原付「・・・zzz・・・zzz・・・ふぇ!?なに!?なに!?」
扉越しに軽い足音が聞こえてくると一呼吸置いてコンコンと軽い音が部屋に響いた。
「ご、ご主人様、起きて下さい。ご主人様」
僅かに緊張の含んだ可愛らしい声が扉を挟んで聞こえてくる。
実はノックの数分前から目が覚めていたが・・・いいね、これ。
『ご主人様起きて下さい』って。
扉越しだけど夢が一つかなったよ。
これを皮切りに俺様のメイド計画が始まるわけだ。
家を買ってからの話だけどメイドの奉仕段階を徐々に上げていっていずれは俺の熱くたぎる・・・っと自重自重。
朝だから大変なことになってるのに。
落ち着け俺。
とりあえず特に返事をせず様子を伺う。
どう行動するのか試してみようかね。
耳を澄ましていて気が付いたけど実は先ほどの足音は一つじゃない、もう一人分・・・じゃなかった。
もう一匹分。
たぶん白猫のだと思うが耳を大きくしていると何やら話し声が聞こえる。
「え・・・だけ・・・・それは・・・・まだ・・・もう一度・・・」
「あれが・・・お嬢様・・・ほうって・・・」
うむ・・・、断片的だけど黒猫が粘ることを提案。
白猫は放っておけと。
この場合しっかりと起こさないとメイドとして失格。
黒猫は粘ることを提案してるからましだけど、白猫はなぁ、教育に時間が掛かりそうだ。
そんな中、鐘が鳴り始める。
一回、二回・・・。
そして八つ。
へぇーちゃんと鐘八つ前に起こしに着てたんだ。
偉い偉い。
「起きて下さいご主人様。鐘八つを過ぎてしまいました。起きて下さい」
コンコンとさっきよりは大きいがまだ控えめな音が部屋に響く。
うむ。白黒猫の行動もわかったし起きるかな。
ベットからのそのそと這い出て返事をしようとしたとき。
「起きろ主殿!!わざわざお嬢様が起こしにきてくださっているのにいつまで寝ている!!」
ビ、ビビッた!!
突如として響く白猫の怒声。
そして大きく扉を叩く音。
ゴン!ゴン!ゴン!バキ!!
「「「あっ!」」」
俺の視界に写ったのは扉を突き破って出てきた握り拳。
開いた穴の先に見えるのは驚いた表情の白黒猫。
固まった空気。
「バカ力め・・・」
勢いあまって扉をぶち抜いたようだ。
なんてことしてくれる・・・。
「おい白猫、これどうするつもりだ?」
俺は怒りが急速に上昇するのを自覚しながら扉越しに話しかける。
「それは、その・・・、主殿がさっさと起きないから悪いんだ!!」
扉に手を突き刺したまま逆切れをかましてくれた。
「自分の力の加減も出来ないことを棚上げにして俺に逆切れか?」
「うう、うるさい!起きたんだからいいだろう!!」
はぁ、護衛としては使えるんだろうけど・・・調教がんばろう。うん。
最初のハッピーな気分は何処へやら。
起きた直後からため息が出る気分駄々下がりな朝だったがとりあえず白猫には軽くお仕置きをして気分を晴らした。
様子を見に出てきたサラに事情を説明して修理費を渡して謝罪。
まぁ奴隷がしたことは主人のしたことってわけで。
しかしサラもたいして怒ってはいなかった。
話を聞くと部屋で剣の練習やら簡単な魔道具の簡単な実験をやっていて調度品を壊す人は結構いるとか。
それに酒場だから一応禁止されているとはいえケンカもあるし、俺が最初に来たときみたいに試験が行われて白熱してしまい揉めるってこともしばしば。
それに巻き込まれてテーブルや椅子が壊されるそうな。
ようはいつもの事で慣れってやつらしい。
ほんと良かった、部屋を出て行けとか言われなくて。
「今度から注意してくれればいいよ。それじゃ朝ごはん用意するから待ってて」
「ホントごめん」
「申し訳ない」
「申し訳ありません」
俺と一緒に頭を下げる白黒猫。
まったく、余計な金が出ちゃったよ。
たかが数枚の銅貨だけど、こういう金の出費はとてつもなく無駄で、むちゃくちゃ損した気分だ。
また一つため息をついてから椅子に座る。
食堂の端で待っていたトカゲも着席。
しかし白黒猫が座らない。
「どうした?」
「その・・・」
「いいのか?あんなことしてしまって・・・食事をしても」
少し青い顔で並んでこんなことをほざきやがる二匹。
はぁぁぁ。
今日は朝からため息ばかりだ。
ようはあれですか?
罰としてごはん抜き!
ってやつ。
馬鹿みたい、子供かこいつらは。
いちいちそんなことしてられますかっての。
優先順位としてこいつらにふっくらしてもらうのが先。
じゃなきゃいつまでたってもこいつらを食べられない。
罰は二の次、三の次って言うかすでに首輪で与えてるのにまだ欲しがるってこいつら実はマゾヒスト?
今度鞭かってきて叩いてやろうか。
「さっき罰は与えただろ?それとも、もう一回くらいたいわけ?」
言葉に合わせてトントンと指で首の辺りを叩いてみる。
意味は通じたのか青い顔でぶんぶんと揃って首を振る二匹。
揺れる尻尾と反対に動く耳が二組。
ちょ、ちょっと可愛いかった。
こういう面白い反応をされると天邪鬼的に虐めたくなるけどここは我慢。
「わかったんならさっさと座る。あんまり面倒かけさせんな」
「はい、ご主人様」
「わかった、主殿」
二匹は開いていた俺の両隣に着席。
それにあわせて黒猫の長い髪がふわりと泳いだ。
長いさらさらの髪。
興味が引かれたの櫛ですくように手を通してみる。
「きゃ!」
「き、きききき、貴様!お嬢様に何をする!!」
短く悲鳴を上げ尻尾がピンと立つ黒猫に何やらうるさい白猫を無視して髪を持ち上げる。
指の間を抵抗も無くさらさらと通り抜け、不思議なほど柔らかい。
こ、これは抜群の触り心地!
いつまでも触っていたいくらいだ。
ちょっと顔を近づけて臭いを嗅いてみる。
「ひっ!」
プルプルと震える黒猫が可愛すぎる件。
某ネット掲示板で確実に話題にあがりそうだ。
「貴様!お嬢様から離れろ!!」
手は出してこないが今にも殴りかかって来そうな白猫にチラリと視線をやってから、仕方なく手を離す。
「・・・昨日体洗うように言っただろ?臭いが取れてたが確認しただけさ。あと貴様言うな」
「きゃ!」
ほんの軽く一瞬だけ首輪に念じて白猫にお仕置きしつつ、とっさに考えた言い訳をそれらしく言ってみる。
よくよく考えれば普通に変態的所業だよね。
隣に座った女の子の髪を手にとって撫で回したあげく、臭いまで嗅ぐって。
いや違うな、これは猫だから女の子じゃないし、そもそも俺の奴隷だから別に問題ないんだろうけど・・・。
それでも人目があるんだから自重しろ俺。
一瞬で涙目になった黒猫が怯えながら俺の言葉を聴いて・・・表情から察してかなりの葛藤があったようだが納得したらしい。
怯えていた表情が消えて羞恥で顔が真っ赤になってる。
首を押さえて机に突っ伏していた白猫も俺の言葉で思い出してくれたらしい。
「そ、それならそうと最初から言えばいいんだ!」
「なんでいちいち君達に許可をもらわないといけないのさ」
「そ、それは私達は」
「君達奴隷、俺主。何か文句ある?」
「ううぅ・・・ふん!」
どうやら言い勝ったらしい。
かなり悔しいのか白猫は椅子にドサっと荒く腰掛けるとまた顔を赤くしてそっぽ向いてしまった。
まったくこの白猫はいつまで反発するつもりなんだか・・・。
けどまだ二日目あんだよね。
いきなり従順だと調教の楽しみがないからこれはこれで面白いんだけど・・・。
ま、これで俺の変態行動もとりあえず流されたな。
今はまだ変態という名の紳士でいたいのさ。
家を買ってから変態という名の変態王にジョブチェンジ、いやレベルアップする予定。
先の行動は置いといて今しばらくはとっても良いご主人様でいないとね。
フフフフ。
「ちゃんと体は洗ったみたいだな。臭いも取れてるし、むしろいい臭いだ。これからも清潔にするように」
ちょっと偉ぶって話を戻す。
「・・・はい」
「ふん」
怒っていた白猫もさっきとは違う色が頬にまざり、黒猫はさらに顔が赤く染まる。
そんな二人、じゃなかった。
二匹を眺めながら朝食を待つというのもなかなかに乙なもので。
「シュルル、我の臭いは嗅がなくていいのか?」
「はいはい大丈夫大丈夫・・・だから黙れ」
「シュル・・・」
空気を読まない変態トカゲを黙らして待つこと数分で朝飯が到着した。
三匹とも昨日の夜のように貪り食うことも無く普通に食事を済ます。
まぁ、普通にと言ってもかなり嬉しそうに食べていたが。
俺もそれを見ながら朝食を頂く。
今日も美味しかった。
腹が膨れたところで三匹を食堂に待たせて荷物の準備。
ずいぶんと軽くなっってしまった財布の中身は白金貨4枚と半枚程度。
かなり少なくなったがメイド服と装備くらいは買えるだろ。
たしかオーダーメイドの俺の服三着でやっと白金貨半枚と少し、この前ブラブラしながら見た武器がだいたい金貨数枚。
奴隷や家を買うには少ないが、普通の物を買うにはこれだけでも十分すぎるほどの大金だ。
・・・金銭感覚が狂ってきてるな。
うん、決めた。
今日の予算は白金貨1枚と端数分だけ。
たぶんこれくらいで済むだろ。ってか絶対に済ます。
そうとなれば余計な金は持たないほうがいいな。
衝動買いを防ぐためにも3枚の白金貨は原付の座席下、金庫代わりのスペースに収納。
しかし・・・
「・・・なんか原付綺麗になってないか?」
気のせいかな?
うーん、俺以外誰も触ってないんだから、気のせいだろ。
もともとがボロだし。
うん、気のせいだ。
納得したところで部屋を出て三匹と合流。
こうして楽しいショッピングに出かけた。
今更ですが・・・主人公って変態?