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同盟締結 1

 魔族の首都リズベズは活気に満ち溢れていた。普段も十分に賑わっているが、今日は特に凄い魔族の数だ。それもそのはず、人間側の重要拠点であったダジャール城砦をついに攻略せしめたのだ。戦勝の高揚に誰もが浸っていた。

 リズベズの人口はおよそ百万人。中央広場から東西南北四方に走る王都大通りによって街は区切られている。北東から時計回りに、商業区、工業区、居住区、行政区といった按配だ。

 中央広場は普段正午まで露店や大道芸人に開放されているが、今日は違う。鮮やかな手腕で勝利を収めた将軍が凱旋帰国するので、それを出迎える準備が進んでいた。パレードが大通りを練り歩く予定であり、その時に使う御輿だとか、のぼりや旗であるとか、その他もろもろの用意に皆が駆けずり回っている。


 そんな中、中央広場の喧騒に背を向け、北側へと足早に向かう人物がいた。

 小国ウルディキの王、フェルロフだ。顔をというよりも肌を一切隠すように目深にフードを被り、大きめの外套ですっぽりと体を隠していた。なにしろ彼の整った顔立ちと、陽光を受けて輝くクセっ毛の金髪は目立ってしまう。

 それにここは魔族の根拠地である。こんなところに人間がいると知られてたらどうなるか。

 というわけでフェルロフはこそこそと道の端を歩いていた。


 彼の案内役を務めるのは、目玉に鳥のような足と、コウモリのような羽が生えている魔族だ。鳩くらいのサイズしかないので、もしかしたら魔族のペットなのかもしれない。残念なことに彼(彼女かもしれない)には口がないから意思の疎通が難しい。フェルロフの言葉は理解しているようだが、その逆の場合には、彼の飛び方を見ておおよそ見当をつけるしかない。

「随分と歩いたのに、まだ着かないのか」

 とフェルロフが問うと、目玉コウモリはひゅんひゅんと8の字に飛んでみせる。


―――わからん。


 フェルロフは諦めて無言で歩くことにした。

 二人が目指しているのは街の北部にある王城、人間達からは《魔王城》と呼ばれている場所だ。

 鈍色の空に突き刺す槍の穂先のような禍々しい尖塔がいくつもある出で立ちは、フェルロフの恐怖心と不安を煽る。煽るのだが……一向に着きやしないので、さすがにそれも薄れてきた。

 城のスケールが違いすぎて、いくら近づいても入り口に辿り着けないのだ。


 ようやく城門の前の跳ね橋へとやってきたが、今回フェルロフがここを訪れていることは、魔族でも上層部のごく一部が知るのみとなっている、いわば極秘の密会であるため、そのまますんなりと正面から入ることは出来ない。門番に見つからないよう裏手へと回る。普段使用人たちが使う勝手口のような場所だ。

 

 城門よりは小さいと言っても、馬車が余裕で通れるくらいの木製の扉が開かれている。その入り口で、魔族の青年がフェルロフの方へ手を振っていた。

「迎えか」

 青い肌は青白いとかではなく本当に深い青色で、尖った耳と額の両側に生えた二本の小さな角がフェルロフの目を引いた。柔和でお人よしそうな表情と服の着こなしから、おおかた貴族のボンボンであろうと推察する。

「お待ちしておりましたフェルロフ・ポラヴィニアス様。ここからは僕がご案内いたします。君はもう戻ってもらっていいよ」

 言われて目玉コウモリはブンブンと飛び回る。何が言いたいのかフェルロフにはさっぱりだが、魔族の青年のほうは「ははは、大丈夫だから」などと返している。どうやら魔族なら理解できるらしい。

 

 名残惜しそうに目玉コウモリが飛び去って行った後、二人は城内へと入った。

 裏口から入ったのもあるだろうが、中はえらく閑散としていた。どこまでも続く長い長い廊下は、昼間だというのに真っ暗だった。所々にある燭台が唯一の灯りだ。二人の足音がやけに大きく廊下に響く。魔王城と呼ばれるにふさわしい雰囲気だ。

「長旅でお疲れでしょう」

 沈黙に気を利かせて、魔族の青年が話し始めた。

「確かに長かった。馬車でえーと、十日か。普段はあまり運動もしないからな。宿からここまで歩いて来るのも骨が折れた」

 実際先ほどまで肩で息をするほどだった。運動音痴のフェルロフは普段書物を読みふけるばかりで体力が全くないのだ。

 苦笑しつつ魔族の青年はぶつぶつと何か唱える。たちまち白い泡のようなものがフェルロフの体にまとわりついた。それは温かく甘い香りがしたが、それも一瞬のこと。すぐに消えてしまう。

「…………今のは?」

「治癒の魔法です。少し体が楽になったんじゃありませんか」

 言われてみるとその通りだった。それまで棒のようになっていた足はすっかり健康に。馬車に揺られて痛かった尻も痛みが引いていた。

「凄いな。魔族はそんな魔法も扱えるのか」

「初歩の初歩ですよ。貴方でもすぐに使いこなせると思いますよ。なんなら後でお教えしましょうか」

「本当か。それは助かるな。それなら是非……えーっと、名前訊いてなかったな」

「ウクゼクです」

「え?」

 フェルロフは訊き返してしまった。なにしろその名前は―――。


「ウクゼク・ウノ・レンニャ・ムートスート。近しい者はウーザと呼びます。人間相手であれば魔王ウクゼクと名乗った方が通りがいいかもしれませんけどね」

 そう言ってウクゼクは微笑んだ。 


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