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異世界の生活は原付と共に  作者: 夢見月
第二章(裏)
24/32

原付「これはありえたかもしれない物語・・・俺的にはifって言い方の方がかっこいいと思うんだ」

何人かの方が気になっていた様子の、

第二章でもし主人公が決闘を受けていたら

(受けないといけなくなったら)の話です。

最初に書いたのはこっちなので表と比べて似ているところがかなりあります。

中途半端な所までですが残していたので投稿してみましす。

気になる方のみどうぞ。

続きはありませんのであしからず。

こっちの方かいいからこれで書いてという意見はひとまずキャンセル。

没にした理由は以下の通り。

1.作者自身に精神的ダメージ -10点

2.主人公勝手に暴走しすぎだろ・・・ -5点

3.最終のラストが一つに決まってしまうのは今の段階じゃ楽しくない-25点

4.いったいいつになれば奴隷ハーレム出せるんだ?-25点

5.途中がまったく思い浮かばない-15点

6.浮かんだとしても恐らく欝暴走展開。書き続けれる自信が無い-20点

計-100点

今読み返したら案外いけそうな気もしますが・・・。

皆さんは表と比べてどう思われますかね。


第二章(後編)を読みたい方は飛ばして下さい。

「待っていたぞ『魔術師』!!!貴様を倒して俺様の名を世にしらしめる!!」


 馬鹿だ。

 馬鹿がいた。

 宿の前に馬鹿がいた。

 脳みそ筋肉体言してる馬鹿がいた。

 上半身裸に鎖を巻いた筋肉がムキムキで脂っこくて気持ち悪いテカテカ光ったハゲのマッチョ巨漢。

 しかもポーズなんか決めてるし。

 絶対馬鹿だよ。


「俺様は『剛力のバズ』いざ尋常に勝負せよ!!!」

「断る」


 さて、乗り合い馬車はどこかな。


「な!?男が勝負を挑まれて逃げるのか!?」


 北へと足を向ける俺に馬鹿は一歩一歩ポーズをつけて追いかけてくる。

 キモイっての。

 もちろん質問には無視である。

 てかこの馬鹿、俺が出てくるまでずっと待ってたのか?

 いつ起きるとも知れないのにほんと馬鹿だ。


「それでも男か!?この玉無しが!所詮魔導師風情がちょっとギルド長に気に入られたからと調子にのりおって!!」


 はいはいワロスワロス。

 こういった『魔導師』に対する挑発は誰でも一緒なのか?

 それとも馬鹿だから語彙が少ないだけか?

 まぁどうでもいいけど。

 あ、馬車発見。


「こうなれば仕方ない!我は貴様に決闘を挑む!!」


 そう言って馬鹿は拳を地面に打ち付けた。

 それを見ていた周りの人たちが一斉におお~!!と騒ぐ。

 なんじゃ?


「ははは!!正式な決闘要請だ!!これで貴様は逃げられん!!」


 なにそれ?俺は近くにいた剣士風の冒険者に尋ねた。


「どういうこと?」

「あ、ぼ、冒険者同士の暗黙のルールだよ!じ、自分の武器を地面に打ち付けて名乗ったら決闘が認められるんだ!!逃げたら一生笑いもんだ!!」


 いきなり尋ねられた剣士は多少つっかえながら慌てて早口に答えてくれたが・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・


 ふーん。


 なんだそれだけ?

 知るか。

 笑いものにされるくらいどうだっていうんだろうか。


「あっそ。どうでもいいや。じゃあさようなら」


 ヘイ!乗合馬車!!っと手を振ってみる。


「ききき貴様!神聖な決闘をなんだと思っている!!!笑いものにされてもいいのか!!!」


 ムンっと筋肉を見せ付ける。

 うーんポーズ的に十点!

 もちろん千点満点中でだ。


「別にいいよ?どうぞご勝手に。いっそのこと負け認めますよ?ワタシノマケデス。ゴメンナサイ。アナタノショウリデス。オメデトウ。タイヘンツヨカッタデス」


 ワーパチパチと拍手までしてあげた。


「貴様貴様貴様ぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 何が気に入らないのか頭の血管浮きでまくってるよ。

 なんでさ?負け認めてるのに。

 気が付けばご丁寧に円形に空間を空けられていた。

 余計なことを、勝負しないって。

 馬車まで止まって俺たちを観戦してやがる。

 止まってくれるのは俺としては助かるけど・・・。

 こらそこ!賭けを始めるな!!


「馬鹿にしやがってぇぇぇぇぇぇ!!!」


 叫びと一緒にドスドスと筋肉が突っ込んできた。


「あんたの勝ちだって言ってんのに何で来るんだよ!」


 三十六計逃げるが勝ち。

 俺は踵をかえして脱兎のごとく逃げ出した。

 が、囲んでいる冒険者達が退かない!!

 この馬鹿どもが!


「邪魔!」


 そう言って人と人の間に入り込もうとしたが。


「逃げんなよあんちゃん」

「そらよっと」

 

 壁になっていた冒険者二人に両腕を左右からつかまれ受身もとれずに転がされた。

 尻が地面を打って痛い。

 なんで????

 座り込んだまま呆然と見上げる。


「おいおい、せっかくなんだから相手してやりなよ」


 ニヤニヤと俺を転がしたやつが言った。


「駄目だぜぇ、る~るにやぁしたがわないとよぉ?」


 隣の奴へらへらとが言った。


「ふぬけだねぇ。聖玉草の話も嘘なんだろ?じゃなかったら戦いなよ、ほらほら」


 そいつも嫌な、嫌な顔してる。


 ニヤニヤニヤニヤヘラヘラヘラヘラ。


 どんどんと足を地面に叩きつけて闘え闘えと囃しだした。

 

 気持ち悪い顔をぐるぐるぐるぐる並べて!


 血管浮かべまくってた筋肉も気を良くしたのか立ち止まって腕なんか組んでます。

 こっちを見て胸糞悪い表情をしてやがります。


 ああ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 気持ち悪い。


 昔、前もあったね、こんなこと。

 せっかく忘れてたのに、思い出さないようにしてたのに。

 せっかく記憶のはるかかなたに忘却してたのに・・・・・ああ嫌だ。

 ホント嫌だ!!!!!!!!!!!!


「・・・・・・はぁぁぁぁぁ」


 ため息を付く。

 出来るだけ吐き出すように。

 体の中にある嫌な気持ちを吐き出すように。

 無言のまま立ち上がって埃を払う。

 そして歯軋りするように囁く。

 

「大っっっっっっ嫌い・・・・・・!!」


 俺の最大級の呪文

『魔法の言葉』

 全てを呪う。

 全てを拒絶する。

 全てを嫌う。

 全てを否定する。

 周りは敵。

 敵、敵敵、敵敵敵!。

 全部敵だ!!

 自分以外知ったことか!


 ポケットから携帯を取り出す。

 右手に構えた携帯を剣先を向けるかのようにクソに突き出す。


「ルールは?」


 言葉は必要最低限。

 もうこんなのに声をかけることすらもったいない。

 俺の声で周りの野次が止む。

 何が嬉しいのかクソが鼻の穴を大きく広げて言った。


「やっとやる気になったな!そんなものは無い!!殺すか殺されるだけだ!!!それが決闘!!!」


 気持ち悪い声、耳が腐りそうだ。

 なんかまたポーズを決めてるし。

 もうどうでもいい。

 時間もかけたくなし俺は構えていた携帯を地面にコツンと軽く当てた。

 決闘受諾の合図。

 熱狂的ファンの集まるコンサート会場のように周りの声が爆発する。


「俺は俺を傷つける奴をゆるさない・・・。精神の傷は肉体の傷よりも重い・・・」


 眼を細めて二つ折り携帯を開く。


「は!!魔導師風情がいきがるなぁ!!」


 それを合図にクソが腕を振り上げて突っ込んでくる。

 二週間前の俺ならこんな巨漢は恐怖の対象だっただろうが、ゴブキンに翼竜。

 そんなのを相手にしてきたんだ。

 まったく脅威に思えない。

 それに・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「フリーズ・スノウ・・・」


 イメージは極寒。

 呟きと呪文は正確に自分の想像を現実へと映し出す。

 俺を中心に吹き荒れた雪で視界全てが白く染まる。

 穴の開いた作業着は少々風通しがいいが、せいぜい俺は冷たい程度。

 しかし周りの結果は・・・お楽しみだな。

 数えたのはたった五秒。

 まるで何事も無かったようにやんだ雪。

 騒がしかった周りも静かになった。

 吐き出すのは白い息だけ。

 開けた視界の前には不細工で不恰好で無様な雪だるまが一つ出来上がっていた。

 ポケットから銅貨一枚出してぽいっとそれに当てる。

 雪だるまが崩れて出てきたのは四肢が凍りついたクソが一つ。

 がちがちと歯なんか鳴らして馬鹿みたいだ。


「良かったね、望み通り死ねるよ?」

「ごめ、ごめななざいぃいぃ。ゆゆ、ゆじでくだざい」


 ははは、さっきの勇ましい台詞はどこにいったのさ。

 でももう言葉を聞きはない。

 さっきの俺様の優しい言葉を無視したんだから。

 気持ち悪いポーズを取っていた右腕が砕けて落ちた。

 涼やかな音が染み渡るなぁ。

 もっと聞いてたいけど時間もアレだし背中を向ける。

 地面の雪がしゃくしゃくといい音をたてる。

 久しぶりかも雪を踏むの。

 ばあちゃんの葬式以来だ。

 しかしほんの数メートルで雪はおわり。

 残念だ。

 手加減したけど周りを囲んでいた奴らも半分雪に埋もれてる。

 こっちは凍らしてはいないけど凍傷位にはなってくれるかな。

 白い壁まで歩くとさっきの気持ち悪いのは一つも無い。

 青色の自動ドアにかわったようですんなり開いてくれた。

 よかった。よかった。

 後ろから涼やかな音がまた一つ聞こえた。

 


 さっきの乗り合い馬車は馬が寒さで弱ったとかで乗せて貰えなった。

 ガッデム。

 しかたなく歩いてエアロさんの所に向かったが・・・クソは多かった。

 ケンカをふっかけられること2回。決闘を挑まれること4回、集団で襲われること11回にも及んだ。

 お陰でエアロさんの所に着いたときは体が冷えて仕方なかった。

 ちなみに付近のお子様には好評だったよ、雪合戦は楽しそうだった。

 俺も子供なら混ざったのに、大人になるって悲しいことだよね。


「大変だったようだね」


 エアロさんが暖かいココアを出してくれた。

 ふぅ冷えた体が温まる。


「どうしてこうも馬鹿が多いのか理解に苦しみます」


 相変らず片付いていない汚い工房。

 埃を手で軽く埃を払っただけの椅子にため息と一緒に腰かける。

 肉体的疲労はそれほどじゃないがクソ掃除は疲れるよ。


「あんたがここ最近のなかじゃ一番の有名人だからさ、それに小銭も持ってる。ちょっかいだしたんだろ」


 まだ金は貰ってないけどね。


「できれば美人にちょっかいかけられたいです。もしくはかけたいです」

「はっはっは。もうちょっといい男になったらできるだろうさ」


 うう、どうせイケメンじゃないですよ~だ。


「服は出来てるからそっちで着替えな、あとは今着てる汗臭いボロ、そっちも直すんだろ?それと一緒に金を出せば終わりさね。金は白金貨半枚と金貨28枚だよ」


 汗臭いって酷い!体臭にはけっこう気をつかってるんだぞ!って言っても実際に自分で嗅いでみても汗臭いし汗が湿って冷たい。

 ここはさっさと大人しく着替えさせてもらう。

 しかし渡された服はファスナーやボタンなどの金具類以外は完璧。

 材質だって違うものだろうによくぞここまで再現したと言う代物だ。

 隣の部屋で着替えたが着心地としたらむしろ動きやすくなっている。

 大量生産の既製品じゃない、採寸した俺だけの作業着。

 これなら予定金額より少し高くなろうが全然構いやしない。

 素晴らしい腕に賞賛の嵐。やるなエアロさん。

 穴だらけの服は修繕のため、支払いの白金貨一枚と一緒に渡す。


「これはいい腕に対する投資です。こんど別件で頼むかもしれませんがそのときはよろしくお願いします」

「また面白い仕事をくれるなら歓迎さね」


 ありゃ、あっさり受け取ってくれた。

 自分で出しておいて何だけど、職人だから腕は安く売らないとか何とかで受け取らないかと思ったのに。

 まぁお金あるし仕事頼むかもしれないのはほんとだしね。


 こうしてエアロさんとの用事は済ませたので次はギルドに向かう。

 しかし鐘十二。あと一時間しかない。

 ディスさんの所に寄ってから行きたかったのにクソがあちこちに落ちていたせいで予定が狂った。

 ここからギルドまでかなりの距離があるのにさらに飯食いに寄っていたら絶対間に合わない。

 そんなわけで急いで道に飛び出すと、好運にも乗り合い馬車が目の前にあったのですぐに乗れた。

 ついでにクソ達の襲撃も無かった。

 おかげでってのも変だけどギリギリ鐘一つが鳴る前にギルドに到着することが出来た。

 爺が勝手に決めた時間だけど、やっぱり遅れるのは気分的に嫌だ。

 今日は最初に来たときと同じ表側から。

 受付がある綺麗で広いホール。

 昼の時間だけど結構な数の冒険者がここでたむろしていた。

 中には俺を見ている奴も何人かいやがるが・・・もちろん気にならない。

 他人の視線は俺に突き刺さっているようだが、俺の視線は人間を素通り、ホールの造型に目が行く。

 柱の彫刻とか綺麗だし、ただの手すりとかにも木目に合わせて細かな細工が施されてる。

 屋敷を買うならこんなのもいいかもね。

 いやもうちょっと小ぶりでいいかな。

 客なんか呼ぶつもり無いんだし。

 見栄を張る必要はこれっぽちも無いんだから。

 そんなどうでもいいことを考えながらカウンターに向かうと、そこに居たのはノイン嬢だった。

 手続きカウンター専門ってわけじゃないんだな。

 ノイン嬢は俺に気が付くとすぐに挨拶してきた。


「こんにちはリョウさん。とても大変だったようですね?」


 襲われたことを言っているようだ。

 耳が早いね。


「まぁそれなりには。それ相応の対応したけど問題ないだろ?」


 正当防衛だけど少し心配だったから聞いてみる。


「そのことですが・・・、ギルド長から直接話があると思います」


 ノイン嬢の返答は余り宜しい物じゃない。

 うい?やりすぎたのかな。でもしかたなかったんだぜ?


 「わかった。話し聞いてみるよ。場所はどこかな?」

 「ご案内します」


 ノイン嬢は受付を近くのギルド嬢に頼むと俺を案内してくれた。

 あっさりと交代を済ました所を見ると最初から俺を待っていたのかもしれない。

 途中まで歩いて気が付いたが案内された先は先日ケンカ売られたのと同じ部屋なようだ。

 ノイン嬢が扉をノックして返事をまってから入室、一礼。


 「ノインです。リョウ=ノウマル様を御連れしました」

 「通せ」

 「はい」


 完璧なやり取り。

 デジャブだな。

 促されて俺も入る。

 あいかわらず豪華な部屋なのは変わりないが、先日との違いは部屋の中の人数が多いこと。

 爺さんは当然として、いるかも知れないと思っていた思っていたノリドさん。

 そしてそれ以外に知らない三人。

 一人は淡いピンクのドレスに身を包んだフワフワとした雰囲気を出す中年というには少し早いくらいの女性。

 柔らかな笑顔にすこし小じわの乗った目元。

 短い髪が好みと外れて残念だけど、楽しく暖かな話が出来そうな人だ。

 年齢が気になるが許容範囲内だな。

 もう一人は騎士。

 それ以上でもそれ以下でも無い位に騎士って人。

 装飾の付いた全身鎧に身を包んでいるが重たくないんだろうか?

 赤い中にすこし白髪の混ざった髪。

 結構年が行ってそうだが覇気があるというのか元気そうなおっさん。

 最後はの一人は多分この人の従者だろう。騎士が座っているソファーの後に直立不動で立ってる。たぶんどうでもいいな。

 知らない人が多いから軽く猫をかぶることにする。


 「すまないね、呼び出してしまって」


 今回は黙ってケンカを売られることもなくノリドさんが声をかけてきた。


 「いえ、かまいません。暫くはゆっくりするつもりだったので時間は空いていましたから」

 「そうか。とりあえずそちらにかけて欲しい」

 「はい」


 フカフカのソファーに座る。高そうだな幾らだろう?


 「まずは先日の礼をさせて欲しい。娘の病気はすっかり良くなったよ。これも君のおかげだ、本当にありがとう。妻も礼を言いたいというので。ほら」

 「妻のリンダです。このたびは娘のために命がけで薬を取っときて下さったそうで。本当にありがとうございます」


 爺も合わせて三人が深々と頭を下げる。

 か、勘違いしないでよね、別にあなたたちの為じゃないんだからってのはどうでもよくて。

 なるほど。ノリドさんと比べるとずいぶん若いきがするけど人妻なのか。

 それじゃ手はだせないな。

 実際のところは人妻ってだけで惹かれる要素なんだけど・・・。

 修羅場怖いです。

 慰謝料怖いです。

 そんなわけで駄目ゼッタイ!

 とか麻薬撲滅運動的に標語を頭に浮かべとく。


「娘さんが良くなってよかったです。これからも大切にしてあげてください」


 お金のためです、さっさと報酬よこせ。

 とか色々な内心は営業スマイルという仮面で隠して口から出すのは模範解答。


 爺がなにやら偉ぶってる・・・。

 テメェ、最初はプライド優先させてただろうが!

 と視線に乗せながらニッコリと笑みで返しておく。

 ノリドさんも爺の脇を肘でつついたのが見えた。

 爺さんは静かに巧みにそれをかわしている。

 まったくこの爺さんは喉もと過ぎれば何とやらのようだ。

 ノリドさんも困った人だと顔を向けていたが、付き合いは長いのですぐに諦めてため息をついた。

 そして爺がなにやら頷いて合図するとノリドさんとリンダさんが立ち上がった。


「それでは、私たちはこれで」

「うむ、良くなったとはいえ、しばらくは側にいてやりなさい」

「はい、それではリョウ殿、失礼します」

 

 そう言ってノリドさんとリンダさんが出て行く。

 短い挨拶だったけど、直ったといってもまだ二日も経ってないから心配だろうな。


 二人が出て行った後、爺が咳払いをする。

 瞬間に以前の重苦しい雰囲気が室内に満ちた。

 ここからが本題のようだ。


「それでだ。リョウ。こちらにいるのが王国騎士団長のファーン殿だ」

「噂は幾つか伺っている。バリトン王国、王国騎士団団長ファーン=ロットだ」


 ファーン殿がほんの少し頭下げた。

 爺に呼び捨てにされるのは気に入らないが今は後回し。

 王国騎士団長ね。

 何のようだろ?


「初めまして騎士団長殿。『魔術師』リョウ=ノウマルです」


 こちらも目礼程度で返す。

 たぶんこの人が御前試合でグエンさんとやりあった人か、年齢的にこっちが上なのにあの人より強いんだな。


「早速用件を言わしてもらうが、リョウ殿。貴殿を捕縛しに来た」


 ・・・・・・・


 はい?


 捕縛??


 誰を???


 何故に????


 俺は驚いて何も返せない。

 想像もしていなかった言葉に頭が真っ白になる。


「罪状は王都内での騒乱。魔道具による市民への攻撃。余波による大通り封鎖。それに伴う交通の妨害。建築物への被害。その他個別の訴えを含めれば朝だけで三十件を超える。全て貴殿がやったことだ」


 ・・・・あのクソどものせいで!!

 怒りで瞬間に肌が沸騰する。


 ・・・が


「動くな」


 急速に冷えた。

 瞬間冷凍ってレベルじゃない。

 気がついたときには首筋に剣が当てられている。

 視界に入る輝きは鋭い刃のロングソード。

 長い剣は俺の右肩から首の皮を凹ませ、そのまま左手を押えるように・・・。

 壁に立っていた従者がいつの間にか俺の背後まで来ていた。

 全然、全然判らなかった。

 ファーン殿に集中してたのは認める。

 いきなりの話で呆然として、怒りで視界が狭まったのは本当だ。

 でも影も形も気が付かなかった。

 そして、今当てられている殺気・・・。

 これが殺気なのか。

 酒場での酔っ払い相手じゃない。

 魔物が向ける獣じみた物じゃない。

 人を殺すことを当たり前とする、必要とすれば躊躇うことがない、本物の殺気。

 次の一秒には、いやそんな長い時間も必要としない一瞬で首が離れる。

 そんな予感。

 凍らされたように動かない。

 動けない。

 なのに体は震える。

 長い沈黙。

 息も出来ない・・・。


「トレイン、戻れ」


 ファーン殿の命令。

 トレインと呼ばれた騎士は元の位置に戻る。

 なんだよこれ・・・。

 なんなんだよこれ・・・。

 今だに首筋に剣を当てられている気分だ。

 ・・・気持ち悪い。


「ふん、危ういな。先ほど現場を見させてもらったが、あれほどの力を出しながらこの程度とは。危うすぎる・・・」


 耳には入る。

 でも、意味を理解することが出来ない。

 寒気が全然取れないのだ。

 

「まるで子供だ。強い力を無秩序に振るい感情のままに行動する。・・・力に振り回されているといっていい」


 ・・・・・・・。

 勝手なことを。

 勝手なことを言う。

 こっちだって色々あるんだ。


「正当防衛を主張します」


 ゆっくり、しっかりと吐き出すように。

 冷たい気持ちを吐き出して、熱く自分の言葉を、意思を乗せる。

 そうだ、俺は間違っちゃいない。

 自分の身を守った。

 自分の身を守ることになんのためらいがあるんだろうか。


「私は、戦闘を避けよとしました。ですが、周りがそれを許さなかった。だからやむおえず目の前の相手を倒した。相手だってそれをわかっていた。襲ってきた奴だってそれだけの覚悟があったはず。

周りで見ていた奴だって俺を助けることも戦いを止めようともしなかった。ならば自分の身を守るために闘うしかない。あたなは私がそのままやられていればと?

殴られ刺され地面に転がされるべきだたと?黙って殺されるべきだったと?」


 主張するべきは主張する。

 沈黙が金になることもあるが、今はそのときじゃない。

 俺の言葉を聴いてファーンの眉がほんの少し動いた。

 どうやらわずかばかり驚いたようだ。

 そこまで意外だというのか。


「ほう、まるっきり子供ではないわけか。・・・確かに君がケンカに積極的ではなかったと何名か証言していた。しかし振るわれた力はあまりにも大きすぎる。王国を守るものとしては容認しきれない」


 なんだよ、謝ればいいのか?

 それとも金か?


「どうしろと?」


 俺の質問に答えずファーン殿は爺に視線を向けた。

 答えたのは爺。


「今回の騒動はギルドの管理責任が問われる問題じゃ。不満を緩和するための決闘という慣習が招いた事態だといえる。ゆえに今回の被害はギルドが補償する。また今後このような事態にならぬよう決闘という慣習はギルドが預かりと規約にもうける。

そして今回の騒動の原因となった者達は全員ランク降格と奉仕任務についてもらう。これでどうかの騎士団長どの?」


 どういうことだ?

 ランク降格と奉仕任務?

 もう一度ファーンを見る。


「私にとっては不満ですが、ギルド長たっての願いとあれば致し方ないでしょう。しかし二度目はありません。ギルド長もおわかりですね。国王様と親しいとはいえそう何度も無理は通りません」

「わかっておるわい。公私混同じゃが孫娘を助けてもらっておいて彼を差し出すような恩知らずなマネはできん」

「そうですか。リョウ殿、そういうわけだ。二度と安易なマネをしないように。それでは失礼する」


 そう言ってさっさと二人は出て行った。

 なるほどね・・・・。


「どうぞ、大丈夫ですか?」


 壁の花と化していたノイン嬢が俺の前にコーヒーを出してくれる。

 礼を言って一口。

 気持ちの整理を付けてから爺に顔を向ける。


「俺は庇ってもらったということですか?」

「そうじゃの、一つ便宜をはかるという約束。勝手にじゃが使わせてもらった。あやつがここに来たときは問答無用で連れて行くつもりだったからの。もともと正義感が強い奴じゃ。市民に被害があったことが許せなかったんじゃろ」

「・・・・・・それでギルド長達の礼が出てくるわけですか」

「若造がただの暴力馬鹿じゃないと見せたかったわけじゃ。ワシが頭を下げるような奴を無下には出来んじゃろ?それに子供を助けるために動いたがための有名税ともなればなおさらじゃ」


 そっか・・・。適当に言った願いだったけど役に立ってよかった。

 金にしか興味なかったけどどうなるか分かったもんじゃないな。


「それにしても派手にやったものじゃ。町への被害総額は分かっているだけでも白金貨12枚それも今後の調査結果次第で増えるときておる。人的被害もランクBからFまで死傷者が82名。首謀者は全員死亡。市民へのけが人はその三倍。

ある意味これはギルド始まって以来の記録じゃの」


 オーマイガー・・・。

 自分でやっといてビックリだ。

 ギルド長はよくこれでかばってくれる気になったな。

 恩に報いるのにも限度があるだろうに。


「・・・さっきも言ったとおりしかたなかったんですよ?」

「わかっておるよ。こっちでも調査させたからの。しかし、被害が大きすぎるのも事実じゃ。それでじゃの、先の報酬の件じゃがワシの分の白金貨100枚は払えん。今回の被害の補填に当てたいからの。理解して欲しい」


 そんな・・・。

 そんなのってないよバーニ○ー・・・。


「ギルドが保証するんじゃないんですか?それにさっきの被害総額、白金貨で12枚程度だって」

「ギルドといっても金が有り余ってるわけじゃないわい。今回の件を納得させるために他の所にも色々と根回しせんとならんのじゃ。百枚でも足りるかどうか・・・」


 うう、多分根回しの為の賄賂とかに必要なんだろうな・・・。

 わかるけど・・・。

 わかるけどさ・・・。


「それと若造が狩った翼竜の魔石。すべてをギルドに寄付してもらいたい。若造が謝罪したという形をとらんとならんのじゃ」


 俺完璧に犯罪者扱い。

 俺そんなに悪いことしました?


「・・・なんか俺逃げ出したくなってきた」


 こんなことしなくたってお金貰って逃げちゃえばよくね?


「そうか、じゃあやめとくかの?今からでも騎士団長を呼び戻しても構わんのじゃよ?そうなれば城に捕らわれることになるの。宮廷魔導師達は若造の魔道具を知りたがっておるし若造自身にも興味があるようじゃが?」


 じ、人体実験フラグ!!!!!!

 いやーーーーーーーーーーーー!!

 それだけはいやーーーーーーーーーーーー!!!

 俺が項垂れたのを見て理解したのかギルド長は話を続ける。


「宮廷魔導師達を抑えるためにも若造の魔石が必要なのじゃ。二等級の魔石を数十個手に入れれるんじゃから奴らも納得せざるおえんじゃろ?」


 いいです。

 もうどうでもいいです。

 差し上げますよ。

 俺が人体実験に使われるくらいなら幾らでも差し上げますとも。


「安心せい。少なくとも息子の報酬はそのままじゃ。さすがにそれまで取り上げるのはワシらも悪いからの」


 うう、それでも白金貨100枚・・・100枚!

 少なくても100枚あれば家も買えるし奴隷も買える!

 なんだ問題ないじゃないか・・・ってランクも下がるんだっけ?


「そうだ、ランクは?」


 それが重要だ。

 富裕街に家を買うためには少なくともランクBじゃないと。


「ギルドカードの効力は本人に手渡された時点で有効になるんじゃ。つまり若造は未だにFランクのままじゃ。それを下げることはできんじゃろ?」


 もうやだ・・・。

 本気でもうやだ。

 凹む。

 もうフルボッコだ。

『美人の奴隷を囲ってのウハウハ成金生活』が目の前まで来たのに・・・。

 光が見えただけにこの変わりよう・・・・。

 ダメージは限界を突破ている。

 お願いもうやめて俺のヒットポイントはもうゼロよ!


「他の奴らは?俺を襲った奴ら。俺ばっかりって割りにあわないって」


 ギルド長が呆れた顔をしてる。

 はて?


「若造がほとんど殺したじゃろ?生き残っておるのもおるが、腕や足やらが無いし、それ以上に怯えてしまって役に立たんのじゃ。もうギルドの仕事は無理じゃの」


 それを聞いて少しすっとした。

 しかし、殺した奴らのほうが楽してるのが残念だ。

 同じように半身不随で心折ってやればよかった。

 いくらでも拷問めいた手段はあったのに。失敗失敗。

 今度からもっと苛めてあげないと。

 今度・・・そうだ今度、又襲われたらたまらない。


「俺ってまた襲われるかもしれないんじゃないですか、その時もこんなことになりますよ?」

「それは無いじゃろ。さっきも言ったとおり決闘はギルドで預かると公布するつもりじゃし、もし破ったら厳罰に処すつもりじゃ。それを破ってまで襲ってきたらそのときは相手にしてもいいじゃろ。

ある程度周りには配慮して欲しいがな。しかしの、若造の噂は嫌でも広まる。これだけのことができる若造にケンカを売ろうとする命知らずはもう出んじゃろ」


 ノインさんも深く頷いている。

 うーん不安だけどまぁ大丈夫なようだ。


「そして最後に奉仕任務じゃ。当然報酬が受け取れない任務のことじゃが・・・。若造、すまんがちょいとドラゴンを一匹退治してきて欲しい」


・・・そんなバナナ。


 この世界においてドラゴンとは最強の生物だそうな。

 ゲームとか小説によってはペット扱いだったり、雑魚敵として登場することもあるがこの世界でそんなことは無い。

 純粋な竜種は災害と同種に語られるレベルらしい。

 俺が初手をミスったのもあったが翼竜ですら本来かなりの脅威なのだ。

 本当のドラゴンがいかようなものか推し量れるというものだ。

 以前グエンさんが言っていたSSSランクに『黄金のドラゴンスレイヤー』ゲイドって要るのが分かるようにドラゴンを倒すにはそれほどの実力が必要なのだ。

 今回の俺に与えられた仕事はその竜種の討伐。


 あははははははははははは。


 もう笑うしかないね。

 あまりにも酷すぎる。

 ふざけてる。

 本気でざけんじゃねぇ。

 報酬も魔石も奪われランクアップすら出来ず夢を目前にさらに奉仕任務。

 頭にきた。

 激怒したね。

 そんなわけで軽く一瞬で部屋にあった調度品を氷付けにして砕いて見せた。

 爺さんもノイン嬢もびびりまくり。

 部屋の隅に二人で固まってガタガタ震えたんだよ。

 ほんと笑えました。

 でも、美人が青い顔で震えるって嗜虐心が刺激されてちょっと美味しかったです。

 それを見て少し溜飲を下げた俺は少し落ち着いて話し合い。

 しかしながら当然拒否の姿勢。


 無理ヤダ×駄目嫌だNoのオンパレード。

 

 爺さんも俺が本気で怒るとどうなるか分かったのか必死で説得に掛かった。

 これはもともと国からの任務で奉仕任務とは言え倒せば国から一目おかれる事。

 ドラゴンと言ってもでそれほど年を経ているわけではなく強さはまだましらしい。

 せいぜい翼竜+α程度だということ。

 複数じゃなくて一匹だけ。

 報酬は出せないけど素材その他魔石も含めて全てギルドで買い取るということ。

 今回の任務が成功したら、前回の功績とあわせて実力的に認めざるおえないから絶対にBランクの二級市民にしてくれるということ。

 ついでに、爺さんが富裕街に所有する別荘を家の無い俺が『可哀想』だからという『善意』で『永久』に『無償』で『貸して』くれることになった。

 それなら白金貨百枚も払えよと言いったが純粋なお金はどうあっても報酬になってしまうから無理だって・・・・。

 畜生。

 しかしこれで俺の長年の夢に必要なものは後一つになった。

 美人の奴隷。

 これを買うには一人最低白金貨10枚。

 現状でも十人は買える。

 生活に必要な資金があるけどドラゴンの魔石とか鱗とかは高値で買い取ってもらえるそうだからかなりの貯蓄が出来そうだ。

 そんなわけでしぶしぶ納得した俺は現在馬車に揺られながら移動中。

 ドラゴンがいるという場所は以前グエンさんが商隊を護衛してきたという職人の街レンロ。

 レンロは鉱山都市でもあるそうでそこから出る鉱石なんかを職人が加工して販売も行っているとか。

 ドラゴンが住み着いたのはその鉱山。

 しばらく前に飛んできたそうなんだが街としてはもう死活問題の大問題。

 早急に退治してくれ!

 っと国になきついたものの何かしらの理由で騎士団は動けない(これについては教えてもらえなかった)

 では冒険者は?っとあたりを見ても現在その付近に竜を討伐できるパーティーがいないとのこと。

 困った国及び冒険者ギルドだったわけですが、そういうときに都合よく問題を起こしたのが俺だったというわけです。

 本来なら重犯罪人となってしまう俺ですが、ギルド長たっての願いと緊急性を鑑みてということらしい。


 はぁ。まったくため息が出るよ。


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