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私と妹  作者: おい
1/1

スタート

プロローグ

私は目をつぶりながら明日からはじまる夏休みをどう過ごすか考えていた。高校2年の夏休みを迎えるわけだが友達がいないためとても暇だ。去年の夏休みはずっと家でゲームをしていた。外に出かけるのはコンビニまで通販で買ったゲームの代金を支払うときくらいのものだ。一人っ子であるから兄弟とも遊ぶことができない。そのことを由紀に話すと哀れみの目で見られて悲しい気持ちになったことを思い出す。だから、今年の夏は高校生らしいことをしてみたいと思っている。夏といえば海、花火、バーベキュー……一人でもできそうなのは海と花火か。しかし、一人もさみしいので由紀も誘うことする。由紀にメールを送信するために手元の携帯電話に手を伸ばし、明日は7/16海の日だから海にいこうとメールを送信した。5分後にわかったと一言の返信がきた。時間は明日起きてから考えようと思い眠りについた。

「おにぃ朝です、おにぃ朝です」

朝から陽気な声が聞こえてくる。その声に従い目を覚ますと目の前には見知らぬ中学生くらいの少女が立っていた。

少女から今日から2学期ですと告げられるが状況が理解できない。今日は7/16海の日であるはずだ。明日は由紀と海に行く約束をしていたはずである。しかし、携帯電話の日付を見れば確かに今日は9/1始業式の日になっているのだ。

「早く支度しないとまた杏さんに怒られますよ」

「…杏?」

知らない女性の名前が出てきたことでますます状況が理解できない。その困惑が伝わったのか少女が不安そうに見つめてくる。今日は学校休むか尋ねられたが今の状況を整理するためにも学校に行くことにした。少女は心配した様子であったが人を待たせるのは良くないからと押し切ってきた。

 制服に着替え家の前に出るとよく見知った幼馴染である由紀の姿があり安心した。まずは、私の家に見知らぬ少女がいたことを話さねばならないと由紀と名前を呼ぶと杏だと怒られてしまった。もう一度お前は由紀だと言うと殴られた。この暴力を振るう女性が杏だと認めざるを得ない。杏に家にいた少女のことを訪ねたかったがこれ以上おかしなことを言いたくなかったので聞くことをやめた。

 登校中は杏の話に適当な相槌を入れることでやり過ごし学校についた。学校は私が通っていた高校と同じで安心した。しかし、教室に入ると誰も見知った顔がいないにも関わらず親しげいろんな人が話しかけてくる。自宅も学校も通学路の景色も何もかもがいつもと同じだが知らない顔しかいないのは意味がわからず気分が悪くなる。今の状況を整理するために学校に来たはずであるがますます理解不能の事態に陥ってしまった。

 始業のベルがなり女教師が教室に入ってくる。その後ろには女生徒がいた。

 「おはよう、早速だが今日は転校生を紹介します」

 「橘美紀です。よろしく」

 「座席は一番前の一番右に座ってもらえる?」

 「わかりました」

 「連絡事項は特にありませんので朝のHRは終わります」

と言い残し女教師は教室を去っていった。

女教師が教室から出たすぐあとに橘さんは教室から出ていき放課後まで戻ってこなかった。

放課後になり帰宅しようとすると見知らぬ女生徒に呼び止められたが無視して帰ることにした。これ以上の混乱を避けるためである。杏は生徒会があるとから一人で帰ってほしいと言っていた。一人で帰りたかった私にとってありがたいことであった。この見知らぬクラスメイト、日付の異常とおかしな状況について知るために街を少し歩いたあと行きつけの喫茶店へ行った。店長が知らない人になっていたが私はもう驚かなかった。幸いにもコーヒーの味はいつもと同じであることが唯一の救いである。街を歩いてわかったことは何もなく、見慣れた景色が続いていた。ただ、違うこといえば知っている人が誰一人いないということである。コーヒーを飲みながら考えていると転校生の橘さんの姿が見えた。お店の制服を着ておりアルバイト中のようである。話しかけようかと一瞬考えたが結局話しかける度胸もなく会計を済ませ帰宅することにした。

 自宅へ戻ると朝の見知らぬ少女が私に近づいてきた。朝と同じピンクの水玉模様のパジャマ姿のままである。少女からは学校で体調が悪くならなかったか問われたが問題ないと答えておいた。その後は少女に今日の学校での出来事を聞かれたので転校生が来たこと、授業のことについて話してやると少女はとても楽しそうに聞いてくれた。見知らぬ少女であるはずだが不思議と気を許してしまっていた。夜は少女が一緒に寝ようと申し入れてきたがそこまでは気を許せず断るととても残念そうに部屋に戻って行った。


「おにぃ朝です、おにぃ朝です」

今日も妹が起こしに来たようだ。しかし、兄はである私は寝たふりをすることにした。今日から夏休みであるから好きな時間に起きたいという欲求が強いためである。

「今日から、新学期ですよ」

妹の言葉に騙されまいと寝たふりを続けていると、妹は私の布団を剥いできた。流石にこれでは寝たふりを続ける気がなくなった私は起きることにした。そして、妹には今日から夏休みであることを告げると妹は携帯電話を見せてきた。日付を確認するが9/1で新学期がはじまる日であるようだ。

「早くしないと杏さんにまた怒られますよ」

「杏…?」

知らない女性の名前が出てきたので誰かと聞くと幼馴染であること、いつも一緒に通学していることを教えてもらった。日付がおかしいと感じながらも着替えをすませ家の前に行くと幼馴染である由紀が立っていた。名前を呼び話しかけると杏だと言われ驚いた。もう一度お前は由紀だというと今度は殴られた。この暴力を振るう女性が杏だと認めざるを得ない。名前を間違えられたことが気に障ったようで対した会話もないまま学校についた。教室に入ると今まで見たことのない人たちばかりであり、入る教室を間違えたのかと思ったが、私の座席を確認することができた。見知った顔はないかと当たりを見回してみたが橘さんを除き誰もいなかった。今日は幼馴染の由紀が全く同じ見た目で杏と名乗っていたことに困惑させられた上にクラスメイトが知らない顔ばかりなのは意味がわからず気分が悪くなる。

 1時間目終了後にこのクラスには知り合いがいないと杏に言うと私がこのクラスで過ごすのは2年目で知らないはずがないのだと言われたが全くその実感がもてない。あまりに不自然なことを聞くものだと怪訝な顔をされてしまった。そのあとの授業は全く頭に入って来なかった。昼休みになると杏と一緒に昼食を食べることになった。私は弁当を持って来ていないので学食へ行くと言うと、私の分も作ってきてあるから一緒に食べようと言われたので素直に従うことにした。弁当の中身はだし巻き玉子と目玉焼き、茶碗蒸し、親子丼と卵料理しかない。デザートもあると言うので、なんだと聞けばプリンと言われた。卵料理しかないなと言うと得意料理だからと誇らしげに講釈を垂れてきた。これでは私のコレステロール値は上がりっぱなしである。ここで、由紀も卵料理が得意だったことを思い出した。あいつも私に弁当を作って来た時は卵料理であったため、お前は、卵を調理することしかできないのかと文句を言ったことがある。翌日、今日は卵を調理した弁当ではないと言われたので期待に胸をふくらませていたのだが弁当を開けると大きな弁当箱に卵が一つポツンと入っており他は何も入っていなかった。卵が入っているぞというと調理していない卵だと言われた。まさかと思ったが卵を割ると生卵が出てきて驚いたことがある。あっけにとられていると由紀は満足したらしたらしくもう一つ弁当箱を出してこっちが本物と渡してくれた。弁当箱を開けるとソーセージや野菜炒め、唐揚げ、厚焼き卵が入っていた。鶏が絡むおかずが半数を占めていたがはじめて玉子料理以外の料理を食べることができたことに大きな喜びがあった。味もよく、美味しかったことを覚えている。

 杏の卵料理は由紀の味と同じであったため、本当に由紀ではないのか幼少期の思い出話から探りを入れてみることにした。私と由紀は幼馴染であり小学生のころは私の家に何度も泊まりに来ていた。当時の由紀はとても臆病で夜に一人でトイレに行くことに怯えていた。だから、夜中にトイレに行きたくなった時は必ず私が付き添うことになっている。私の家は古く風通しがいい。あいつが用を足している途中にお化けがいると叫びトイレのドアを勢いよく開け私に飛びついてきたことがある。どうしたと聞くとお化けがでたというからトイレの中に入いったのだがお化けなんぞいない。いないぞと言って振り向いたのだが、そのときのあいつはズボンもパンツも下げたままで下半身を露出していた。

 そのことを話すと杏は覚えているようで私の向脛を思い切りよく蹴ってきた。トイレの話は由紀しか知らないはずだと追い詰めると朝から私を由紀と呼ぶが誰のことだと逆に怒られてしまった。こんなところも由紀にそっくりである。高校でチアディーディング部に入部してからのあいつは性格が180度変わってしまった。臆病さが消え明るく活発な性格に変化したのである。臆病さが消えたのは良いが私が文句をいうと攻撃してくるようになったのは余計だ。しかし、容姿が同じで性格も料理の味も、私と由紀しか知らないことも知っている杏が由紀ではないというのはどういうことなのか甚だ疑問をもつ。

 放課後になり、杏は生徒会があるから今日は一人で帰ってほしいと言われたので一人で帰ることにした。今日はわからないことが多すぎて疲れたため落ち着こうと行きつけの喫茶店に行くことにした。この店は木造建てであり木にこだわっている。椅子も机も木で作られたものを使用しており壁には様々な陶器が飾ってある。時計も木を使ったものであり、1時間ごとにボーン…ボーンといい音を鳴らす。店の前に着くと本日猫耳デーと看板に書いてあった。店長は60歳を超えており本来ならばこの店はこのようなことはしないであろう。あざとい色物は好きではないが、ほかに行きたいお店もないので入ることにする。猫耳デーなんて企画をするような店ではないから興味を惹かれた部分もある。私はいつもカウンター席に座るが今日はカウンター席が空いていないためテーブル席についた。するとクラスメイトの橘さんが注文を取りにやってきたのだが驚いた様子でこちらを見ている。私も驚いている。この店は高校生が来るような店ではないから、まさかクラスメイトが働いているとは思っていなかった。橘さんも来るとは思っていなかったのだろう。普通の高校生ならば洋風の店をおしゃれだと感じているからこんな古臭い店にはこないと思うのも無理はない。しかし、私はこの店の古臭さを気に入っている。「ご注文はおきまりですか」と聞かれたのだがついクラスメイトの猫耳姿に目が働いてしまう。しばらく、猫耳姿を見ていると恥ずかしそうに下がっていった。注文するためにすみませんと声を掛けると今度は店長がやってきた。注文をするついでになぜこんな企画をしたのか訪ねたところ、どうやら橘さんが考えたらしい。なんでも、最近は猫耳やメイド姿で給仕をするとお客さんが喜ぶからリピーターが増えて売上も上がるのでこの店でもやりましょうと言っていたそうだ。橘さんはもっと店の雰囲気を考えて企画を出すべきだと思った。帰り際の会計の際に今日見たことは忘れてほしいと言われたが忘れることはないだろう。クラスではずっと本を読んでいる大人しく目立たない橘さんの意外な一面を見たことで悩みのことはすっかり忘れていた。

 自宅へ帰ると妹が駆け足で私に近づいてきた。朝と同じピンクの水玉模様のパジャマ姿のままである。今日の出来事を話してほしいと言うので、クラスメイトが知らない人ばかりになっていたこと、杏の弁当が卵料理だけだったことや喫茶店で大人しいクラスメイトが猫耳で働いていたことを話してあげた。妹はとても満足そうに話を聞いてくれた。妹は喫茶店の話に興味をもったらしく、その子と会話をしたのか、可愛かったかといろんな質問をしてきた。話疲れたたこともあり、妹が家から出た様子が見られなかったので、お前は中学校に行ってないのか聞くと逃げるように部屋に走り去っていった。学校を休んだことを私に話すと怒られると思っているのだろう。しかし、逃げられるとどうしても理由が聞きたくなる性分であるため妹の部屋の前いき問い詰めることにした。

「なんで逃げた?早くここをあけなさい」

足音が近づいて来たので開けるのだと思ったのだが鍵を占めるためだった。篭城戦に出る気だと悟った私は意地でも理由を問いただすまで動かないことを決めた。

部屋の中から妹の声が聞こえてくる。

「逃げていません、おにぃの話が面白くないので部屋で遊びたかっただけです」

「嘘をつくな。あんなにも楽しそうに聞いていたじゃないか」

「嘘ではありません。おにぃの話は面白くありません。今から一人で遊ぶので邪魔しないでください」

気合の入った声で言われるものだから深く傷ついた。それならば違う角度から攻めることにする。

「学校を休んだことを話したくないのだろう。今なら怒らないから正直に話してほしい」

慎重な落ち着いた声でいい油断を誘うことにした、小学生ならばこの方法ですぐに白状するはずだ。

「その手には乗りません。正直に話すと怒られるやつです」

バレていた。仕方がないので次の作戦を実行する。

「一人で遊んでもつまらないだろう。おにぃと二人で遊んだほうが楽しいぞ」

「嫌です」

どうしても部屋を開けるがないらしい。これでは埓があきそうもないので秘密兵器を使うことにした。これで落ちない中学生はいないであろう。

「3000円上げるから鍵を開けてくれないかな」

「本当ですか!?」

ほら引っかかった。中学生などちょろいものだ。ドアの隙間から3000円をいれると鍵を開ける音がした。妹は部屋の中は見られたくないから後で私の部屋に行くと言ってきたので自室で話すことになった。やはり妹は学校を休んでいたようだ。正直に話してくれたので怒ることはなく明日からは学校に行くよう優しく注意するだけにしておいた。

 今日は疲れたので早めに寝ることにした。自室に戻ると妹が私のベッドに座っていた。今日は一緒に寝て欲しいと言われたので一緒に寝てやることにした。中学生にもなって兄と一緒に寝たいというのだから可愛い妹だと思う。真夜中に私が寝ていると思っていたのか、私の顔をやさしく撫でていたのが気持ちよかった。

 三

翌日、学校へ行くと橘さんが話しかけてきた。

「昨日のことは誰にも言っていませんよね」

「まだ、誰にも言ってないから大丈夫」

「まだ、ということは今後話す予定はあるということですか?」

「ないから、安心してほしい。そんなことを言う人もいないし」

「そうですか…ならいいのですけど。しかし、タダで秘密を守ってほしいとお願いするわけにもいきません。何か頼みがあれば引き受けます」

「大丈夫、誰にも言わないって」

「いいえ、母から人にものをお願いするときは相応の対価を支払うものだと教えられています。私にできることであればなんでも言ってください。一方的に施しを受けることは気分があまりよくありませんので」

「それじゃあ、来週に妹の誕生日があるのだけれどプレゼント選びを手伝ってほしい。中学生の女子が欲しがるものがわからなくて困っていたんだ」

「わかりました。それでしたら週末でも行きましょうか」

「ああ、ありがとう」

「感謝される筋合いはありません。私たちが対等な関係にあるために必要なことをしているだけですから。待ち合わせは何時がよろしいですか?」

「そうだな、日曜の駅前に10時でいいかな?」

「問題ありません。では、その時間に会いましょう」

 会話の最中は表情が変わることがなく、無表情で言われるものだから少しばかり恐怖を覚える。猫耳デーを企画した人とは思えず本当に橘さんが企画したのか聞きたいところではあるが今聞いてもまともに取り合ってくれそうもないので日曜日に聞いてみようと思う。

しかし、よくよく考えてみると日曜日は橘さんと2人で出かけることになるわけだがこれはデートではないのかと思った。女の子と2人で出かけるのは小学生のころ以来なので女子高生にはどう接していいのか、なにを話せばいいかわからないことに気づいてしまう。さて、どうしたものか。妹の誕生日プレゼントを買うためとはいえ一度予行演習をしておく必要がありそうだと思う。

 自宅へ戻り、日曜日はどこに行くかプランを立てた。まずは、目的である妹の誕生日プレゼント選びである。そしてお昼はおしゃれなカフェでランチをご馳走して帰宅だ。シンプルなプランではあるが充分であろう。しかし、本当にこのプランでいいのか不安もあるため掲示板に書き込み反応を見てみることにしたのだが、シンプルすぎるとバッシングが多かったため、書き込みを参考にボウリングをプランに加えることにした。この計画の予行演習の相手は誰がよいか考えた結果、杏にすることにした。見た目が由紀と同じだから緊張せず下見ができると思ったからである。早速、杏にメールを打とうと思い携帯電話を開いたのだが杏の名前はなかったが、代わりに由紀の名前があった。そこで、由紀にメールを送ろうと思い、土曜日部活が休みなら久しぶりに一緒に遊ぼうと送信した。返信はゆきらしくわかったと一言だけであった。待ち合わせは駅前に10時と送ると再びわかったと返信がきた。実にシンプルだ。

 土曜日待ち合わせ場所に行くと時間の10分前にも関わらず由紀の姿が見えた。しかし、由紀と名前を呼ぶと杏だと言われ足を踏まれた。そんなハズはないと、携帯の送信履歴を見せたのだが名前が杏になっていた。おかしいと思いアドレス帳を見るが由紀の名前は見つからない。そして昨日までなかった杏の名前が登録されていた。困惑していると杏から2学期が始まってから様子がおかしいと心配そうに話しかけられた。

 「2学期に入ってからずっと私のことを由紀と呼んでいるけれど、由紀って誰?」

 「幼馴染で……幼稚園の頃からずっと一緒に遊んできた、杏とそっくりな顔をしている女の子。確かに昨日までは由紀の名前が登録されていてメールも送れた。そうだ、昨日の送ったメールを見せて欲しい。」

 「いいよ。このメールだよね。明日部活がなければ遊ぼうっていうの。私は部活動には入っていないから変なメールだとは思っていたけれど」

 「確かに、この内容で送った。でもなんでこれが杏に届いているのだ?」

 「私に聞かれても困るよ。でも、まだ記憶が混乱しているのだと思う。」

 「どういうことだ?」

 「夏休みに事故に合ったことも覚えてない?」

 「事故?なんのことだ?」

 「一人で外出中に交通事故に合って、しばらく入院していたのだけど……」

 「覚えてないな」

 「それなら、無理に思い出さない方がいいんじゃないかな。とても嫌な出来事だったから」

 「そういうわけにもいかない。2学期になってからおかしなことだらけなんだ。はっきりさせたい」

 「それじゃあ、今日は記憶を取り戻すために事故現場に行ってみる?」

 「ああ、すまない。助かるよ」

夏休みが終わっていたこともクラスメイトが知らない人ばかりなのことも由紀だと思っていた人が本当は杏だということも私の記憶が失われたからなのかもしれないと考えると納得がいくような気がする。事故に合ったという場所に行くことで記憶を取り戻し感じている違和感を取り除き快適な学校生活をおくりたいものである。

 事故現場は自宅から徒歩20分の距離であった。私のいつもの通学路ではなく、遠回りをするときに使う通学路であった。周りは住宅街で見通しの悪い交差点が多く見られる。自転車で坂道を下っていたときに飛び出してきた車に轢かれ病院に1週間入院していたそうだ。そして強く頭を打ったため後遺症が心配されていたが、記憶障害というカタチで現れたようだ。しかし、その現場を見てもなにも思い出すことはできなかった。その日は、遊ぶ気分になれなかったので解散することにしもらった。

 自宅へ戻ると妹がいつものピンクの水玉模様のパジャマ姿で出迎えてくれたので記憶障害のことを妹に話してみると大丈夫だよ、直ぐに記憶は戻るからと気遣ってくれた。なぜ、そのことを話してくれなかったのかと聞くと覚えていないならそのほうがいいと思ったからだと言われた。この際だから、妹に由紀という女性を知っているかと聞くと知らないと言われた。やはり、私の記憶が混乱しているから架空の由紀という女性を作り上げているのかもしれないと改めて感じた。そのあと、妹が記憶障害のことを誰から聞いたのかと言ったので杏からだとこたえた。妹はそれを聞くと部屋に戻って行った。いつもならば、もっと私にべったりとくっつき今日の出来事を聞いてくるので気を利かせてくれたのだろう。しかし、妹に気遣わせる兄というものは情けないと思う、明日からはいつもどおりの私に戻ることを決意した。結局、今日は明日の予行演習どころではなくなり練習できなかったことは悔やまれるが橘さんには記憶障害のことは気づかれないように接しようと思った。

 四

 今日は日曜日だ。橘さんとの約束の日がやってきたのだが不安しかない。本当に間が持つのだろうか、楽しませることができるのか、つまらなさそうにされたらどうしようか、思考がグルグルと同じところをまわっている。予行演習ができていれば多少の余裕はあったかもしれないが土曜日に杏を誘った結果、生徒会があるからと断られてしまっているためぶっつけ本番になってしまった。くよくよしながら待ち合わせ場所に行くとまだ橘さんは来ていないようだった。待ち合わせの時間まではあと10分あるので待っていると5分後に橘さんが制服姿でやってきた。学校が休みなのになぜ制服を着ているのかと言うと校則にそう書いてあるからだと言われた。どこまでも真面目な人だ、もっと楽に過ごせばいいのにと思う。無駄な時間は減らしたいからと直ぐに妹へのプレゼントの話へ移行した。

 「妹さんの趣味や好みは把握しているのですか?」

 「う〜ん。そう言われると全然知らないな、普段なにもしてなさそうだし、何か集めているわけでもなさそうだし、趣味あるのかな?」

 「私に聞かれても困ります。つまりは、なにも手がかりはないということですか、役に立たない兄ですね。しかし、そういうことでしたら財布はどうですか?中学生にもなると友人とお金を使う場所で遊ぶ機会も増えますし」

 「財布ね。でも、家の妹は新学期になってから2週間経つけど外出した形跡が見当たらないから使う機会も少なそうだし財布は違う気がするな」

 「そうですか、ではアクセサリーはいかがですか?中学生にもなるとアクセサリーに興味を持ち始める時期ですし。値段も手頃で可愛いデザインのものを売っているお店を知っています」

 「なるほど、アクセサリーはいいね、家でもつけることができるし。でも、兄からもらったアクセサリーを女子中学生がつけるかね、アクセサリーってカップルのプレゼントの定番だから『うわぁ!こいつ妹に気があるんじゃね、気持ち悪い』とか思われそうで抵抗があるかな」

 「そうですか、それでしたらぬいぐるみはどうでしょう?女の子でぬいぐるみが嫌いな人はいません」

 「う〜ん。ぬいぐるみは抵抗があるかな。もの凄く可愛いぬいぐるみを渡しても私の分身だと思われそうで、抱きついたりできなし、まさか『兄は妹に抱きしめて欲しいと思っているのか気持ち悪い』と思われそうで。それに、もし妹がぬいぐるみを抱きしめているところを見たらなんて声をかければいいんだ?」

 「気に入ってくれてよかった。ありがとうでいいんじゃないかしら」

 「私の分身を抱きしめているんだぞ、そんな気ないからなってことをちゃんと伝えないといけない場面でありがとうなんて言うと問題ありだよ。兄は妹の誘いを受けると言っているようなものだ」

 「それなら、それは兄の分身ではないからなでいいと思います」

 「それだと、『妹はぬいぐるみを兄の分身だと思っている』と兄は考えていたと思われるだろ。妹にその気がなかったらどうする?妹に欲情してると思われて親に報告されたらもう家を出るしかなくなるだろ。そんなことしたら本当にぬいぐるみが兄の分身になってしまうから」

 「考えすぎだと思いますが。では、もう妹さんに何が欲しいか直接聞いたほうがいいのではないですか?」

 「それをしたくないから今日誘ったんじゃないか」

 「しかし、アテがないのでは私も何がいいかわかりません。一度もお会いしたことがない人ですし情報がなさすぎます」

 「確かにそれもそうだ、困ったな」

 いいプレゼントが決まらず困っていると、偶然にも杏と出会った。

「二人が一緒だなんて珍しいね、もしかしてお邪魔だった?」

「いえ、むしろ歓迎しています。今日は妹さんの誕生日プレゼントを買おうと集まったのですが何を買えばいいのか決めあぐねていまして、確か園崎さんは彼の幼馴染でしたよね、彼の妹さんの好きなものなどご存知でしたら是非とも教えていただきたいのですが?」

「ふ〜ん。彼、ね。まぁこいつの妹の好きなものくらいは知っているよ。でもその前に橘さんの『彼』に聞きたいことがあるのだけど?」

杏に手を引かれ橘さんと少し離れた場所へ連れて行かれた。離れる必要はあったのか言うと橘さんに聞かれると心配をかけてしまうから必要だと言われた。

「妹の好きなものまで忘れてしまっているみたいね。昨日、別れたあと何か思い出したことはあった?」

「なんのことだ、昨日は生徒会があるから遊べないと言って断ってきたではないか」

「何言っているの?昨日は一緒に過ごしたじゃない、その時に記憶障害が出ているという話になって、事故現場に行って、そのあと遊ぶ気分じゃないから帰ると言って別れたでしょう?それも覚えてないの」

「覚えてないも何も、根本的に記憶障害を患っているつもりはないし、断られたから昨日はずっと家で妹と遊んでいたさ」

「じゃあ、なんで妹の好きなものがわからないの?おかしいよね」

「おかしくはないだろ」

「おかしいよ、だって去年までは妹に渡すプレゼントで悩んでいたことなんてなかった。喜ぶものを知っていたから」

「なに言ってんの」

「もういい、なにも覚えてないみたいね」

そう言い残し去っていった。私が記憶障害だなんて可笑しなことをいうものだ、去年まで妹にプレゼントを渡していたと言うのも嘘だろう。そんな記憶はない、それは記憶障害というわけではなく渡していないからだ。そう記憶している。

 杏が立ち去ったので橘さんのところへ戻った。園崎さんからプレゼントに渡すものは聞けましたかと言われて聞き忘れたことを思いだした。忘れていたというと役に立ちませんねと言われた。その後、話し合った結果、手帳にすることになった。妹には必要ないだろうと言ったのだが、消耗品だから妹に気があると思われないですむから決まりですと言われたので納得しておいた。

 雑貨屋で手帳を見ていたがいいもの


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