表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
ドイツへ留学する
103/147

1次予選  2

1次予選2日目が終わり、飲みに出かけるカイトら4人。帰り道、ハンスの反省会になります。

 1次予選2日目が終わった。俺が聴いた限りでは、二日目までのコンテスタント達は、実力的にそう差がない気がした。ただ、ちょっとした発声のミス、音程の少しのズレ、それと緊張からくる演奏の堅さが、差はあったけれど誰でもあった。俺も緊張したから、きっと音に出たに違いない。


「おし、今日はもう飲もう。ヨゼフ、カイト、エリカ。」


 会場を出るとき、ハンスが後ろから走って来て肩を叩いた。


”もう落選覚悟の残念会か?”なんて、皮肉は、心の中にしまったが。ハンスは緊張から、最初、演奏が堅かった。ヨゼフが”いつものハンスじゃない”と言うくらいだ。人の事はいいんだ。俺だって、当落上にいるのかもしれない?


 ハンスは自分の演奏をわかってる。俺の演奏のほうは、自分では今回は上手くいったと思うが、他のコンテスタントと比べ、ヘタでもない代わり、飛びぬけて出来がいいとは、思えなかった。


 いうなれば”平均的な、可もなく不可もなく”だったような。


「いいけど、俺は腹がすいた。ヨゼフ、どっかに安くておいしい店とかない?」


 結局、駅に向かって4人で歩くハメになったけど、飲みたいのは、ハンスだけのようだ。


「ああ、そういえば伴奏の人は、一緒じゃないのかい?」


「ハンス、エリカと僕の伴奏者たちは、友達同士なんだ。僕たちが終わってすぐ、彼らだけでち上げに出かけたよ。」


 ヨゼフとハンスは歩きながら、飲み会の場所を相談してる。俺はドイツ語のヒアリングはまだ苦手で、地理のわからないベルリンの地名なんて無理。二人におまかせだ。


*** *** *** *** ****

 ついた処は、にぎやかな繁華街らしい。ヨゼフの説明だと、旧東ベルリン地域で観光客も主にこっちのほうに来るのだとか。


 コンクールの行われた会場は、旧西ベルリンと東との境界にあり、この地区くるまでは結構、時間がかかった。


 入った店は、北海道でいえばビール園だった。”北海道ではよく”ご当地ビール醸造所”があり、数種類のビールと簡単な食事ができる。


 カウンターに座って、とりあえずビールで乾杯は、日本と変わらないか。俺はピルスナーというビール。日本のビールに近い。ツマミにはカリーブルスト。これはウィンナーを焼いたのに、カレー粉入りのトマトソースをかけたもの。ベルリン名物料理だそうだ。


 おいしい!節約のため、ビールは1杯だけと決めてたけど、別の種類のビールが飲みたくなり、決心は簡単に砕けた。この組み合わせ、ヤバすぎだ。


 ビールで食欲がましたのか、チキンの野菜詰めとか、ハンガリー風野菜煮込みとか、料理もバンバン食べた。この野菜煮込みなんかは、家で作れるかもしれない。



 ペット仲間と音楽の話で盛り上がるのは幸せだ。俺はミュンヘンでは、そういう仲間は作ってなかった。クラウスのオケの知り会いは増えたけど、彼らはプロ。オーケストラアカデミーの人とは、なかなか接点がない。俺もコンクールの練習で時間もなかったのだけど。


 それだけに酔いもあって、大学時代のノリでおおいに盛り上がった。エリカちゃんは意外にもいける口で、全然、酔ってない。


 これならもっといけそうという処で、ハンスがダウン。ドイツ人って、ビールが水代わりじゃないだ?クラウスも酔っぱらって帰宅した時は、たいていはウィスキーを飲みすぎたせいだったので、意外だった。


「ドイツ人でもビールで酔っぱらうんだ?」

「カイト、それ偏見。ハンスは今日の演奏は、自分の力を出せなかったって、悔しいって言ってた。思い出して落ち込んでるんじゃないかな」

「もう出ようヨゼフ。エリカちゃんとハンスをおくる」


 エリカちゃんは、”まだ飲み足りない”って顔だけど、かなり遅い時間になってしまってる。最初にエリカちゃんを送っていき、ハンスもヨゼフの家に泊まる事になった。


 家が近くなるに従い、どんどんうら寂しい風景になってる。旧西ドイツは、今、やっと再開発が進んでるところだそうだ。10月のベルリンの夜は、寒かった。


「ヨゼフ、悪いな。俺まで泊めてもらう事になって。今更だけど、いつもからかってた事を謝るよ、心から。俺には、自信があった。音楽面だけじゃなく、精神的に強いと。それが、あのザマだ。ステージに出た途端、死ぬんじゃないかと思うほど動悸がひどくて、冷や汗もでて・・」


 そうだったんだ?そういう風にはみえなかったけど、ポーカーフェイスなんだな。確かに最初のうち、若干、演奏が堅かったけれど。


「ステージにあがると、それまで冷静でいたつもりでも舞い上がるんだよね。僕は何度もそういう経験をしたけど、なかなか克服するのは難しい。今日だってなんとか最後まで演奏出来て、腰が抜けるくらい、ホっとしたし。」


「緊張しすぎても、緊張しなくても、ステージ上ではいい演奏にはならないかもしれないな。でも、俺らはアマチュアだし、失敗しても自分に結果がかえるだけ。これがもしプロオケで、例えばマーラーの交響曲5番の冒頭ソロでミスったら・・なんて考えると、身震いするよ。指揮者、オケ、聴衆、みんなの前で、ごめんなさいだ。自分だけのミスじゃなくなる。ま、その前に”オケの奏者になる事”が大前提だけどさ。」


 マーラーの5番の冒頭は、トランペットのソロだ。伴奏もなし。しょっぱなから一人でテーマを演奏しないといけない。いつだったかTVでこの曲の演奏を見たのだけど、冒頭、ペット奏者の手は震えていた。また、そこは当然のようにアップで映してたし、余計、緊張したのかも。日本を代表トップクラスのオケの首席奏者でも緊張するんだとびっくり。それでも、ぶれない演奏でその時は何事もなく終わった。こういう処がプロとアマの実力の差なんだろうな。


「オケでマーラーか。今の俺にとっては、夢のような話しだな。まだ、学校での課題をこなすだけで、手いっぱいだ。」


「ああそういえば、ハンスの先生は、コンクールには否定的だよね。”音楽に順位をつけるのはどうか”とか。で、そのかわりに山のように課題を出すとか。」


 日本の事情をきかれた。残念ながらというか幸運にというべきか、日本やアジアの音楽の世界は、まだ西欧中心で、コンクール(それも国際コンクール)での成績が、音楽活動を始めるのに、不可欠なんだ。


「もしかして、コンクールに慣れてないので余計緊張したとか」

「だといいけど。確かに音楽セミナーにはよく参加させられるけど、コンクールは、これが2度目か。カイトは、コンクール歴戦者なんだろう?」


 それほど出てるわけじゃないと、言いながらも、コンクール慣れって、いい事なのだろうかって、不安になった。





なるべく、日曜か月曜の午前1時代に更新します。更新は不定期になりそうです。更新できる時にはこの時間帯で投稿します。


少しの間、お休みしてました。

11月、ちょっと体力的に時間的にも無理な時期でした。少し余裕が出来た時は、書き溜めにトライ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ