ある夜の職員
その日の衝撃は忘れられません。
同じく夜勤になった同僚と夜のギルド窓口業務を行なっていた時でした。
―飛び込んで来た一迅の黒い風―
確かギルドの看板猫の兄弟猫の一匹が凄い勢いでギルドに飛び込んで来ました。
その猫は身軽にカウンターの上に飛び乗ると一声―
ナァァァァ――
カウンター越しに私の顔を観て鳴き着いてこいとばかりに顔を振り入り口に戻って足を止めるのです。
(えっ!?なに?着いてこいって…えぇ!?何で私こんな事考えてるの?!)
私はパニックです、確かにあの猫から着いてこいと云う意思を感じます。
ウナァァァァ―――
判らない、判らないけどやっぱり着いてこいって言ってる!?
「―先輩、スイマセン席を外します!」
「えっ!?ちょっとどうしたn―」
「呼んでるんです!」
「へっ?」
「私にも良く判らないけど――でも、呼んでる気がするんです!」
「…わかったわ、此処は何とかするから行ってらっしゃい」
「ありがとうございます先輩!」
私は不思議な猫を追い掛けた。
―結果、追い掛けて正解だった。
猫に案内された先は、シフォンお婆さんの薬屋で、強盗が押し入りシフォンさんも肩と太ももの二ヶ所を刺されると云う大怪我を負って意識を失って倒れていたからだ。
幸いギルド職員として簡単な応急処置と治癒魔法を使えた私はその場で応急処置を行い、店内に血だらけで倒れていた強盗は縛り付けて衛兵所とギルドに報告を行う事が出来ました。
強盗は手足四ヶ所の腱を切り裂かれそれ以外にも多数の傷があり、此方もかなりの重症でしたが命はとりとめた様でしたが最近世間を騒がしていた押し込み強盗だった様で、結局は斬首刑に処されたそうです。
シフォンお婆さんは3日程治療院に入院する事になりましたが、今は無事に退院して元気に店を切り盛りしています。
あの猫はその後一度だけ私の前のカウンターに来て頭を下げて一声鳴くとまたギルドには来なくなりました。
―シフォン婆ちゃんを助けてくれてありがとう―
私にはあの一鳴きが確かにそう聞こえた気がします。