寝床
唐突だが俺の寝床はこの街の薬屋である。
この薬屋はシフォンお婆さん独りで切り盛りしているこじんまりとしたお店だ。
偶々この店に難癖付けていたチンピラをチート猫である俺が叩きのめした事でシフォン婆ちゃんとの付き合いが始まった。
因みに俺のチート具合は凄まじく、爪の一撃は皮鎧程度なら引き裂き、その動きは疾風の如く敵を翻弄する。
おっと話が逸れたな…。
何にせよシフォン婆ちゃんを救ったわけだが、婆ちゃんが偉く感激して南側の陽当たりの良い窓辺に寝転がれるスペースと猫用の出入口を態々大工に依頼して増設してくれたわけだ。
以来、俺は昼過ぎ迄は窓辺で昼寝を楽しみ、夕方狩りをして兄弟姉妹で食事をし、夜は婆ちゃんの元に来て見張り番をしながら体を休めるという生活をしている。
その晩は新月で明かりの乏しい暗い夜だった。
何時もの様に帰ってきた俺は即座に異変を感知した。
―――居る。
――――何か殺意を持った者が居ると…
俺は音をたてない様に店内に滑り込み、暗闇を見通せる目でジッと周囲を伺った。
―――――居た!
今、正に婆ちゃんの部屋から店に逃げ出そうとしている人物を見付けた、そして婆ちゃんがソイツの傍に倒れているのも、ソイツの手に血の付いた短剣と恐らく婆ちゃんが稼いだ金の入っているであろう小袋が―
――許せない!
何故、人は同じ人から暴力で物を奪うのだろう。
俺は婆ちゃんが殺された母親と重なって頭に血が昇るのを感じた。
そして俺は…
気が付いた時は血溜まりに手足の腱を切られ体のアチコチに引っ掻き傷を付けて虫の息になった小汚ない盗賊が居た。
―――…ぁ――――
(はっ!婆ちゃん!)
微かに聞こえた呻き声に俺は我を取り戻し婆ちゃんに駆け寄ると、婆ちゃんは肩と太ももに傷が在り、意識は無いようだがまだ死んではいなかった。
だが恐らくこのままでは出血多量で死んでしまう!
俺は考える、この時間人が居て開いてるのは酒場かギルドくらいだ。
酒場は論外だ酔っ払いには悪い思い出しかない。
となるとギルドだが…彼処なら人は居る、だが無事に連れてこれたとしてその後は俺の事をただの猫とは思われないだろう。
強盗を撃退し、助けを求める猫………怪しすぎる。
だが…放っては置けないよな…
駆け出した俺の脳裏には母が命の灯火を消し冷たい骸となっていった在りし日の情景が浮かび上がっていた。