甘罠夢
捕まえない、逃がさない
『甘罠夢』
――それはあまりに衝撃的で、私を容易に狂わせる――
私達はまるで、遊戯をしているようだ。
惚れたら負け、すがったら負け、追い掛けたら負け、手を出したら、……負け。そして、それをさせたら勝ち。なんて滑稽な勝負。
だけど、私達はそのくだらない遊戯に魅了され、本気になっている。これで恋人などというのだから、笑ってしまう。
恋心なんて、きっと抱いてない。少女のような純粋さなんて、いつの間にか失った。なのに、離れられない。きっと彼に依存してしまったんだ、私は。
(もう止めて、違う男にいっちゃおうかな。……優しい人のところに。)
前に貴方は、こう言った。
『彼のほうが良くなった?』
それは半分当たっていた。だけどね、今更この遊戯を降りる訳にはいかない。
「……ねぇ。」
目もあわせず、話しかける。
「なんだい?」
彼も、私を見ずに答えた。
「愛してる?」
──なんて愚かな
「誰が?」
「あんたが。」
──なんて哀れな
「誰を?」
「……私を。」
──それでも、止まらない
「当たり前だろう?」
彼は即答する。戸惑いなく言うから、少しだけ面食らった。
「……ふーん。」
それさえも、計算の内? 表情変えずに愛の言葉、って程でもないけど、簡単に言ってしまうのね。
彼の肩に手を伸ばす。一瞬間を置いて、深呼吸。そして、優しく儚げに、後ろから彼を抱き締めた。
「……どうしたんだい、珍しい。」
表情は見えないけど、声色からして、機嫌良さそうだ。
――嬉しいの?
思いこみかもしれないけど。
「……私は、あんたに恋心を抱いた事はない。でも、今更離れられない。あんたの存在に依存してしまったから」
一呼吸でそう言うと、彼は振り返り、私の目を見た。
視線が、絡み合う。
「降参?」
しばらくして、彼が問いかけた。
「馬鹿言わないで。私はあんたと賭事なんかした覚えないわ。」
強く言いきると、彼はフッ、と妖しい笑みをこぼした。
「やっぱいいね、君。言っておくけど、僕は君に惚れてるよ?」
彼の右手が、頬に触れ
「──よく言うわ。」
左手が、首筋を這う。
「酷いな、本当のことなのに。」
すれすれのところで言い捨て、私の返事を聞く前に唇を重ねた。
今までの想いを味わう様に、深くて長いキスをした。こみあげる感情は、一体なに?
――あぁ、そうか。
浸る為に、私は瞳をゆっくりと伏せる。
私は彼を、『愛してる』のね
雫がこぼれる。周りは暗闇。光を頼りに、蝶はヒラヒラと舞う。いつしか、それさえも罠と気付いても、蝶は飛び続ける。濡れた蜘蛛、艶やかに光り、蝶を誘う。掬えない雫、濡れた代償、手に入れるもの。
輝く蜘蛛の巣、魅いられた蝶は、罠と知りながら自ら近寄る。嗚呼、堕ちてゆく──。
第3話終了です。次回、最終回となります。まだ執筆中ですが、幸せな結末になりますので、読んで頂けると嬉しいです。