておこう。俺も事務局専門下働きとして、きっと忙しくなるだろう。
フェリックス君は、香澄さんの処でクリスマスを過ごすのだろうか?
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家に帰るとすぐに夕食の準備。イモ餅はあきらめて、茹でただけの奴にしよう。あと、緑の野菜はやっぱホーレンソウかな。(ピーマンにするとクラウスが、微妙にイヤそうな顔をするし)
クラウスの帰りは遅かった。そういえば今日は定期演奏会だ。
俺はあわててPCを開き、予定表を見た。本番には○で印をつけてある。(降り番の時もあり)
今日のプログラムは、ショスタコービッチのバイオリン協奏曲、ストラヴィンスキーの ”La saere du printemps”
日本語で”春の祭典”だ。原題のフランス語は、見るだけでクラクラしそうだ。セリナちゃん。ピアノ特訓は当然として、フランス語のレッスンで大変なんだろうな。
クラウスが帰ってきたのは夜の11時前。午前様かなと思ってたけどさ。食卓につくなり、来年の最初の海外公演に、俺も行く事が決まったと、クラウスがチーズイモをほうばりながら、言ってきた。
俺のオケ事務局での仕事は、主に過去の資料整理(時々、物品の販売の手伝いに行くけど)オケがミュンヘン以外で演奏するときは、ついていった事はない。
「来年の1月末から2月はじめにかけ、札幌を最初に、東京、大阪と3都市での公演だ。カイトも一緒。カイトは札幌出身だと言ってたから、いると何かと便利だろうと、事務局にねじこんだ。」
「はぁ?俺に通訳の任は無理ですよ。地元のコネは出身高校と両親と友達だけ。集客にも貢献はあまりできないですけど」
もう一度、予定を確認すると、その海外公演、札幌は1月の末だった。この時期の北海道は雪で荒れた天候になることが多い。大丈夫なんだろうか・・・。それに札幌に同行して、そのまま帰ってくるな、って事?それともクビ? 深読みすると途端、不安になった。冷や汗がでてくる。まだ、決めてないのに、もう少し考えたかったのに。
「カイトのドイツでの国際コンクールは、エントリーした分は終わった。結果も優勝こそなかったけれど、3位に2回、ミュンヘンでは本選に残った。カイトはコンクールのために来たと聞いてるし、もしかして日本に帰国するつもりなら、これがいい機会じゃないかと。なにせ旅費がタダになる。
私としては、是非、ドイツで音楽家の道を目指してほしいところなんだけど。カイトが最近悩んでるのは、たぶん、その事じゃないかと思ったんだが・・・」
よかった。とりあえず、クラウスから破門されたわけじゃないようだ。それにしても俺が悩んでること、知ってたんだ。ジーンとくる。
このままクラウスの家に下宿(食事は作るけど)して、ドイツで生活できるほど稼ぐことが出来るかは、まったく未知数。
このダメダメうだうだの俺がセリナちゃんに書いたメールは、彼女の先生をいらつかせたようだ。っていうかセリナちゃん、俺の書いたメールを康子先生に見せたんだ。ガーン
メールはセリナちゃんからと森岡先生から。それに康子先生からもきていた。メール使えるんだ、っていうか康子先生、PC出来るんだ。アナログな先生なんで、意外。
康子先生からのメールだけ”ごみ箱”にポイしたいかも。きっとお説教のようなきがする。
森岡先生は、いろいろアドバイスしてくれた。今の日本の音楽界の状況。俺が国際コンクールで入賞した事への学内外での反響とか。最後に先生は、”どちらで活動しても厳しい。あえていうなら、日本でのほうが、少し楽に道を見つけられるかも”と。
俺の進むプロの音楽演奏家になるは、自分で開拓し、仕事をもぎとらなきゃいけない。もちろん、音楽プロモーターがつくなんて、夢のまた夢。
そこんとこは、日本もドイツも同じだって事だ。
日曜日か月曜日の午前1時台に投稿します。
2週間に1度のカメ更新です。申訳ないです。




