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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
プロへの遠い道ー修行は続く
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ミュンヘン、第二の我が家にて

コンクールで3位入賞をしたカイトは、ミュンヘンへ戻ります。

 ミュンヘン中央駅を降り、地下鉄とトラムを乗換、やっと帰ってきました。


”土曜日に買いだめをする”って、ドイツ人には当たり前のようだけど、ウチには何か食べられるものは残ってるだろうか?なにせクラウス先生は、今、金管サンサンブル・フロイデで頭が一杯だ。ミュンヘンについた途端、俺は”主夫モード”になった。



 ドアを開けるなり、フェリックス君が飛びついてきた。こう久しぶりに会った気がしたが、会えなかったのはほんの1か月ほど。俺は練習で頭が一杯だったせいかもしれない。


「カイト~会いたかった。又、一緒にゲームしようよ」

「まず荷物をかたすから、ちょい待ってな。それとゲームの前に俺と一緒に勉強してくれるか?」


 嬉しそうにうなづく頭を撫で繰り回した。フェリックスはぐんぐんドイツ語が話せるようになってる。今度は俺が習う番かも。トホホ。本でも読んでもらうか。


 荷物を部屋に置き、奇跡的に開いていたスーパーでゲットした野菜の入った袋だけ持って行った。

 

 先生はソファで、フェリックスと楽しそうに話してる。これだけ上達したんだなフェリックス。クラウスは僕を見るとすぐハグしてくれた。


「カイト、3位入賞おめでとう、よくやった。」

「ありがとうございます。これも先生の指導のおかげです」


 すごく喜んでくれた。ただハシャグ事はなく平然としてる。”私の弟子なら当たり前、なぜ優勝できなかった?”なんて、分析がはじまりそうだ。


 ヨゼフやハンスはコンクール結果がわかった時にバカ騒ぎで祝福してくれた。これって現職のオケ奏者と一介の学生の違いなんだろうな。


** ** ** ** ** ** **

 予想通りというか、夕食の材料は保存食(?)しかなかった。パスタと缶詰のトマトソース。あと買ってきたキャベツで、トマトソースのパスタ(スパゲティというレベルだ)と、ゆでたジャガイモとキャベツのサラダを夕食に作った。3人前。


 フェリックスは大歓声だったけど、パスタに混ぜたピーマンを残したので注意したら、ふくれっ面になった。どこの国の子供も同じだ。



「カイト、私もピーマン嫌いなんだ。やっぱり親子だから似てたんだな」


 クラウスは満足げにしてるけど、子供共通の敵みたいなもんだから、ピーマンは。


「カイト、僕、だいぶ速く走れるようになったよ。この間はクラスで3番になった」


 どうもさっきから、会話の中で俺が母親役になってる。これって、夕食を作る人にもれなくついてくるもんなのか?


 クラウスは”そうかそうか”と、手放しで喜んでる。エリザベトさんが言うには、フェリックスは、その年齢の平均からすると、体が小さいのだそうだ。そのせいで、体力的にも少し他の子より劣ってるのだと、彼女はエド奥さんで保育ママ、保育の専門家、経験豊富な彼女のいう事なら間違いない。


 フェリックスは、自慢の俊足(?)クラウスと俺に見せたいらしく、家中を階段を上り下りしたり、走ったりしてる。子犬か子猫のように大はしゃぎだ。


 ここは香澄さんのアパートよりも、もちろんずっと広いのでそのせいもあるのか。ここはちょい郊外の一軒家。多少賑やかでも父親であり家主のクラウスが注意しないのだから、まあ、いいのだろう。


「そろそろ香澄さんの処へ、送っていく時間じゃ?」

「香澄はな、なんでも”ツアーのガイドをしてて、”今日は泊まりで仕事”だそうだ。昨日、メールが来てた。まったく、私がいなかったらどうするつもりだったんだか。で、明日は私が学校へ送って行く。」


 そう言うクラウス。なんだ?彼のその作り困り顔。嬉しいのがまるわかりだ。それにしても、香澄さんがツアーのガイドね。そういえば前に、美術館巡りで、日本人の老夫妻を案内をした時、とても楽しそうだった。彼女はガイドの仕事がしたかったんだろうな。


 

 台所を片づけたら遊ぶ という約束したんだけど、フェリックスは待てずに寝てしまった。クラウスが2階に抱いていく途中、振り返ってボソっと”後で音楽室で話しがある。”と


 ウワ!真顔のクラウス。俺、今回のコンクールのダメダシされると、一瞬で凍り付いた。


** ** ** ** ** ** ** **


 音楽室で練習はするつもりだった。ただ、扉を開けた途端、”うわ~~”っと、頭を抱えた。


 書類の山とビールの空き缶。書類はフロイデ関連だったら、ヘタにいじらないほうがいい。空き缶を集めて台所に一旦、置く。1週間でこれだけ飲む?ってか、一か所に集めるくらいすれよな・・たく。


 床の上で、自分の場所が確保できる所をさがし、譜面台を組み立てていると、クラウス先生がきた。心の準備だ!どれだけダメダシされても、くじけない、泣かない、逆切れしないの、鋼のメンタルを・・・無理か。せいぜいか”皮の鎧”くらいでメンタルを保つしかないよな。


 構えてた俺は、先生の第一声で拍子抜けした。


「カイト、すまん、書類は動かさないでくれ。この後、整理するから手伝ってくれるか?」


「はい、わかりました。で、話しってその事ですか?先生」


 一言、あき缶について文句を言いたい所だ。結局、あき缶の処理は俺がする事になるんだ。少しでも片づける人の身になってほしいもんだ。


 俺は少し不機嫌な顔をしてると思う。そんな空気を読まず、クラウスは意外な事を切りだしてきた。


「カイト、私に秘密にしてる事はないか?」


 はぁ??いやその、美少女のクラリスに抱きつかれたとか、美人のエリカにハグされたとかか?それとも、ベルリンでビールを2L飲んだ事か?秘密じゃないけど、そういうの話してほしい人だったかなあ~?


 俺はしばらくフリーズしてた。心当たりを探すというより、何が秘密なのかサッパリだ。


「なんの事?ベルリンでの俺の行動?それともコンクールの演奏についての何か?」


「今日、フェリックスから聞いたし、エリザベトさんにも確認した。前にフェリックスの学校から連絡でカイトが迎へに行ってくれたとか。お礼を言わないといけない。それにしてもなぜ私に言わなかった?」


 感謝してお礼する気持ち、全然なしね。その口調。


「秘密にしたって訳じゃない。あの時、クラウスはイギリスで演奏旅行中。香澄さんは貧血で跡れて病院にいた。エドのところも不在だったらしくてさ。ああ、貧血については俺は香澄さんに忠告したよ。午前中に勉強、午後に二つの仕事を掛け持ちは、無理のしすぎだって」


 あの時はミュンヘン音楽祭のコンクールとかあって、なんだかメチャ忙しかった時だ。


「日本人の好きな”ソンタク”とやらで、連帯して私に黙っていたのか?」


「秘密にしたって訳じゃない。クラウスに言うと、又、もめそうだろ?子供を放置したとかなんとかで。香澄さんがそこまで無理しても頑張る理由は”自立したい”からだそう。大事な事でもないし、エリザベトさんも必要がないと思ったから、何も言わなかったんじゃないか」


 冗談じゃないよ、クラウス。俺はあなたの弟子だけど、香澄さんとの仲介者でも、ましてフェリックスの母親でもないんだ。


「香澄には・・・もう少しすればブロイデのほうで、稼ぎが増える。そうしたら、こういう事も少なくてすむんだ。」


 あーあ、墓穴をほったな。結局、彼女に十分な生活費を渡す事の出来ない自分にかえったじゃないか。


「香澄さん、なるべくクラウスに負担かけたくないって、言ってたしさ」


 ・・・ウソである。本当は香澄さんの言葉は”クラウスのお金は使いたくない、もらいたくない”だ。ただ、これを言ってしまうと、もう決定的に復縁無理の結論になりそうで、俺は黙っていたんだ。


 




 

日曜か月曜の深夜1時~2時くらいに、更新します。カメ更新ですみません、

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