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同盟締結 4

 しかし一旦始まってしまえば、会議はイェーツィアの独壇場だった。

 そもそも今回の議題が『戦争』についてであり、彼女がそれを一手に引き受けている以上、当然の成り行きであった。


 イェーツィアが前線を駆けずり回って収集したデータを朗々と読み上げ、そこから浮上する問題点を挙げていき、解決方法及びそれにかかる費用の目算まで全て一人でやってしまうので、誰も彼も肯く以外の仕事がない。

 フェルロフは存在感をアピールするために、うざったくない程度に発言をしていくつもりであったが何も出来ずにいた。他の参加者ですらそうなのだ。ましてや初参加のフェルロフに出来ることなど何もない。


『―――次に前線への補給の問題ですが、今までハーピー族など空を飛べる種族からなる空輸部隊を重用してまいりましたが、悪天候による影響が大きく、それがリスクとなっていました。特に南下するほど天候が変わりやすい地域になるためこの問題が非常にやっかいです。そこで最前線であるプラタ丘陵から西にある山脈にある山道を使います。この道は人間の村民が使っていたもので、道幅も狭く輜重部隊が通ることは出来ませんが、補強することでそれも可能となります。費用の概算も出してあります。……いかがでしょうかネキテン大公』

「ふむ。これなら十分軍事費で賄えましょう」


 ドラゴン族の代表が小さな丸眼鏡を人差し指でくいっとあげて言った。彼の体に比してあまりに小さすぎる紙が彼の手の中にある。イェーツィアが送ってきた資料だ。イェーツィア本人はまだこの魔王城に帰還していないものの、各地で収集したデータは常に早馬によって届けられていた。

 フェルロフはその資料をちょいと盗み見たが、思わず軽いめまいを覚えた。


 資料には兵力や物資の損耗について書かれているのみならず、獲得した土地の測量と検分までやっていた。やけに詳細な地図には農耕に向いた肥沃な土の場所に印がつけられており、森にあっては木々の種類を、山にあっては鉱物が見つかっているかどうかを記していた。

 そこから見えてくる彼女の思考。

 戦争に勝つのは当然のことであり、その先の、獲得した土地をどう使うかまで既に考えている。


 恐ろしいことだった。人間が劣勢なのは当たり前だ。むしろ今までよく戦ってこれたものだと思えてくる。


『ダジャール以北は直轄地としますが、ダジャール城砦に限ってはオーク族の功績が目覚ましく、またこの地を手に入れるにあたり多くの血を流したことから彼らの物としたいと思いますが……いかがでしょう?』

「いーんじゃない? そのほうが士気も上がるだろうしぃ」

「そうだな。あいつら泣いて喜ぶだろうよ」

『ではこちらも決定ですね』


 人間から奪い取った陣地はイェーツィアによって瞬く間に配分されていった。まるでベテラン給仕が肉料理を切り分けていくようだ。

 一体有能な人間何人分の働きをしているのか。

 フェルロフが最初に想像していた彼女の姿は、いつの間にか多頭多腕の怪物になってしまっていた。


『さて、あとは何かありますでしょうか。なければこれにて会議を―――』

「待ちなさいイェン」


 会議が終わりかけたその時、それまで黙りこくっていたウクゼクがついに動いた。


『なんですのお兄様』

「僕はこの戦争をもう終わりにしたいと考えている。お前はどうだい?」

『もちろん私も同じことを考えておりますわ』

「そうか、よかった。それなら僕からの提案なのだけど、ここで人間側に講和を申し込んではどうだろう」

『なっ! 駄目です。ダメ! 絶対にダメですわお兄様』


 なんでだい? と訊き返すまでもなくイェーツィアがその理由を説明した。


『いいですのお兄様? まず人間どもは我々との和解を望んでいません。そこにいる人間が先ほど言ったように、あいつらは最後の一人になっても戦うつもりです。それに前線の士気は今最高潮と言ってもいいほど高まっています。せっかくのその士気を下げかねません。そして一番重要なことですが、人間どもに我々が弱気であると映るでしょう。これは最悪ですわ。奴らが図に乗ってだらだらと戦争が長引いてしまいます』

「……貴方はどう思います、えと、フェル」


 お膳立てをした上で律儀に愛称で呼んでくれるウクゼクは、どこまでも気の良い男だ。

 ようやく巡ってきた発言のチャンス。

 全員の注目が集まる中、フェルロフは立ち上がって言った。


「俺は、講和の申し入れをすることに反対です」  

 

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