愛花夢
愛してる、愛してる
『愛花夢』
暗い部屋、僅かな月光だけが僕等を照らす。彼女の裸体に残る無数の朱い痕は、何があったかを物語っていた。
「疲れた……。」
「でも、よかっただろう?」
「馬鹿。」
呆れた様にため息をつきながらも、頬は赤く染まっている。愛しい、と思うのは、惚れた女だから?
「眠くなっちゃった。」
そう言って、彼女は枕に顔を埋める。
「もう寝ちゃうの? まだ僕は満足してないんだけど。」
軽い調子で言えば、案の定嫌な顔された。……少し傷付くなぁ。
「冗談じゃない。一体何回やる気?私はもう無理だからね。」
きつく言い放ち、うつ伏せに彼女は布団にくるまった。本気で寝るらしい。
――……それは困るな、つまらないじゃないか。
彼女の肩を掴み、こちらに向かせた。
「何……」
虚ろな目で、見上げてくる。視線が合うだけで、ゾクゾクと躯がうずく。
彼女を引き寄せ
「満足してないって、言ったろ?」
耳元で、息を吹きかける様に囁いた。
「ちょっと! 本当にもう眠いの!!」
首もとに顔を埋めれば、焦った様に彼女は躯をよじらせる。逃がさない為に、なだらかな腰を掴んだ。
「だったら、目を覚まさせてあげるよ。」
そう言って、僕は彼女の首筋に朱い華を咲かせる。それを何度も繰り返した。
「…っ、や……」
だんだんと息が上がってきた彼女。頬を赤くし、目をうるわす姿に、興奮と快感を感じる。
愛しくて、愛しくて、ズタズタにしてしまいたい。
「あぁもう、痛いって! なんで歯を立てるのよ!?」
「愛故に。」
ニヤリ、と口もとだけで笑う。彼女は、顔を更に赤くさせ、目を背けた。
「……見えるところに、噛み痕つけるし。」
「それも、愛故に。」
微笑んで答えると、彼女はため息をつきながら、どんな愛よ、と呟いた。
君は僕の歪みの深さを、知らない。僕は君を愛しすぎて、いつも優しくしたいし、ボロボロに泣かせたいとも思う。
今、僕の下で君が嬌声をあげているのも、僕がそうさせてるという事に快感を覚える。求めても、求めても、足りない。君が欲しくて仕方ないんだ。
「腰、痛い……。」
恨めしそうに、睨まれた。
「ごめん、ごめん。歯止めきかなくて。」
たいして悪びれもせず、僕は機嫌良く答える。
結局、あの後も幾度となく彼女と繋がった。まだ僕はできたけど、さすがに可哀想なので止めておいた。それに、これからは毎日でもできるんだから(やらせてくれたら、の問題だけど)。
「今までキスのひとつもしなかったくせに、なんでいきなりこんな激しいのよ……。」
不意に呟いた彼女。僕は表情を変えずに淡々と言った。
「それは、君がなかなか折れなかったからさ。」
「だからって、普通男からするものでしょう? 私はてっきり、あんたに性欲なんか無いのかと思ってたわ。」
「はは、まさか。僕だってあるよ。ただ理性があっただけで、それも君が誘ってきたから必要なくなり、今まで溜めてた本能が爆発したんだよ。」
説明口調で話すと、呆れた様に何それ、と言われた。
つける朱い印。絡ませる舌。それは醜い独占欲。愚かな自己陶酔。様々な、証。
ふと隣を横目で見ると、彼女はすでに寝息を立てていた。無意識に柔らかな笑みがこぼれる。
――ねぇ、こんな愛情、全然綺麗なんかじゃなくて、酷く歪んだものだけど、それでも僕は僕なりに君を精一杯
「愛してる」
手の甲に口づけをひとつ落とした。
糸に絡まった蝶。近付く蜘蛛は、嬉しそう。誘って、誘って、誘って、ひたすら待ち続けて、やっと手にいれた。蝶は動かず、蜘蛛がくるのを黙ってみつめる。ユラリ、今蜘蛛と蝶が、初めて触れあう。
待ちわびたもの。蜘蛛は喜びに舞い、蝶を愛でることだろう。きっと、永遠に───
━━━━━━━━━END━━
はい、とうとう終わりました。ここまで読んで頂いた方、本当にありがとうございます。連載と言っても、四話完結と短くなりましたが、自分なりにまとめられたと思います。感想をもらえると嬉しいです。




