ベルリンへ向かう
ベルリンでのコンクールに向かうカイトとエド。カイトはコンクールが立て込んでいたので、少し焦り気味のようですが・・・
ベルリンでの、メルゲンバーグ国際コンクールまでの2週間余りの間、俺はクラウス先生から集中特訓してもらいヘロヘロになるまで練習した。1次予選だけでなく、2次予選の曲も。
テレマンの曲は、前にも北海道でのセミナーで特訓を受けたおかげか、それほどドツボにはまることなく、もう1曲のかcascades のほうは、先生の指示通り練習した。
操り人形のような気もしないではない。でも、正直、自分で深くその曲想を掘り下げる時間がなかった。とりま、作者の指示のダイナミクスと音程とリズムだけは、完璧を目指した。
伴奏のエドとも出来るだけ日程をあわせて練習した。当たり前だけどエドは俺だけの伴奏だけ生計を立ててるわけじゃない。他の伴奏の依頼他、ピアノの生徒も取ってる。
明後日の10月9日には本番という時に、一緒に列車でベルリンへ向かった。
「エド、今回は演奏順が決まってるから少し気楽だよ。ホテルは2流で申し訳ないけど。」
「いやいや、もっと安宿を想像してたんだ。カイトは4日間もこのホテルに滞在か?」
エドがホテルのパンフを見せながら、心配してきた。もし4泊もすると、日本円で5万以上はかかるだろう(食費抜き)から。もちろん、予選の結果をHPで確認する事も出来るし、ドイツ国内のコンテスタントは、そうするだろう。1次予選は4日間もあるし、結果発表は最終日、審査終了次第だから。
俺は1日目の13番目。午後の初めのほうだ。1日20人審査で4日間。ヨゼフは2日目の22番目、ヨンスは最終日の70番目。これは、書類審査(DCD審査あり)の合格通知で、演奏順も通知されてきた。2次以降は番号順。
ヨゼフとヨンスの演奏を聴きたいので、ヨゼフの演奏のある2日目から、ヨゼフの家に泊めてもらうことになった。
だから、ホテルは2泊だけ。もちろん、ヨゼフ家にお土産はかかせないだろう。
「先に帰ってしまうけど、心細くないか?ベルリンは大都市だし、治安も日本に比べれば”いい”とはいえない。本番後、ミュンヘンに帰るとか考えなかった?」
「迷ったんだけどね。本番が終わってすぐ帰れば、3日、練習にあてる事が出来る。でも、俺はヨゼフとヨンスの演奏を聴きたかったんだ。せっかく友達になったのだし、2日目の夜からはヨゼフの処に泊めてもらえるから。」
2次予選の曲も練習ないといけない。それ以上に他のコンテスタントの演奏を聴きたかった。心の底では2次予選のためにアセってる自分が、イヤだったんだ。1次もまだなのにだ。
コンクールの日程の組み方を間違えたのか?俺。ミュンヘンでのコンクールと日があいてないので、練習時間が少なく気持ちだけはやる。
列車の窓からは、すでに黄金色に染まっている平野に変わってる。ベルリンは北ドイツ平野の東端。畑や牧地が広がる様は、山がちのミュンヘンとは違う雰囲気だ。
前々回のベルリッツでのコンクールの時を思い出した。あの時はまだ初夏で、一面、緑。今は緑が色あせているか、収穫が終わった土色になってる。
今度のコンクールでは、あの時の仲間で参加するのは、ヨゼフだけ。フランソワはアメリカでのコンクールに参加するそうだ。前のコンクールで一緒になったヨナちゃんとソルジュもそのコンクールに出る。
やはり管楽器はアメリカのほうが、レベルが高いのだろうか?
「そういえば、エドはドイつ国外でピアノの伴奏の仕事とかしてるんだっけ?」
香澄さんの前の恋人・ジョンポールは、伴奏やピアノの仕事を求めて国を渡り歩いてたようだけど。
「いや、俺はドイツ国外から仕事を頼まれた事はないな~。
ピアノにしてもなんにしても、ヨーロッパは楽器奏者の層が厚い。カイトが前回・前々回とコンクールで、まあまあの成績を取ってくれたんで、俺もチョッピリ、仕事が増えたかな。まあ、なんにでも言える事だけど、経験値をあげない事にはな。カイトはどうするんだ?このままドイツで暮らさないか?うちの子供達もカイトに懐いてるしな。暮らしやすいだろ?」
オーケストラや吹奏楽団の団員募集の記事がないかどうか、いつもワールドワイドで探してる。知り合いとの情報交換もかかさない。例えば、○○オケの××さんは来年で定年とか、欠員が出そうな所の情報だ。残念ながら、今だ、正式なオーデション情報は今の処ない。日本もヨーロッパもだ。
「日本にいた時から、その手の情報はもらさないようにしてますよ。ただ絶対的な求人がなくてはね。そういえば、子供といえば、フェリックス君、元気でやってるようですか?」
少し気になってはいた。香澄さん、日本食レストランでの夜のバイト、ちゃんとやめてくれただろうか?夜の仕事で、フェリックス君が一人で部屋で留守番するのは、今はまだ無理じゃないかと、俺は思ってたんだ。
「これはクラウスには内緒でな。香澄さん、レストランの仕事、完全には辞めてないそうだ。週・4日だけ勤務。なんでも人手不足でレストランのオーナーから懇願されたとか。相談に来たとき、俺も家内のエリザベトも反対したんだけどな。オーナーが日本人で断り切れなかったそうだ。」
NOといえない日本人の典型だな。香澄さん。俺もそういうタイプかもしれないけど。
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