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異世界の生活は原付と共に  作者: 夢見月
第一章 原付「俺様の戦いはこれからだぁ!!」
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原付「空を飛ぶ夢を見ています・・・」

風は頬を強く叩き、暖かい日差しの中でも少し寒く感じる。

原付は風切音をさせながら滑る様に走っていく。

でも、実際は走ってない。タイヤは地面から離れ風車のように風によって重たく回るだけ。


「最初からこうしておけば良かった・・・」


今原付は空中を滑っている。

SFに出てくるエアバイクさながらにフワリと浮きながら進んでいる。


村を出てからしばらくはちゃんとエンジンをかけ、物理法則に則って内燃機関から吐き出されたトルクを利用してタイヤを回転させて地面を蹴っていた。

しかし、ぼろぼろの原付。

舗装されている地面ならまだしもデコボコの道と荷物過多すぎていつも以上に酷い音と振動を吐き出しやがる。

その状態が長く続けば近いうちに俺の耳と主にケツが大変な惨事になることは目に見えている。

悩んだ俺。原付を置いていくなんて論外だし、ずっと押していくなんてヘタレ引きこもりもどきには体力的に無理。

そこで思いついたのが魔術を使って飛んでいくこと。

アニメなんかだと人間が特殊能力で空を飛ぶなんて当たり前にしている。

魔術が使えるのなら同じようにできないわけがない。というわけで・・・




実際にやってみた。



「・・・・・・・・・怖い」


無理。

俺は高所恐怖症じゃないと思ってたけどこれは無理。

なんというか人間は脚が何かについて無いと落ち着かない生き物だとはっきり実感した。

呪文をむにゃむにゃ唱えて


「フライ!」


って発動させると、ふわっと体が浮上った。

最初はおお!っと感動したんだけど、すぐに恐怖心が沸きあがって来た。

だって、何かに吊られてるわけでもなく単純に浮かぶんだ。

水の中から浮上るような気持ちじゃなくどこからともなく現れた浮力が体を浮かばせる。

そしてその状態のまま2mも上がればもうだめ、いつ落ちるかもしれない恐怖が全身を包んでしまって冷や汗が止まらない。

すぐに術を操作して大地へと帰還した。

地面がこれほど恋しく思ったのは初めてだよ。

今ならためらい無く接吻できそう。

それにしてもアニメキャラ達はすごいね、あんな無防備に空を飛びまわってるんだから。

宇宙飛行士もすごい。訓練の賜物だろうけど、あんな状態で何日も過ごすんだから。

将来の夢は地に足の着いた堅実な仕事がしたいです。

そんなわけで自分を浮かして運ぶのは完璧に除外。

結果、今の原付を地面から数cm浮かしての移動とあいなりました。

原付に座っているだけだから脚はついているしこれなら飛行機とそうかわらない、ほんの少し浮いているだけならもし途中で呪文が切れてこけても重症以上になるようなことは無いからね。

スピードも体感で60km/hくらいに押えている。

それ以上も多分出せるけど風が痛い。

フルフェイスヘルメットは嫌いだからハーフヘルメットしてるけどこれだと目に風が当たって痛い。

我慢すればいいことだけど急ぐ旅じゃないしね。ゆっくりと風景を楽しみながら進むことにした。

そのうち魔法の箒ならぬ、魔法の原付として空を走り回るのもいいかもしれない。

かなり訓練すればたぶんできる。てかしたい。

空を飛ぶなんてファンタジー必須だからね。怖いけど。

原付のエンジン音がしなくなったから魔物が近くまで寄ってくることが時々あったけど、この速度ってだいたい馬が駆けるのと同じくらいなんだよね。

だから危ないと思ったらちょっとスピード上げれば振り切れる。

今の所追いつけるよな魔物にも遭遇してないしね。

ガソリンも節約できるしいいこと尽くめ・・・とは行かなかった。

魔術を使えば俺が疲れる。

今まで使ったのは一瞬で作用して終わりってのばっかりだったけどこれは長く作用し続ける。

つまりずっと魔術を使い続けているのと同じ状態。

感覚で言えばずっと1リットルのペットボトルを背負ってるように体が重い。

さらに走り始めてから一時間、体の重さが少し増したように感じる。


「あまり長いこと走ってられないかもね~、は~何事も順風満帆とは行かないも・・・ん・・・だ?」


そんなことを考えていると斜め前方に幌付の馬車が二台、馬に跨った兵士らしきのが数名見えた。

術を解除して着地。双眼鏡を取り出して確認すると馬車には両方とも恰幅のいいおじさんが乗っており兵士と思った騎乗の人も装備がばらばらで傭兵と言った風情だ、さらによく見れば徒歩の傭兵も数人見て取れる。

そして集団はこの先T字になっていてる道を俺の前を横切る形で進んでいた。


「うーん、商人を護衛する傭兵達かな、さてどうする・・・っと気がついたか、まぁ当然か」


護衛をしているものが異常な存在に気が付かないわけが無い。むしろ遅いと感じる。

動きがあわただしくなりこちらに剣を向け槍を構えた。

全体の隊列をこちらに向けるような陣形に変わった。

とはいってもそれほど完璧な統制ではなくばらばらと動く程度だ。


「錬度が低いなぁ。一つの団じゃなくて適当に雇われた集団かな?」


とりあえず原付から降りて押しながらゆっくり近づいていく。

呪文をいつでも口にできるように唇を湿らせ、原付のエンジンをかけられるように準備する。

原付はこの世界では見慣れないものだけど歩いて近づく人を見れば警戒を解いてくれるかもしれない。

距離にして100m程。向こうも人だと理解したのか緊張感が薄れたのが見て取れた。

視線はこちらに集中しているが好奇心の方が勝って見える。

しかし、緩んだ空気を大柄な騎兵が一括して絞めた。ちっ余計なことを。

正しい選択だけどムカつく。そしてその騎馬と他二騎がこちらに駆け足で近づいてきた。

距離50m。まずは先制攻撃。


「すいませーーーん!!道を教えてもらえませんか!?」


出来る限り大きな声を出した。久々の大声に軽く咳き込む、のどが痛い。

近づいてきていた一騎が大げさに肩を落としたのが見える。

三人は軽く声を掛け合って肩を落とした一騎が引き返した。

馬車の集団も声が聞こえたのかため息が聞こえそうなほど脱力していた。

成功。向こうもいきなり攻撃するつもりはないらしい。

よかった、言葉が通じる相手のようだ。

だいぶ近づいてきて顔が見えた。一人は大柄な騎士。

いかにもなといった筋肉たくましい無精ひげの男。

うーん騎士というよりは傭兵団のボスと言ったほうが正確かもしれない。

俺だと持ち上げるだけでぎっくり腰になりそうなぶっとい槍を持ってる。

顔は堀が深く幾つかの傷もあるが、ちょっと怖い・・・。

もう一人は・・・魔法使い?いかにもな魔法使いだ。

うわ!感激!

黒いローブをかぶって妙に小柄で猫背で、杖なんか持ってる。

顔はフードに隠れて見えないのがちょっと残念。どうせ老人だろうけど。

少しイメージと違うのが杖。宝石を頭に付けた木の杖じゃなくて、こう、機械的?な杖。

動物の骨らしきものや一部鉄っぽいものが使われたなんだかごちゃごちゃした杖。少し重そう。

二人は俺の手前数mで止まった。油断無くこちらを警戒している。

兵隊の錬度は低いくせにこのおっさんはいい味出してるな。

とりあえず挨拶が基本。出来る限りにっこりと営業スマイルを作って話しかける。


「こんにちは、すいませんが道に迷ってしまいまして。ここがどこだか教えてもらえないでしょうか?」


ジャパニーズ低姿勢も付け加える。笑顔は警戒心を抱きにくくさせるって小説で読んだ記憶がある。

この二つが揃えばたぶん大丈夫だ。二人は軽く視線を交わしてから話しかけてきた。


「俺は『旋風の槍』団長グエン=セドリスだ。魔導師殿、珍しい魔道具を持っているから魔物かと思い警戒してしまったぞ。それにこんな王都の近くで道に迷ったとは、知識の探求者たる貴殿らには珍しいことだ」


ライオンが牙を剥くような笑顔で答えた。怖いよ、食われるって。

少し足が引きそうになるが笑顔を崩さず踏みとどまる。

で、いきなり魔導師に魔道具ね。

服装は作業着のままだけどそれほど奇抜なのか原付を見てそう思ったか。

それに王都の近くね。

とりあえず話をあわせてみる。


「名乗らずに失礼。私はリョウ=ノウマルです。それが村を出たところで魔物に襲われて逃げ回ってるうちに街道をはずれてしまって・・・。ついさっき道に出たところであなた方を見つけたのです」


とっさに自分の名前とユメイさんの姓を使ってしまった。

さすがに和名の姓は目立つと思ったが、しかたない。

魔物と言ったところでグエンさんの眉がピクリと動いた。


「さきほど王都といいましたが正確にはどこらへんなのでしょうか?」

「ここは王都から徒歩で半日といったところだ。私達が向かっているところが王都ニューヤン、反対側が港町で有名な第二の都市コウエン。リョウ殿の後ろの道がビールの旨い・・・なんだったか・・・」


グエンさんが言葉を捜して横を向いた。

それを引き続いたのが隣の魔法使い


「トトです、団長」


短い答えだったがその声に驚いた。

小さいが澄み渡るような声は女性、それも少女のものだった。


「そうだそうだ、トトだ。あそこのビールは王都でもなかなか評判だがすっかり忘れていた」


ぺちりと頭を叩いてガハハと豪快に笑い出した。

見た目怖いがなかなかにいい人みたいだ。

でも、そんな人よりも女の子の方が気になる。

顔、顔が見たいっす!

そんなことを思っているとは露知らずぴたりと笑いを止めたグエンさんは真面目な顔になって続けた。


「それよりも魔物とはどういったものだ?それにリョウ殿も旅をする魔導師なら撃退するすべをお持ちだろうに、たとえばその見慣れぬ魔道具とかで」


俺にもわかるぐらいで探るように視線を向けた。さて、どう答えるべきか・・・。

鈍い思考をフル回転させて考える。あまり良くない頭が恨めしい。


「えっと、名前は知らないのですがあなたの二倍ほどの緑の巨人です。これは師匠からもらった物なのですが扱いが難しくてまだ慣れてないんです。

いきなり魔物が出てきてびっくりしてしまって・・・旅も慣れてないんですよ」


情けなさを出し、恥ずかしいといった感じに頭を掻く。

なるべく気弱に見えるようにするのが今はいいと思う。

内容は適当。旅がはじめてなのは本当だけどね。


「緑の巨人・・・もしやゴブリン・ロード!?こんな王都の近くにでるなんて・・・」


少女が驚いた声を出した。ああ、可愛い声だ。これで顔が不細工なら燃やしてやる。

少女は団長と声をかけた。視線だけでグエンさんが答える。

なにやら分かり合った感じでうらやましい。妬ましい。


「すぐにギルドに連絡すべきだな。あれが街道の近くに出るなんて危なすぎる。

 ユエ、戻って一人走らせろ」


ユエちゃんか~。お近づきになりたいなぁ~。

顔さえ良ければ俺の物にしたいなぁ~。

ユエちゃんは頷いて馬車に走っていった。

むさいおっさんと残されてしまった。チッ。


「リョウ殿はどうされる?」


幾つか分かったが出来ればさらに情報が欲しい。

馬車の速度もそんなに速くはなさそうだからここは。


「王都に行こうと思います。その・・・出来れば同行させてもらえないでしょうか?一人だと不安で」


どうやらグエンさんは予想していたようだ。


「私も雇われの身でね、雇い主に聞いてみてもいいが、その答え次第だ。まぁ、オレリイ殿は商人にしては気のいい人だ。魔導師が増えるとなれば問題ないだろう」


「そうですか、お願いします」


頭を下げた。

助かったけど護衛的に部外者入れるってどうなのよとも思う。

顔を上げると少し困惑した顔をしている。


「リョウ殿も魔導師にしても変わっているな」

「そうなんですか?私は師匠しか知らないので分かりませんが」

「ああ、ユエはまだそんなことも無いが魔導師だけが複雑な魔道具を扱える、だから誇りを持っているものが多い。そうやって頭をさげる魔導師には初めてであった」


少し低姿勢過ぎたらしい。

悪い印象は受けてないから今はいいけど、ふむふむ、魔導師は高慢ちきっと、それに魔道具を扱えるのは魔導師だけね。

これなら原付を勝手に触られそうになることも無いか。

でも勝手に勘違いしてるとこ悪いけど、魔導師じゃなくて魔術師って言って欲しい。

うん、異世界に行ったらやってみたいことその二『美人の奴隷を囲ってのウハウハ成金生活』が機動に乗り出したら訂正していこう。

馬車に向かいつつそんなことを考えた。

うう・・・。会話が苦手だ・・・。


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