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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
ドイツへ留学する
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本選結果発表と宴会

本選がおわり、結果が発表されました。カイトにとっては、一応最後になるかもしれないコンクール。

 本選最後の演奏が終わった。ホールは熱狂的な拍手でわれんばかり。エリカの演奏で聴衆は、もうハイテンション。それだけ魅力的で人の心をつかむ演奏だった。もちろん、俺の聴く限り、ミスった所はなかったし。


 優勝は彼女で決まりだろう。少し残念な気もするが、少しでも一緒に練習した仲と思うと、誇らしい。俺にはこんな演奏は、出来なかったけれどさ。


 それほどラストのエリカの演奏はすごかった。予選では彼女の音色には注目したけれど、演奏自体はソツなくまとまってるって感じ。本選でこれほど化けるとは、予想してなかった。


 彼女の本選の曲はアルチュニアンダンス。(正しくは、ロシアの作曲家、アレクサンドル・アルチュニアンのトランペット協奏曲)アルメニア地方の民謡を元に書いた曲。ポピュラーな曲で吹奏楽ではおなじみだ。


 彼女の演奏は、異国情緒にドイツ風味を加え、キラキラの音で聴衆を魅了した。


 俺だって、1番手ながらも、オケ相手にいつも以上の演奏が出来た。緊張したが、それすらも曲の一部で楽しかったくらいだ。


 他に抜きんでる演奏はなかったと確信してた。ただ午後も終わりの方になり、エリカの前のアーノルドのヴァンベルグの曲を聴いて、その音楽解釈のすごさに脱帽だった。だけどそう差はないように思えたのだけどな。


 エリカの演奏は完全に俺の演奏の上をいった。日本で日コンの時は、優勝者に”はるか上”をいかれたが、今回は途中までは、自分と同じくらいと感じていた。本戦でこうもひきはなされるとは・・・


(ファイナリストに選ばれただけでも、すごい成果じゃないか)そう自分を慰めながら、本選がおわりホールを出る聴衆で込み合う中をすりぬけ、ホールではボーっと待っていた。もちろん、結果発表を。


 出るまでには時間はかかるだろう。いやもう結果は予想できる。ヨーロッパに留学して、俺がエントリーしたコンクールは、今の処これで終わった。本戦には出る事はできたものの、優勝までの道は別なのかもしれない。


 ロビーの人ごみの中から、ヨゼフとハンスが俺のほうへ来るのが見えた。自分は彼らの分まで頑張ったじゃないか。


「よう、カイト。浮かない顔だな。本戦出場者のくせに」

「いや、俺なんか、メインの添え物のニンジンのようなもんだったな。エリカに完全にノックアウトされたよ」


 自嘲気味に笑ってごまかしたけど、落ち込んでるのはバレバレだろう。


「彼女はあの曲がピッタリあってたんだ。他の曲ではあそこまでいかなかったと思うよ。」


「そうそう、ヨゼフの言う通り。だいたい最後にアルチュニアンだなんて、順番はクジで決まったとはいえ、聴衆を盛り上げるには最適だったな」


 つまるところ二人ともエリカは超すごかった、と言ってる。皮肉屋のハンスもだ。


 噂をするとなんとやらで、顔を赤く上気させたエリカがやってきた。


「私、すっかり舞い上がったわ。やっちゃったかも。演奏はギリギリ破綻しなかったけどね。随分、リズムにのりすぎた」


 彼女なりの反省点らしい。なるほどな。彼女はキレてたか。あの感情丸出しの演奏は、俺は”計算されているもので頭の中は冷静”と、思ってたんだが。


 しばらくして、本選の結果が発表された。1位はエリカ、2位がアーノルド、で3位が俺だ。みんなでエリカに優勝のお祝いを言う中、TVクルーらしき人達が、彼女にインタビューをにきた。


 俺だって3位だ。けど、ここは邪魔しないように彼女の側を離れた。まだ会場はざわついてる。報道陣が入ったせいか、エリカの処に多く人が集まってる。そのうち入賞者と各賞受賞者は、すぐに事務局に来るようにアナウンスがながれた。


「よんでるよ。きっと賞金の事かもね。ああ、エリカはガラ・コンサートの事とかかな」


 ガラ・コンサートは各部門の優勝者たちのお披露目コンサートだ。こういう処で顔を売るのもプロになるには大事なんだよな。3位入賞は嬉しいけど、こういう機会をのがしたのは、つくづく残念。


 ヨゼフとハンスは、スマホ片手にお互いにどこかに連絡してた。


「カイト、今日、大学の有志でエリカの優勝祝賀会をやるん事にしたんだ。一緒に祝ってくれるよね?」


 そうヨゼフは言ってきたけど、同じ大学の生徒でもないし、きっと話しが合わないだろう。っていうか話がわからないかも。俺はドイツ語初心者、ヒアリングは中学生レベルだ。でも、とりあえず少しだけ顔を出す事にした。こういう場所はドイツ語を習得するチャンスだ。それにベルリンで友達を作るのもいい。


 大学時代に友達とワイワイやってきた反動で、このごろ少し寂しくなってきたころだった。(これってホームシックというのか?)


 11月にプチ演奏会のエキストラで出るのでその練習もしたいけど、どうせ今日はミュンヘンへは帰れないのだし、少しくら息抜きしてもいいだろう。


 ミュンヘンでは、一緒に学ぶ仲間がいないのはもちろんだけど、クラウス師匠の個人レッスンとバイエルンオケの事務のバイト(下働きで肉体労働専門)と、家事で忙しかったのもある。ただ、自分から交友範囲を広げてしまうと、それにかこつけ逃げてしまいそうで、怖かった。


 ボッチで頑張ってたのは、母の虎の子貯金をもらって留学したからには、ニヘニヘと笑って遊んではいけないとも感じてた。


 日本へ帰る事にになるのかな・・・運賃や諸経費を考えても、貯金はまだある。後、3か月くらいはなんとかなりそうだし、コンクールがないので移動してお金が余分にかかる事もない。


 もう少しドイツで勉強したい。


 ホールのある建物を出ても、まだヨゼフ達は他の友達との待ち合わせるため、スマホで連絡とりあってる。


 俺は、はやくセリナちゃんに報告したい。彼女は喜んでくれるだろうか。それとも”また、3位・・”と絶句するだろうか。師匠にも笑われそうだ。”君は3位を狙ってるんだね”と


 考え事をしてる時に、肩を叩かれると本当にビックリする。しかも日本語で話しかけられたので、二重にビックリ。


「やあ、新藤海人君じゃないか。3位入賞おめでとう」


 振り返ったら、大き目の顔の中年男性(日本人)。髪はウェーブのかかった天然パーマで肩まである黒髪。中肉中背で、黒縁眼鏡。最初に見た時、日本のあるお笑い芸人を思い出したんだ。彼は今日のオーケストラのビオラ奏者だ。


「ありがとうございます。今日はどうもありがとうございました。・・・それとすみません。リハと違うテンポでいきました」


”オケがいまいちのムードだったから、本気モードを出してほしくて”なんて、理由は、俺の胸のうちだ。


「君、田中 圭 に似てるな。いやね、昨日、日本の映画を見たんだ。二人の刑事もので有名な奴。いわゆるイケメンさ。ああそういえば、新藤君の演奏は過度に緊張する事もなくノビのある音で、日本人には珍しかったな。」


「はあ、ありがとうございます」


 映画って・・俺が似てるって、なんだか話が、よくみえなかったが、演奏をほめてもらったのは、わかった。


「あっと、自己紹介、自己紹介。私は 木村 省吾。オケのビオラ奏者、トップ横に座らせてもらってる。出来るなら、もう一つ後ろのほうが楽なんだけどな」


「新ためまして、俺、いえ私は新藤海人です。桜が丘音大大学院1年で、国際コンクールに挑戦するのにミュンヘンで、シェーンバッハ先生に師事してます」


”そうかそうか、青年、頑張りなさい!と、バシバシ背中を叩かれた。悪い人じゃないけど、独特のマイペースだな。なんだか大学時代のアマオケにいた、ビオラの先輩を思い出した。親切で面倒見のいい先輩だったけど、やっぱり同じ雰囲気だった。


 結局、ヨゼフの仲間たちと、木村さん俺とで優勝祝いパーティになった。なぜ木村さんも一緒かというのが、謎だ。いつのまにかそうなってた。


 宴も盛り上がってきたところで、木村氏が僕に聞いた。


「ミュンヘンのビールとベルリンのビール、どっちがおいしい?」


 はぁ??音楽の話じゃないの?トランペットとコルネットのどっちが好きとかさ。


「はぁ、そですね、どちらかというとベルリンのビールの方が好きですね。あっさりしてて」


 日本のビールに似てるし・・・俺もだいぶ酔ってきたかも。明日帰るのだからそこそこにしないと。


 物事は予定通りいかないものだ。俺の目の前には、ビールのピッチャーがドンとおかれている。居酒屋でビールをつぐあれだ。4Lくらい入るでかいやつ。


 赤ら顔の知らないドイツのおじさんが、俺に大声で笑いながら置いていった。


「”ベルリンのビールの方が好きとは、見どころのある日本人だ。遠慮なく飲め” ということだって。がんばれ!」


 いやいやいやいや、俺は練習は頑張るけど、これは違うでしょ。それに無理だから・・・


 俺の発言でビール園(ビール工場+居酒屋)は。盛り上がり、つられて俺は、2Lちょい飲んだ。そこまでは覚えてる。その後、爆睡したそうだ。多分、疲れも出たんだろう。



 翌朝、帰りの列車に、発車時間ギリギリに乗り込んだ。


 


 


 


 


 




いろいろあって、更新の間があいてしまいまいした。この章の山場だったんで、時間もかかりました、

ごめんなさい。日曜か月曜の午前1時だいに、更新していきます。

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