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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
音大生 院生時代
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音楽家として身を立てるには・・

オーケストラのエキストラとして演奏は、終わった。

俺は、団員さんや、事務局関係者に挨拶してまわった。

「今日は、ありがとうございました。また、呼んで下さい」

明るい顔で、次につながる”営業”も忘れずに。



やっぱりプロの演奏家で生活していくのは無理かもしれない。

オケにエキストラで呼んでもらったのは、これで4回目。

その間、オーディションの話は、まったくでなかった。

このオケは、トランペット奏者は、特別なプログラムがない限り充分足りてるんだ。


今月は、このエキストラ代と、高校の吹奏楽部に指導に行くので、あわせて

親からの仕送り頼みの生活。時々、音楽関係のバイトをする。

今月は、3万円。ははは・・・。コンビニとかでバイトすべきだろうか。


俺、新藤 海人カイト、23歳、桜が丘音楽大学院1年生。トランペット吹き。

本当は、留学希望だった。迷ったすえ、今年、大学院に進んだ。



今回の仕事も、次の仕事に結びつくよう、俺は全力をつくした。

曲は、ブルックナー 交響曲8番のバンダパートで呼ばれた。

(バンダは、2階席やステージ裏などで、演奏する奏者)

トランペットのバンダのトップにぴったりあうよう、悪目立ちしないよう、

全神経を使った。冷や汗もビッショリかいた。



俺は、中学生からトランペットはじめ、高校では、吹奏楽部で、ガンガン練習。

個人レッスンを受けながらだから、時間的にキツかったけど、

そこは”勉強する時間”をカットしてやりくりした。



超ハードだったけど、部活は楽しかった。合奏もパート練習も。

部活以外の思い出は、試験で赤点追試で、毎回、青くなった事くらいだ。

気づけば、自分の年齢=恋人のいない歴だ。とほほ。

すっかりトランペットの虜になった俺は、猛特訓して憧れの音大に入った。

幸せだった。大学の吹奏楽部も楽しかったし、オーケストラにも何度か参加出来た。

金管アンサンブルを組んで、母校の高校へ演奏旅行へ行った事は、いい思い出。

但し、単に楽しかったのは、2年生まで。


3年生になって、プロの演奏家としてやっていくのが、いかに大変か、

上の先輩の進路状況や噂話を聞いて、わかってきた。


”プロのオーケストラ、吹奏楽団に入り、トランペットを吹く。

合間にソロコンサートもやる。”

そんな俺の夢は、夢でしかなかったようだ。


まず、楽団に入るには、”欠員”が出なければ募集もない。

欠員は、めったに出ない。音大出でこのコース進もうとするなら、

永久凍土の就職難を覚悟しなければいけない。

不謹慎な話、”○○オケの▽さんが、引退するそうだ”という手の情報が、オケの

オーディション待ちの音楽就職浪人生の間でまわる。もちろん、欠員がでる

かもしれないからだ。海外のオケの情報もかかせない。

ただ、これは、トランペットだけじゃなく、他の楽器奏者も同じだ。



もちろん、奏者以外の道に進む人が殆どかもしれない。

音楽教師や、講師になる事が出来たら上出来。

楽器店、楽器のメンテナンス職。こういう仕事も悪くない。

残念ながら、本人の希望がかなわず、音楽に関係ない会社に就職する場合も多い。


俺が大学4年の時は、同期の8人中、オケの団員として採用がきまったのは、

一人だけだった。

そいつは、同期の中でもとびぬけて上手い奴で、いろんなコンクールに入賞。

卒業と同時に、懇意にしていたオーケストラの常トラ(いつもエキストラで呼ばれる)

から、臨時採用、本採用となった。


残り5人は留学。教師は0。教師の採用試験は今では最難関だそうだ。

その中で、俺ともう一人は、院に進んだ。

大学院では、楽器の演奏を極める、という目標で、実際は”精進しながら、

プロになるための就活”がメインかもしれない。


「お兄ちゃんは、甘いのよ」って妹に指摘されるまでもなく、

俺は甘いのかもしれない。でもプロになる事を諦めきれなかった。

一日中、音楽の事を考え、楽器の練習をする。いつもそばには、トランペット。

そんな生活を、夢みるのは、やはり甘いのだろうか。


結局、生活は両親の仕送り頼み。北海道の札幌に住む両親は、二人とも

退職間近の教員。院に進む時も俺の夢を理解してくれた。

さすがに、俺も社会人として自立しなければいけない。

”後、1年、頑張らせてください”と親に頭を下げた。

両親は、留学の資金も出そうと、いってくれたが、両親の老後の資金まで

使っては、恥ずかしくて、実家に帰れない。


留学資金は、自分でバイトと節約しながらためて行く。そう決めた。



俺はオケの仕事の帰り道(打ち上げも参加。これも付き合い)、考えて迷路にはまり、

落ち込んだ。安アパートの自室に、はいるなり、そのままダウン。

疲れたんだな・・・営業活動は、俺には苦手だ。自分を売り込むって難しい。


こんな俺は、プロになれるのか?










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