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永遠のライバルがアングラー可愛い

この物語は百合成分98%でできております。

1.



『19××年××月×日


 その日、一人の女性が不幸に見舞われました。


 可愛く可憐だったその女性は温室育ちでした。生まれながらのお嬢様。きっとバラのトゲで怪我をしてしまうくらいに弱々しい華奢な綺麗で誰が見ても可愛らしいと称するだろうとても素敵なお嬢様だったのです。


 だからその女性はバラのトゲで自分が傷つけられた事を認める事ができませんでした。それが不幸の始まりでした。いいえ、そうではないかもしれません。彼女自身は不幸だとは思っていなかったかもしれません。人は他人の心を知る事はできません。だから彼女自身がどう思っていたかは誰にもわかりません。彼女は既に現実から逃避していたのですからなおさらです。


 病室のベッドの上に横たわる姿、その綺麗だった顔は傷跡の残った痛々しい様だったそうです。けれど彼女は楽しそうに嬉しそうにしていたそうです。手に持った古臭いお人形さんで遊ぶ彼女の姿だけを見れば幸せそうにさえ見えたと聞いております。


 不幸を感じられない彼女はだから不幸ではなかったのかもしれません。


 今となっては誰も知る由もありません。


 その日、その女性は人としての生を終えたのです。


 この世から去って行きました。


 去ったその先の世界ではどうか幸せであって欲しいと少なくともこの私はそう思います。


 少なくとも私は……』





 降り注ぐ陽光は今年一番の強さだった。


 じりじりと焼けるようなこの暑さの中で、私の視線は先ほどから太陽よりもさらに大きな熱エネルギーを発生している少女達の姿に奪われていた。


 この暑さも気にならないと肩が触れ合うような距離に寄り添う二人。一つの日傘の中、さながら手を繋ぐかのように傘の柄を二人で持ち、静々と小さな声で喋りながら夏を堪能していた。まるで今、この時その空間だけがこの世界から切り取られたかのようにさえ思えるほどだった。暑苦しい奴らだと言う無知蒙昧な輩もいるだろう。けれど違うのだ。彼女達の中に暑苦しさなど一切ない。寧ろ清涼感に溢れている。それは例えば緑生い茂る山でふいに出会った小さな小さな湧水で作られた湖、川の産まれる場所に咲いた一輪の花のような、そんな初々しさと涼しさを感じされるものだ。


 もっとも、私自身を例にとればその熱エネルギーは私の熱は加速させていくばかりではあった。が、心地よい熱だ。この火照りはずっと取っておきたいとさえ思うほどに。


 『あ、拭いてあげる』『いいよ』『だ~め、私にさせて』そんな会話が今繰り広げられているのだろか。二人は立ち止り、背の低い方の少女がカバンからハンカチを取り出し、もう一人の少女の頬に垂れてきていた汗を優しい手つきで拭いている。くすぐったそうに笑う女の子。それが楽しくなってきたのかほらこっちも、あっちもと小さい方の子が拭くにつれ、止めてよと手を振るが、けれど嬉しそうに彼女は笑みを浮かべ続けていた。次第、汗は拭き終わり、二人はまた歩き出し、手頃なベンチに身を寄せ、座る。


 あぁ、夏の太陽より熱い百合の花よ。


「ぁんっ!食らいついてくるわっ!凄い勢いで喰らいついてくるわっ!あぁん猛々しいぃっん」


 そんな可憐な少女達が、突然の周囲に響いた大きな声に驚いて逃げて行った。


 あぁ、私の好物が……。彼女らから伝わる熱エネルギーがなくなり、私の中に産まれていた熱が急速に失われていく。さながら消えてゆく雲を追いかけるような切なさが代わりに湧いてくる。


 もう二度とあの空間を見る事ができないのだと、逃げる二人を気落ちしながら遠目に見ていれば、いつの間にやら「もきゅ」と鳴く白い生命体がひくひくと鼻らしきものをならしながら私の足に張り付いていた。


「…………ご主人様の所にいなくても良いのかい?」


 一瞬、嘆息し、声を掛ける。


 なんとも暑苦しい白い毛が可愛らしいのは事実ではあるのだが、これの飼い主の日々の行動の所為でこれ自身の評価まで低くなってしまうのは否めない。現に飼い主様は今も狙ったかのように私の邪魔をしてくれたのだからなおさらだ。


 そんな風に私が考えているとも知らず、白い生物は私の足でひくひくと鼻っぽい何かを鳴らし続けていた。


 そしてその飼い主といえば、戯言を吐きながら一人海を前にして釣りに興じていた。


 海に面した海浜公園。


 普段はデートスポットや家族連れ、釣り客で賑わっているものの、この暑さに客はあまり見えず、釣りをしている人も疎らだった。そんな中で飼い主……一見すると知的な感じのお嬢様が一人、慣れた手付きで激しく揺れる竿を引き、戻すようにして素早くリールを回す姿は否が応でも視線を集める。もっとも、近場に座っていた二人が立ち去った以上、今となってはその視線も私くらいしかないのだが。だからというわけでもないが、そんな彼女が私の方に振り向き先ほどと同じく大きく響く声で一言。


「あぁんっ、ぃゃん。私の、私の竿がびくんびくんいってるわぁ」


 ビクン、ビクン。


 大変嬉しそうに笑顔でそんな多分に官能的な発言をしている彼女に対して冷めた目を向けながら、竿が

激しく軋んでいるのを確認する。これは大物な感じだね、と呑気に思いながら、私は足に張り付いた暑苦しいけむくじゃらの生命体を胸に抱え、その背なのか何なのかも良く分からない場所を撫でる。


「そういえばお前は犬なのかい?ウサギなのかい?それともケサランパサランの親玉かい?」


 あるいはネズミかもしれない。が、その正体が掴めないという観点からいえば、この私と同じような存在なのだろうかと思う。この世界には分からない事がいっぱいある。証明されていないこと、証明できない事、それらも含めて未解明なものはいっぱいあるのだ。夢が広がる。


 が、しかし、こんな毛むくじゃらを抱えていればただでさえ熱いのが暑くなっていく。


 夢もいつしか溶けてなくなってしまいそうだった。


 炎天下の中、海浜公園で竿を持って官能発言をするお嬢様とそのペットとのデートという一見羨ましそうな行動を、魔法使い見習いに似合わない行動をしているのには訳がある。


「あぁ、暑い。なんというか、折角の白い肌を焼きたくないという気持ちが分かってきた」


 呟き、手休め程度に帽子のつばを深くするが、それも詮無い事だった。結局露出している腕や足は隠しようがない。そしてそんな何気ない行動を自然と行っている自分に苦笑し、太陽光で赤くなった腕に目を向ける。


「言われたように長袖にしておけばよかった……」


 出がけに妹に言われた事を思い出し、流石に年季が違うなと感心する。


 今の私は白い肌、といっても向こうでハシャイデいるお嬢様の方が何倍も白いのだが、の持ち主だった。


 昔はいわゆる日本人、黄色人種だったのだが、それが今や白い肌の持ち主。もっとも変わったのは肌の色だけはない。細く艶やかな髪質、きめ細かく柔らかい肌、細い骨格、胸にある膨らんだ脂肪、肉感のある臀部、長い足、そしてペンギンのようだと称される顔。その全てが昔と今で違う。見た目女、体も女、私というものを構成する全ての記号が女である事を意味している。


 が、しかし、この私は男である。


 より正確に言うならば男だった。


 昨今流行りの男の娘でも、性同一性障害でも、男であると勘違いしているわけでもない。この私の精神はれっきとした男である。数か月前までは心身ともに魔法使い見習いだった。嬉し恥ずかし結構良い年齢の魔法使い見習い。魔法使い間近ではない所がミソであるがそれはどうでも良い。


 死んで体がどこかの誰かと入れ替わった。


 二十文字未満で説明すればそんな所だ。もし誰かに説明する機会が来たならば私はそう説明するだろうと考えていた台詞だ。三行も必要ないというのは些か寂しいものだが事実それだけの話だ。


 もっともこれも多少語弊を含んだ言い方なのは事実である。


 私が生きた世界とこの世界は厳密に言えば違う。男として生まれ、そして死んだこの私が、女として生まれ変わって今の今まで生きてきた世界ではなく、この世界にたどり着いた時には既にこの年齢、高校一年生だった。何ともファンタジーな事だ。


 学問の徒として、大学院まで学生の身として生きてきた私には、自分自身の今の状況は些か納得いかない存在ではあるのだが、しかし、これが現実である。ならば修正されるべきは論理と理論であり、それに適うような理論を考えるのが今の私の小さな楽しみである。もっとも、構築できた所で他人にそれを証明するのは困難を通り越して不可能に近く、それの証明が不要だと思えるのは私だけなので自慰行為に過ぎないけれども。


 ともあれ、そんなわけでいきなり高校一年生の女の子という立場になった私だった。


 そんな私が高校で知り合ったお嬢様風の女の子と一緒に海浜公園に釣りに来たというのが今の状況である。先ほどまでは私も一緒になって釣りをしていたのだが、熱にやられてこの様だった。


 まぁ、その後に頂いた熱エネルギーのおかげで多少元気は取り戻したけれども。


 あぁ、あれは良かった。あれは良かったと回想していればまたぞろお嬢様が振り向いて、一言。


「あぁん、すごいですわ、すごいですわよっ。こんなに凄いの初めてよ!これはまさに海と地上のまぐわいですわっ!これってやっぱり海が母だから受けなの?受けなのよねきっと!?そうよね?あぁでも母なる大地ともいうわよねっ」


 当然の如くそのお嬢様の発言を華麗にスルー。私は変わらずベンチに座りながら淡々とケサランパサランを撫でる。


「お前のご主人の発言は止められないものかね?」


 日本語入出力機能はないらしく、ケサランパサランの反応は皆無だった。うん、分かっていた。ともあれ、海と陸地の境でキャーキャー騒いでいるオナゴは、私をこの世界に誘った不思議な存在でも、別に女神さまだとかそういうファンタジー要素でもなく、先ほど言ったようにあくまでも私がこの世界に来て、この世界の高校で出会った同級生であって、ただ、私とは所々そりが合わないだけで、見た目はお嬢様と言った感じの美人さんである。


 普段は、特に制服はスカートを旧態然としたロングスカートにしていたり、私服も肌の露出が少ない控えめな洋服を着ていたりする彼女だが、海に来ているからだろうか?タンクトップにショートパンツにキャップ帽、偏光グラスというかなり珍しい格好だった。アングラーというにしては少々薄着ではあるがこれはこれで良いと私は思う。特に私よりもさらに白いのに太陽の影響を受けておりませんと言わんばかりのそれこそ白魚のような健康的な足をこれでもかと露出するショートパンツ姿が素晴らしい。これで黙っていれば百点満点なのだが、発言と行動のおかげで零を通り越して負である。こういう残念な感じの美人さんが好きな人も世の中にはいるだろうが、私は苦手である。勿論、彼女のキャラクターは大好きだが、しかし、そりは合わない。合うわけがない。あってたまるか、と言いたい。


「ユリシーズ、こっちにおいで」


 その言葉と共にケサランパサランことユリシーズという犬なのか宇宙船なのか何なのか分からない生命体が彼女に駆け寄っていく。私の言葉は聞き取れないが流石にご主人の声は聞き取れるようだった。


 しかし、動く姿が酷く可愛くない。大量の毛で移動しているように見えてまるで海底を歩くウニのように思える。


「ほら、おっきいでしょう?このお魚はねシーバスというのよ。貴方は飲み込まれてしまうわね。ひとたまりもないわよきっと」


 彼女の長い足くらいはあるのだろうか。かなり大きな魚類を指さしながら彼女がユリシーズに告げる。それに対してユリシーズがうんうんと体を上下に揺らしていた。


 男時代にもここには良く釣りには来ていたが、あそこまで大きなシーバスを釣りあげた事はない。だから、純粋に、良く釣り上げたものだと正直驚きと羨ましさを覚える。一方で、持って来ているクーラーボックスには入らないという冷静な判断をしていた。男の思考はシングルコア、女の思考はマルチコアというのもあながち間違いではないのかもしれない。


 ちなみに、びたんびたんと暴れまわっているシーバスの尖った歯の奥に見え隠れする餌であったユムシの存在については軽くスルーさせて頂きたいと思う。あれはいろんな意味でグロいので。彼女は意気揚々と餌にしていたが、少なくとも私には触る勇気はない。


 さてどうしたものかと悩みながら、ベンチから立ち上がり、彼女の方へと近づきながら口にする。


「これどうすんのよ?ボックスには先客がいるし……ってまぁそのサイズだと入らないけどさ。手で持って帰るのも怖いんだけど。リリースするのも勿体ないでしょ?」


 ちなみに先客というのは深海に生息するキャラウシナマコである。


 うねうねした怪しげなこの生命体が何故ここらの海にいるのか、そもそも釣れるのか?という疑問が大量噴出したが、彼女なら仕方ないと結論付けた私は元研究者失格だと思う。ちなみに釣りあげた時の彼女の台詞は卑猥を通り越して下品だったので割愛させて頂く。ユムシでアワビを釣った日には大変な事になるだろう。間違いなく。


「あら、この子の皮をむいて三枚におろしてあられもない姿にした後にお持ち帰りになるというの?なんて卑猥な発想なのかしら。もう少し頭を使いなさいな。貴方の頭の中身は認めてあげているのよ私」


 ユリシーズが今にもシーバスに突撃しようとするのを手で抑えつつ彼女が口にする。酷い言いようもあったものであるが、確かに三枚に下してソテーにすると美味しいのは事実。もっとも、包丁なんて持ち合わせておらず彼女の言う卑猥な体にする事はできない。


 そもそも、元々こんなでかいものを釣り上がる予定なんてなかった。せいぜい、小鰯でも釣れれば良い程度の認識だったのだ。彼女の持っている竿がシーバスロッドだったのを見た瞬間、何かがおかしい?と思ったのは事実だが……。しかしまぁ、アオリイカ釣りが流行っている昨今、エギングロッドならまだしもシーバスロッドとは渋い趣味だと思う。


「それとも、ペンギンのように口からこの子を丸のみにしてみる?なんなら私が貴方のお口に挿れてあげるわよ。……あら、やだわ、私ったら挿れるだなんてはしたない」


「いい加減黙っとけ男根主義者ファロクラシー。まぁ、とりあえず折り曲げてみたらクーラーボックスにはいらんかなぁ……入らないだろうなぁ」


 頭をぽりぽりと掻く。


 シーバスというのはヒレがとげとげしい上にでかい上にびたんびたん暴れるのでこれをどうやってクーラーボックスへ?というのが既に難点である。加えて、運んでいる最中にクーラーボックスから暴れ出た日には車道大惨事。うん。流石に交通事故の引き金は引きたくない。男の自分が死んだのが交通事故だという事もありそれだけは勘弁である。


 大人しくなったり、びちびちと跳ねたりを繰り返すシーバスの様子をみながらタイミングを図っていると、彼女は気を利かせて竿を片付け終えていた。さすがにもう一匹!という気にはならないようで安心した。


「んーやっぱ、クーラーボックスじゃあ無理だよなぁ。市場の方にいって発泡スチロールケースが余ってないか聞いてくるから、ちょっと待ってて」


 ここから市場へは徒歩で数分、自転車ならすぐだ。この時間だと市場は閉まっているだろうけれども、行ってみる価値はある。せっかくのこんな良い型、折り曲げて死後硬直で固まったりするのは勿体ない。魚拓とまではいかなくても写真ぐらいはきちんとしたものを撮ってあげたいと思う。


 そんな事を考えていれば、改まったように偏光グラスを外し、大人しくしていてねとユリシーズをベンチに載せ、彼女が口を開く。


「ありがとうね。今日は付き合ってくれて。体調の方はもう良いの?」


「なにそれ。いきなり気持ち悪い」


「失礼ね。あぁ、いいえ、その失礼さが嬉しいのよ。ありがとう。貴方だけよ。私が私をさらけ出せるのは。なんだかんだでいつも感謝してるわ」


 苦笑しながら告げる、その姿は、短い付き合いだが、今まで私が見た彼女の表情の中で一番輝いていた。びたんびたんと跳ねるシーバスとユリシーズが視界にいなければ尚更そう思えただろう。シュールである。


「真面目に喋っている姿が中々想像できないんだけど。妄言と戯言ばかりじゃん。あぁいやまぁそれだけじゃないけどさ。……つか、後ろ」


「リリースしても良いのよ別に。私は釣る行為自体が楽しいだけだからね。……だから、そうやって話を逸らそうとするのは止めてもらえるかしら?少なくとも今は」


「私がいつ話を逸らしたってのよ」


 言いながら視線は彼女の方へ、けれどその焦点はユムシとユリシーズとシーバスが大変な事になっている方へ。大変カオスである。


「ほら、また。意外と私良く見ているのよ貴方の事。貴方は全く知らないと思うけれどね。もっとも、そういう所がらしくて良いと思う辺り、私はやっぱりマゾヒストなのよ」


「どうみてもドSです。本当にありがとうございました」


「世の中には誘い受けという言葉もあるらしいわね。まぁ、今はどうでも良いわ。単刀直入にはっきり言うわ。貴方がどうかは知らないけれど、私は、貴方と抱き合いたいと思っている」


 さらり、とそんなことを彼女は口にした。


「え?……ちょっといきなりそんな暑苦しい発言は止めてくれる」


「前にも言ったけどそういう返し方も好みよ。けれど、今はいらないわ。……大事な事は笑って、それでいて二度言う必要があったかしら?貴方理論によれば。だったらもう一度言わせて貰うわ。より、簡潔に」


 立ち位置を代え、一旦深呼吸し、指先を私に向ける。


「私は貴方と一夜を共にしたい」


 云うなり、向けていた指先を薄く淡い色の唇に宛て、くすくすと笑みを浮かべる。太陽光とは別の熱に赤く染まった彼女の頬が、季節外れの白雪に咲いた花のようにさえ思えて、とてもとても綺麗で、美しいと、そう思った。


 けれど、いきなりそんな発言をされても正直ドン引きである。仮に昔の私がその台詞を口にすればハラスメント委員会を通り越して逮捕劇だ。もっとも、私も男だからお嬢様然とした彼女に言われて嬉しく思わないでもない。嬉しいのだけれども今の私は女なのだ。


 別に女の子同士だからとかそういう理由でその御誘いをお断りするわけじゃない。そういう事ではない。寧ろ好物だ。彼女のような残念な美少女とキャッキャウフフしながら色々できるならしてみたい。


 けれど、私には無理だ。


 だって、私は百合が好きなのだ。


 だって、私は百合が大好きなんだ。


 馬鹿は死んでも治らないってくらいに好きなんだ。


 事実こうして一度死んで生き返ってもまだ大好きだ。


 けれど、男根の混じった百合なんて大嫌いなのだ。彼女が大好きな男根主義の混じった百合を私は全く認められない。男というファクターの存在を百合の世界に持ち込むこと自体が私にとって許されざる禁忌である。それは例え精神的なものであっても同様。百合に男性的な物など許されるわけがない。例え神が許したとしてもこの私はそれを許しはしない。だから、私が彼女と一緒にそんな仲になるという事を想像する事自体が私にとって自己否定でしかない。ましてそれを現実のものとするなど認められるわけがない。


 なんてそんな取りとめのない思考が延々と脳裏に浮かぶ。


「さぁ、負けを認めなさい。貴方が私の主張を蛇蝎の如く嫌っているのは知っているけれど、貴方が私自身を嫌ってはいない事は分かっているわ。貴方とっても分かりやすいもの。男の子みたい。まぁ、もっともだからこそ、貴方と抱き合いたいと思うのだけれどもね。貴方のその男性で私を貫いて欲しいのよ。女の体をした男性的な存在と私はまぐわいたいの。貴方しかいないのよ。貴方以外にいないの。だから、ねぇ……」


 その囁きは悪魔の如く、卑猥さの欠片もないにも関わらず官能的にさえ思える程に、私の鼓動に響き渡った。


「私ともっと仲良くなりましょう?」



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