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異世界の生活は原付と共に  作者: 夢見月
第一章 原付「俺様の戦いはこれからだぁ!!」
9/32

原付「・・・・・・・・・・・・zzz・・・zzz・・・zzz」

出鼻を挫かれた・・・。



残念なことにユエちゃん達『疾風の槍』と護衛する商隊達とは外壁の外で別れることになった。

まさか通行税払うために審査待ちする必要があるとは思っても見なかったぜ。


はぁ~、気分駄々下がり。


正確には通行税とは違うらしいが、用は市民権持っていない余所者はどんなことしでかすかわからんから先に迷惑料払いやがれ!ってことらしい。

それなら貧民街の連中を入れるのはどうなのよって聞いたら、

安い賃金で彼らをこき使う時は道具扱いだから必要ないってさ。

それが悪さしたら持ち主の責任ってことらしい。

そうやって入るか?とグエンさんに冗談で言われたがそのときは首輪をされてしまい、市民権を得るのに必要な行政手続が出来ないらしい。

ようは道具は喋るな。

当然断った俺はひとり寂しく審査待ちの列の中。

他の方々は多分ランクや市民権の等級が付いたプレートとか見せて大門をフリーパス。

旅慣れしてるせいか別れはみなさんあっさりしたもの。


「また機会が有れば会おう!」


という言葉を残してさっさと行ってしまった。


「まぁね、元々余計についてきただけ、しかも会って1日の人間の為に待ったりはしてくれないわな」


独り言を呟く。

百人くらい並んだ列は遅々として進まず。

夕日が沈むまでに街に入れるか微妙なところだった。


「ううっお腹すいたぁ~。あの黒犬のせいで昼飯食べてないし・・・」


もちろん原付には村から頂いた食料を積んでいるが硬いパンと干し肉、あとはジャガイモなどの野菜が幾つかと小麦粉が少々。

そのまま食べれるのもあるが街を前にこれらをちびちび齧るなんて事したくない。

さっさと入って暖かいご飯が食べたい。

現代日本人の贅沢な食生活なめんな!

おっと前が動いた。



一歩すすむ。



さらに時間が空いてもう一歩。



うう、苛立ちが募る。



・・・こいつら全員焼き払ったら俺の番だよね~。

いいよねぇやっちゃっても。

ここにいるの市民権が無い連中。

つまり人権ないんだし!

おお、なんとすばらしいアイディアか!

では早速呪文を唱えよう!!


なんて事を冗談二割で考えていると

人がばらばらと列を離れていなくなった。

はて、何があった?

みんな街道の横に腰を下ろして火をおこしたり食べ物を出したり・・・。

ようはキャンプの準備。

人がいなくなったから前にいこうとしたが・・・まさか!

いやな予感が駆け抜けた。

急いで列の先頭があった場所に行く。

そこでは荷物を背負った旅人数名が兵士と言い合っていた。


「頼む入れてくれ!今日これを届けないと金がもらえないんだ!!」

「駄目だ、今日の手続きの時間は終わった。明日、鐘が六つなるまで待て」

「息子が病気なんだ、死に目に会えなくなる!入れてくれ!!」

「知らん!規則は規則だ」

「昼間から並んでやっと番が回ってきたんだ、頼むよ」

「時間は過ぎた、明日また並べ」


うっわ~最悪・・・。

24時間営業じゃないとは思ったけどこんなに時間が早いなんて、時計見てもまだ5時くらい・・・日本でもそれくらいに役所は閉まるか。

規則ってのはたぶん本当なんだろうけど御役所仕事もきわまれりって感じ。

こうなると兵士をぶっ飛ばしても何とかなる話じゃないしどうするか・・・。

夜空飛んで忍び込もうかな?

でも入る時なんか渡されてるのが見えたんだよ。

きっとパスポートみたいに旅人としての身分証明する物だとおもうけど、それがないと多分困る。

手続きの時にきっと必要になる。

うーん、打つ手なしかな・・・・。

かなり旅人さんたちは粘っていたが兵士が全く応じないとわかると足取り重く離れていった。

あれだけ色々言ってたのに入れ無いとなると本気で残念で不本意だけど諦めるしかないらしい。

寒空の下野宿なんて本気でショックだ・・・。

そう思っていたが、兵士にそれなりに身なりのよいおじさんが近づいた。

さっきのように声は聞こえないがなにやら話している。

そして政治家がするような不自然な握手をして、またなにやら話すとおっさんは審査室?に案内されていった。

あれは何?周りを伺うとなにやら複雑な視線がちらほらと、無視を決め込むのと半々ぐらい。


もしかしなくてもあれか?


あれなのか?


しばらくして兵士だけが出てきた。

おっさんは横にはいない、つまりおっさんは通されたってことだ。

やっぱりそういうこと。

ふーん。ニヤリ。

そうなればチャレンジ!

俺は原付を押しながら兵士に近づいた。

兵士もこちらに気付き隠すつもりなどまったくなく全身を探るように見ていく。


「どうかしましたか魔導師殿?」


兵士は原付を数秒見てから先ほど旅人を相手していた声より幾分優しげに声をかけてきた。

まずは様子を見る。


「こんにちは兵士さん。こんな時間まで大変ですね」

「これが私の仕事ですから、全く苦労はありません」


模範解答だな。


「いえいえ、さきほどの様子を見ていると大変な職務ではありませんか、旅人に恨まれても規則を守る。立派な方です」


兵士の顔がちょっ怖くなる。


「もちろんです。規則を守らねば規律が乱れる、それを理解しない者が多くて困ります」


ちょっと失敗したか?

しかし会話を打ち切る様子は無い、一先ず続けてみる。


「それで、先ほどのお方はどうしたのでしょか?なにやら大変慌てた様子でしたが」


なるべく慌てたって所を強調してみる。

むろん先ほどの人にそんな様子はなかった。

しかしうまく意味が伝わったらしい。


「ああ、さっきの人ですか?あの人は街にたまたま証明証を忘れてしまっていたようで、緊急の用があるからしかたなく入れてあげたわけです。まぁ、私だって悪魔ではありませんから。そういう事情なら特例も認めるわけです」


兵士も色々と強調してくれた。

『たまたま』と『緊急の用』と『しかたなく』。

うん。これはいけそうだ。


「兵士さんは大変慈悲深いお方のようだ。これも何かの縁、一つ握手でもさせてもらえませんか?」


かなり苦しい俺の提案に兵士は苦笑いで付き合ってくれた。

なれてないんだよこういうの!ってなれてたらなれてたで問題だけど。


「ええ、こんな私でよければ」


兵士は手のひらを上に向けて出した。

俺は手をズボンで拭くふりをしてポケットから銀貨数枚を出して包み込むような握手で渡した。

兵士の顔がピクリと動いた。


「はは、照れくさいですな」


などといいながら頭をかく。

その時兜に数度硬貨を当てて小さく音を出した。

瞬間びっくりした顔になり俺を穴が空くんじゃないかというほど見つめる。

え、何?


「どうしました魔導師どの!!顔色が大変悪いですよ!!ささ、こちらで休んでください!!」


不自然なほどに大声を出して俺をぐいぐいと先ほどの審査室?に引っ張っていく。

俺はちょっとこけそうになったが何とか原付を引っ張りながら着いて行くが、

もちろん俺の体調はいたって万全。

顔色も問題ないはず。

となれば成功したんだろうけど様子が変だ。

連れ込まれた審査室?は四畳ほどのランプが一つるされた暗い部屋で中央に机が一つ、椅子が二つ置かれただけの部屋。

イメージとして取調室という感じだ。

連れてきた兵士は俺を椅子に座らせると対面に座り息も荒く捲くし立てた。


「賄賂に銀貨十枚も渡すなんてあんた馬鹿か!それとも馬鹿にしてんのかっああ!?しかもなんだよあの渡し方!なにが慈悲深いから握手なんだよ!わけわかんねぇよ!!笑っちまったじゃねぇか!!」


とてもご立腹です。不良です。怖いです。

自分でもあの言い方は失敗したと思ったけどさ、ここまで怒らんでも・・・。


「いや、すまない。こんな事するのは初めてでどうすればいいか分からなかったんだ。まさか賄賂の渡しすぎで怒られるなんておもわなくて。本当にすまない」


そうして頭を下げる。

まだ何か言いたげだったが盛大にため息を吐いて抑えてくれたようだ。


「・・・そんなにあっさり頭下げるって、あんたほんとに魔導師かよ」


この人にも言われてしまった。


「前にも言われたよ。ずっと師匠の所にいたから常識を知らないんだ。魔導師で知っているのも師匠と二、三人だけだし。そう言われても分からないんだ」


そう言っておく。

じっと眼をみられる。

当然俺は逸らさない。


「・・・嘘じゃなさそうだが、それにしても酷いな。もっと常識を知ったほうがいいぞ」


いや、完全に嘘だけどね。

俺の嘘力もなかなかだな。


「ああ、肝に銘じておくよ。それで俺は渡しすぎたみたいだけどどれくらいでよかったんだ?」

「そうだな、銀貨1枚で多いといったくらいだ。俺みたいな一般兵士ならそれで十分だ。それ以上もらっちまうと上から色々言われちまう」

「そうなのか?」

「ああ、多少の小遣い稼ぎは目こぼししてくれるけど、俺達一般兵士が金を持ってちゃ最悪上にはぶられちまう」


結構難しいんだな。

金の価値をもっと早く知らないと。


「それにしてもあんたも変わってるな、世間知らずの魔導師に賄賂の講義するなんて」

「さっきのあれがあまりにも酷かったからな。笑わせてもらった礼だ」

まだ言うか。

「ちなみにさっきのオヤジはいくら払ってたんだ?」

「半銀貨一枚だ。あんたがどれだけ馬鹿したかわかるだろう?」


確かに。知らなかったが払いすぎだ。


「外の人達はそれが払えなかったわけだ」

「街に入るための税に半銀貨、さらに賄賂に半銀貨。合計で銀貨1枚ってのは外の奴らには結構な金なんだよ。あんたらの魔道具は馬鹿みたいな額してるから理解しがたいだろうがな」


ゴブリンの魔石でも金貨20枚で売れたからどうにも難しい。

価値観ぐちゃぐちゃだ。


「確かにな、魔石一つで金貨何枚にもなるから魔道具が高くなるのは当然か」

「あんたらが国に必要ってのはわかるが人が少ないからな高くなるさ。子供が沢山うまれても魔力持ってる奴なんかほんの一握りだ。俺は7人家族だが一人もそんなやついやしない。おかげで俺は食い扶持稼ぐためにそうそうに軍隊入りだ。奴隷として売られなかっただけましだがよ。一人でも魔力持って生まれてたら金稼いでもっと良い暮らしできただろうが・・・言っても仕方ないな。あんたみたいな変わった魔導師になれればいいが腐った魔導師ならお断りだしよ」


豊かじゃなけりゃ育てられない。

そうでなければ軍隊へ。

昔の日本みたいだ。たぶん姥捨て山とかの風習もありそう。

それにしても魔導師ってのはほんとに・・・以下略。


「その兄弟を育てるために小遣い稼ぎってわけだ、大変だな」

「へっありがとよ。ほんと変わった魔導師だぜ。さて話が長くなっちまったなさっさと許可証発行するぞ」

「頼むよ」


手続きは早かった、名前や年齢、今までどこに住んでいたかなど幾つか聞かれて金を払った。

あとは鉄のプレートになにやら文字が書いてあるのを貰って終了。

わずか五分ほど・・・。

この兵士まともに仕事してたらもっと人さばけるんじゃないのか?


「それがこの街にいる間の身分保障証だ。無くさない様にな。でもあんたはさっさと市民権買うんだろ?」

「ああ。ギルドで登録が終わった後、金が足りるだけ高いのを買うつもりだ」

「そうか、買うときにこれが必要になるからしっかり管理しとけよ」


やっぱり必要になるのか忍び込まなくてよかった。


「わかった。忠告に感謝するよ」

「変わりもんだな」


嫌な気がしないすがすがしい言葉だった。


「そうだ、こいつと一緒に泊まれる良い宿屋って知らないか?」


すでに日は落ちて黄昏時。

知らない街で宿屋を探してふらふら彷徨うなんてもうしたくない。

俺は原付をこつこつと叩きながら聞いた。

兵士がまたじっくりと原付を見る。


「あんたと一緒でそれも変わった魔道具だな、ながいこと門番やってるがそれだけ大きくて変わった形なのは始めて見たぜ。そいつを入れれる部屋がある宿屋か・・・そうだな・・・。東街の大通りにある『鞘の置き場亭』ってとこがいいか。ちょいと割高だが飯が旨いって評判だしあそこなら一階にも部屋があったはずだからそれも持って行きやすいだろ」


魔術を人目のあるところで使いたくないから二階まで原付を上げるのは勘弁だ。

そういうわけで一階に部屋があるのはありがたい。


「ありがと、これは情報料」


今度は銅貨十枚ほどを渡してみる。


「へへ、分かってきたじゃないか。足りない場合は何かしら合図を出すからそのうち相場が分かってくるだろ」

「そうだな、徐々に慣れていくよ。あともう一つあんたの名前は?」

「そうか、名乗ってなかったな。いや、こういうときに名乗ったことがはじめてだ。俺は三等兵士のカリオス=サンホだ。なんかあればここに来な。話くらいは聞いてやるよ」


話だけかよ。

力になるってのは・・・普通の兵士じゃ無理だろうな。

兄弟沢山でお金ないみたいだし。


「そっか、色々ありがとう。情報が必要になったらくるよ」

「おっと勘違いするなよ、話を聞くだけだ。色々と難しい話をな」


ニヤリとカリオスは笑った。

俺は頷いて歩き出した。

教えてもらった宿屋に向かって。








「おいそっちは西街方面だぞ!」


軽くこけた。

方向音痴もたいがいにしたいぜまったく。

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