ピエロ
さぁ、サーカスの始まりだよ。
少女はその声で目覚めた。目の前には赤と青と緑の縞模様の衣装に身を包んだピエロが居た。大きな真っ赤な鼻に、顔面に施された白と赤の化粧。
ピエロは大きな口をにぃっと歪めると、どこからとも無くボールを4つ取り出した。それを器用に投げては掴み、また投げては掴み。
「あ」
ポンと1個のボールが少女の足元に転がった。サッカーボールくらいの大きさのそれは、目を剥き出しにした父親の顔だった。歪んだ口元からは血が滴り落ちている。
「あ、あは……あははははは」
少女は笑った。少女は父親が嫌いだった。年中お酒を飲んでは暴力を振るう父親が。
ピエロはその様子に満足したのか、今度は短剣を4本、また何処からとも無く取り出した。それを投げては掴み、投げては掴み。不意に少女と同じ背丈くらいの箱が登場した。ピエロはその箱に短剣をグサリ。もう1本もグサリ。更にもう1本もグサリ。
箱の鍵が開けられ、中から血まみれになった少年が倒れて来た。少女はその少年の顔に見覚えがあった。学校でいつも虐めてくる、ガキ大将。
ピエロは最後の短剣を少年の首筋にグサリ。鮮血が辺りに飛び散った。
「あはははははっ」
少女はまた笑った。顔に付着した血を拭いもせずに。
「ねぇ、ピエロさん、お次はなぁに?」
ピエロは方を竦めるとまた大きな赤い口をにぃっと歪ませた。
今度は斧を取り出すと、カーテンの後ろから何かを引っ張り出した。それは猿轡を付けられた、全身縛られた担任の先生だった。
ピエロは躊躇無く、その右足を切断した。猿轡を付けられた口から苦悶のうめき声が漏れる。
「あはっ、あはははっ!」
次は左足。次は右腕、左腕。両手足を失った教師はまるで芋虫のようだった。傷口からはビュービューと鮮血が溢れ出している。
ピエロは次に教師の首筋に斧を当てた。
「ねぇ、ピエロさん。私にやらせてよ」
ピエロは肩を竦めると、少女に斧を手渡した。少女は重い斧を振りかぶると、何の躊躇もなく振り下ろした。ダンッ。ゴロリ。
コロコロと転がる教師の頭部が面白くて、少女はまた笑った。笑って笑って、笑い過ぎて涙が零れてきた。
「ねぇ、ピエロさん。次は?」
今日はもうお終い。
そう言って、ピエロは少女にトランプを手渡した。ピエロの絵が描かれたジョーカーのトランプ。
そこで少女の意識は途絶えた。
それは悲惨な事件だった。発見したのは母親で、夫が寝室で首を切断されて死んでいた。それだけではない。少女の同級生の男子生徒が、何者かによって刺殺された。そしてその担任の教師は、両手両足、そして頭部を切断された状態で見付かった。
このショッキングなニュースは直ぐにマスメディアで取り上げられ、大きな話題となった。
少女は父親の葬儀に参列していた。すすり泣く母親の横で、少女は無表情に立ち尽くしていた。ポケットをそっと探る。そこにはピエロのジョーカーが微笑んでいた。