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異世界の生活は原付と共に  作者: 夢見月
第一章 原付「俺様の戦いはこれからだぁ!!」
7/32

原付「馬!馬ー!!勝負しろーー!!!ゴラァ!!」

馬車二台を所有する商人オレリイ=マルトさんは恰幅のいい体を揺らし愛想のいい笑顔で俺が同行することを許可してくれた。

ただ俺が勝手に付いてくることになるので護衛としての報酬は払わないとのことだ。

こちらとしては付いていくだけで守ってもらおうと考えてるから逆にこっちが払ってもいいかとも思ったが口に出すのは辞めておいた。

舐められるのは避けておこう。笑顔を浮かべてるからといっていい人とは限らない。

商人の笑顔は武器だ。商談でヘタに下手に出るとどんな無理な契約を結ばれるか分かったものじゃない。

今の所はまだまだ情報が足りないから用心用心っと。


商隊は港町コウエンのその先、職人が集まる街レンロという所から商品を仕入れて王都で販売するそうだ。

レンロからコウエンまでが魔物や盗賊が結構出るそうで冒険者パーティ『疾風の槍』が護衛してきたそうだ。

コウエンから王都ニューヤンまでは凶悪な魔物が出ることは稀でこの国、バリトン王国の騎士団が巡回しているため護衛の必要はあまり無いそうだがパーティも王都に用事があるとかでそのまま護衛を引き続き格安で引き受けているそうだ。

『疾風の槍』は実際は騎乗の人たち六名だけで護衛のリーダーをなしている(一人は俺の偽情報のせいで先に王都へ、ごめんなさい)。

他の徒歩の連中は単独で腕の無い冒険者が修行がてらについてきたのと、あまり裕福でない歩きの商人が護衛代を安く上げるためついてきてるというのを先ほど肩を大げさにすくめていた金髪のイケメン剣士、イーノが教えてくれた。

なるほど、だから俺の同行にもすんなり許可がおりたわけだ。

それにしてもこいつ、しゃべり好きなのか要らんことも含めて色々と話してくれる。

情報収集には助かるが、あまり社交的じゃ無い俺にはつらいぞ。

イケメンなのも腹立つし、適当に相槌打てば勝手に話すから楽でいいけど。


「ま、俺達について来てたら死ぬことは無いね。なんてったって団長は御前試合で王国騎士団長とも互角に戦った人だ、槍捌きなら誰にも負けないさ」

「へぇ」

「このパーティに入ったのもそれを見たからさ、あの試合はホントすごかった。今でも眼に浮ぶよ。この団もあの試合から名前が変わって『疾風の槍』って改名したくらいにすごいんだ」

「なるほど」


七割がグエンさんのことなのは勘弁して欲しいけど・・・。

必要なことは誘導しないと手に入らない。

おっさんのことよりユエちゃんの情報よこせ。


「あのローブの子は?ずいぶん団長さんと親しげでしたが」

「あ、ユエちゃん?声聞いたんだ、最初見たら女の子ってわからないよね。着飾れば可愛いのに魔導師はローブじゃないといけないって妙にこだわってんの、もったいないよね。俺の愛の囁きも聞いてくれないし悲しいよ」


ぜんぜん悲しそうに見えない。そしてユエちゃんは可愛いいっと。貴重な情報だ。


「魔力が強過ぎて忌み子とし捨てられたところを団長が拾ってギルドに入れたって。おかげで団長にベッタリだよ」

「そうなんですか?」

「おうよ!俺も団長に拾って欲しかっだっつてぇ!」

「お前は人の過去を簡単に話しすぎだ、そのおしゃべり癖を辞めないと痛い目を見るぞ」

「もう、痛い目にあってます・・・」


イーノが頭を抱えている。

馬を寄せて後ろからイーノの頭を殴ったのは団員の一人セントさんというらしい。

この人も団長さん並に恐い顔で笑顔も無い。

沈着冷静な落ち着いたキャラに見える。武器は弓を持っているが、似合わない。

筋肉がすごいから斧を持って木こりをしているほうがあっていると思う。


「君も悪いね、こいつのお喋りには飽き飽きするだろう?」

「いいえ、師匠以外と話すのは久しぶりだし、色々と興味深いです」

「そうか?でもこいつと四六時中一緒にいると嫌になるぞ」

「ひどいな~セントさん。みんな話さないから俺が盛り上げてるのに」

「お前は五月蝿いだけだ」

「ええ~~」


またこずかれてるよ。

仲がいいことだ。

そんな様子は旅の間に繰り返されたのかそれを見ていたみんなが笑っている。

俺もとりあえず笑ってあわせておく、これが処世術だよね。

愛想笑いをしているといつの間にかグエンさんが横にいた。


「あいつらはいつもああなんだ、騒がしくてすまない」

「楽しい人たちですね」

「まぁな、あれで警戒はちゃんとしているから安心して欲しい。リョウ殿を最初に見つけたのもイーノだ」

「そうですか」


でも、俺のほうが見つけるのはやかったよね。そこら辺はあんまり信用なら無いな。


「ああ、戦いになれば頼りになる連中だ。ところでリョウ殿の魔道具は変わっているな、幾つか魔道具は見てきたがそんなのは初めてだ」


原付のことはやはり気になるらしい。

でもこっちのことは話したくないな。


「変わった形なのもそうだが、荷物を載せているにしても重そうだ。その大きさじゃ馬にも乗れない。それで良くゴブリン・ロードから逃げられたものだな?」

「師匠から頂いたものなのですがなかなか扱いが難しいんです。ついでに気分屋で・・・。見た目ほど重たくはないんですよ?」


実は魔術かけて少し軽くしている。

じゃないと歩きとはいえ馬車についていくのは辛い。

もう足は痛みを訴えだしている。


「そうか、ここらあたりじゃ戦闘は無いだろうし俺達だけでも問題ないだろうが、どういう効果の魔道具なんだ?見た目じゃ良く分からないが・・・」


ちらりと周りを見ると単独の冒険者連中が聞き耳立ててやがる。

うぜぇな。

安全のために知っておきたいんだろうけど、さてさてどう答えるか。


「戦闘には役に立ちませんよ?逃げる専用です」

「・・・なんだそれは?」


首をかしげている。

俺は嘘ついてないもんね。

本当はヘタなことが言えないのだ。

魔導師と魔道具がどういった存在か分からないからだ、関連で話をそらす。


「私のも変わっていますが彼女の持っている魔道具も変わっているように見えますが?」

「あ、ああ。火蜥蜴の骨を使った炎の杖だよ、彼女の自信作でね。

 中には二等級の赤魔石が使われてるよ」


まだ原付が気になるようだが答えてくれた。

自作に魔石。魔道具は自分で作るものなのか、魔力は持ってる人といない人がいて彼女はそれが強いと。

疑問が出た。杖を使わないと術がつかえないのか?


「忌み子と言われるほど魔力が強いならもっと色々出来そうですけどね」

「ああ、イーノから聞いたのか。まったくあいつは・・・。君は魔力を持つ魔導師だからあまり問題ないだろうが彼女には言わないでほしい。彼女は今は魔導師としてしっかりと働いてくれるが、昔は強い魔力だけに暴走さえてしまうこともあった、そもそも彼女のように人の魔力だけで何かを起こせるのは稀だがらな。それゆえに忌み子と言われてしまったが」


少し悲しそうに俯く。結構ハードな事があったんだろう。

それにしてもあっさりと知ることが出来た。

魔導師は道具を使ってのみ力を使うと。

となると俺は異端過ぎる・・・呪文一つでやりたい放題だからな~。

うまく原付か他の物で誤魔化さないと。

普及品でも杖が売ってたらそれを使って誤魔化すという手もあるな。

考えながら黙っていると旨く誤解してくれたのかグエンさんが気を使ってくれた。


「おっとすまない、君も魔導師なら色々あったろうに」

「いいえ、ほとんど師匠の所にいましたから、おかげでほとんど世間を知らないんです」

「そうなのか、君の師匠というのは?」

「変わり者の偏屈爺さんです。これを含めて訳の分からないものばかり作っていました」

「自分の師匠を変わり者とは・・・」


呆れたように言われた。

実在しない師匠ならどうとでも言える。

口から出た適当な嘘だけどこれは使えるな。

この世界のことを知らないのも原付のことを聞かれても全部師匠のせいにできるし、

最悪答えに困っても魔導師はあんまり良く思われないことが多いみたいだから、

グエンさんが言ってたみたいに高慢ちきで切り抜けよう。


「それに無茶苦茶怖いんですよ?ちょっと掃除を忘れただけで一時間も説教。食事だって少し時間に遅れただけでグチグチ言うし。そして今度はこいつ渡して旅に行ってこいって・・・」

「ははははは、それは楽しい生活だったな、だが師弟関係にあればそんなものだ」


肩を落として疲れた演技をしている俺に慰めとも笑いと付かないことをグエンさんは言った。

ついでだしちょっと無用心だがこのまま聞きたいことを聞いておこう。


「そうだ、師匠から路銀の足しにするように持たされたのですが、幾らくらいになりますかね?」


俺は原付に吊るしてあった袋からゴブリンのコンペイトウを取り出してグエンさんに見せた。

馬上から受け取ったグエンさんはほぉ~と老人が感心するような声を出した。


「これは中々の魔石だな。大きさからして三等級か四等級といったぐらいか。だが汚れや傷が殆ど無い。無色の物だが綺麗なものだ」


それを見ていたオレリイさんが馬車から声をかけてきた。


「私にも見せてくださいますかな?」


グエンさんからオレリイさんへと渡り手綱を放してしきりに眺める。

いや、手綱放して大丈夫なのか?


「ほっほう、これはなかなか。私は魔石販売の専門家というわけではありませんがこれならぎりぎり三等級で通るでしょう。しかし傷が無いのがすばらしい。そうですな金貨20枚といった所ですか」


グエンさんが少し眼を開く


「そんなにもなりますか、ギルドならせいぜい15と半金貨かと思いましたが?」

「この頃は貴族の娘さんが魔石を宝石と勘違いしていましてね。綺麗なものは高値で買われるんですよ」

「特一等級の物は国宝ですから、憧れもあるんでしょう」

「そうでしょうな、戦の道具に使われるばかりでないというのも私からしたらよいことかと思いますが、お嬢さんの宝石箱に仕舞われるだけというのもなんといいますか」

「まったくです」


二人が笑いあう。

中年サラリーマンの愚痴という題はどうだろう。ちょっと和んだ。

そして貴重な情報も出た。やはり魔物から出てくるのが魔石だったか。

そして大きによって等級があり色分けもあると。

それに半金貨、各二種類の貨幣はそういうことね。

うむうむ。後は貨幣価値がわかれば生活できる。

にしても魔石はかなりの高額に感じる。

村で手に入れた金がいっきに小銭になったぞ。

しかし、こうなるとゴブキン・・・ゴブリン・ロードの魔石はいったい何等級で幾らになるか、気になるがここで出すのは辞めたほうがよさそうだ。

歩きの奴らの目がちょっと嫌な感じがした。グエンさん達『疾風の槍』はいい人のようだがやはりこういう世界だと倫理観は期待できない・・・。

いや、ちがうな。

どこの世界も人は十人十色のようだ。

欲が絡めばなおさらか。


「リョウ殿よろしければこれを買い取らせてはもらえませんかな?

 他にも同品質の品があればなおよろしいのですが・・・」


どうしようかな。

他の所ならさらに高く売れそうだけど幾つか売っておこうか。

商売しとけば繋がりが出来てなにかいいことがあるかもしれないし。


「見てもらわなければわかりませんが・・・。五個ほどでどうですか?」

「ええ、それだけあれば結構です。今はあまり持ち合わせが無いものですからそれ以上はさすがに。次の休憩の時にでもお願いします」

「わかりました」


商談成立。

一先ず返してもらい袋にしまっておく。

グエンさんも特に異論を挟むことはなかった。

自己責任と判断したのかいい商売だと思われたのか。

表情は変化ないけどたぶん両方。

会って早々の人間にそこまで助言する必要がないと思われたのかもしれない。

まぁ、なにがあっても勉強代として納得することにしよう。






それからはイーノが喋って少し騒がしくする程度だったか順調に旅は続き、俺が一緒になってから二時間ほどで休憩に入った。


「よし、ここで小休止を取る。イーノ、ヨウは馬を休ませた後警戒、それ以外は休憩!」


グエンさんが声を上げて商隊が止まった。

場所は街道から少し逸れた小川の側、王都に近づいたお陰で幾つかの商隊がそこで休憩を取っていた。

旅をする中継点なのかもしれない。

茣蓙を広げて店を出している人達もいた。


「ふうぅ~」


馬車の速度はかなりゆっくりだったが軽くした原付でも押して歩くのは結構疲れた。

スタンドを立ててへたり込む。


「疲れたかね」


オレリイさんが馬車から降りて近づいてきた。


「ええ、旅は初めてですから」

「はっはっは、そうかい。まぁ私も駆け出しの頃は歩いて旅をして苦労したものだ」


大きなお腹を揺らして笑った。

その腹を見る限り以前そんなことがあったなんて思えない。

よほど儲けてるんだな。羨ましい限りだ。


「それで、さっきの話だが見せてもらえるかね?」


俺は頷いて答え、袋から五つの魔石を出した。


「うむ。どれもいい品だ。さっき言ったとおり一つ金貨20枚、五つで100枚でいいかな?金貨は持ち合わせが足りないので白金貨1枚での支払いになるがどうだろうか?」

「はい、それでいいです」


おっと初めての貨幣が出てきた、金貨100枚で白金貨1枚、他のも一緒なら複雑な換算じゃないな。

交換で白金貨を受け取り一先ず作業着の胸ポケットに仕舞う。

貨幣は少量を除いて座席の下に入れている。

原付の機構は知られていないからばらされない限り秘密の鍵付き宝箱として丁度良い。

今は人が多いから後で入れることにする。

さて、店でも見て周ろうか。


そう思ったとき。



「私にも見せて」

「おわ!びっくりした!!」


いきなり声をかけられて驚いてしまった。

いつのまにか黒いローブが真後ろに立っていた。


「びっくりした!」

「二回言わなくてもわかった。魔石まだある?見せて」


そういってユエちゃんは手を出してきた。

ローブからちょこんと出された手が可愛い。

身長も騎乗していたからわかりにくかったけど思っていたより小さい。

だいたい俺の頭二つ分くらい小さい。


そしてとうとう!

とうとう顔が見れた!

見上げてきたお陰で日の光が顔にあたり可愛らしいお顔が今ここに!

前髪がさらりとたれる金髪。

パッチリとした蒼い瞳に整った鼻。

その上に載るのは小さい眼鏡!

年の頃は10台前半!!

つまり金髪ロリ眼鏡っ子!!!


「あの?」


すばらしい!!

お人形さんみたいに可愛らしくてすばらしい!!!


「聞こえていますか?」


三次元なのにすばらしい!!!


「無視しないでください!?」


ああ、俺は知らなかった。

世界にはこんなにも美しいものが存在することを・・・。


「聞け!!」

「痛い!!」


蹴られました。

ありがたいことにM属性は持ち合わせが無いので純粋に痛い。

しかしちょっと暴走してしまった。


「私が見えてますか?」

「はい、可愛らしい顔がしっかりと」


まだ少し暴走しているようだ、さりげなく答えてみたがユエちゃんの顔に変化が無かった。


「冗談が酷い」

「女性に世辞は言いませんよ」


しばし沈黙。


「見せてください」


あ、無視された。

いいけどね。


「これでいいですか?」

「どうも」


袋から一つ取り出して手渡す。

ユエちゃんはしげしげと魔石を眺める。

太陽に翳したり、力を加えたりなにやら呟いてみたりしている。


「何か変わったことがありますか?」


一応聞いてみる。今更だが売っておいて問題の品とかだったら困る。


「普通のものより形が整っていて綺麗。ここまで左右対称なものは始めて。潜在している魔力も出回っている物よりずいぶんと高い」

「そうなんですか?師匠が持っていたものはほとんどそうでしたのでこれが当たり前かと思っていました」

そういうことにしておく。

「恐らく魔物の倒す過程で何かあった。そのせいで形成される魔石に影響が起きた。普通に剣や槍で倒したらこうはいかない。それこそ特殊な魔道具を使わない限り・・・」


俺を通り越して原付を見る。

あ、まずいかも。

なにやら考え込みながらじっと原付を食い入る様に見ている。

いや、原付は魔道具とは何も関係ないけど見られるのはまずいと思う。

倒す過程うんちゃらは多分俺の魔術のせいなんだろうけど。

そっか、そういうとこまで影響しちゃうのかやっかいだな。

沈黙と周りの喧騒との差が痛い。

さて、なんて答えようかと思ったが・・・。


「はい」


そう言ってユエちゃんはあっさり視線を外して魔石をかえしてきた。

てっきり原付を見せろって言われるかと思ったのに。予想外だ。


「私もその魔石欲しいけど、この前これを改造するのにかなりお金を使ってしまった・・・」


残念そうに杖を撫でる。

そっか魔石って結構するみたいだからそんな頻繁に買えないんだな・・・。

よし。男ならここは


「よろしければ一つさしあげましょうか?」


こう言うべきでしょう。


「え?」


ぱっと顔があがり眼が丸くなっている。

ああ、可愛らしい抱きしめたい。


「いえ、そんな、貰う理由がない・・・」

「可愛い女性に貢ぐのは男の義務です。気にせず貰ってください」


おお、小説で読んだセリフがあっさり出た。

似合わないけどがんばったよ。

俺は魔石を差し出す。

そろそろと手が伸びそうになるが止まる、そしてかなり視線が彷徨いうーうーと唸っている。

というか誰かを探しているような。

ああ、グエンさんか。

しかしグエンさんはオレリイさんと話していて声を掻けずらいようだ。

ここは俺が気になることついでに少し気分を軽くしてあげる。


「ただで貰うというのがアレでしたらその杖に使われているという二等級の魔石見せてもらえませんか?杖の中身はいいですから魔石だけ。師匠のところで見たことあるかも知れませんが二等級というのがどれくらいか知りたいので」


ユエちゃんは少し迷ったようだがすぐに笑顔になって頷いてくれた。

おお!百万ドルの笑顔だ。


「それなら」

「うん」


俺は魔石を渡し受け取ってくれた。

ユエちゃんはそれをローブに仕舞うと


「ちょっと待って下さい」


小さくしゃがみこんでローブで杖を隠しながらなにやらごそごそやっている。

ビンゴ。

やっぱり魔導師は自分の魔道具、技術を他人に見せない。

だからユエちゃんは聞いても見せてくれないと思って最初から諦めていたわけだ。

数秒で立ち上がって手を出してきた。


「これが二等級の赤魔石。元はレッド・ドラゴンの幼竜から取られたものとか」


手に乗せられているのは野球ボールほどの赤いコンペイトウ。

大きさはだいたいゴブキンから出てきたものと一緒だった。

色の付き具合も薄く淡い赤といった感じで全体に染まるというよりは中心部が一番濃く周りにいくほど薄くなるという感じだ。


「ありがとうございます。師匠の所にあったのはこれの茶色だったんです」

「茶魔石。大地に影響の強いモンスターから取れるから赤よりは出回っている。

 二等級なら珍しいほうだけど」


うむうむ赤がレッド・ドラゴンでゴブキンからは黄色。

あとは青色の水属性とか緑色の草属性とかありそう。


「ちなみにこれって幾らしました?」

「競りに出ていたところを偶然見つけた・・・その、団長が私のためだからって熱くなってしまって」


頬を染めて俯いた。

畜生、なにこの可愛い生き物。

団長にゾッコンなのは話しを聞いてたらわかるけど襲いたくなってくるぜ。

言葉使いも普通の子供らしくしなくてさらに可愛さ倍増だし。

しばらくユエちゃんはもじもじしていたがやがて顔を上げて答えてくれた。


「相場だと大体白金貨2枚と半枚」


買った値は言わないことにしたらしい。かなり高値で買ったな。


「結構するもんですね」

「ギルドが国との契約で先に売ってしまうからあまり出回らない。

 茶魔石でも白金貨2枚から、1枚と半白金貨はする」


なるほど。

俺の持ってるのもだいたいそれくらいで売れるか。もしくはオレリイさんみたいに貴族向けならもうちょっと高くはいけるな。


「ありがとう。もういいよ」


ユエちゃんは頷いて杖に手早く戻した。

今度は俺に見えたままだったが動きが早くて何やってるか見えなかった。残念。

そうして、魔石の礼を言ってユエちゃんは馬車の方、グエンさんの所に走っていった。

顔がアレだと分かると後姿も可愛いらしい。

背伸びした感じでがんばっているのもポイントが高い。

いいねぇ。ほんと。奴隷買うならあんなのにしよう。


「っといかんいかん」


悪い思考が頭を一杯になるところだった。

今はまだ早い。

ちゃんと成金生活できるようになってから色々手を出さないと。


「俺自重俺自重・・・」


しっかり自分に言い聞かせたところで店に行って見ることにする。

たぶん割高だろうけど値段を知らないとね。

そうして原付を押そうとしたとき邪魔が入った。


「魔物が来たぞ!ブラック・ドッグだ!!」


馬車の向こう、誰かが叫んだ。

一気に周りが殺気立ち騒がしくなる。


「護衛は前に!」「ブラック・ドッグだって!?あんなのに勝てるわけ無いだろ!!」「逃げろ!」「どこだ!?」「おい金払え!」「荷物をまとめろ!急げ!!」「馬をだせ!」


それぞれが各々個別に動き出し騒がしい。

とりあえずどうすれば最善かいまいち判断がつかないので周りの様子を観察し続ける。

半分はまとまりなくただただ慌てて王都方面に走りだそうとしている。

半分はきびきびと迎撃準備を開始。

ちなみに『疾風の槍』がリーダーのオレリイさん商隊は後者。

じゃあ俺もおとなしく護衛につくフリをする。

すると馬に乗ったグエンさんが俺の横手から現れ周り一瞥すると一括した。


「しずまれ!逃げるものは追われてその首、食いちぎられると知れ!!」


全員ぴたりと止まった。

俺は耳を押さえている。

息を吸い込むとこに気が付いてよかった。

それでもだいぶうるさかったけど。ゴブキン並の声量だ。


「ランクC以上の冒険者は俺達『疾風の槍』に続け!それ以外は非戦闘員を囲んで撃ちもらしたものを集団で狩れ!!たとえブラック・ドッグでもたかが十匹恐れるな!!いくぞ!!」


場を一瞬でまとめてしまった。

ばらばらに動いていたのも指示に従う。

なんというカリスマ!しびれるねぇ。

いつのまにか敵の数まで把握してるし。


「あれが『疾風の槍』か・・・」「ランクAの冒険者グエン、初めて見た」「心配すること無いな」


しかも名が知られているらしい。さらに惚れる!

団長あなたにならケツをくれてやってもいいぜ!当然冗談だけど。

川を背にする形で半円の陣が組まれる。

俺も当然その中。戦闘を観察させてもらうつもりだ。

そして馬に乗って駆けていった『疾風の槍』五人と走って行く三人・・・。

三人!?それだけ?Cランク以上ってなんか一杯いそうだけど三人だけ?周りを見回すが、

どれも見てくれはそこそこの装備を持っているが震えている。

もしくは装備は駄目だけど、ガタイがいい奴のみ。

あとは商人と荷物を担いだ農夫風の人だけ。

なんかなぁ~、ちょっとショック。

周りもさっきの勢いがちょっと静まってしまっている。

やはり少ないらしい。大丈夫か?

魔物は名前通りの大きな黒い犬だ。

大きさは俺が知るデカイ犬の代表、ゴールデンレトリーバーの二倍くらい。

赤い四つの眼が印象だが・・・ちょっと可愛い。

俺の印象がおかしいのだろうが昔やってたゲームに似たような魔物を長年ペットとしていたから可愛く見えてしまう。

それが十頭、だいたい横一列で囲むようにこちらへ向かってくる。

そしてそれを迎え撃つグエンさん達。

前衛三人が三角形で中央に突撃。

ユエちゃんとセントさん二人は陣営から10mくらい離れて杖と弓を構える。

そして徒歩の三人は遅れながらその右側へ迎撃に向う。

・・・つまり左側がら空きじゃね?

皆さんが魔物に集中しているうちにこそこそと右側に移動しておく。

二者の距離が一気に縮まり激突。

すれ違いざまにグエンさんが槍で一突き、噛み付こうと飛び掛ってきた一匹が口から内臓を貫き股間までを串刺しにされ真っ二つに荒々しく等分された。

一撃かよ!つよいなぁ

イーノもロングソードをゴルフのスイングよろしくすくい上げるように振りぬき一匹の首を落とした。

こちらも鮮やか、ただの口の軽い騎士じゃないわけだ。

二人は馬を巧みにに操って走り抜けた他のブラック・ドッグに向う。

もう一人、ヨウという人はグエンさんよりは細い槍を振り回しているが馬の周りを旨く回られてしまい傷を与えているが一匹をなんとか足止めしているのがせいぜいのようだ。

ランク低いのかな?

そして後衛のセントさん、弓を次々に放ち左側の黒犬三匹の目の前に着弾。

驚いた三匹は蹈鞴を踏み足止めされている。

回り込もうと動く瞬間には足元に刺さり矢の檻が出来上がっていく。

すごいけど当てたらよくね?

と思っているとユエちゃんが杖を正眼に構える。

そして綺麗な声で呪文が流れ始める。


「来たれ溢れよ我が血の力、流れよ巡れ大地の血脈。呼び覚ますは根源に至る世界。導き答えて式は正解へと至り我は頭を垂れる。さて我が望みは我が賜り命・・・・」


長くね?長いよね?まだ続いてるよ?

歌声のように音程があり、朗読される詩のように心に響くものがあるけど、長い。

間に合うのかあれ。ひとまず耳で聞きながら右側見ておこう。

四匹が徒歩の三人に向ってくる。

足を止めた三人が武器を構え迎撃そして・・・。




二勝一敗一不戦敗。




剣を持った一人は組み付かれながらもなんとか応戦し、陣を守っている奴が放った矢を援護に受けて辛くも勝利。

もう一人もショートスピアを巧に操り眼を二つ潰してあとはチクチクと刺し殺し中。

さて最後の一人。大柄なおっさんでいかにもなフルメイルでさらにさらに大型の重さ一体何kg?といったハルバートを構えて一気に振り下ろしたがあっさりサイドステップで避けられた。

足の速い奴にそれじゃあね・・・。

そして次の一打を放つ間もなく鎧の隙間のど笛に噛み付かれて食いちぎられた。

なんという顎力。

首が地面を転がり赤い軌跡を残し体からは汚い噴水が上がった。

もう一匹はそのまますり抜けて進軍、後ろに口を赤く濡らしたさっきの一匹も続く。

つまり二匹がこちらに向ってきた!うっわ!まずい!!

こんな人目があるところで魔術なんか使えるか!

陣を守っている奴らから弓が放たれる。

が、あさっての方向かやっと体に当たっても致命傷には程遠いようだ。

弱すぎだぞてめぇら!!しっかりしやがれ!!

他の護衛にいた魔導師も今更ながらに動き始める。


しかし・・・。


一人はローブを脱ぎ捨ててカラフルな衣装をまとって杖を振りながら変な踊りを始める、

もう一人はたぶん法則があるんだろうけど見た目適当にばら撒かれた道具の中心に座り込んで黙々と呟いている。

他の数名も似たり寄ったり・・・。

何この変態集団、おい!そんな事してる場合か!

他の前衛も頼りないし・・・チッ仕方ない。

原付の鍵を回してスタンバイ。

警笛を鳴らそうと指をかけたときやっとユエちゃんの呪文が完成したみたいだ。

時間にして約一分?


「来たれ炎蛇よ、我が前の敵を焼き払え!!」


振り返ってこちらに杖を向けた。

すると杖の機構が稼動し形が変わり中にあった赤魔石が露出。

そこから炎が噴出した!

消防車の放水のように吐き出された炎は商隊の手前2mまで接近していた一匹に命中。

吹き飛ばしながら火達磨に。

ユエちゃんは吐き出される炎そのままに杖の向きを変えた。

すると放水さながらに飛び散る火の粉が地面も焼きながら血を付けた後方の一匹も焼き払った。

ふぅ、助かった。

周りからも歓声があがった。

そして足止めされていた三匹もいつの間にかグエンさん達が片付けたようだ。

徒歩二人も傷を負いながら勝利。危なかった。

こんなところで面倒ごとに巻き込まれるわけにはいかない。

今はまだ情報収集タイム。用心用心っと。

そして今更ながらに変態集団の呪文が完成。

あさっての方向に水が噴出したり、石つぶてが発射されたり、炎弾が打ち上げられたり・・・。

ワーキレイ・・・棒読みです。

どれを見ても威力はたいしたこと無さそうだった。

せいぜいさっきの奴等に深手を負わせることができれば好運といった程度。

しかも息が上がってやがる。

そしてさらに・・・。


「わしの術さえ早くに完成してたらあんな魔物共一網打尽じゃったのに!」

「ふん、若造がいきがりおって」

「よい魔道具があれば俺もあれくらい・・・」


酷い人種だ。

さっきの反応からこいつらはランクD以下の冒険者であり魔導師。

てかこいつら必要?なんでありがたられてるかまるでわからん・・・。

せめて上位者がまともであることを祈るばかりだ。







魔物に襲われるのもある程度の日常なのか騒がしかったのはすぐにおさまりそれぞれの行動を開始した。

俺も『疾風の槍』もオレリイさんの馬車に集結。被害は特に無し。

せいぜいセントさんの矢が半分以下になったのと、ユエちゃんの息が少し不自然に上がっている程度。

威力はすごかったがこの息の上がり具合。

魔力の消費のせいなんだろうけどあと数発撃てたらいいほうだ。

かなり魔導師というものの評価を下げないといけないかもしれない。


「すごかったです!あんな大きな魔物を一突きで真っ二つにするなんて!!」


とりあえず褒めて煽てて情報収集。団長に賞賛を浴びせる。


「でしょう!あれが団の名前の由来だよ、その鋭い突きは風を巻き起こし全てを切り裂くってね」


答えたのはイーノ。吟遊詩人が歌う武勇伝のように答えた。


「イーノさんも首を一太刀で落としてたじゃないですか!すっごいです」


はははと照れたように頭をかいる。

おべっかですが何か?


「ユエさんもすごい炎で二匹も丸焼けにしちゃったし本当にすごい!それに引き換えあの魔導師達や他の冒険者は・・・」


弾けていた雰囲気を一変させて視線を外し歩いていく変態供を見る。

みんなも苦笑いを浮かべている。

やはり少し酷かったようだ。

グエンさんだけがまじめな顔をして言った。


「ランクC+の魔物が突然現れればあのようなものだ。この辺りではせいぜいD-までだからな。護衛についているのもその程度の腕だ。むしろ三人もいたことがまだ幸運だった最悪私たちだけで相手にするつもりだった」

「そうだったんですか?」


驚きだ。でもそうなら被害がもっと出ていたぞ?


「Cランクにしては腕が酷かったがな。シングルCだったのかもしれない。あれなら任せずに四頭を私が引き受けて置けば一人は死なずにすんだ」


自信に溢れた言葉。

おそらく本当なのだろう。

こっちに一直線に向かってきていたとはいえうまくあしらえば足止めして倒せたはずだ。


「そのせいで魔導師達の術も遅くなってしまった、奴らも足の速いブラック・ドッグでは無かったら充分に仕留めれていた筈だ」


それには異論を唱えるが前衛よりは確実なダメージが与えられたのは確かだ。

そうなれば弱らせた敵を集団で狩れたことだろう。


「あの態度は決して褒められたものでないのは事実だが、剣で傷つけ難い魔物や空中の敵にはどうしても魔導師が必要になる、彼らには腕を上げてもらおう」


そう言ってグエンさんは締めくくった。

うーん。それでもやっぱり酷いのには変わりない。

『魔術師』の俺には関係ないけど。


「しかしリョウ殿は何もしてなかったようにみえましたが?」

「皆さんが倒してくれると信じていましたから」


少し意地悪な笑みを浮かべながらセントさんが言った。

ちっ見てやがったのか。

しかしにっこりと即座に間髪入れず完璧に返しておく。


が、


「それにしては慌ててた」


ユエちゃんにつっこまれた!


「あれは、その・・・」


ワザと答えを濁しておく、それを見てみんなが笑った。


ふぅ、ピエロになるのも楽じゃない。

でも、ま、こんなもんでしょう。

暫く笑いに包まれてから、一向は王都へ向かった・・・。







しまった、露店見るの忘れてた!

会話~戦闘描写~難しい~♪

他の作者の方々が羨ましい。他人の芝は青く見えるだけでしょうか?



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