演奏会の会場までの長い道
フランクフルトについたカイトでしたが、会場につくと指揮者とオルガニストが、着てませんでした。
フランクフルトの演奏会は、11月6日(日)、夜の七時開演。場所は、新市街にあるセシリア教会。
俺はリハーサルのため、土曜日の午前の列車で到着。ミュンヘンからフランクフルトまでは特急で3時間ちょっとかかった。
市の中央にマイン川があり、中央駅と旧市街は川の北側。セシリア教会は、川の南側の郊外住宅地にある教会・・・住所を訊いた時、そういう答えがかえってきたのだけど。
2度目とはいえドイツの大都市。前回、クラリスとの共演の時は、行く時は近くの駅からタクシーで。帰りは民泊した先の奥さんが駅まで送ってくれたので、迷わないですんだ。
今回は、地下鉄から電車に乗り換え、1時間ほどでつく予定だったのだけどな。数年とはいえ東京のような大都市の交通網にもなれた。だけど、しっかり迷ってしまった。
それから、地下鉄駅まで戻ったり、クラリスのように反対方向の電車に乗ったりと、晩秋のフランクフルトの街並みを十分すぎるほど堪能した。市内に多く緑を残してるのがこの街の自慢だそうだ。
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やっと教会にたどり着いた時には、ヘトヘトでお腹もすいてきた。教会に入ると、ちょうど舞台をセッティングしている所だった。バウワーさんが俺を見つけて、声をかけてきた。
「やあ、カイト君。ちゃんと来る事が出来たようだね。」
出来ませんでした。。やっぱナビつかえるスマホが必要かな・・でも高いしな、今更ってのもある。やはり地下鉄の駅を降りたら、タクシーで来るべきだったかも。
「いえ、かなり迷いました。ヨーロッパはどこもそうなんでしょうけど、教会が多いのでかえって迷いました。ところで、もう舞台のセッティングをしてるようですが、終わり次第練習ですね」
「まずオケや合唱団の位置を決めるのに、テープで印をつけてるところ。今のうち、自分の場所を確かめるのもいいよ」
教会の会場となるお御堂は、広いけれど、お客さんはせいぜい入って300人って処かな。
天井を見上げながら、音響はどんなもんなんだかと、考えてみるが、聴衆と合唱が入る事で、だいぶ響きが消されるだろう。
トランペットの位置は正面、セカンドバイオリンの後ろ。オーボエさんが隣だ。その後ろには合唱団、一番後ろにはオルガン。
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続々とメンバーが集まりだした。ああ、誰に挨拶すればいいのだろうと、キョロキョロ見回してたら、ちょうどバウワーさんが、関係者らしき人と話しをしながらお御堂に入って来たので、挨拶をした。
「あの、オケのコンマスに一言、挨拶だけしておきたいんですけど・・」
「ああそうだね、気が付かなくてごめん。オケは地元、フランクフルト管弦楽団からの選抜団。オルガン奏者と君の二人がエキストラだ。あああそこにいる○★◆★の男性が、コンサートマスターの、シュナイダーさんだよ」
そういって、ヴァイオリンを持った中年すぎの男性をさした。バウワーさんの話しで、途中、聞き取れない単語があったけど、多分、髪の毛の薄い(もしくはハゲ)とかいう言葉が入るのだろう。
「こんにちは。今回、エキストラでよんでもらった、カイト新藤です。」
日本でなら、”今日はよろしくお願いします”なんて言うのだろうけど、生憎、英語でもドイツ語でも、適当な文章がみつからなかった。
シュナイダーさんは、握手しながら笑ってる。
「やあ、君が噂のカイト新藤だね、林檎使いで有名な。ははは。私はこの臨時弦楽団のコンマスをする事になったシュナイダーです。今度、是非、カイト君の忍者の技を見たいですよ」
”はい??”確かにヨゼフに林檎使いと命名されましたが、忍者とは・・それに、林檎使いってベルリンでの話しだし、ここはフランクフルト。ザクセン州だ。
「シュナイダーさん、忍者はいないんですよ。カイト君が困ってますよ。忍者はいないって事にしておかないとね。」
いやいやいや、いないから。忍者を演じる役者はいるけれどさ。ああもう説明するのが面倒だな。
「ところで、バウワーさん、指揮者のメルビル先生はまだでしょうか?後、5時20分前ですから、打ち合わせとか、しておきたいのですが」
「すみません。それがまだなんですよ。地下鉄をおりたらタクシーで来る予定なんですけど。携帯もつながらないので、しょうがないです。まあ、大丈夫でしょう、多分。」
多分じゃねえよ。指揮者さん、もしかして地下鉄を乗り間違えたとか。
席につき、楽器のウォームアップしてると、肩を叩かれた。隣に隣の席に、オーボエ奏者の男性が話しかけて来た。痩せていて目が大きく、飄飄とした雰囲気の人だ。
「やあ、私はオーボエのミハウ。ところで、さっきコンマスと話してたけど、ピッチの話しはでたかい?」
俺は彼にまず自己紹介して、指揮者がまだ到着してない事を伝えた。まあ、一目瞭然なんだけど。
オーケストラは、音を揃えるため、ピッチを揃えるが、大抵は442ヘルツだ。でも、今回はヴィバルディでバロックの曲で、たいていは440にする。古典調律ってやつだ。2ヘルツ下だとおよそ半音低い音程になる。
「ミハウ、それがまだわからないんだ。440と一概にいえない。何せ教会のオルガンが入るから、オルガン次第なんだ。さすがに、オルガンはピッチの調整が簡単に出来ないだろ。」
と会話に入って来たのは、コンマスのシュナイダーさん。そこにバウワーさんが、時計を見ながら”実はオルガニストがまだ来てない”と・・・。
予定は未定ってとこだな。
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結局、練習の始まったのは6時少し前。
指揮者のメルビル先生は、やはりとんでもない方向の電車に乗っていた(指揮者先生だったけど、マネージャーの類の人はいないようだ)初老をすぎた白い口ヒゲがチャームポイント。見た目ナイス紳士で中身天然の温厚そうな指揮者だ。
オルガン奏者にいたっては、予定表に間違えて違う教会名を入れてたそうで、その教会でもちょうど他の演奏会の予定があったとかで話しが混戦したそうだ。
そんなゴタゴタを乗り越え、いざ、リハが始まった。
フランクフルトの音大声楽科を出た有志が、新しい合唱団を作った。今回はその船出になる発表会だそうだ。
ちなみに、ピッチは441くらいだそうだ、”なにせ古いオルガンなもので”とバウワーさんが、しきりに謝ってた。
「正確にいうと441,5くらいですかね。ただ他の音があってるとは限らないかもしれない」
というオーボエのミハウさんの言葉で、俺は不安になった。
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