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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
ドイツへ留学する
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日本からのメール

セリナちゃんと森岡先生からのメールがきていて、帰宅したカイトはさっそく開きます。セリナちゃんの日コン結果は・・・

 家では、クラウス先生は、金管アンサンブルグループ・フロイデのミーティング中だった。


 アルコール類なしで、テーブルに日程表らしき紙やらひろげ、真剣に打ち合わせしてた。


「よ、カイト。お疲れさん。コンクールはどうだったい?」

 ホルン奏者のフランクは、顔をあげ、他の二人も俺を興味津々だ。


「1次は私は心配はしてなかったよ。後は2次の課題曲の出来しだいだな。」


「え?でも先生、フランセの”ソナチネ”は、日本のコンクールで課題曲でやってますけど・・」


 2次予選の課題曲はフランセの”ソナチネ”、あと1曲は自由曲として、トマジの”triptyque"を選んだ。去年の日コンでやったフランセの曲が、出るので、ラッキーと思ってたのだけど。


「この曲は、カイトの恋人が伴奏した曲だろ。今回は伴奏はエドだ。そこの処を間違えず、カイトとエドの曲作りを心がけないとな。」


 この先の問題点を軽くアドバイスくれたクラウス先生。

書類をトンとテーブルで揃えながら

”まあ、失敗はないだろうけどな。失敗がないだけでは2次予選を通過するのはちょっとキツいかもな”なんて言って背伸びをしながら、”コーヒー4つよろしく”ときた。


 俺の2次予選をほぼ心配してないというか、多分、要所要所で、ガッツリダメダシしてくるのだろうな。2次予選まで期間は短いが最低でも2回は課題曲・自由曲をチェックしてもらうつもりだ。


 コンテスタント達は、俺には実力がそれほど差を感じなかった。いや、あきらかに”駄目かな”という人は、80人中15人。緊張からくるケアレスミスや、上がってしまい演奏も舞い上がったりした人達だ。


 台所でお湯を沸かしながら、腕を組んで考えてると、フランクが、テーブルの食器を下げてきた。


「コンクールは、伴奏者の音は評価には入れないから、気にするな。ただ、エドの意見もちゃんと聞く事かな。なにせ、”トランペットとピアノのためのソナチネ”だからさ。」


 いや、俺はヘンデルの練習の時に学んだ。利口になったつもりだ。エドは、俺なんかよりずっと年上で、伴奏歴も長い。二人で話し合い曲を作っていくのが、ベストだと。


 コーヒーにお湯をおとしてるとき、リビングから”これから音楽室で4人で練習するつもりだから、何か軽いもの作ってくれないか”と、クラウスから声がかかった。


 帰りの時間は知らせたし、買い物する事を言ってあるのだから、一言いってほしかったよ。1週間弱家を留守にしたので、食糧は少なくなってるはず。


 朝食用にと買った食パンを、チーズトーストにしてコーヒーはポットに入れて、居間へ持って行った。ちなみに音楽室は基本、食べ物・アルコール禁止。ニオイがのこるから。


「悪いねカイト君、頭を使ったんでお腹が空いたんだ。練習終わったら、4人で街に飲みに出かけるけど、一緒に行く?お礼におごるから」


 チューバのユンディが、申し訳なさそうに、俺をさそってくれた。チーズトーストを一口で食べる、楽器と同じく大きい。1枚じゃ足りなさそう。


 俺もお腹すいたし、あるだけのパン全部を、ウィンナーはさんだり、バターを塗ったりした。あ、フェリックス君と香澄さんの分・・て考えて、気づいた。二人はもう別に暮らしてる事を。買い物の時は忘れてた。しまった、買って来た牛乳、少し多いか。


 4人は本当にお腹がすいてたらしくて、作った分、ペロリと平らげて、音楽室へ元気よく練習に向かった。


*** *** *** *** ***


 今日は、フロイデの練習が終わった後に、基礎練習だけしよう。俺はPCを立ち上げメールを開いた。セリナちゃん、森岡先生からきてた。


 ”カイトへ”

 {1次予選通過おめでとう。カイトなら、大丈夫と思ってました。

 私のほうは、日コンの本選は、4位でした。選んだ曲・ラベルのPコンは難しくて、頑張ったけど、ジャズ的なメロディの部分が演奏が堅かったって、康子先生から言われたわ。


 ところで、急な話しだけど、来年2月にフランスのコンセルヴァトワールの試験を受ける事にしました。チェレンジ精神で玉砕します。なんてね。もちろんこれからピアノは特訓です。あとフランス語も。コンヴァトの試験を奇跡的に受かったとしても、フランス語検定を合格しないと、入学できないんですって。もう、1日が48時間ほしいくらい忙しくなるかも。


 2月にそっちで逢う事が出来たらとても嬉しいのだけど・・2次予選、頑張ってね。またメールします}


 2月に来るんだ。俺はもちろん節約してるし、バイトもしてるから、お金はギリで間に合いそうだ。当然、俺がフランスまで会いに行く。自慢じゃないけどフランス語は、”メルシーボク(ありがとう)”しか知らないから役立たずだけど。


”新藤海人君へ”


{1次予選通過、おめでとう。なんといっても国際大会だからね。強豪も天才も多いだろう。その中でやっていくのは、大変だろうけど、頑張れ。


 言葉でしか応援できないのがもどかしいけど、2次予選の曲はあの”ソナチネ”だそうで。セリナちゃんとの演奏は忘れて新曲をさらうつもりで練習するのも、いいかもしれないですよ。それと、康子先生からのメッセージも頼まれたので、添付します。それじゃ”


”私の愛弟子を崇拝するカイトへ”


{ちゃんと練習してる?カイト。ふふ、さぼってると、セリナに先にいかれるわよ。日コン4位よ。私の目に狂いはなかったわ。あの子には才能とセンスがあるのよ。(まあ、ちょっと寄り道したけどね。その分、音楽に深みが出たし、結果オーライね)


 セリナにはコンヴァトを受けさせるよう、今、向こうの先生と調整中。ま、落ちても受かっても、あなたはあなたの道を歩んで頂戴。間違っても、途中で”二人でいるだけで幸せ”なんて、口が裂けてもセリナに言わない事。そんな事したら私が、カイトに蹴りを入れにいきますからね。


 将来、セリナがプロとして演奏会を開いた場合、カイトはチケットを50枚は売る事。まだまだ先の話しだけどね。それまであなたも頑張りなさい}


 うわ、追い込みかけられちゃったよ。


 セリナちゃん、会いたい。でも康子先生の言ってる事もわかる。彼女の道を邪魔するなって事だ。


 俺?俺は、もしセリナちゃんが”プロの道を諦める”って頼って来たら?まずやさしく抱きしめる。それから・・・”諦めるな頑張れ”って背中を叩く・・かもしれない。

 

日曜日か月曜日の午前1時~2時に更新します。

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