原付「走りたいったら走りたい~、走りたいったら走りたい~、でもお腹は空きました~」
トカゲはギリギリ鐘九つが鳴る前に戻って来た。
しかもちゃんと血の一滴も残さず落としていたからお仕置きできなかった。
ちっ、残念だ。
ちょうどそのタイミングで宿の前を乗り合い馬車が通過していたのでそれに乗ってエアロさんの所に向かった。
馬車に乗っていたので昨日のように襲われることはなかったが、道中何人かが俺を見て舌打ちしてる奴がいやがったよ・・・。
危ない危ない。
そんなわけで平穏無事に工房に到着。
中を覗くと掃除をしているエアロさんがいた。
「おはようございます。掃除してたんですね。お邪魔でしたか?」
正直ここは汚すぎたが今はとても綺麗になっていた。
良い職人は道具や部屋も綺麗にするって聞いた覚えがあるけどこの人に当てはまってないんで、いい仕事はするんだけど疑惑が常に頭を過ぎっている。
こうして掃除をしているエアロさんに会うとなんだかほっとした。
片付けない人ではないようだ。
実際今は、かなり整理整頓されていてしっかりと床も見える。
ホコリの一欠けらすら見えないからかなり念入りにやってるようだ。
「いや、もう終わったところさね。ふぅ、まったく、ほんの少し時間を空けると埃が溜まるから嫌だね。それで、服を取りにきたのかい?それならそこに出来てるから勝手に持っていきな」
モップの先で机の上を指しながらエアロさんが答えた。
しかしほんの少しって・・・あれは絶対ほんの少しってレベルじゃないと思うが。
長寿なエルフだから時間間隔ずれてるんじゃないのか?
それともおばさ・・・なにも口にだしてないよ。
大丈夫だよ?
一瞬エアロさんの目が怖いことになった気がしたが気にせず机に向かう。
そこには修繕に出していた服が置いてあった。
とりあえず持って広げてみるが、見た目まったく問題なし。
繕った部分の生地に若干の違いがあるが気になるほどじゃない。
むしろここまで直せるとは思っていなかった、新品に直せるとか言ってたサラの言葉もあながち間違いじゃなかったね。。
さすがエアロさん。
腕はホンといいわ。
これなら仕事を頼むのもまったく問題なし。
「服は問題無いですね、それじゃ持って帰ります。それでですね新しい仕事をお願いしたいんですよ。この子達にメイド服を三着づつ見繕ってもらえませんか?」
エアロさんはそこで始めて白黒猫に視線をやり興味深そうに眺める。
見られた二匹は居心地悪そうに体を竦めている。
「奴隷に服を与えるのかい。変わり者って噂は本当のようだね」
「変わり者って自覚は多少ありますが、噂はここまで?」
「あんたと関わったから少し耳を傾けていただけさね。だがね、それがなくてもかなり騒がしくなっとるよ」
そっか・・・職人ギルド街まで噂が流れてるとなるとかなりのもんだよね。
まぁ朝からあんなことやっちまったし、それ以前のこともあるから平穏無事なハーレム生活は半分程度諦めてるし、有名人になって実りのいいお仕事貰おう計画もあるから別にいいけど。
「それで、『めいど服』だったね。その『めいど服』ってのはどういうものだい?あんたが着てるようなのかい?」
はい?
何言ってるんだこの人。
「いやメイド服はメイド服ですけど・・・えっとエプロンドレスとか侍女服ならわかりますかね」
言葉が悪かったようなので言い直してみる。
本当はメイド服とエプロンドレスは別物だから一緒にしたらいけないんだけど・・・。
「なんだい侍女服のことかい。訳のわからない言葉を使わないで最初からそういいな。確か作り置きが何着かあったはずだからすぐに持ってくるよ」
エアロさんそう言って裏に引っ込んでいった。
どうやら通じたらしい。
しかし、メイドって言葉が通じないとは思わなかった。
今まで普通に横文字使ってたはずだけどどうしてだろ・・・。
そんな疑問を浮かべながら待っていたがすぐにその答えが現れた。
「はいよ。その二人の体格ならこれで合うはずさね。六着で銀貨60枚。さっさと出しな」
「・・・ちょっと待って下さい。これが『侍女服』ですか?」
「そうさね。貴族の屋敷なんかはこれを使っとるよ。城のとは多少違うけど侍女服なんてどこも似たようなもんさね。何か間違ってたかい?」
俺は呆然として絶句してしまった。
あまりの事態に言葉が出ない。
この驚き、いや驚愕は異世界に来たこと以上かもしれない。
「その様子だと違ったみたいだね」
固まったままでいる俺にエアロさんが察してくれたみたいだ。
俺は何とか意識を持ち直して震えた手でそれに手を伸ばし目の前に広げてみた。
「・・・間違ってる。完璧に間違ってる」
これを一言で表すなら『ババ色のワンピース』である。
ババはもちろん汚物筆頭のアレ。
そんな許しがたい色に腰をしめるだけの紐が付いた何の飾り気も無い服。
これが侍女服だと?
馬鹿な・・・。
ありえない・・・。
こんもの・・・。
こんなものが・・・。
「こんなものがメイド服なわけあるかーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「な、なんだい!?」
「きゃぁ」
「ひ!」
「シュル!?」
認めたくない現実が怒りとなり『侍女服』をビリビリと引き裂いていく。
いきなりの行動に一人と三匹が驚きの声を上げるがそんなことどうでもいい!
こんなものが一秒たりとも『侍女服』として存在することが許せない。
反省なんかしない。
後悔なんかあるはずがありませんとも。
「あんた!いきなり何を!?」
エアロさんが抗議してくるがギロリと一睨みして黙らせる。
「こんなものが侍女服、つまりメイド服なんかのわけありません!!」
バンっと手に持った残骸をテーブルに叩きつける。
それに驚いたのか全員が一歩下がるが今はそんなのどうでもいい。
今はこの間違った存在を正さなければ!!
「メイド服とは!
ただの仕事着でありながら優雅さと気品を併せ持ち、なおかつ主人を立てるために一歩引いた奥ゆかしさをあわせもつ衣装!!フリル着きの白いカチューシャ、所謂ホワイトプリムはまるでティアラのように耀き王女のような気高さを演出しつつもその本質は髪で部屋を汚さないようにという涙ぐましくも暖かい心遣いの象徴!!真白で穢れのないエプロンは清楚さと勤勉という硬派を描き、所々に付けられたフリルが可愛らしさを描くという相反する事象を混ぜ合わせる完璧ぶり!!さらに黒または濃紺のワンピースは長袖、ロングスカートという鎧然とした厳粛さをかもし出し落ち着いた姿を形作るがそれゆえにそこに封じ込められた『女性』としての部分、男にとっての『夢』をはかり知れないほど想像させる衣装!!つまり!!主人に仕える女性が着る衣装として非の打ち所の無い完璧がメイド服なのだ!!!断じてこんな汚物がメイド服などでは無い!!!」
言い終えた俺はポケットから携帯を引き抜き残りの衣装に向けて呪文を唱えて放つ!
「フリーズ・ランス!」
威力を抑えた一撃だが『布切れ』とテーブルを貫通。
さらに地面にも穴を穿って氷結し破砕する。
「あんた・・・」
呆然と見つめてくるエアロさん。
その視線にさすがにちょっと冷静になった。
うん、掃除したばかりの部屋を汚したらだめだよね。
「すいません。でも俺にとっては重要なことです」
オタクとして譲れないこともあるのです。
「作ってください。『メイド服』を!」
しっかりとエアロさんを見つめてお願いする。
エアロさんはかなり微妙な表情をしていたが、諦めたのか苦笑いのように口を歪めて言ってくれた。
「あんたの服のこともあるし、そこまで言うなら作ってやるさね。当然私を満足させられるようなものなんだろうね?」
「もちろん」
俺のハーレム計画のためには譲れない場面だった。
さて、何故『メイド』が通じなかったのか。
ここでの言葉が異世界ファンタジー的チート翻訳機能のおかげで会話がなりたっているわけだけど、推測になるけど今回の場合、どうも認識の違いというやつのようだ。
メイド服を作るうえでエアロさんに聞いたがこの世界で言う『侍女』。
城や貴族の屋敷で働く女性達の扱いは素晴らしいほどに良くないらしい。
やはりというかある意味当然と言うか中世的な世界だから労働基準法なんてどこ吹く風なんだろうけど。
ハッキリ言えば奴隷よりはマシと言う程度、違いは一応の服と僅かばかりの賃金が貰えるくらい。
女王や王女の側に仕えるのは大貴族の子女達、その子女達に仕えるのは中級の、それに仕えるのは下級の貴族。
それらに仕えるのは商人や富豪の娘達。この娘達の下は町や村などの有力者や村長の娘。
それらがあって初めてこの世界の『侍女』が出てくる。
そんな侍女達が表に出ないように裏方の仕事をこなして、さっきの順序を辿って仕事の結果が上へと昇っていく。
この段々になった王都の形そのままのことが城の中でも起こっているわけだ。
なんとも非効率極まりないね。
それはどうでもいいとしてあくまで下働きの卑しい身分の女達をこの世界の『侍女』と言っているわけで、俺が認識しているようなメイド服を着て身の回りの世話をする専門職の『メイドさん』は存在しないわけだ。
そのせいで翻訳がうまくいかなかった・・・と考える。
大した問題じゃないから気をつけないといけないってほどじゃないけど頭の片隅には覚えておこう。
ちなみに服がババ色の理由は嫌な話、つまるところ女性の嫉妬とか妬みとかそんなのが原因のようだ。
先ほどの話、身分が上の女性の周りには当然やんごとなき男が側にいるわけで、その下に付く女性達はうまく行けば玉の輿をゲットできる。
そんな形で女性達は一段上の男をゲットするために静かなバトルが繰り広げられているわけだけど、男の性と言いますか時々身分をすっとばした大人の付き合いもあるわけで・・・。
男達は最初からそういった女性に手をだすことは少ないらしいけど、あくまで少ないらしいで手を出すときは出す。
それでも出来る限りした小さくしようとした結果が見た目を対象外にするあの服となったそうな。
そこまでやりますかとか思わないでもないが、元の世界でもそういったことが問題になることもあったんだからわからないでもないけど・・・。
これと関連してさっきの段々のように女性達の服は一段ごとに地味になっていくらしい。
もし少しでも上の人より装飾豊かならば話に聞く女性特有の陰湿な虐めにあうとかないとか・・・。
怖いねぇほんと。
ついでに完全な推測になるけど、つまるところ奴隷に服を与えないのはここら辺からきているのかもしれない。
遊び程度や、イヤラシイ目的の時にちょっとしたアクセントで服は与えても、本気になるようには服は与えない。
これがこの世界の価値観、絶対といっていいほどの身分制度。
かなりわかってきたきがするよ。うん。
つまり俺のやってることは異端そのものなわけだ。
でもここは譲れないし譲らない。
なんぞ言われることがあっても好き勝手やってやってやる。
俺の『美人の奴隷を囲ってのウハウハ成金生活』のために!
よし!新たに決意を込めながらメイド服作成に挑む。
口で言ったところでメイド服の形は伝わらないのでとりあえず絵を描いてみた。
高校の時で美術の評価は十段階中の七。
教科の中で一番の成績。
結構得意であったわけです。
でも、オタクにありがちなことで一度は漫画を描いてみたけどこっちはだめだめ。
あの独特の漫画顔が描けなかった。
いや、これも正確じゃないか、正直に言うなら美術の時間でも何故か顔は描けなかった。
残った絵は首無しのデュラハンはばっかり、なんでだろ?
・・・まぁ、逆に言えば体や服とかはある程度うまく描くことができるわけで絵を見せたわけだけど。
「これはまた複雑な・・・。これはもうドレスだね」
「さっきも言ったように別名でエプロンドレスですから」
「この前についてるのがエプロンとやらかい?ヒラヒラは・・・なるほど。下着も・・・興味深いね。でもこれもまた・・・」
数枚描いた絵を眺めて半分独り言のように唸り始めるエアロさん。
オバサンの癖に子供のように目をキラキラさせ始めてるから期待に答えられるものであったようだ。
よかった・・・これならいいものを作ってもらえそうだ。
ちなみに下着も俺にとって重要ポイントだからしっかりと描きました。
スカートの奥はやっぱりガーターベルトにショーツじゃないとね。
この頃はどこぞの魔法使いのせいでドロワーズもいいかなとか思ったりもするけどやっぱりこっちかな。
フフフフ。
しかし驚いたのはこの世界にエプロンも存在しないことだ。
よくよく思い出せば宿屋のサラもエプロンを着けていなった。
だから最初はただの町娘かと思ったわけだけどエプロンも無いなんて・・・メイドのことも合わせて妙にファンタジー世界の常識を外れる世界だよね。
そんなことを考えていると白黒猫も興味深そうに絵を見ているわけだけど白猫がちらちらと俺を見ていた。
これは何やら言いたいってことなんだろうか?
「何?」
短い問いかけに白猫はビクリと尻尾を立てた。
そこまで驚くことかい?
動きを止めていた白猫は尻尾が落ちる程度の時間が掛かってから口を開いた。
「・・・主殿、私もこれを着るのか?」
「当然」
「その、私には似合わないと・・・」
「そんなこと無い、お前は十分綺麗だから似合うさ」
「・・・へ?き、綺麗?」
「ご、ご主人様?」
あれ?何この反応。
俺なんか変なこと言った?
白猫は固まっちゃうし、みんなんでこっち見てるのさ。
「あんたはほんとに変わりもんさね。自分で言っておいてそれを理解してないなんてね」
ほんの少しだけ俺の方を見てから手元の絵に視線を戻してヒッヒッヒと悪い魔女のように笑うエアロさん。
わけがわからないよ。
本当のこと言っただけなのに・・・。
「よくわかりません。俺の趣味だからこれらには嫌がっても着せますけどね」
「そうかい。でもその子は護衛なんだろ?さすがにこれは動きにくくないかい?」
ああそっか、確かに格闘系の白猫じゃロングスカートは邪魔になるな。
そうなると別の服かミニスカートにするしかないのか・・・でもなぁ、個人的に奴隷のメイドにそれ以外の服ってのも気に入らないし、
ミニスカートは安っぽさがでるし、邪道な気がするし。
うーんどうしようか。
でもしかたないか。
「それじゃこんな風に短くしてください。それでハイソックスをガーターベルトで止めるようにして足を出さないように・・・」
「これはまた可愛らしくなるもんだね。ほんの少し違うだけでここまで印象が違うってのもまた不思議な」
それがメイド服の魅力ってやつです!
ミニスカートのメイド服は邪道だけど絶対領域はウハーであります。
エアロさんも徐々にこの魅力にはまればいいのです。
とまぁこんなやり取りをしつつ幾つか打ち合わせをして細かなところも詰めていく。
さすがに服飾のことはそこまで詳しくないので深いところはお任せになったけど、これならイメージ通りの完璧なものを作ってもらえそうだ。
「それでいつ出来ます?」
「あんたの服の時と一緒でまた若いのを集めさせるさ。そうだね、一組だけなら明日の昼ってところかね」
相変らず早いなぁ。
一日でも早く完璧なメイドが欲しい俺にとってはいいことだけど。
「しかしだね、金はかかるよ?二人分三着ずつで白金貨二枚って所だね」
ぶっ!!高い!!まじかよ。
値段を聞いた瞬間噴出しそうになった。
他の三匹も目が点になってるよ。
「そんなにもかかりますか?」
「安くしようとしたらそりゃ安くできるさ。でもね、あんたドレスだって言っただろ?ドレス用の生地でここまでしっかりと作ろうとしたらこれくらいはかかるね」
うう。まじかよ。
でもそんなもんなのかな。
相場とかはさっぱりだけど、高級な服。あっちの世界でも結婚式のドレスとかって200万とか普通にするし。
生地がそんなの用とかばっかりだったらこれくらいになるのかな・・・。
今日は白金貨1枚で買い物をすませたかったけどどここは妥協したくないからしかたないか。
「わかりました。それでお願いします。手付けは金貨で?」
「それでいいよ。最初のは出来たらすぐ届けさすよ。残りはまた金を持って取りにきな」
「はい、あとこの子らにとりあえずの服をお願いします。俺としてはこのままってのは許せないんで」
「わかったよ」
そんなわけでメイド服を手に入れる算段を付いたわけなんだが、必要経費も馬鹿にならんね。
さくさく働いて早く成金生活送りたいよ。
「綺麗・・・私が綺麗・・・」
「白金貨の服・・・白金貨のドレス・・・」
なんか白黒猫がトリップしてるけど、放っておいたらそのうち起きるよね。
今更ですが・・・主人公の真の属性はメイド萌え
主人公ェ・・・・・・・
今回は説明も多くご都合主義丸出しな展開ですが見逃してください。