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同盟締結 2

 魔王!


 それは恐怖の代名詞。

 諸悪の根源であり、冷酷にして残虐。腕をひと振りするだけで街を一つ滅すほどの強大な力を持ち、耳のあたりまで裂けた口で、人間を丸呑みにしてしまうという。

 その他にも、背は人間の十倍以上もあるとか、妊婦の腹を引き裂いて中の赤ん坊を食らうのが趣味であるとか、その手の噂はいくらでもある。

 フェルロフが聞いた中で一番ぶっ飛んでいたのは、『魔王は夜の支配者であり、闇と魔王は同義』というものだ。棺おけに片足突っ込んでいる老学者の言だったので流石に信じなかったが、噂ほどではないにしろ、それなりに凶悪な風体を想像していた。


「驚かせてしまってすみませんでした」

 ウクゼクが謝罪する。


 なんだろうこれは。なぜ魔王が。動揺を誘うつもりなのか。

 フェルロフの思考は迷路を彷徨うように混乱していた。

 あまりに予想外すぎた。

 伝え聞く魔王の噂は尾ひれ背ひれがついているとは彼も思っていたが、ここまで普通というか、低姿勢で大人しそうな人物だとは思っていなかった。


「僕が無理を言ってここへ呼びつけたわけですから、市街まで出ることは出来なかったのでせめて入り口でお出迎えしよう、と思いまして。それにしてもお若いですね。書簡の文面からは想像もつきませんでした。おいくつですか?」

 二人は同じ王位に就いている存在だが、国の格が違いすぎて対等とはとても言いがたい。

 だというのに、随分と気さくに魔王ウクゼクは話しかけてくる。

「先月十六になりました」

「歳のわりにしっかりしていらっしゃる。僕が貴方くらいの頃は、遊んでばかりでよく叱られていましたよ。ハハハ。来ていただいて早々申し訳ないのですが、これから定例会議に参加していただきます。我々魔族と同盟を結びたいという貴方の提案、僕は賛成なんですが、僕一人の独断で決めるわけにもいかないんです。コトがコトですからね。ですから我が国の重臣たちと会って、彼らの賛同を得てからになります」

「当然ですね。それにこれからお仲間に入れていただくのだから挨拶は早い方がいいでしょう」

「貴方が皆に受け入れられることを期待していますよ」

 定例会議は、魔族の代表が列席し国の重要議題について話し合うものだそうだ。彼らの国は多種族国家であり、その中で主要な五種族であるドラゴン族、オーガ族、オーク族、ラミア族、スライム族の代表と魔王であるウクゼクが円卓を囲むのだと、受け取った書簡には記されていた。そこに今回フェルロフが飛び入り参加することになっていた。


「はい、到着。ここが定例会議のための議事室です。それでは僕の後に続いて入ってください」

「あ、はい」

 唾を飲み込むとごくりと喉が鳴る。さすがにフェルロフも緊張していた。

 これから行われる会議に参加する―――それはこれからフェルロフが品定めされるということだ。そしてもしお眼鏡に適わなかったなら、同盟は破棄、あるいは有名無実のものとなってしまうだろう。

 避けねばならない事態だ。

 人間を裏切って魔族に寝返って。それで魔族にも受け入れられなかったらあんまりだ。

 そしてこれはフェルロフ個人の話ではない。国の命運が懸かっている。

「……やってやるさ」

 気合を入れると、フェルロフは重厚な扉を押し開けて中へ入った。


 

 室内はそれまでの魔王城の廊下と違い明るかった。天井は高く、美しい装飾の明かり窓から光が差し込んでいた。

 中央に石を切り出したシンプルな円卓があり、その周囲に大きな椅子が並べられている。

 すでに集まっていた魔族達の視線がフェルロフに注がれた。

「お待たせしました。紹介しましょう。人間の国ウルディキの国王フェルロフ・ポラヴィニアス様です」


「ほほう。若い。いや、幼いか?」

「あらあら結構いい男じゃない。筋肉が足りないけど」

「俺らと同盟を結ぼうなんてどんな変わり者かと思ったが、意外と普通だな」

 魔族代表達は好き放題言っている。

「今回スライム族のエメリアさんと、オーク族のスレトナさんは欠席ですね。あ、空いている席ならどこに座っていただいても構わないですよ」

 ウクゼクに促され、フェルロフはとりあえず入り口に一番近い席に座る。

 あと三人は座れそうなサイズの椅子は、体格の大きいオーガ族やドラゴン族でも自由に座る場所を選べるための配慮なのだろうが、まるで小人になった気分だった。


 ウクゼクから簡単に代表達の紹介がなされた。

「こちらドラゴン族のネキテン大公。昔から金融関連の統括をしていただいています。こちらはオーガ族のレデント公爵。代々建築などを。ラミア族のホンノン公爵は娯楽全般を」

「娼婦の元締めもやってるわよ」

 と本人から情報が追加された。

「……えー、それでは僕含めこの五人で定例会議を始めましょう。欠席のお二人からも委任状はいただいていますからご心配なく」


『私も参加いたしますわ。お兄様』

 

 突如、いるはずのない六人目の声が響いた。

 少女の凛とした声だ。

 フェルロフは周囲を見渡してみたが、やはり姿はない。焦るフェルロフと対象的に、他の面々は平然としていた。

 そしてウクゼクは忌々しげに円卓の上に置かれた水晶に語りかける。

「我が妹よ。お前も『ソレ』で参加しようというのかい?」

 すると水晶から返事があった。

『もちろんですわ。定例会議には必ず参加すると以前も申し上げたではありませんか。まだ王都へはしばらくかかりますが、この距離なら水晶による通信会話が可能です。それよりも―――』

 声が急にとげとげしくなった。

『私はそこの人間が会議に参加することが許せません。神聖な魔族の会議に人間などを加えようなどと。何を考えているのですかお兄様』

「僕はただ、これから同盟を組むのだからお互いをよく知るためにだね――」

『私は同盟にも反対です!』

 

 水晶が割れんばかりの叫び声の後、しばらくの間沈黙が訪れた。

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