ギルドマスター
冒険者ギルドのマスターと言うのは意外と大変じゃ。
職員の教育、所属冒険者の査定、商業ギルド・魔術ギルド・貴族等との対外交渉、緊急事態における対策と決断等々、そもそも冒険者自体が其処らの荒くれ者達と大して変わらんような奴等ばかりじゃから常々気苦労を抱えておる。
しかしその晩は特に問題など無く眠りにつけるはずじゃったのだが…いざベッドに横になろうかとした頃に、今夜のギルドの夜番をしていたはずのクリスティーナ嬢が、「ギルドマスターで無いと判断出来ない様な問題が発生した!」と我が家に駆け込んで来おった。
事情を聴くにどうにも要領を得ない。
うわごとの様に「猫が!」とか、「登録が!」とか、「魔物連れて!」とか言い出し、「兎に角大変なんです!直ぐ来て下さい!」と最後には逆ギレしおる。
要領を得んが仕方あるまい、ワシは着替えてギルドに行く事にした。
ギルドに着いて目撃した物、其れは確かにギルドマスターであるワシに判断を仰がねばならん事態じゃったわ。
何処の誰が『猫が魔物を使役動物として連れて冒険者登録をしに来た』等と予想できると言うんじゃ!
有り得ん!有り得んじゃろう!此れは普段の激務に疲れたワシの観とる夢なんでわ無かろうか?
―――夢物語では無いようじゃ、つねられた頬がヒリヒリしよる。
というかクリスティーナよ、確かに唖然としておったかも知れんが仮にもギルドマスターの頬を遠慮なくつねるのは間違っておらんか?
独りギルドに残って対応しておったアリシアーデは何処か遠いところを観るような表情で現実逃避しておるの…「はぁモフモフ、可愛いですふぁ~」等と口走りながら一心不乱に毛玉を撫でておる…ってその毛玉はホーンラビットでは無いか!
放心しておるのも無理も無いか?非常識な猫と一緒に夜中のギルドに長いこと放置されておったワケじゃしのぅ…そういえばつい最近に薬屋の婆さんが強盗に押し入られた事件を解決した時も「猫が教えてくれたんです!」とか言っておったのぅ…つまりアレは本当の事じゃったのかっ!
はぁ此れは現実は現実として受け入れるほかないのぅ…幸いアリシアーデは猫との会話を成立させて色々と事情を聴いておる様じゃ…うむ、後でこの猫の専属担当職員に任命しておくかのぅ。
しかしニコといったか?此れは本当に猫なのか?
確かに持っているスキルは魔力操作に長けた魔法使いなら再現可能な能力ではあるが…言葉だけで無く文字まで解し、人族以上の身体能力を持つ『猫』等と………いや、確か何処かで……聞いた事が『ある』……気がするんじゃが……確か…アレ…は、…猫妖精族じゃったか?
だがアレは伝説上の生物で、空想の産物だと言う話だったと思うが………むぅ魔物の異常個体みたいな存在なのかも知れんの…。
取り敢えず最低限の措置は取って置くべきかのぉ…。
ワシはアリシアーデに身分証明用の水晶を用意させて正式に猫をギルドの所属にする事を宣言した。
もう十分に吃驚したからのう…あまり問題を起こさずいてくれや猫殿…。