春来夢
『舞蝶物語』は連載となってますが、ひとつの話が四つに区切られている感じになってます。起承転結ですね。話自体は暗めですが、最後はハッピーエンドに持ってくつもりなので、よろしくお願いします。
触れない、触れさせない
『春来夢』
キスをする訳でもなく、抱き合う訳でもなく、ただ隣にいるだけ。愛しあっている様には思えない。
いつからこんな関係になったのかも、もう忘れた。寂しかった? 甘えたかった? 誰でも、よかったの?
「……ねぇ。」
彼の裾を軽く引っ張った。
「何?」
こちらを見向きもしないで、淡々と答える。
「……何でもない。」
満たされてる筈ない。だからといって、自分から誘うなんて当然できない。
私の気持ちを知って、わざと手を出さないのか、気付かない程、鈍いのか。残酷なまでに、優しく冷たい人。
寄りかかる事もできなくて、黙って側にいる。居心地が悪いなんて思ってないけど、幸せなんて、もっと思えない。
1ページ、彼は本をめくった。彼の視線は今、そこに集中していて、私の存在なんて空気の様なもの。
誘ったのはどっち?魅いられたのは誰?
彼の頬を両手で挟み、無理矢理こっちを向かせた。
「……どうしたの?」
目を細め妖艶に微笑む貴方。
「……歪んでるわ。」
「褒め言葉だね。」
私が息がかかる程顔を近付けても、彼は笑ってるだけで、動かない。
(本当に、何もしないのね)
「……私は、あんたに堕ちたりしない。」
そう言って、手を離した。
「それは魅力的だね。」
嗚呼、憎い。でも、それ以上に愛しい。抱きつきたくて、突き放したい。側にいたくて、逃げ出したい。
心の矛盾、歪んでるのは、私のほうかもしれない。
誘う蜘蛛、なびく蝶。ヒラリ、ヒラリと揺らめく。甘い罠、近付かなければ、ひっかからない。それでも蝶は、蜘蛛の周りをくるくる回る。待つだけの蜘蛛。蝶は飛び続ける。罠と気付いて、その後を知ってるから。
蜘蛛は誘う。蝶はなびく。それでも互いは触れない。蜘蛛の巣になんか、堕ちない。
読んで頂き、誠にありがとうございます。次回は男の視点で話を進めていきます。