登録?
ああ、この猫はやっぱり普通の猫じゃ無かったんだなぁ…。
先輩にお願いしてギルドマスターを呼び出して貰っている間に、私は新規冒険者登録用の書類と筆記用具を用意しました。
すると、件の猫は小さく「ナァ、ナァーナァ、ゥニャ?ニャーニャ…ナァー」と鳴き声で呟きながら不思議な力でペンを踊らせ書類に必要事項を書き込んでいきます。
…こんな力迄持っていたんですね…しかも共通語を完全に理解してますね…貴方は本当に猫ですか?
正直、平民以下の人族の識字率は決して良いものでは在りません。
自分の名前と数字、簡単な足し算が出来るだけでも就職には困らないのが世間一般の常識です。
それすら出来ない人族が大半を占めるというのに…猫が共通語を自在に操るとか………ハァ落ち込みますね。
えっと何々…名前は『ニコ』さんですか…、年齢は一歳と7ヶ月…確かに合ってますね、ギルドの看板猫と兄妹ですし…、性別は男、職種は魔戦士とこの街の下街に住む猫のボス…ボスですかそりゃあまぁこんな猫がいたら普通の猫は従うしか無いですよねぇ?
…所持技能は魔力の刄に空中跳躍、しょく…触手って何なんですか!…あっペン持ってるのはこの透明な触手で操ってるんですね、何かすんなり納得しちゃいました。
それから…使役っと、使役動物はホーンラビットで名前は『ニア』…ああ、前足の間でぷるぷる震えてるホーンラビットの子供はニアというんですね……可愛いですね…撫でたら駄目ですかね?
ちょっと聞いてみますかね?
「あの…」
「にゃ?」
「ニアちゃん撫でても良いですか?」
「ウニゅ…」
「ゥキュゥ!?!?」
あぁニアちゃん首をくわえられて私の前に引き摺り出されます、ニアちゃんの鳴き声は「何で!?!?」って感じでしょうか?悲壮な鳴き声にニアちゃんを包み込む様にして撫でている私が罪悪感を感じます……えっ?撫でるのは止めませんよ?はぁこのモフモフ感は堪りませんね…。
冒険者に成りたい理由は…家族を守る為と母猫を殺した人族を捜して復讐する為…ですか。
確かギルドの先代の看板猫であった母猫は、素行が悪くて冒険者資格を剥奪された元冒険者が依頼失敗の腹いせに八つ当たりで蹴り殺したんでしたっけ?
はぁ、ニコさんはずっとお母さんの敵討ちの為、自分を鍛える為に街の外で魔物狩りをしていたんですか…ヤバいです、私泣いちゃいそうです。
あっ因みに会話(筆談ですが…)は書類とは別の紙を用意して話してます。
ニコさんは私が話し掛けた言葉を完全に理解して、触手で返事を書いてくれます…家に帰ったギルドマスターを呼びに行った先輩はまだ帰ってこないですし、判断を仰がないと登録完了出来ないと伝えたのでニコさんも大人しく待ってくれています。
ニアちゃんは最初はジタバタと暴れて何とか私の手から逃れようとしてましたが、諦めたのか今は大人しく私に撫でられてます、ホントに可愛いですね…魔物とは思えないです…お持ち帰りしちゃ駄目ですか?駄目ですかぁ残念です。
それからも色々とお話したんです、例えば…ニコさんの兄弟姉妹の名前は上から順に、長女ミケ、次男トラ、次女タマ、末妹が義妹でニアちゃんであるとか。
最近妙な視線を感じるって話―私が魔法で時々観ていたと素直に謝りました―とか…。
夜のギルド窓口で猫に話し掛ける受付嬢…あぁ誰かに観られたら、また婚期が遅れそうですね…。
あっギルドマスターが到着したみたいですね…説明しないといけないのが気が重いですねぇ…はぁ…。