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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
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合同レッスン計画

レッスンも自分の練習も、ハードになって来た。

コンクールの課題曲の練習は思うように、進んでない。

一日に、平均、6時間は練習するんだけど

基礎練習と練習曲で時間の半分以上は、必要と思ってるし。


気持ちはあせってる。課題曲のブログの”ポストカード”フランセの”ソナチネ”は、

曲のアナリゼ(分析)も十分じゃない気がする。

ジョリベは、レッスンでやった曲だけど、もう一度譜読みからやり直した。


それに、ハイドン。単純明快な音楽に聞こえて、ところどころに、落とし穴がある。

この間の、アマオケでの練習で気づくなんて、俺も遅いというかトロイ。


今日は、本選の課題のジョリヴェの曲を、遅いテンポで練習してみた。

音や音色の確認はできるけど・・

途中、三連符で速いタンギングのところは、支持通りのテンポで練習しないと

意味がないのだけれど。

均一な音で、ゆれずに 音色は柔らかめな感じで。当然だけど、難しい。

俺はため息をついて、一休み。唇と舌の感覚が、微妙だ。続けて練習しすぎたかな。

管楽器奏者にとっては、口の周りの感覚って大事だよな。

太って、顔まで肉がついたら、また、変わるし。。


そういえば、この曲も伴奏も難しいって、セリナちゃんが頭を抱えてた。

”大丈夫、予選で落ちるから”と冗談半分本気半分で言って、笑ってごまかしたけど。


これを逃すと日コンは3年後。コンクールのための勉強。励みになっていい点もあるけど、

”勝つためには”式のhow toになりがちなのが、気になる。

森岡大先生の”ここはこういう吹き方で” と手取足取り指導してもらってる。

”ここは、俺はこう吹きたい”と思う事があっても、まず、先生の指示通りに

演奏できてからだ。今は、それすら出来てない。


一休み後、また練習に入るまえ、セリナちゃんが練習を聴きに来た。

課題の、フランセとA・ジョリベの曲、トランペットのパートだけ、

一度聴きたかったそうな。


俺はレッスン室のインスタントコーヒーを二人分入れ、休憩を延長した。

マウスピースがベトつくので、俺はノーシュガーで。エネルギー補給は、次の休憩かな。

セリナちゃんは、コーヒーに砂糖どっさり入れて大事そうに飲んだ。


さて、再開!フランセとジョリベだ。

人前で演奏するのは、緊張する。

だんだん、調子にのってきた。

セリナちゃんは、練習室にすわり、伴奏の楽譜を見ながら聞いてる。

鉛筆でチェックを入れてる。


フランセの2楽章は、ミュートをつけて。ピアノが主でペットが従の所もある。

こういう処は、小さな音(P)にしても会場に響く音でないとだめだ。

練習室では、そういう加減がよくわからない。


次は、難敵 ジョリベの「コンチェルティーノ」だ。

この曲、フィナーレは、また、テンポが2段階アップする。

ここらへん、細かい音をピアノとあわせるのは、至難の業だな。


「ふー。大変そう。やりがいあるけど。気を付けるのは、最後のリズムが同じ所。

ここを伴奏とあわせるの難しそう。トランペットがリズムがあっていれば問題ない

かもしれないけど、でも、自分がぶれて、カイトを巻き込んでしまったら?

音を聴いてからじゃもちろん遅いし、どうする?アイサインのヒマはもちろんない。」

セリナちゃんは、楽譜をみながらブツブツ言ってる。


彼女の目は、真剣で僕の事も周りの様子さえ視界にない。

楽譜と音だけの世界にダイブしてる。


今日の練習室での時間は終わりだ。

最後にセリナちゃんは、ピアノの曲を聴かせてくれた。

聴いた瞬間、あれ?って思った。


曲名はわからないけど、印象派の曲だ。

6月のジメっとした空気が、軽くなった気がした。窓を開けると、乾いた風が

吹きこんできそうだ。


「これね、ドビュッシーのベルガマスク組曲・パスピエって曲。

フランセの曲の1楽章と似てると思って。」

「パスピエってどんな意味?」

「古い舞曲の名前だそうよ。まあ、これじゃもちろん踊れないけど」


パスピエという曲は、速くて軽いタッチ。なにより、何か懐かしいような、

何かを思い出して主人公が懐かしんでるような曲に聞こえる。

フランセの1楽章も、俺はそう感じた。

例えば、15年後、札幌の母校を行ってみる。

中に入らずに、外を見るだけで、なつかしさと思いでで一杯の気持ちになる。

いろんな事を思い出す。楽しい事もツライ事も。

そんな映像を想像すると、BGMは、このパスピエという曲か、フランセの1楽章かな。


「フランセの曲は、印象派の雰囲気があるんだな。比べてみてそっくりなフレーズだし」

「フランセの曲は好き。綺麗な旋律と響き」

「「で 問題はジョリベ」」


二人で、はもって、ため息をついてうなだれた。

「頑張ろう。難しいけど絶対に半端にはしない。」

そう気勢をあげたセリナちゃんの目は、ギラギラ光ってる。

「そうだ。今度のレッスン、一緒にやろう。僕の師匠とレッスンで伴奏をしてくれる

セリナちゃんの師匠と。で合わせた曲をみてもらう どうかな?で、大まかな注意点を

だしてもらう」


次の俺のレッスンの時、森岡先生に二人合同レッスンの事を聞いてみた。

伴奏の栄浦先生がきたので、日程も決めた。

2週間後に1時間とった。


「カイト君、セリナちゃんはどう?」

「?・小百合ちゃんと比べると、さすがに地味っぽいですけど」

どう?って、演奏の事かな?まだ練習としては2回しか合わせてないし、

ジョリヴェで苦労しそうというのは、一致しただけだ。


まあ、慰問演奏で一緒に演奏したけど、そこでは俺は進行役もかねてて、

そういう意味で余裕なかったし、相性とかは、考えなかった。


栄浦先生は、セリナちゃんが病気で1年留年してるから、話をするのに、

少しだけ気を使って欲しいとのこと。

栄浦先生は、詳しい事は話さなかったが、

”本当はこういうことで”と、話したいって栄浦先生の顔だった。


セリナちゃんは、その突然に、慰問演奏に協力してもらって、感謝してる。

俺も、院にいるうちに、プロへの道が見えなかったら。

卒業後、1年以内には社会に出て働く。

音楽家のプロへの未練は、そこで断ち切るつもりだ。


セリナちゃんは、将来をどう考えてるのだろう。

ピアノ科だし、女子だし、例えばピアノを自宅で教えるとかもできる。

なんとかなるのだろうか。

管楽器に比べれば、指導のプロの道は広そうだけど・・



クラシック音楽家の世界は、”コンクールで優勝=山のような仕事のオファー”

ではないのだ。

才能があったうえで、コネと出来るならお金、そしてタイミング。

それで仕事が決まる世界なんだ。

入学前は、そんな事、俺は、まったく知らなかったけれどさ。


お気楽トンボだったんだ。







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