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舞蝶物語  作者: 春蘭
2/5

恋蜜夢



 拒まない、求めない






『恋蜜夢』



「昨日、見てたでしょう?」


 冷めた口調で、淡々と言う彼女。言い方からして、弁解するつもりはないらしい。


「へぇ、僕がいたの気付いてたんだ。」


 試す様な答え。いぶかしげに睨まれた。


「……何も言わないのね。」


「何か言って欲しいかい?」


「嫌な人。」


「それ程でも。」


 皮肉を言いあう事は、日常茶飯事。いちいち傷付くなんて有り得ないだろう。


 彼女は昨日、男といた。しかも、僕の友人。不思議と、いや、不思議でもないが嫉妬心なんて沸かなかった。我ながら、冷たい人間だと思う。


 その場面を見つけたのは偶然。偶然とは怖いもので、どうして同じ時間、同じ場所にいるのだろう。ほとんど奇跡に近い。


「相談……、してたの。」


 不意に、彼女が呟いた。


「どんな?」


「別に、たいした事じゃない」


「ふーん」


 それ以上は、追求しない。話してくれるなら、聞くけど、話すつもりがないなら、無理に求めようとしない。僕はわりと、不干渉主義者だから。


「彼、優しく聞いてくれたわ。」


「それは良かったね。」


「……ええ。本当に嬉しかった。」


「彼のほうが良くなった?」


 そう言った瞬間、彼女は目を見開いて此方に振り向いた。


「冗談でしょう?」


「さぁ? どうかな。」


 すました顔で言えば、ますます彼女の表情が曇ってく。


「別れたいの?」


「君が別れたいなら。」


「貴方自身は?」


「別に。」


 微笑みながらも、突き放すように答えると、彼女はそれきり何も言わなくなった。



 前に、彼女を本気で愛してるかと聞かれた。僕は、間も空けず『当然』と答えた。だって、好きでもない奴と付き合うわけないだろう?

 他にも優しくしろとか、冷たすぎるとか、色々言われたけど、こうみえて僕は、彼女の事をかなり愛してる。冷たくするのも、求めさせようとするのも、僕にとっては立派な愛情表現。少し歪んだ、愛情表現。


 だから昨日、嫉妬心は沸かなかったけど、独占欲は渦巻いた。



「……本当に、優しかった。」


 独り言の様に、彼女は呟く。









 蝶は蜘蛛を離れ、花へと向かう。蜜の甘さを知ってしまったから。優しい花びらに包まれる、なんて幸せな事でしょう。甘い蜜を吸うこと、甘美な罪。きっと罰なんてない。フワリ、花が揺れて、蝶は蜘蛛の巣を離れる。


 置き去りの蜘蛛。逃げた蝶。それでも蜘蛛は、見つめるだけ。呼び止める事さえ、できないんだ。

読者様、ここまで読んで頂き、ありがとうございます。次回は少し展開が変わります。お楽しみにして下さい。

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